イタリアでの子育て

JOMF NEWS LETTER
No.244 (2014.5)
イタリアでの子育て
第3回
医療システム、予防接種、薬、入院生活
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【 医療システム 】
イタリアでは医療に関しては二つのシステムがあると言ってよいでしょう。一つは公
立病院にかかる場合、もう一つは私立病院にかかる場合です。
公立病院にかかる場合はイタリアの国営医療保険に加入します。次に国営医療保険を
受け付けている小児科医を登録します。これでいつでも公立病院にかかることができるよう
になります。公立病院を利用する利点はなんといっても治療費がすべてカバーされるか、あ
るいは低額で済むかでしょう。さらに予約なしで受診できることでしょう。ただし、病院は
常に患者で混み合っており、病院に出向くことが 1 日がかりになってしまうこともあります。
また医師や看護師とはイタリア語となりますので、多くの日本人にとってはことばがネック
です。
それに対して自由診療を行っている開業医、つまりプライベートのクリニックや私立
病院にかかる場合は民営医療保険でまかなわれるか、自費でかかることになります。多くの
日本人駐在員のご家族はプライベートクリニックにかかっています。その一番の理由はやは
りことばと丁寧なサービスでしょう。ことばにおいては英語が通じるドクターやスタッフが
いたり、日本語の通じるドクターもいるからです。プライベートクリニックのほとんどが予
約制を取り入れていますので、あまり待たずにすみます。それでも緊急の場合はすぐ診ても
らえるので、普段は公立病院を利用している方々でも、週末などに子どもが具合が悪くなっ
た場合は自費でプライベートドクターに診てもらっています。治療費は高額ですが、丁寧に
時間をかけて診てもらうことができます。
どちらのシステムを利用するにしろ、小児科医を決め、定期健診や予防接種、及びほ
とんどの疾患をそのドクターで診てもら
います。そして、専門医を必要とする場
合は小児科医が紹介状を出してくれます
ので、それを持って専門医に予約を入れ
ます。
Photo by Nora Kohri
古い建物を病院として利用している
【 予防接種 】
予防接種はポリオ、ジフテリア、破傷風、百日咳、B 型肝炎、インフルエンザ b 菌など日本と
同じものもあれば、BCG は行われていなかったり、MMR の三種混合は行われていたりします。受
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ける回数においては、ポリオはイタリアでは注射で 4 回受けます。そのため、日本において経口で
2 回接種した場合は、こちらで追加接種を求められることもあります。他にも 1 本の注射に複数の
ワクチンが含まれているなど日本との違いが目立ちます。
現在では予防接種の副作用から受けない人もいます。そのため、定期接種はポリオ、ジフテ
リア、破傷風、B 型肝炎と定められ、任意接種は麻疹、風疹、おたふく風邪、インフルエンザ b 菌
というように分かれています。そして任意接種に関しては両親の同意書にサインが求めらます。そ
れでも保育園や幼稚園に上がるときには予防接種の修了証明書を求められることが多いので、多
くの人は受けています。
予防接種は小児科医のもとで行われるほかに現地の人のシステムを取り入れるとチョイスが
増えます。1 歳までは小児医療センターで受けることもできますし、それ以降は注射センターで受け
ることもできます。日本では自治体による集団接種がありますが、イタリアでは個別接種ですので、
子どもの体調のよい日を選んで受けます。
なお、日本から来た場合、予防接種を受ける際に、出生証明書と日本で今まで受けてきた予
防接種の記録証明書が必要です。日本には正式な出生証明書がないので、母子手帳がそれに近
いものとされています。そのため、領事館では有料ではありますが、母子手帳をイタリア語に訳すサ
ービスもあります。なお、パスポートでも受けつける場合があるようです。
【 薬 】
イタリアでは医薬分業制度をとっていますので、小児科医で出された処方箋は、薬局に持っ
ていって、そこで薬を購入します。薬局は Farmacia、Apotheek と表示され、さらに緑の十字の看
板が出されていますのでわかりやすいと思います。薬局では処方箋を必要としない風邪薬、胃腸薬、
うがい薬、点眼薬、ビタミン剤、消毒薬なども購入できます。また、子どもに出される内服薬のほとん
どはシロップ状のもので飲みやすいでしょう。ただし含有量が多いとか日本人には効き目が強すぎ
るなどの評判も聞きます。子どもの様子を見ながら、もし気になる症状が出たら、ドクターに問い合
わせてください。
薬局は地区ごとに当番制をとっているので、当番の薬局は夜間でも営業し、24 時間体制をと
っています。薬局が閉まっている場合、外に出されている掲示板で開いている薬局を探したり、新
聞で調べたり、電話案内に問い合わせたりするこ
とができます。必ずどこかの薬局が当番制で開い
ていますので安心してください。
薬代に関しては、国営医療保険に加入して
いれば支払った薬代のほぼ全額あるいは半額く
らいは戻ってきます。
Photo by Nora Kohri
