アメリカ大統領選挙の影響 - ジョーンズ ラング ラサール

アメリカ大統領選挙の影響
トランプ大統領就任―その次は?
United States | 2016年11月
結果
政策内容の詳細が明確になり実施されるまでは
政治ニュースや金融市場は不安定になる事が予
想されるが、JLLでは不動産市場は堅調に推移
すると考える。
ドナルド・トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を破り
2017年1月20日に第45代アメリカ大統領に就任する。公職を
経験せずにホワイトハウスを引き継ぐ初めての大統領とな
るため、同氏が選挙戦と比べて実際にどのような政治を行
うかは先例から判断できない。したがってトランプ氏の新
政権での閣僚人事が極めて重要となる。
経て、横ばいもしくは上昇を示しており、2008年や2012年
の大統領選翌日よりも遥かにポジティブである。ブレグ
ジット後に世界中の株式市場が4-10%下落した事と比べると
アメリカ市場は驚くほど底堅い。国債利回りは利上げを見
込んで上昇し、10年国債利回りは過去8か月で最高の2.0%近
くとなり、イールドカーブは急上昇している。
また、トランプ氏の所属する共和党も上院・下院ともに過
半数の議席を獲得した。通常、行政府のホワイトハウスと
立法府の議会の利害が一致する事で法案成立はより迅速と
なるが、今のところ先々の見通しは不透明である。なぜな
ら共和党も一枚岩でなく以前よりも2大政党主義の線引きが
曖昧になっており、依然として民主党が議会を遅らせる、
もしくは阻止する力を持っているためである。(また共和
党は議事妨害を阻止するための60議席を上院で獲得してい
ない)
トランプ新大統領が勝利宣言の中でクリントン氏に懐柔的
であったのは特筆すべきであり、同氏のメッセージはより
政治家らしく丁重で熟慮されており、感情的で時として侮
蔑的な選挙運動中のようなものではなかった。演説の中で
トランプ氏は「敵意ではなく共通点を模索する」と言及し
ている。最終的に市場はトランプ大統領がどのようなタイ
プに属するのか様子見となるが、トランプ氏の第一声は予
想された金融市場への負の影響を限定的なのもとした。
選挙前日の世論調査ではクリントン氏の勝利確率は70%以
上と報じられたが、トランプ氏の勝利によって、事前の世
論調査が大きな誤解を招く事を再考させられた。トランプ
氏のサプライズ勝利は投票者が変化を求めた結果である。
リーマンショックで傷付き、近年の経済回復から取り残さ
れた中低所得層には、変化への要望が根強く拡大していた。
その結果、これまで民主主義に期待し続けてきた、ラス
ト・ベルトと呼ばれる脱工業化が進む中西部や大西洋岸中
部のいくつかの州、中部の小さな街や地方においてトラン
プ氏は勝利した。「オバマ連合」は民主党の期待通りには
いかなかった。
市場の反応
市場ではクリントン政権成立を織り込んでいたにも関わら
ず、とても静かな反応を示した。主要指標は当初の急落を
政策と経済への影響
比較的サプライズな選挙結果であったため、今後の政策の
概要やトランプ政権の方針には不確実性が残る。共和党の
圧勝で様々な可能性が開けたが、実際にはトランプ氏は典
型的な共和党員ではなく、不安や見解の相違が共和党内に
も残っている。最終的には財政出動と規制緩和で経済的な
成果が期待できるが、外交や貿易にはリスクが考えられる。
政府支出-インフラ整備支出は両政党の大多数が支持する
分野である。議会承認を得るには、本国送金税や海外での
利益への課税と相殺される必要性がある。国防費の増強及
び防衛・公安関連予算の上限撤廃は、継続的な国防費以外
の予算削減により実施される可能性が高い。そのため選挙
翌日から航空・国防に関するセクターが最もパフォーマン
スが高く、同セクターのインデックスは4%以上の上昇を示
している。
税金-トランプ氏は選挙戦で税金の引き下げを公約してお
り、所得税の簡略化による減税、法人税率15%までの引き
下げ、本国送金税の課税免除などを主張している。ここで
も問題はトランプ氏がこれをどうやって実行するのか、そ
してその財源をどう提案するかである。より高い経済成長
への期待だけでは財政規律を緩める説得性に欠ける。
規制-金融関連の省庁だけでなく、アメリカ合衆国環境保
護庁といった金融以外の省庁にも広く規制緩和の動きが及
ぶ可能性が考えられる。これは法務関連セクターの活動を
抑制する反面、様々な製造業に恩恵を与えるものと思われ
る。
貿易と各国への影響-貿易は大統領が一元的権限を持つだ
けに不確実性の高い分野である。粗野で誇張された選挙運
動であったが、TPPやNAFTAといった既存の貿易協定を無効
にするのは非現実的であろう。もちろん今後も為替操縦国
や不公正貿易国といった主張によって関税を課す事への議
論は継続するはずである。中国やメキシコは監視リストに
入るかも知れないが、新政権によって実際にどのように貿
易関連事項が取り扱われるか、また貿易相手国がどのよう
にこれらの政策を認識し対応するかは大部分が不明である。
その他の国への影響-その他の世界的な影響としては、今
回の結果を受けて神経過敏となっているヨーロッパにおい
てさらなる不確実性が増加した事である。ポピュリズムや
保護貿易主義がさらに定着するようであれば貿易にも影響
し、さらなる価格上昇やインフレ圧力となり得る。
金融政策-トランプ氏の勝利によって当初はより不確実性
が増大し、12月に予定されていた利上げの議論も無くなる
と予想されたが、このまま市場が堅調であれば、FRBは現
