オゾンによる効率的消毒技術

オゾンによる効率的消毒技術
技術提案者:昭和エンジニアリング㈱
1.技術概要
大腸菌群等のグラム陰性菌は効率良く不活化される。
ウイルス,芽胞形成細菌,クリプトスポリジウム等の
シストやオーシスト形成原虫など塩素消毒耐性の病原
微生物の消毒効果も期待される。
1.1 技術の原理
本消毒技術は,
合流式下水道における簡易処理水に,
放流水路上流部等にオゾンを注入し,その強力な酸化
力によって,消毒処理水の大腸菌群数を 3,000 個/cm3
以下とする技術である。
雨天時には短時間に大量の簡易処理水が発生するた
め,消毒に必要な量のオゾンを確保するためには,大
容量のオゾン発生装置が必要になるが,稼働率が非常
に低くなるので不経済とならざるを得ない。本消毒技
術は,晴天時に発生させたオゾンを貯蔵し,貯蔵した
オゾンを雨天時に用いることで,オゾン発生装置の小
容量化を可能とする技術である。
オゾンは酸素原子 3 個の結合からなり,フッ素に次
ぐ強力な酸化力がある。そのため多くの有機化合物,
無機化合物を酸化するとともに,微生物細胞膜の破損
や核酸の損傷,酵素やタンパク質の変性などで細菌,
ウイルスを不活性化する。塩素消毒が,微生物の代謝
系酵素反応に影響して消毒を行うことと比べ,その消
毒原理は異なっている。
1.2 装置の構成
本消毒技術は,晴天時に貯蔵したガス状オゾンを脱
着・発生し,エジェクター等で簡易処理水に混合溶解
した後,反応槽で滞留させることによって消毒を行う
ものである。
晴天時に貯蔵するオゾンを発生させるオゾン発生設
備,オゾンを貯蔵し消毒時に発生させるオゾン貯蔵設
備,オゾンを簡易処理水に溶解するオゾン溶解設備お
よび未反応オゾンを分解・無害化する排オゾン分解設
備で構成される。
合流式下水道における終末処理場からの雨天時放流
水路等の上流にオゾン溶解装置を設置し,放流水路等
を反応槽として用いる。
本消毒設備の設備構成および主要機器の概要を図−
1に示す。
脱 着 コ ン
プレッサ
PSA
酸 素 発
生機
オゾン発生機
オゾン発生設備
オゾン貯蔵機
冷凍機
オゾン貯蔵設備
汚水供給ポンプ
排オゾ
ン分解
設備
オゾン溶解装置
オゾン反応槽(放流水路
の一部改造・転用)
オゾン溶解設備
簡易処理水
沈砂池
最初沈殿池
二次処理設備
塩素混和池
(既設)
(既設)
(既設)
(既設)
水の流れ
図―1 本技術の設備構成
ガスの流れ
本消毒技術の範囲
2.開発研究
2.1 必要性能と技術評価の判断基準
本技術の開発にあたっての技術評価対象項目ごとの
必要性能,および本技術が簡易処理水の消毒技術とし
て,必要性能を満足しているかどうかの判断基準を表
―1に示す。
2.2 実験場所および実験期間
表―2に実験概要を,写真―1に実証試験装置の写
真を示す。
また,
図―2に実験装置のフロー図を示す。
実証実験装置を広島県広島市千田下水処理場東系に設
置し,簡易処理水を用いて実証運転を行った。
表―1 必要性能と技術評価の判断基準
技術評価対象項目
必要性能
判断基準
処理性能
排出水中の大腸菌群数 3,000 個 実証実験により,処理水の大腸菌群数が 3,000 個
/cm3 以下を達成すること。
/cm3 以下を達成することを確認する。
消毒の能率化
反応時間の短縮化について,必要な反応時間を定
消毒効果を得るための時間が短
量的に確認し,従来技術との比較から,消毒の効
時間であること。
率化が図られていることを検証する。
下流側水域の安全性
処理水が,下流側の水棲生物に与える影響が軽微
消毒の結果,下流側水域の水棲生
であることについて,必要に応じて遺伝毒性試
物に与える影響が小さいこと。
験,生態毒性試験などにより確認する。
その他
実証実験により,電力量等といったユーティリテ
電力量等のコスト低減化を図る
ィの低減化などについての定量的な確認及びラ
こと。
ンニングコストの経済性について検証を行う。
表―2 実証試験の概要
実験場所
広島市千田下水処理場
実験期間
平成 15 年 11 月∼平成 16 年 8 月
実験設備概要
設備
