●学習予定日月日／学習日月日 4-2 どんな言動がセクハラになるのか Point Point ● セクハラは、その被害者がどう受け止めたかを基準にして、理解していくことが大切です。 ● 何がセクハラになるのかという基準は、日本の女性差別の実状を十分に考慮して設ける必要があります。 1 被害者の声これまでも幾度か説明してきたように、セクハラは一つひとつの言動を独立させて問題にするわけではありません。相手との人間関係を含めて、最終的には相手がどのように受け止めたかが問題になります。そこで、ここでは、セクハラの被害者がどのように感じているのか、被害者の立場から考えてみることにします。被害者の立場で考えてみるということは、言葉ではともかく、実際にはなかなかむずかしいものです。そんなむずかしいテ−マに、適切なヒントを与えてくれる調査があります。それは、神奈川県立かながわ女性＊男女共同社会に関するアンケート調査この調査は、1995年11 月、神奈川県内に在住の満 18歳以上の男女を対象に、郵送によって実施されました。センターが実施した「男女共同社会に関するアンケート調査」です。このアンケ−ト結果によると、最も不快な経験は図表 4-1 のようになっています。 50 Ｃ 2007 JMAM ○ 第４章 ● セクシュアル・ハラスメントとは？図表4-1／最も不快な経験 0％ 50％ ①言葉 100％ 35.8％ ②からだへの接触・暴力行為 ③酒席などでのサ−ビスの強要 ④交際の強要 32.1％ 12.2％ 10.4％以下に、その経験での「上司からされた場合」のものをピックアップして、被害者が「そのときに感じたこと」をあげておきます。 Case1 上司からの「言葉」によるセクハラにあったときに感じたこと・仕事を続けながら子どもを産むことは、周囲にいろいろ迷惑をかけることはわかっていたが、それを上司から言われてしまうと、返す言葉もなく、非常にショックだった。・言ったほうとしたら、それくらいのことは気にしないだろうという軽い気持ちからだとは思うが、言われた本人としては肉体的なこと（太っているとか胸が大きいとか）を言われたのは、非常にショックだった。相手を蹴飛ばしたくなった。でも上司だからがまんするしかなかった。・そのころは新入社員だったので納得がいかなかったけど、男の人の考えはそういうものだとあきらめた。また自分がそうでない（かわいくない、愛嬌がない、色っぽくない、明るく＊仕事と結婚・出産の両立厚生労働省の「総合職女性の就業実態調査」によれば、約80％の総合職女性が自分の能力を発揮できていると感じており、約60％が現在の仕事に満足し、約70 ％が継続を希望しています。ただし、継続希望者の約50％の女性が「結婚・出産と両立できる制度が充実すれば」という希望的条件を訴えています。ない）のがわかっているだけに、自信をなくした。 Case2 上司からの「からだへの接触・暴力行為」にあったときに感じたこと・とても不快だった。社内でも彼の行動は黙認されており、彼の上司も注意をしなかった。また、女性職員は喜んでいると信じ込まれていた。なるべく近寄らないようにしたが、社内ということもあり、女性職員も過剰に反応することは避けた。・酔った勢いで、というのは言い訳にならないと思う。はっきりいって、痴漢行為は犯罪なんだぞ！と心の中では叫んでいたが、驚いて声にならなかった。早々にその場から去ったが、殴って、蹴っ飛ばしてやればよかったと、後から考えると悔しくて眠れなかった。・口もききたくないと思ったが、上司なのでどのように対応してよいのか迷った。・抱きつかれた直後は、あっけにとられて何もできなかったが、時間がたつにつれて頭にきた。自分にも腹がたった。 51 Ｃ 2007 JMAM ○ 図表4-3／セクシュアル・ハラスメントをとりまくグレーゾーンマナー・モラルの欠落固定的な男女役割意識女性の働く意欲に気づかない職場の性別役割意識いわゆる“職場の華” 男性は主要な仕事で女性はその補助酒席でのお酌の依頼や席順の指定デュエットに誘うセクシュアル・ハラスメント女性に仕事では期待をしていないお茶くみは女性女は女らしくあるべき仕事は女性にはできない女性は使えない 3 セクハラになるとき、ならないとき同じ言動でもセクハラになるときと、ならないときとがあります。セクハラがやってはいけないことの「べからず集」ではない以上、同じ行為でも、相手によっても、時と場合によっても、なるときとならないときがあるのは当然なのですが、そのために、「だから、セクハラの理解はむずかしい」と言われるのも事実です。＊家宅侵入罪＊刑法第130条（住居侵入等）正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。そこで、この「なるとき、ならないとき」を理解するため、家宅侵入罪との比較で考えてみることにします。ご存じのように、家宅侵入罪というのは、他人の家に無断で入った場合に罰せられるという罪です。たしかに、他人の家に無断で入ることは悪いことであり、罰せられるべき行為であることには違いありません。しかし、どんなときでも罰せられるわけではなく、罰せられる場合と罰せられない場合とがあります。この違いと、セクハラになるとき、ならないときを重ね合わせて考えてみようということです。図表 4-4 は、隣接するＡ宅とＢ宅との関係を示しています。とても親しいつきあいをしているので、裏木戸をつくり、互いに行き来している関係を矢印で示してみました。この両者は、相互に出入りを了解した関係で、たとえば留守中に雨が降ってくれば、相手の家の庭に入って布団や洗濯物を取り込んであげたり、夕食のおかずを融通しあったりという関係にあります。このような関 56 Ｃ 2007 JMAM ○ 第４章 ● セクシュアル・ハラスメントとは？係であれば、そこには家宅侵入罪の成り立つ要素は存在しないでしょう。図表4-4／家宅侵入罪不成立のイメージ裏木戸Ａ宅玄関門扉行き来を了解Ｂ宅玄関門扉表通りその理由は、あらかじめ裏木戸をつくっていることなどから、相互の了解があると判断されるからです。セクハラでも同様に、この「了解」ということがキーワードになります。家宅侵入罪と同じように、両者の間に「了解」があるかないかということが、セクハラになるかならないのかの判断の根拠になるということです。セクハラは、相手の人格や人権に勝手に踏み込んでしまうことなのですから、相手がそのことを受け入れているかどうかが、大きなポイントになるわけです。お互いの人間関係から、受け入れられるものであれば許されるし、とても受け入れがたいものであればセクハラになるという理屈です。＊了解の有無に関して宅地の場合は、境界線がはっきりしているので、拒否できる場所は明確ですが、人の場合は、境界線がはっきりしておらず、拒否する境界に迷うところです。ちなみに、ストーキング行為において有罪となったケースでは、「被害者から半径200ｍ以内に近づかない」といった判決が出されています。ここで、セクハラの俗説と家宅侵入罪とについて対比してみます。図表4-5／セクハラの俗説と家宅侵入罪の対比セクハラの俗説家宅侵入罪 ⇔ 家主が判断する（了解が必要） ② 「いやよいやよ」も「いい」のうち ⇔ 家主が拒否しているのに入れば罪になる ⇔ 酔っていようといまいと他人の家に入れば罪になるそんなことを言い立てると人間 ⇔ ④ 関係がギスギスするたとえ隣人でも「家に入っては困る」と言って当然 ⇔ 親しい人であれば許されることもある ① 女性が勝手に判断する ③ 酔ってのうえの無礼講 ⑤ いい男は許されることもある 57 Ｃ 2007 JMAM ○