在の完全雇用に近い労働市場、賃金上昇、物価の安定と
いった経済のファンダメンタルズに注力する事ができる。
FRB議長のジャネット・イエレン氏が辞任もしくは新政権
によって更迭されるかは疑問が残るが、トランプ氏の財政
計画は債務が拡大する方向であり、これはインフレや金利
上昇の要因となる。
不動産市場への影響
実際に特定の政策が具体化するまでは不動産市場への最終
的な影響は不明確なままである。金融市場はより早い反応
を示すが、既に今回のショックを克服しており、これは不
動産市場の安定性を下支えすることになるだろう。金融業
界への規制が緩和、もしくは少なくともこれ以上の強化が
なくなる事で資金の流動性が改善し、短・中期で投資活動
やパフォーマンスの向上が期待される。しかし規制緩和に
は長期的なリスクや不確実性が伴う。現在キャップレート
は低いものの、スプレッドは歴史的にも健全な水準であり、
不動産セクター全体のファンダメンタルズも正常である。
財政政策や貿易政策による一層のインフレや金利上昇は、
これに見合う成長がなければ、不動産価格に影響を与える
であろうが、JLLでは直ちに大きな変化が起こるとは考えて
いない。現在は政権移行段階であり閣僚の選定が始まった
ばかりであるため、全体的な需要としては、米国企業はし
ばらく様子見姿勢を取るであろう。規制緩和、国防費の増
加、減税は不動産需要にとってはプラス材料であるが、そ
のタイミング、程度、その他の代替政策や妥協案について
は未知数である。政策内容の詳細が明確になりこれが実施
されるまでは政治ニュースや金融市場は不安定な状況にな
る事が予想されるが、JLLでは不動産市場は堅調に推移する
と考えている。
各セクターへの影響
国防-国防関連企業にはプラス材料。大手企業の株価は4%
以上上昇している。
法務-もしクリントン&エリザベス・ウォーレン政権で
あったならこれまでにない程の新たな規制が導入されてい
ただろうが、共和党はドッド・フランク法(米金融規制改
革法)の撤廃や規制緩和を模索している。
金融-金融業全体は規制緩和によって大きな恩恵を受ける
であろう。法令順守に係る費用が軽減される事は商業銀行
や投資銀行にとって利益である。プライベートエクイティ
は税法令の改正により負の影響を受ける可能性がある。ま
たトランプ氏は投資運用者の成功報酬の見直しを選挙戦の
重要項目としていたため、ヘッジファンドやプライベート
不動産投資主体もネガティブな影響を受けかねない。
電力-金利の上昇に敏感な同セクターはマイナスの影響を
受ける可能性が高い。
エネルギー-石油・ガス関連セクターは需給バランスに
よって生産が左右されるものの、掘削や環境保護の規制が
緩和される事はプラスとなるであろう。一方で、代替エネ
ルギー向け政府補助金プログラム(例えば太陽光エネル
ギー)は将来財源不足に直面する可能性が高い。
製造業-米国内製造業にはプラス。保護主義によって海外
への業務委託は減少するだろうが、テクノロジーの進化が
単純労働者の職を奪う動きは継続するであろう。また大規
模な設備投資が進む事が考えられる。
テクノロジー-テクノロジーセクターは一長一短ある。大
企業はヒラリー氏の労働ビザ支援によって労働力を確保し
ていたが、トランプ氏の移民対策によって米国技術者の賃
金が増加する事が考えられる。反面、本国送金税の課税免
除は(一時的なものではあるが)テクノロジー企業にとっ
ては大きな利益となる。
医療-オバマケア(医療保険制度改革)の一部もしくは全
部の撤廃は医療・保険関連のセクターに不確実性をもたら
す。対照的に製薬やバイオテクノロジー企業は規制緩和や
海外利益の本国送金による恩恵を受けるであろう。
連邦政府-連邦政府内での職員の削減が進み「政府の無駄
や害を排除する」事で政府支出が削減されることが期待さ
れる。
JLL | アメリカ大統領選挙の影響| 2016年11月
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本レポートはJLLアメリカ発行のレポート「Election Impact」(2016年11月10日発行)の翻訳版です。原英語レポートは下記URLからご覧く
ださい。記述内容の正確性については原英語レポートが優先します。http://www.us.jll.com/united-states/en-us/research/7747/us-electionimpact-2016-jll
JLLについて
JLL(ニューヨーク証券取引所上場:JLL)は、不動産オーナー、テナント、投資家に対し、包括的な不動産サービスをグローバルに提
供する総合不動産サービス会社です。フォーチュン500に選出されているJLLは、世界80ヵ国、従業員約60,000名、280超拠点で展開し
ており、総売上高は60億米ドル、年間の手数料収入は約52億米ドルに上ります(2015年12月31日時点)。2015年度は、プロパティマ
ネジメント及び企業向けファシリティマネジメントにおいて、約3億7,200万㎡(約1億1,200万坪)の不動産ポートフォリオを管理し、1,380
億米ドルの取引を完了しました。JLLグループで不動産投資・運用を担当するラサール インベストメント マネジメントは、総額597億米
ドルの資産を運用しています。JLLは、ジョーンズ ラング ラサール インコーポレイテッドの企業呼称及び登録商標です。
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