実証実験機
対象原水
初沈出口水(簡易処理水)
消毒剤注入点
反応槽入口部
消毒反応時間
約 3∼10 分
最大処理水量
10m3/h
消毒効果確認地点
反応槽出口部
2.3 開発研究結果
2.3.1 処理性能及び消毒の能率化
消毒反応時間と消毒効果の関係を把握するために,
反応槽滞留時間を 3 分,4 分,5 分および 10 分と変化
させた。消毒反応時間と消毒処理水大腸菌群数との関
係を図−3に示す。これより,消毒処理水大腸菌群数
は,試験を実施した範囲では,滞留時間には無関係で
あることが確認できる。したがって,消毒効果を得る
写真―1 実証試験装置写真
ために必要な滞留時間は 3 分以上で良いことがわかる。
以上の結果を踏まえて,反応槽滞留時間 3 分の条件
で,実証実験機を用いた雨天時消毒実証試験を 3 回実
施した。実験時の降雨状況および実験結果のまとめを
表−3に示す。
3回実施した実証実験のオゾン消費率は 10 ∼
38mg/L の範囲(平均消費率 23.0mg/L),オゾン注入
率は 12∼42mg/L(平均注入率 27.7mg/L)であった。
オゾン貯蔵機
レシーバタンク
PG
除湿
M
FIC
排ガス分解塔
残留オゾン
FI
=
脱着オゾン
5
4
冷凍機
オゾン溶解装置
3
FI
2
FI
汚水ポンプNo.1
排ガス処理工程
オゾン反応槽
分解塔へ
汚水貯槽より
M
M
ヒーター
乾燥塔
汚水ポンプNo.2
FI
脱着コンプレッサー
室内除害用
返水槽
汚水貯槽
処理場東系初沈
オゾン発生機
返水槽へ
図―2 実証試験装置フロー
10 7
10 6
大腸菌群数(個/cm 3 )
実証試験結果より,簡易処理水を対象としたオゾン
による消毒は,開発技術の性能目標である消毒反応時
間 5 分以内(実証実験では 3 分),消毒処理水中の大
腸菌群数 3,000 個/cm3 以下をすべて満たし,良好な結
果が得られることが確認できた。この時の消毒原水大
腸菌群数は,9.2×104∼1.0×106 個/cm3 であった。
なお,実験時の降雨状況は,最大降雨量が 4.2∼
16.7mm/h,総降雨量が 14.1∼77.2mm であった。また,
先行無降雨日数は 3∼19 日であった。
10 5
3,000個/cm 3
10 4
10 3
10 2
10
滞留時間=3分
滞留時間=4分
滞留時間=5分
滞留時間=10分
1
2.3.2 下流側水域の安全性の検証
オゾンおよび次亜塩素酸ナトリウムを雨天時簡易処
理水に添加した試料について,遺伝毒性試験(umu 試
験)および生態毒性試験(マイクロトックス試験)を
実施し,下流側水域の安全性を検証した。 umu 試験
結果を表−4に示す。
消毒剤を添加していない消毒原水(簡易処理水)は
125 倍濃縮以上において変異原性陽性を示した。次亜
塩素酸ナトリウムを添加した試料は 62.5 倍ないしは
125 倍濃縮で変異原性が陽性となった。それらに比べ,
オゾンを添加した試料は表には示していないが,500
倍濃縮までは変異原性が陰性であり,オゾン消毒は,
消毒原水や次亜塩素酸ナトリウム消毒処理水に比べて
より安全性が高いと評価できる。
次に,マイクロトックス試験を実施した結果を表−
5に示す。EC50 値が低いほど毒性が強いことを意味し
ている。
0
10
20
オゾン消費率(mg/L)
30
図−2
3 消毒反応時間と処理水大腸菌群数
消毒原水の EC50 値が 2.29%,次亜塩素酸ナトリウム
消毒処理水のそれが 2.26%であったのに比べ,オゾン
消毒処理水は,3.05∼6.89%であったため,オゾン消毒
はより安全性が高いと評価できる。
次に,消毒副生成物として臭素酸イオン濃度の分析
を実施した。結果を,表−6に示す。
いずれの試料についても臭素酸イオン濃度は水道水
質基準である 0.01mg/L 以下であり,消毒剤の添加によ
って臭素酸が生成しないことが確認された。
以上の結果より,オゾン消毒は次亜塩素酸ナトリウ
ムによる消毒と比べ,下流側水域の安全性が同等,も
しくはより高いことが確認された。
表―3 実証試験結果
実験 No.
