ってきた改善や革新手法の効果、効率をより高めるためのものです。 4 基本理念と重視する考え方 日本経営品質賞(以下ジャパン・クオリティ・アワードの略、JQAと表示) およびそのアセスメント基準には、全体を貫く基本理念と重視する考え方があ ります。 JQAの基本理念(基本的な価値、態度、信念、行動基準)は、 「顧客本位」 「独自能力」「社員重視」「社会との調和」の4要素から構成されています。 図表1-1 JQAの基本理念 顧 客 本 位 社会との調和 独 自 能 力 社 員 重 視 JQAでは、意思決定の基礎を事実前提ではなく、「価値前提」に置いていま す。事実前提は「事実に基づく決定」ということですが、価値前提はその事実 に優先順位をつける、重要性を明らかにするものです。事実前提型の組織はそ れによる課題解決に忙しく、目的を見失いがちです。これに対して価値前提型 の組織は目的の実現をめざしますから、いつもどのような価値を創造するのか という観点から意思決定をします。JQAの基本理念は価値前提なのです。 1)基本理念 ① 顧客本位 組織の目的を売上、利益、シェアではなく、顧客価値の創造におきます。売 上や利益は本来手段にすぎないものですが、ともすればそれが目的であるかの ように錯覚されてしまいます。JQAでは、顧客価値の創造・実現を組織の目 的と位置づけます。 ② 独自能力 業界常識の枠内で同業他社と似た経営を行うのではなく、同業他社とは異な 4 C 2007 JMAM ○ る見方、考え方、方法による価値実現のしかたを評価します。 ③ 社員重視 「知識」という経営資源は人に属します。社員が独創性を発揮し、自由に対 話することによって「知識」は新たな価値を生み出します。社員を知的創造者 と位置づけて、彼らの意欲・能力を最大限活かすような柔軟な組織を評価しま す。 ④ 社会との調和 組織内では価値の多様化が必要ですが、それは社会が認める価値(社会価値) と矛盾するものであってはなりません。ともすれば組織内の価値観が偏ってし まい、それが社会価値と摩擦を起こすことになります。社会価値を積極的に組 織内に取り込み、いつも社会と調和することをめざしている組織を評価します。 2)重視する考え方 基本理念に基づき、その時代の経営環境や経営上でもっとも重要な関心事や 経営課題に対応するための重要な考え方を示したものが「重視する考え方」で、 つぎに示す7つの要素から成り立っています。 <重視する考え方> ① 顧客から見たクオリティ ② リーダーシップ ③ プロセス志向 ④ 対話による「知」の創造 ⑤ スピード ⑥ パートナーシップ ⑦ フェアネス この「重視する考え方」は、一部のカテゴリーやアセスメント項目だけと関 係するのではなく、すべてのカテゴリーと密接に関わりあっています。 ① 顧客から見たクオリティ 品質という日本語を使わずにあえてクオリティというのには訳があります。 一般的に日本語の品質という言葉は“製品の”質というニュアンスで使用され ることが多いようです。品質管理というと、工場の現場で生産業務に従事する 5 C 2007 JMAM ○ 学習予定日 月 日 4・1 1 学習日 月 日 プロセス思考 プロセスとは 1)全体最適 英国ウェールズにあるカーディフ大学ビジネススクール教授のダニエル・ジ ョーンズは、プロセスの説明をする際に、英国のヘレフォードシャーから地中 海のクレタ島へ家族で旅をしたときのことをよく話します。 旅行先 教授は、自宅から空港までの移動、クレタ島までの飛行機での移動、クレタ 島の貸別荘までの移動、貸別荘での滞在のすべてをパッケージにした、まった く面倒のない旅をしたかったそうです。しかし、実際には、彼は19もの会社が 提供している商品を買って、それを自分でつなぎ合わせなければなりませんで した。 航空券と別荘の予約、ヘレフォードシャーからロンドンのガトウィック空港 130 C 2007 JMAM ○ までの長い移動(彼の自宅に近いバーミンガム空港からクレタ島への直行便は ありません)のためのタクシー、両方の空港での地上係員、両空港での入出 国・税関職員(両方の空港で同じ書類をチェックします)、両空港の職員(彼 らは飛行機の待ち時間が長いほど空港売店の売上が増えるので喜びます)、航 空会社、航空管制職員、ガトウィック空港で外貨交換を行う銀行へ行く、クレ タ島で別荘まで行くバス、そして貸別荘そのものです。 ジョーンズ一家がこの旅全体を体験するために必要としたプロセスは図表 4-1のようになります。 図表4-1 ジョーンズ一家が旅で必要としたプロセス 旅行会社に電話して予約する 郵送された航空券を受け取る 飛行機の搭乗行列で待つ タクシー会社に電話して予約する 飛行機の中で出発を待つ 荷物をタクシーに積み込む 滑走路まで飛行機が移動 旅行会社に電話して予約する クレタ島まで飛ぶ(3時間の飛行) 空港までタクシーで移動 (3時間15分) し、航空会社の規定に従い、出発2時 間前に到着する 飛行機の中で待つ(ゲートまでの移動 と降機開始まで) 荷物受取場で待つ 荷物をタクシーから降ろす 入国審査の行列で待つ 両替所に並んで待つ(英国・ポンドか らギリシャ・ドラクマに交換) フライトのチェックインの行列で待つ 荷物検査の行列で待つ 出国手続きの行列で待つ 出発ラウンジで待つ 関税検査の行列で待つ バスに荷物を積み込む バスの中で待つ バスで貸別荘まで移動(45分) 荷物をバスから降ろす 貸別荘のチェックインを待つ これをプロセス分析するとどうなるでしょうか。 131 C 2007 JMAM ○
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