緑の十字を看板にかかげた薬局
【 代替療法 】
イタリアでは効き目が穏やかな代替療法も浸透してきています。そのため、自然志向の親は
民間療法をまず試しています。その場合、一般の薬が売られている薬局(Farmacia)ではなく、エル
ボリステリア(Erboristeria)というハーブ専門店に出向きます。このようなハーブ専門店では主に風
邪の症状や腹痛に効く穏やかな効き目をもたらすハーブを勧めます。
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特に赤ちゃんにはハーブティーが人気です。たとえばカモミールティーは、風邪の症状以外
にもリラックスさせる効果で知られていますので、かんしゃくもちの赤ちゃんには効果があるようです。
スーパーマーケットにいくとティーバッグ状のものも売られており、簡単に手に入ります。さらにお湯
に溶かすだけの赤ちゃん専用のカモミールティーもあるほどです。他にもカモミールにレモンバーム
やバーベナなどを配合したものもあり、鎮静効果があるようです。夜泣きがひどいときや日中でも泣
き止まないときに飲ませると効果があるようです。ほかにも腸内のガスがたまった時や消化不良な
どの胃腸のトラブルにはフィノッキオというフェンネル(日本語ではウィキョウ)のハーブが効果を発
揮するようです。(資料参照:岩田)
【 かかりやすい病気 】
イタリアは気候が比較的穏やかなため、衛生面に気を配っていれば特に怖い病気にかかる
ことはないでしょう。観光客でにぎわうローマやベニスでは時たまインフルエンザが流行することも
ありますが、流行時の予防対策に注意をしていれば大丈夫でしょう。また、冬は乾燥が激しいので、
特に赤ちゃんの肌の保湿には気を配りましょう。
日本人が多く住む地域からみますと、ローマは夏の日差しが強いので、熱中症や脱水症に
注意をしなくてはなりません。皮膚や目を傷めないように外出時には日焼け止めを塗ったり、小さな
子どもでもサングラスをかけて太陽から目を保護しています。夏でも夜は肌寒くなるので、子どもの
上着を持ち歩いて温度調整をする必要があるでしょう。ミラノは盆地状の内陸性気候のため、夏は
蒸し暑く、冬は連日濃霧が発生することもあります。冬には雪が降るほど寒くなりますので、子ども
の防寒は必要です。春先にはポプラの綿毛が舞うため、アレルギー性鼻炎や気管支炎に悩まされ
る子どももでます。
【 入院生活 】
入院などは起きてほしくはありませんが、万が一のため、心得だけでも知っておきましょう。
< リラックスしたスタッフ >
まず医療スタッフの雰囲気の違いを感じました。日本では医師も看護師もたいへん真剣にま
じめに働いています。しかし、イタリア人、特に小児病棟に勤める医療スタッフはいたって明るく、楽
しく、のんびりしていて、仕事をしているのか休憩時間なのかわからないほどリラックスしているとい
う印象を受けました。
たとえば日帰りの外来の手術で、予約の早朝 7 時に着いても、スタッフはまだ朝食を食べて
いたりするかもしれません。そうなると彼らの朝食が終わるまでは準備すら始まらないでしょう。しか
し、これはイタリアの文化でもあり、病院のスタッフと言えども食べることをとても大切にしますので、
お国柄だと割り切って、楽しそうに朝食をとっているスタッフは手術前の緊張をほぐしているのかも
しれないと受け止めた方がよいでしょう。
また、手術室に入ってからもオペの準備をしている看護師のチームがオペ室に流れる曲に合
わせて鼻歌を歌ったり、リズムに乗って作業をしている光景に出合います。子どもに対してもスタッ
フは冗談を言ったり、笑わせたりして、その場をなごます努力が見られるでしょう。
< 心への配慮 >
子どもたちがなるべく普段の生活に近い生活を病院でも送れるようにさまざまな工夫がされ
ています。たとえば病院内にプレイルームがあったり、子どもたちのためにお芝居が上演されたり、
学校に行けない子どもには教師が派遣されたり、動物を使ったセラピーがあったりします。これらは
子どもたちが少しでもつらい治療や痛みから解放され、早い回復を考慮した治療の一環とも思われ
ます。
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< 食事 >
病院によってはメニューを渡され、そこから好きなものを選びます。ただし、病院で出される食
事はあまり期待はしないほうがよいでしょう。特に朝食はいたってシンプルです。たとえば牛乳とビ
スコッティという簡単なものかもしれません。ちなみにイタリア人はビスコッティを飲み物につけて食
べる習慣がありますので、好みのコップがあったら持参しましょう。
< 面会時間 >
多くの小児病院では親はいつでも子どもに会えるようにしていましたが、病院によっては親の
どちらか一人が付き添うようになっていました。また、見舞客に対しては決められた面会時間があっ
たり、食事と回診の時間以外ならいつでも面会が可能であったり、病院によってさまざまです。さら
に 12 歳以下の兄弟やお友達が見舞いにくる場合は病室でなく、ロビーだけで会うことができるとい
う病院もありました。イタリア人は大声で話す傾向があり、それは病院でも変わらないので、相部屋
の場合は覚悟が必要かもしれません。
次回は引き続きイタリアでの子育てで、生活面についてお伝えします。