第 2回 : 公立病院、医師、妊娠中の過ごし方

JOMF NEWS LETTER
No.255 (2015.4)
ベトナムでの出産
第2回
:
公立病院、医師、妊娠中の過ごし方
海外出産・育児コンサルタント
Care the World 代表
ノーラ・コーリ
【
現地の病院の実態
】
公立の病院に勤める医師の技術は決して私立の病院の医師と比べて劣るとは限らな
いでしょう。むしろ技術的に上回る医師こそ国立の病院に勤めているかもしれません。設
備の面でも政府がそれなりの資金を投じているので、私立病院並みの検査機器が設置され
ていることもあります。それでも高い水準を誇る日本の医療に慣れ親しんだ日本人にとっ
て公立の病院の利用は二の足を踏むと思います。
まずことばの問題があります。英語を話すスタッフはほとんどいません。次に病院
の環境です。常に人でいっぱい、いつどこでも待たされる、トイレは建物の外にある、と
いうような環境に驚くと思います。人が多い理由の一つはベトナム人の場合、家族や親戚
を率いて検診に来る慣わしがあるからです。
入院となると一台のベッドを二人でシェアすることを求められるかもしれません。
部屋には必ずしも冷房設備がないかもしれません。病室はベッドがぎっしり壁側に敷き詰
められ、数名の産婦さんとシェアすることでしょう。そして部屋に入りきれない場合はほ
ぼ外とも言える風通しの良い廊下にベッドが並べられます。またベトナム人は家族や見舞
客が入院患者といっしょに生活を送るので、彼らも病室のシャワーを利用したり、ござを
敷いて寝ていたり、食事をしたりします。これらの病院のほとんどは食事を出さないので、
家族が外から買ってきます。外部の人も病院で生活をするので、衛生面での管理が行き届
かなくなります。
現地の人は経済的な理由から長いことは入院で
きないため、せいぜい 1 日 2 日で退院します。サービ
スにおいても、心づけをしないとシーツも取り替えて
もらえなかったという話も聞きました。そのため、サ
ービスはお金で買うものとされているようです。
Photo by Nora Kohri
病院のおどり場に腰を下ろす患者家族
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【
医師の特徴
No.255 (2015.4)
】
ベトナムの医師の特徴の一つに医師が複数の病院を掛け持ちして診療をしていることが
あります。また病院での勤務を終えた後、あるいは休日などに自宅でも開業していることがあり
ます。道を一歩入ると「XX 医院、診療午後 6 時から」というような看板に出くわすことでしょう。患
者側からすれば病院に出向くことができない場合、診療所で見てもらえるという利点があります。
なお、医師への心づけはまだ伝統として一部残っているようです。
さて、外資系の病院を利用する場合の注意点として、医師が短ければ数か月で交代する
可能性があります。それはフランスなどの外国から決まった期間の契約のもと勤めていることが
あるからです。そのため、妊娠中かかる医師が頻繁に変わることを避けるためにあえて英語の
話せるベトナム人の医師を選ぶ方もいました。特にベトナムでのお産に不安がある場合、医師と
の信頼関係は安心材料にもなりますので、現地で出産した日本人はそのような選択をアドバイ
スしていました。
【
健診の様子
】
ハノイやホーチミンで出産、あるいは帰国出産をされる多くの日本人が妊娠中は外
国人用のクリニックを利用していました。この外国人用のクリニックが利用される最大の
利点は日本語サービスにあると思います。クリニックによっては受付から日本語サービス
が設けられ、検診においても日本人スタッフあるいは日本人看護師による通訳を利用する
ことができます。これらの施設では妊娠中に必要とされる基本的な検査も受けられます。
支払いにおいても直接保険会社へ請求が行くのでキャッシュレスを利用できます。衛生面
でもきちんと管理されており、プライバシーも保たれ、安心して診察が受けられる環境で
す。
それに対して現地の病院の場合は診察台を囲んで順番を待っている人が 4,5 人い
るというような状況です。仕切りもなく、一人が診察を終えると工場の流れ作業のように
次の人が診察台に上りますので、服を整える間もなく、次の人が診察台に乗ってきます。
確かに効率はよいかもしれませんが、日本人はとても慣れないと言います。
また日本との違いにおいて、検診の際、体重はあまり厳しく管理されません。それ
はベトナムではたくさん食べて赤ちゃんを大きくして産ませようという傾向があるからで
す。
【
知っておくべき妊娠中の過ごし方
】
つわり :
妊娠初期、たいていの方がつわりの時期を通ります
が、特にベトナムでのつわりの時期はつらいものがあるよう
です。それは町中いろいろなにおいに囲まれているからです。
路地は庶民の台所とも言えるほど道路際で調理をして食べ
物を売っています。日本では見かけない食べ物もあり、調理
Photo by Nora Kohri
ハノイの中心街は道路が台所
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法からしても独特なにおいをはなちます。さらに道路に無造作に捨てられている生ごみからも
異臭が発生し、特に夏場は耐えられないものがあるとつわりの時期を経験した現地の日本人は
話していました。おびただしい数のバイクや車による排気ガスもつわりの時期をつらいものにす
るようです。そのため、この時期ほとんど家を出なかったという方もいました。
交通手段 :
ベトナムはちょっとの距離の移動手段としてバイクは便利ですが、妊婦さんのバイク乗り
は決してお勧めしません。交通事故は頻繁に起きています。たいへん危険です。タクシーを利用
