乳がん検診ガイドライン作成の経緯とがん登録

JACR Monograph No. 10
乳がん検診ガイドライン作成の経緯とがん登録
Guidelines revision for breast cancer screening in Japan and Cancer Registry
大内 憲明 *
1.
はじめに
12000
本論では 2003 年 12 月以来行われてきたがん
10000
検診検討会の経緯について概説するとともに、
8000
今までの乳がん検診ガイドラインの作成がど
6000
のようにして行われてきたのかということに
4000
ついて論ずる。
2000
3.5
まず乳がんの罹患と死亡の動向をみる。当然
0
1955
ながらこれは地域がん登録のデータに基づく
3.9
1965
5.8
8.0
1975
1985
死亡数
ものである。そのうえで、従来、日本において
行われてきた視触診による検診の有効性が評
12.2
13.9
1995
15.2/10万人
2000
2003
死亡率
図 1. 乳がん死亡数と死亡率の推移
価され、マンモグラフィ検診に移った経緯につ
いて概説する。また、マンモグラフィ検診が日
2.
乳がんの罹患率と死亡率の動向
本国内においてどの程度の効果があるのかと
乳がんの死亡数と死亡率の推移を示す(図
いうことについて述べ、続いて本題である厚生
1)。疾病構造の変化に伴って、戦後日本人女性
労働省が示した乳がん検診の指針見直しにつ
の乳がん死亡数は大きく増加し、その死亡率も
いて述べる。この指針の見直しは、平成 12 年
上昇の一途を辿っているのがわかる。約 50 年
にも一度行われているものであるが、そのとき
前の 1955 年に比べると、死亡者数では 1,500
に初めてマンモグラフィの併用が盛り込まれ
名から 2003 年には 9,800 名と約 6 倍に増加し
ている。この時に示された指針は、マンモグラ
ている。死亡率でみても 10 万人対 3.5 人から
フィ検診を 50 歳以上の対象者に導入するとい
15.2 人となり 4 倍以上の著しい上昇となって
うものであった。今年度に出された指針では
いる。表 1 に乳がん罹患の推移を示す。これは
40 歳以上を対象としてマンモグラフィを実施
表 1. 全国罹患数および年齢調整罹患率(推計値)―乳房―
するということであり、原則的に視触診単独検
厚生労働省がん研究助成金「地域がん登録精度向上と活用に関する研究」
(主任研究者:津熊秀明)平成15年度報告書
診が廃止されたということになる。こうした乳
がん検診の新しいシステムをつくるに当たり、
罹患数
粗罹患率
われわれが取り組んでいるシステムづくり、撮
年齢調整罹患率
世界人口
日本人口
I/D
影機器あるいは読影医師、さらには検診システ
ムそのものの構築への取り組みについて論ず
1996年
(1995-1997年値)
るものである。
1999年
(1998-2000年値)
29,448
45.9
30.1
38.9
3.73
36,139
55.8
36.0
46.4
4.07
1996年 主任研究者:大島 明
*
東北大学大学院腫瘍外科学分野 教授
〒980-8575
仙台市青葉区星陵町 2-1
9
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人口10万対,1985年日本人モデル人口を標準
400
全部位
乳房 Breast
人口10万対 Rate per 100,000
150
100
100
1999年
1975年
50
50
乳房
子宮(CIS含む)
胃
結腸
10
子宮(CIS除く)
肺
直腸
肝
胆嚢・胆管
膵臓
10
5
1
0-4 10-14 20-24 30-34 40-44 50-54 60-64 70-74 80-84 (歳)
5-9 15-19 25-29 35-39 45-49 55-59 65-69 75-79 85-
3
1975
1980
1985
1990
1995
(年)
図 2. がんの罹患率
地域がん登録研究班(津熊班)の平成 15 年度
3.