第一回
第二回
第三回
調査日
H16.5.19∼20
H16.6.24∼25
H16.7.31∼8.1
第一回∼第三回
データ
先行無降雨日数(日)
4
3
19
−
最大降雨量(mm/hr)
4.2
10.4
16.7
−
総降雨量(mm)
14.1
31.6
77.2
−
消毒原水
簡易処理水
同左
同左
同左
3
同左
同左
同左
10
10∼23
(19.3)
12∼27
(23.1)
41∼90
(65)
0.01
120∼270
(231)
1.7×105∼
6.7×105
1.0×10∼
1.7×103
同左
11∼29
(20.8)
15∼34
(25.6)
38∼88
(73)
0.01
150∼340
(256)
9.2×104∼
2.3×105
4.8×102∼
1.5×103
同左
13∼38
(28.9)
14∼42
(34.4)
32∼90
(60)
0.01
140∼420
(344)
1.8×105∼
1.0×106
1.9×10∼
3.0×102
同左
10∼38
(23.0)
12∼42
(27.7)
−
0.01
120∼420
(277)
9.2×104∼
1.0×106
1.0×10∼
1.7×103
2.5∼4.4
(3.1)
2.1∼3.3
(2.6)
3.5∼4.0
(3.7)
2.1∼4.0
(3.1)
反応槽接触時間(分)
処理水量(m3/h)
オゾン消費率(mg/L)
(平均値)
オゾン注入率(mg/L)
(平均値)
発生オゾン濃度(g/m3)
(平均値)
発生オゾン圧力(MPa)
発生オゾン量(g/h)
(平均値)
大腸菌群数
消毒原水
(個/cm3)
消毒処理水
大腸菌群数
不活化率
(Log)
消毒処理水
(平均値)
表−4 遺伝毒性試験結果(umu 試験)
表−6 消毒副生成物分析結果(臭素酸イオン)
+S9
-S9
+S9
-S9
次亜塩素酸ナ
トリウム消毒
処理水
次亜注入率
15mg/L
+S9
-S9
125
+
+
−
−
++
+
62.5
−
−
−
−
+
−
31.25
−
−
−
−
−
−
試料濃
消毒原水
縮倍率
オゾン消毒処
理水
オゾン消費率
30.9mg/L
表―5 生態毒性試験結果(マイクロトックス試験)
試料名
消毒原水
オゾン消毒処
理水
次亜消毒
処理水
オゾン消費率
または次亜注入率
(mg/L)
−
試験結果
濃縮なし5分後
EC50(%)
2.29
30.9
6.89
39.2
3.15
47.7
3.05
15
2.26
試料名
消毒原水
オゾン消毒処
理水
次亜消毒
処理水
オゾン消費率
または次亜注入率
(mg/L)
−
臭素酸イオン
濃度
(mg/L)
<0.01
30.9
<0.01
39.2
<0.01
47.7
<0.01
15
<0.01
2.3.3 経済性比較
処理水量 10,000m3/h の処理場を対象として,本消毒
技術を適用した場合の年間ランニングコストと,高級
処理における次亜塩素酸ナトリウムの年間ランニング
コストとの比較を表―7に示す。
本消毒技術を簡易放流水に適用した場合,年間ラン
ニングコストは二次処理における消毒で年間消費する
次亜塩素酸ナトリウム費用の 23.9%程度と試算された。
表―7 年間ランニングコスト比較
項 目
オゾン消毒
次亜塩素消毒
簡易処理水
高級処理水
大腸菌群数
最大 7×105 個/cm3
−
消毒剤注入率
平均 38mg/L
(オゾン注入率)
平均 3mg/L(次亜塩素酸ナトリウムは有
効塩素濃度 12%とする。)
オゾン消費率
平均 23mg/L
−
−
30 円/kg とする
5.50 円/m3
0.75 円/m3
年間処理水量
120Qm3/年
(2×Qm3/h×3h×20 日/年)
8,760Qm3/年
(Q×24h×365 日/年)
電力基本料金を含まない年
間ランニングコスト
6,600,000 円/年
(5.5 円/m3×120Qm3/年)
65,700,000 円/年
(0.75 円/m3×8,760Qm3/年)
消毒対象原水
消毒剤単価
処理水量あたりのランニン
グコスト
年間電力基本料金
9,080,000 円/年
年間ランニングコスト比
微少であるため考慮しない。
23.9
100
2.3.4 技術の評価
本技術の評価結果を表―8に示す。
表―8 本消毒技術の評価結果
技術評価対象項目
処理性能
消毒の能率化
開発目標(必要性能)
評価結果
排出水の大腸菌群数 3,000 個/cm3 以
簡易処理水に対し,反応時間 5 分以
下を達成すること。
内で,処理水の大腸菌群数を 3,000
3