することをお勧めします。
気候 :
気候においては暑い時期もあります。そのような時期は運動不足になりがちですが、スイ
ミングや歩行などゆっくりとした動きを中心に運動をするとよいでしょう。ただし、日本の暑さとは
違い、必ずしも快適ではない暮らしの中での暑さなので、疲れたら休むというように無理をしない
で過ごしてください。
妊婦服 :
ベトナム人は日本人のように妊娠中スカート類をはかない傾向があるので、日本人の妊
婦服は目立つようです。ベトナム人はズボンをはく習慣からおなかが大きくなってもゴムでおな
かが伸びるズボンをはいていて、その上にブラウスを着ています。アオザイの場合も横からおな
かがはみ出さないように大きなエプロンで隠します。
食べ物 :
日本でも妊娠中は食べてはいけないものがありますが、ベトナムではからだを熱くするもの
は避けるようにという言い伝えがあります。トロピカルフルーツ類でもからだを熱くする果物は避
けるようにと言われています。それに対して食べるように勧められるものはすいか、みかん、バ
ナナだそうです。屋台のものは安くて便利ですが、魚介類や生野菜は控えめにし、よく火の通っ
たものを選ぶようにしてください。
いい伝え :
妊娠中に貝を食べると唇が貝殻のような形をした厚い唇の子が生まれると言われていま
す。また、妊婦がなかなか食事を食べられなかったり、眠れなかったり、神経質でいると女の子
が生まれると言われています。さらにすっぱいものを妊娠中好むと女の子が生まれるという言い
伝えがあります。他にも鯉のおかゆやかぼちゃのおかゆを食べると安産になると言われていたり、
東洋医学の医師が脈を調べて赤ちゃんの性別を判定したりする習慣もあります。
【
緊急の場合
】
緊急を要する場合、日本では 119 番をかければすぐ救急車が来ますが、ベトナムでは可
能である限り、外国人が利用するクリニック専用の救急車を呼ぶことをお勧めします。それはこ
とばにおいても英語、あるいは日本語を話すスタッフに取り次いでもらえることと、サービスにお
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いても確かなサービスが受けられるからです。ただし、これらのクリニック専用の救急車を利用
する場合はメンバー登録が必要です。
やむを得ず現地の人が利用する救急車を頼んだ場合、現地の人と外国人とは料金が違う
ことも心得ておきましょう。またこれらの救急車を利用する場
合はある程度の現金を持っている方がよいようです。さらに身
元証明書、支払い能力を証明するクレジットカード、医療保険
のカードの提示を求められるかもしれませんので心得ておき
ましょう。
Photo by Nora Kohri
公立病院の救急車
【
出産準備教室
】
お産自体の流れは万国共通かもしれませんが、ベトナムの病院で期待されること、
院内見学、母乳育児の取り組み、産後のケア、新生児のケアなどの指導は出産準備教室の
参加で得られることだと思います。外国人用には外資系クリニックで両親が参加できる英
語でのクラスがあります。もしベトナム語がある程度理解できるのであれば病院主催の現
地の人向けの出産準備教室もあります。これらの教室ではたいてい週に 1 回、全過程 4
回程度の簡単なものかもしれませんが、どのような環境で出産するのかがわかる院内見学
も含まれるので参加する価値はあるでしょう。
【
希望できる分娩法
】
日本人が多くかかる私立の総合病院であれば、夫立会い分娩、夫がへその緒を切る
などを含み、かなりの希望が通ります。一部の日本人の方々は私立病院では帝王切開にな
る可能性が高いと聞き、不安を持っていましたが、助産師の話ではよほどの理由がない限
り、帝王切開は行われないということでした。そのため、日本人が多く希望する自然分娩
は希望として受け入れられます。
これらの私立病院では無痛分娩を希望する現地の裕福層が多いということには驚き
ました。そのため、無痛分娩も可能です。病院によっては水中出産ができる部屋を設けて
いるところもあります。また、浣腸や剃毛に関しても、これらの病院ではしないことが多
いということです。
【
妊娠中に揃えるもの
】
新生児の衣類に関しては多くの日本人の方々はこだわりがあり、日本から質の良い
ものを取り寄せていました。特に赤ちゃんの肌にやさしい綿100%の製品へのこだわり
が目立ちました。哺乳瓶やマグカップなどは十分現地で調達できます。ただし、デザイン
が少し古いと感じたり、質の面で劣っていたりと感じている方々もいました。日本の質の
良さにはなかなか勝てないようです。また赤ちゃん用綿棒のようになくてもよいが、あれ
ば便利というようなものは日本から取り寄せていました。そのため、あとは各家庭でどこ
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までこだわるかにかかってくるでしょう。
ベビーカー、ベビーバス、カーシート、ベビーベッドなどの大きなものは現地で購
入すればよいでしょう。ただしベトナムでの生活様式は、日本のそれとは違うことが多い
ので、日本では移動に便利なベビーカーも、車での移動が多いのであればベトナムでは必
要がないかもしれません。その代わりにカーシートが必需品となるでしょう。このように
ベトナムでの生活がまだわからない状態であるのならば、むしろベトナムでの生活が落ち
着いた段階で大きなものは購入すればよいでしょう。
産後に必要となる母親のものとしては悪露用のナプキン、産褥ショーツ、授乳用の
ブラジャー、母乳パッドがあがります。これらのほとんどを日本人は日本から取り寄せる
かあるいは現地でも日本製のものを調達していました。
来月はベトナムでの出産、入院中の生活、産後についてお伝えします。