乳がん検診の有効性評価
報告書のデータである(なおこの中の 1996 年
1995 年頃、視触診検診の問題点はすでに明
のデータは大島班のもの)。これによると近年
らかであった。マンモグラフィに切りかえてこ
わが国では乳がん罹患数が増加し続けている
の問題を解決するためには、まず視触診検診の
ことがわかる。注意しなければならないのは、
有効性評価をしなければならない。当時の厚生
この地域がん登録データは過小評価ではない
省は乳がんのみならず全てのがん検診を評価
かとの指摘があることである。筆者の臨床上の
すべく、研究班を立ちあげた。この研究班の目
経験からも、実際の乳がん患者は恐らくこれよ
的は情報開示とともに、この研究班で行われた
りも 20%か 30%多いのではないか思われる。
評価に基づいてがん対策を立てることであっ
今後の新たなより精度の高い地域がん登録調
た。その後、第 2 期、第 3 期の研究班活動が行
査を期待するものである。
われ、評価が繰り返された。厚生省富永班では、
図 2 に「地域がん登録精度向上と活用に関す
視触診の検診発見乳がんと外来発見乳がんの
る研究」班のがん罹患率データを示す。左側の
術後生存率を比較している。これによると 10
グラフから、1994 年に乳がんが女性のがんの
年経過後もその差は大きくならない、逆に縮ま
中でトップになっていることがわかる。右側の
ってきており、統計学的に有意ではない。すな
グラフは 1975 年と 1995 年の年齢階級別乳がん
わち死亡率減少効果は証明されないという結
罹患率の比較をしている。この 20 年間で年齢
果であった。これは疫学的な研究の質からいう
階級別にみてどの年齢層で乳がん罹患率が上
と、最低の研究デザインであるが、当時はこの
昇しているかをみると、45 歳におけるピーク
データのみであった。その後我々は症例対照研
の上昇が著しいことがわかる。これは欧米と異
究を行ったが、その結果は後で述べる。
なっており、欧米は 2 峰性ではなく 1 峰性で、
65 歳以上にそのピークがある。
1995 年には欧米先進国はすべてマンモグラ
フィ、少なくとも 50 歳以上については全ての
先進国で導入している。視触診単独で行ってい
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Breast cancer incidence and mortality/10,000 in Sweden 1960-1998.
Lennarth Nystrom. Assesmnt of population screening. The case of mammograpy. Department of Public Health and
Clinical Medicine. Umea Univerity, 2000.
4 RCTs: Malmo, Two-county (Kopparberg, Ostergotland), Stockholm, Goteborg
図 3. Reduction of Breast Cancer Mortality in Sweden
スウェーデンにおけるマンモグラフィ検診の成果
るのは日本だけである。さらに日本では対象年
宮城県対がん協会を中心とした「宮城トライア
齢が 30 歳も入っているという大変奇妙な現象
ル」が平成元年から行われた。この中で、2 年
がある。加えて、欧米では例えばイギリスは日
に 1 回のマンモグラフィ併用検診を行ったの
本の女性の罹患率の約 3 倍から 4 倍あるにもか
である。この隔年検診は当時年間 5,000 人ベー
かわらず、乳がん検診の間隔は 3 年に 1 回であ
スで始まった。
る。一方、日本は毎年やっているという奇異な
初期のデータによると、視触診単独では
1,000 人に 1 人ぐらいの乳がん発見率に対し、
現象がみられる。
1995 年当時すでにマンモグラフィ検診は国
マンモグラフィを使用した場合にはその 4 倍
際標準であった。図 3 にスウェーデンの乳がん
から 5 倍の発見率となる。問題はそれが本当に
検診の有効性に関するデータを示す。スウェー
生存率向上に寄与するかどうかということで
デンでは罹患率そのものは各年齢層で上がっ
ある。そのデータを出すには、さらに何十年と
ている。しかしながら、死亡率は 80 年代以降
いう年月がかかるので、われわれは、既に有効
低下し続けていることがわかる。こうした現象
性が証明されているアメリカの HIP、Health
はイギリスやアメリカにおいてもみられる。罹
Insurance Plan of New York のトライアルと比
患率の上昇にもかかわらず死亡率が低下して
較した。HIP のデータは、マンモグラフィを併
いるこの現象はマンモグラフィ検診の成功を
用すると 30%の死亡率減少効果があることを
示唆するものである。
示していた。これと宮城トライアルとを比較す
翻って 10 年ほど前の日本では、マンモグラ
ると、宮城トライアルのデータは遜色ないか、
フィ検査は大変な逆風であった。批判は第一に、
あるいは宮城のデータの方が上回っている。
日本人女性は乳房が小さく、乳腺が高濃度であ