消毒効果を得るための時間が短時 個/cm 以下とすることができ,必要
性能を有すると認められる。
間であること。
下流側水域の安全性
簡易処理水に対し,消毒を十分でき
うる添加条件で消毒剤を添加した
消毒の結果,下流側水域の水棲生物 場合に,従来技術による消毒と比較
して,安全性が同程度あるいはより
に与える影響が小さいこと。
高いと判断され,必要性能を有する
と認められる。
その他
薬品量・電力量が実用範囲であり,
薬品量・電力量の低減化を図るこ
既存施設への組み込みが可能であ
と。
ると認められる。
(1) 処理性能および消毒の能率化
① 実証プラントでの実証運転により,下水処理場
からの簡易処理水にオゾンを注入することによっ
て,消毒処理水大腸菌群数を 3,000 個/cm3 以下と
することができた。
② 処理水大腸菌群数を 3,000 個/cm3 以下とするの
に必要なオゾン消費率は,降雨開始初期から 2 時
間程度の消毒原水が高濃度である時間帯は,最大
38mg/L(オゾン注入率 47.5mg/L 程度),平均消
費率は 23mg/L(注入率 28.8mg/L 程度)であった。
③ 処理水大腸菌群数を 3,000 個/cm3 以下とするの
に必要な反応時間は 3 分以上で良いことが確認さ
れた。
以上の結果より,本技術は,下水処理場からの簡易
処理水に対して,次亜塩素酸ナトリウムによる消毒よ
りも短時間で処理水大腸菌群数を 3,000 個/cm3 以下と
することができることが確認された。
(2) 下流側水域の安全性
① オゾン消毒剤を簡易処理水に注入したときの
umu 試験,マイクロトックス試験において,その
毒性は次亜塩素酸ナトリウムと比べて軽減される
ことが認められた。
② 消毒副生成物として,消毒処理水の臭素酸イオ
ン生成量を測定した試験において,次亜塩素酸ナ
トリウムと同等であり,その値は水道水水質基準
値以下であった。
以上の結果より,本技術の下流側水域の安全性は,
次亜塩素酸ナトリウムによる消毒と比較して同程度以
上であり問題のないことが確認された。
(3) 経済性および実用性
本技術を実施設に導入した場合の経済性および実用
性を検討した結果,本技術は既存設備への組込が可能
であると考えられる。
また,
年間ランニングコストも,
標準的な二次処理における次亜塩素酸ナトリウム消毒
に要する年間費用の 24%程度であり,実用範囲内であ
ると考えられる。
3.技術の特徴
本消毒技術の特徴を以下に示す。
①短時間での消毒が可能
3∼5 分程度の短時間で簡易処理水等の消毒が可能
であるため,塩素混和池等といった十分な接触時間を
確保できる施設が無い場合にも適応可能である。
②脱色・脱臭作用が期待できる
オゾンの酸化力を利用した消毒法のため,処理水の
脱色・脱臭作用が期待できる。
③経済的にオゾンを発生・利用できる
オゾンの発生には高濃度酸素を原料としたオゾン発
生機を用いること,さらには夜間の安価な電気を利用
してオゾンを生成すること,及びオゾン貯蔵機に小型
オゾン発生機を利用して必要量のオゾンを貯めておく
ことができること等から経済的にオゾンを発生・利用
できる。
④ウイルス等の不活化効果が期待できる
細菌の消毒以外にクリプトスポリジウム等の原虫お
よびウイルスの除去などにもその低減・不活化効果が
期待できる。
⑤消毒処理水の安全性が高い
オゾンそのものは処理後酸素に変換すること,さら
にはオゾンとの反応後に生成する副生成物は少ないこ
となどから処理水の安全性は他の方式に比較し高いと
考えられる。
4.留意事項
本技術を計画・設計するにあたっての留意事項を示
す。
(1) 設備容量設計上の留意点
設備の容量を計画するにあたっては,建設コストを
最小とするために,以下の点に留意する必要がある。
オゾン貯蔵機容量を増加し,降雨頻度の小さい季節
にあらかじめ貯蔵する計画とすることによって,オゾ
ン発生機容量を小型化することができる。
したがって,設備容量の設計にあたっては,オゾン
貯蔵機容量を増加するための費用とオゾン発生機を小
型化できることによって削減できる費用を勘案し,総
建設コストが最小となる計画を策定する必要がある。
(2) オゾン貯蔵性に関する留意点
オゾン貯蔵機に貯蔵されたオゾン量は,実証実験装
置では 4 週間経日的な変化のないことが確認されてい
るが,それ以上の貯蔵期間についてはオゾン量の変化
が確認されていない。しかしながら,実施設では 4 週
間以上無降雨が継続することもある。そのような場合
には貯蔵オゾン量が減少している可能性もあるため,
オゾンを追加貯蔵する等の対応を考慮することになる。