我々はこのことを公表し、宮城トライアルは国
り、幾ら X 線撮影してもそれは映らないため
の施策の一つの起点になった。
日本人には向かないだろうというものであっ
以上が最初の「がん検診の有効性評価に関す
た。さらに日本は世界唯一の被爆国であるため
る研究」による勧告であった。まずこれは新聞
に、そこにより多くの放射線被爆をもたらす検
紙上で大きく取り上げられ、「乳がん検診は効
査を導入すべきでないといった強硬な反対意
果がない」との報道がなされた。我々は、効果
見が様々あった。こうした批判に答えるべく、
がないのではなく視触診による検診が何のエ
11
JACR Monograph No. 10
表 2. 視触診による乳がん検診(症例対照研究)1999 年
ぶせるということである。すなわち、この段階
乳がん死亡に対する視触診検診受診歴のオッズ比
ではまだマンモグラフィが前面には出てない
間隔
ということである。今年の改革では逆になり、
a)
オッズ比 (95% 信頼区間) オッズ比 (95%信頼区間)
1年
0.93
(0.48-1.79)
0.56
(0.27-1.18)
マンモグラフィが原則になった。次にその経緯
2年
0.86
(0.46-1.60)
0.60
(0.30-1.17)
について述べる。
3年
0.63
(0.33-1.18)
0.48
(0.25-0.93)
4年
0.57
(0.30-1.07)
0.44
(0.23-0.84)
5年
0.59
(0.31-1.14)
0.45
(0.22-0.89)
まず問題となるのは、日本の乳がん検診にお
いてその対象が 50 歳以上でいいのかというこ
とである。40 歳代が最も重要であろうと考え
a) 有症状者はスクリーニング非受診者に分類
(Kanemura, Ohuchi et al, Jpn J Cancer Res, 1999)
られるのである。なぜならば、表 3 に示すとお
視触診による乳がん検診は、無症状の場合は死亡リスク低減効果が示唆
されるが、有効性を示す根拠は証明されない
り年齢階級別の死因別死亡率をみると、59 歳
ビデンスもないまま導入されたことが問題で
までは乳がんが全部位の 1 位になっている。全
あるということを指摘したのであるが、マスコ
がんの約 4 分の 1 が乳がんで占められている。
ミ各社はすべて単に乳がん検診は効果がない
60 歳以上からは大腸がんがトップになってい
というふうに扱った。我々の本当の意図は、マ
る。死亡率の点から検討すると、10 年ごとの
ンモグラフィが効果があるのだからそちらに
がん統計白書にあるように、55 歳に死亡率の
動くべきだということを強調しているのであ
ピークがある。つまり 45 歳で発症して、55 歳
る。これが 1998 年のことであった。症例対照
で亡くなっていくという状況が明らかになっ
研究はその当時未発表であったが、1999 年に
てくる。ということは、50 歳以上をターゲッ
ようやく公表した(金村らの論文)
(表 2)。乳
トとする検診はあまり効果が期待できないと
がん死亡に対する視触診検診受診歴のオッズ
いうことになる。そこで我々は、1995 年から
比をみると、わずか 0.93、つまり 7%の死亡率
40 歳代をターゲットとしたマンモグラフィ併
減少であった。これは 95%信頼区間が 1 を含
用検診を宮城県対がん協会で実施してきた。表
んでいるため有意ではない。また、乳がん検診
4 にその結果を示す。50 歳以上と比べてがんの
で発見される者の約 6 割が既にしこりや痛み
発見率等において遜色なく、視触診と比較する
などの症状を持っている。そうした者を「検診
とはるかにがん発見率等において優れている
歴なし」として除外した場合、つまり無症候の
ということがわかる。
者だけを解析対象とした場合には、0.56、つま
こうした点を踏まえて、第 3 期の研究班が
り 44%の死亡減少効果が期待できる。しかしな
2001 年に、「新たながん検診手法の有効性評
がら、これも 95%信頼区間が 1 を含んでいる
価」報告書をまとめた。この中で、50 歳以上
ため有意ではない。
結論としては、視触診検診
表 3. 年齢階級別に見た死因別・性別死亡率
(人口10万人対=平成14年厚生労働省人口動態確定数)
は効果が証明できないとい
うことがいえる。このことも
年齢層
30-34
35-39
40-44
45-49
50-54
55-59
60-64
65-69
70-74
75-79
全がん
11.9
22.7
43.5
73.7
122.5
164
222
322
472
666
乳房
2.6
5.9
11.0
20.8
28.4
31.0
1位
乳房
乳房
乳房
乳房
乳房
乳房
盛り込まれた上、国としてよ
うやく 2000 年 3 月に、老健
65 号の通達において、乳が
ん検診は 50 歳以上にマンモ
グラフィを併用するという
ことになった。ここで注目す
べきは、視触診に X 線をか
全がんの約1/4
12
29.3
26.7
25.0
26.3
(2位)
(6位)
(7位)
(7位)
大腸
29.7
大腸
42.9
大腸
64.4
大腸
92.7
JACR Monograph No. 10
び効率の向上に関する研究」班においては、40
表 4. マンモグラフィ・視触診併用 対 視触診単独
40-49歳 対 50-59歳
マンモグラフィ・視触診併用
歳代へのマンモグラフィ導入に向けて基本指
針を示した。40 歳代にはマンモグラフィを導
視触診単独
方法と年齢群
40-49歳
50-69歳
40-49歳
50-69歳
対象数
14,886
16,839
50,129
98,432
様々なデータから、視触診を外してもいい年齢
要精検数
1,555
(10.4%)
1,231
(7.3%)
4,158
(8.3%)
3,896
(4.0%)
層があるだろうと思われるため、60 歳代以上
28
(0.20%)
36
(0.26%)
53
(0.11%)
86
(0.09%)
(要精検率)
がん発見数
(発見率)
入し、超音波検診については引き続き検討する。
はマンモグラフィ単独とした。以上をがん検診
検討会の基礎データとして提出したが、60 歳
宮城県対がん協会 1995-1998
代以上については視触診が外れなかった。
については I–a(検診による死亡率減少効果が
厚生労働省「がん検診に関する検討会」では、
あるとする、十分な根拠がある)、40 歳代にお
今回、乳がんと子宮がんだけに焦点が絞られた。
いても I–b(検診による死亡率減少効果がある
この中間報告書の中に地域がん登録と関係す
とする、相応の根拠がある)と踏み込んだ報告
ることがいくつか書かれている。ここでは、疾
がなされた。同時に、視触診単独は I–c(検診
病構造の中でがんが非常に重要であるという
による死亡率減少効果がないとする、相応の根
ことがまず前置きにあり、それからがん検診が
拠がある)とされた。なぜ視触診を否定するの
1950 年代後半から行われてきているというこ
かということが今になって問題視されること
とや、老人保健事業に基づき市町村で実施され
があるが、実は 3 年前にこの報告書で視触診の
てきたということ等が書かれている。この中で
問題点を指摘しているのである。今回のがん検
がん検診の現状に対する懸念が述べられ、特に
診検討会ではこのことが再確認されたのであ
乳がんについては改善の余地が大きいことが
る。
指摘された。この検討会で最も大きな礎となっ
たのが、久道茂・東北大学名誉教授が主任研究
4.
者をされた「新たながん検診手法の有効性の評
乳がん検診に関する指針の見直し
価」班が 2001 年に出した報告書である。
厚生労働省のがん研究助成金研究班は、昭和
62 年富永班長に始まり、筆者は一時 95 年から
時間の制約上、今回は乳がんと子宮頸がん検
4 年間班長を務めた。昨年度からは再び班長に
診等について検討された。具体的に地域がん登
就任している。その最大の理由は適切な乳がん
録のデータをどう活用したかであるが、まず乳
検診のあり方に関して結論が得られていない
がん・子宮がんの動向について詳細に書かれて
からである。一つにはクオリティーの高いマン
いる。乳がんの年齢調整罹患率や死亡率から
モグラフィ検診はまだ確立されていないこと。
40 歳代の乳がん検診が重要であることが述べ
さらに、最も重要である 40 歳代の高濃度乳腺
られている。さらに、子宮頸部がんについては、
乳房を対象とした検診プログラムが、まだ確定
若年化傾向にあることが骨子に示されている。
していなかったことが挙げられる。そこで、平
筆者は厚生労働省関係の審議会で子宮頸が
成 15 年度から新たな研究班をスタートした。
んの年齢引き下げについて議論した。25 歳か
今回の中間検討会の見直しの中で結論は出た
ら同がんの有病率はかなり高くなっているが、
が、国の老健事業としては、マンモグラフィの
20 歳代では人口 10 万人対 1 とか 0.5 である。
全面導入は 17 年度までに行い、17 年度からは
子宮頸がん検診を 20 歳から行うべきか、ある
全国一律に行うようにということが盛り込ま
いは 25 歳以上に行うべきかについては、十分
れている。
な検討の時間がなく、結局 20 歳からというこ
とになった。私見ながら公衆衛生学的にはやは
我々が現在行っている「乳がん検診の精度及
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JACR Monograph No. 10
り、がん検診を行うのにふさわしい有病率、罹
ックも要求している。そのためにカリキュラム
患率は人口 10 万人対 10 人以上必要であろうと
をつくり、2 日間講習で実施している。現在既
思われる。一方、40 歳代での乳がんは 120 人
に 4,000 名以上の者が受講しているが、約 6
から 150 人である。したがって、有病率の点か
割から 7 割が合格している。厳密な判定によっ
らみると、乳がんは非常に重要な対象であるこ
て B 以上の者によるダブルチェックを要求し
とがわかる。
ている。
さらには、研究班の中でつくったものをマン
中間報告書では、乳がんについてはマンモグ
ラフィによる検診が大原則であるとしている。
モグラフィ精度管理中央委員会(精中委)にお
ただし、マンモグラフィ普及体制の整備や、あ
ろし、乳癌検診学会ベースで施設画像評価委員
るいは年齢による乳腺密度の問題があるため、
会というものをつくっている。そこではフィル
視触診を当面の間は併用する。しかしながら、
ムあるいは放射線機器そのものの評価をする。
通達の中ではこれが併記されており、マンモグ
最も難しいのは高濃度乳腺乳房のケースで、こ
ラフィと視触診を同時に行うこととなってい
の中から乳がんを発見するのが難しい。こうい
る。いずれにしても、視触診単独検診は廃止と
ったケースは 40 歳代に多く、この年代を対象
いうことである。
とした精度の向上が望まれる所以である。この
目的のため評価システムをつくり、画質・ポジ
5.
ショニングの評価、あるいはフィルムの取り扱
新しい乳がん検診システムの構築
国が補助金を出し全国に 500 台のマンモグ
いによって、上から順に ABCD に評価し、B
ラフィを導入するという計画がある。国として
までを合格としている。以上と類似した精度管
半額、都道府県として半額出資し、マンモグラ
理は既にアメリカの FDA が Mammography
フィ機器を整備するという事業である。この事
Quality Standard Act(MQSA)をつくってい
業の根拠になったデータは、全国の 3,155 の市
る。これは法律に基づいて行われていて、既に
区町村に対して行った調査の結果である。回答
10 年近く前から取り組まれている。現在の日
率は 100%である。その結果平成 16 年 3 月 31
本は、FDA の初期と似た状況である。我々が
日時点でマンモグラフィ検診を実施している
研究班で調べたときの合格率が 76%であった
と回答したのは、58%であった。予定なしと回
が、近年それが上昇してきて現在では施設画像
答したのが 296 市町村あったが、その理由は、
評価によって 90%以上の施設が合格する。今後
「今平成の大合併を控えている、そのために進
はさらにこの合格率を上昇させなければなら
めない」、
「まだ協議中である」、
「財政が困難で
ないだろう。
こういった乳がん検診精度の向上は精中委
ある」などであった。
乳がん検診が有効であるかどうかを規定す
を中心として行っている。精中委は乳がん検診
る要因としては、まず第一に検診のクオリティ
に関連する六つの学会から構成されており、ホ
ーが挙げられる。このために我々は写真撮影技
ームページを作成し、プライバシーに配慮した
師の養成、医師の読影能力の向上に努めている。 上で医師、技師、それから施設の名前まで公表
さらには、乳がん検診の精度管理が挙げられる。 している。
2000 年の老健 65 号では、具体的に例えばマン
今回の指針の見直しに当たっては、我が国に
モグラフィの基準や線量、画質といったものに
おける乳がんの罹患と死亡に関する情報等を
対しクリアすべき基準を示している。さらに老
含む地域がん登録が有効に活用された。この精
健 65 号の中では、読影環境、少なくとも 1 名
度の高い地域がん登録システムが存在しなけ
が十分な経験を有する医師によるダブルチェ
れば、今回のような指針の見直しはできないと
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JACR Monograph No. 10
いうことができる。個人情報の問題点を厳密に
ん登録の運用が期待される。
クリアした上で、さらに新たな効率的な地域が
Summary
Japanese government has set new guidelines for breast cancer screening in 2004. The guidelines
have adopted screening mammography with clinical breast examination (CBE) for those who are 40
years old or older. In 2000, the guidelines adopted screening mammography with CBE for those who
are 50 years old or older according to the evidence that CBE alone is not effective enough to reduce
breast cancer mortality. At that time, CBE alone was recommended for those who are 40-49 years old.
The Miyagi Prefectural Cancer Registry has shown that mammography is effective not only for those
who are 50 years old or older, but also for those who are 40-49 years old, which leads to the new
guidelines in 2004.
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