クター-“スリパー”を中心として-中野衛一 溶 原 性ファ ー ジDNAは, 宿 主 染 色 体 に 組 み 込 ま れ て 安 定 に 存 在 しう る。 こ の性 質 を 利 用 して, ターゲ ッ ト遺 伝 子 を 安 定 に 保 存 で き る ベ ク タ ー を 開 発 した 。 溶 原 性7ア ー ジDNA はま た, 特 定 の 条 件 下 で は, 宿 主 染 色 体 か ら切 り出 され, Database Center for Life Science Online Service す る。 こ の し くみ を利 用 して, 短 時 間 に100∼1,000倍 に増 殖 目的 の 遺 伝 子 産 物 を き わ め て 効 率 よ く作 らせ る こ と が で き る。 は じめ に ミ ド系 ベ ク ター に つ い て, そ の概 略 を紹 介 す る。I 大 腸 菌 を宿 主 とす るベ ク ター は, プ ラ ス ミ ド由来 の も の^<1)>と λフ ァー ジ 由来 の も の^<2∼4)>と が ほ とん ど 同時 期 に開 発 され, 1973∼1974年 に発 表 され て い る。 . ス リー パ ー ベ ク タ ー そ の後, 分 子 量 が 小 さ く, 取 り扱 い が容 易 な プ ラス ミ ド ベ クタ ーが 通 常 の組 換 えDNA実 験 に 広 く用 い られ , 一 ス リー パ ー ベ クタ ー は 初 期 の λ系 ベ クタ ー^<2∼4)>と 異な 方, フ ァー ジ系 ベ クタ ーは 比 較 的 大 きな サ イ ズ のDNA り, λDNA中 央 部 に存 在 す る宿 主 染 色 体 へ の 組 み 込 み で も安 定 に保 持 で き る こ とな どか ら, 遺 伝 子 バ ン クを作 に必 要 な遺 伝 子 att-int-xis (図1) る際 に よ く用 い られ る よ うに な った 。 現在, 遺 伝 子 の解 た め 宿 主 染 色 体 に 組 み 込 まれ て 細 胞 内に 安 定 して存 在 す を も っ て お り, そ の 析 の面 か らは, よ り大 きな サ イ ズを よ り安 定 に ク ロー ニ る こ とが で き る。 図2に 示 した よ うに, 目的 とす る外 来 ング で き るベ ク タ ーが 求 め られ, ま た, 酵 素 な ど遺 伝 子 遺 伝 子 は, フ ァー ジ の コー ト蛋 白質構 造 遺 伝 子 の部 分 に 産 物 の工 業 生 産 の 面 か らは, よ り生 産能 が高 く, かつ, 組 み 込 め る よ うに な って お り, そ れ に よ り組 換 え 体 の安 よ り安 定 な 宿 主-ベ ク ター系 が 求 め られ て い る よ うに 思 全 性 (フ ァー ジ粒 子 が で きな い た め) と生 産 性 (不 要 な え る。 蛋 白質 を作 らな い た め) を高 め て い る。 さ らに, コ ー ト 筆 者 らは, 溶 原性 フ ァー ジ λが 大 腸 菌 に溶 原 化 され た 蛋 白質 遺 伝 子 の強 力 な プ ロモ ー ターP'Rを 利 用 して, 遺 状 態 (プ ロ フ ァー ジ の状 態) で は 非 常 に安 定 で あ る こ 伝 子 産 物 の高 度 な 生 産 が 可能 で あ る。 宿 主 染 色 体 に 組 み と, お よび, 自己 増 殖 を 開 始 す る と100∼1,000コ 込 まれ る とcIリ 細 胞 に も達す る こ とに注 目 し, 安 定 性 に優 れ, ピー/ プ レ ッサ ー のみ が 作 られ, そ れ に よ り 自己 複 製 が 抑 え られ る。cIに しか も 目 は 温 度 感 受 性 変 異cI_<857>^<6)> を導 入 した の で, 自己 増 殖 を誘 発 す る に は単 に培 養 温 度 的 とす る遺 伝 子 産 物 の 生 産 能 の高 い 宿 主-ベ クタ ー系 を 作 るべ く, 1975年 こ ろ か ら研 究 を行 な っ て き た 。 そ し を上 げ て リプ レ ッサ ー を失 活 させ るだ け で よい。 自己増 て, 溶 原 化 能 を保 持 した 一 連 のベ クタ ー (“ス リーパ ー” 殖 開 始 後 の宿 主 の溶 菌 を抑 え, コ ピー数 を500∼1,000/ ベ クタ ー^<5)>) を 開発 した。 細 胞 ま で高 め るた め, 溶 菌 関 連 遺 伝 子SにS_7変 本 稿 で は, ス リーパ ーベ ク タ ー を中 心 と して, 宿 主 染 色体 に組 み 込 ん で安 定 化 で き る フ ァ ー ジ系 お よび プ ラス Eiichi Nakano, Noda, Noda キ ッ コ ー マン (株) 研 究 本 部 City, Chiba 278, (〒278野 異^<7)>を 導 入 した 。 田 市 野 田399) “ス リーパ ー” の 由来 は, [Research & Development 通常は宿主め 染色体 り中に Division, Kikkoman Corp., Japan] Lysogenic Phage Vectors-“Sleeper” and its Relatives Key 【フ wordァ ー ジ ベ ク タ ー 】 【ス リ ー パ ー 】 【温 度 感 受 性 】 【λ フ ァ ー ジ 】 1133 34 蛋 白 質 図1. 核 酸 酵 素 Vol. 32 No. 9 (1987) λ フ ァ ー ジ の 遺 伝 子 地 図 Database Center for Life Science Online Service 遺 伝 子 は 重 要 な もの だ け を 示 した 。P'Rは 溶 菌 お よび コー ト蛋 白質 遺 伝 子 の プ ロ モ ー タ ーで , Q遺 伝 子 産 物 に よ り活 性 化 さ れ る。 λDNAの 左 右 両 端 は12塩 基 の互 い に相 補 的 配 列 を もっ1本 鎖 で, 環 状 や 直 列 構 造 を と りや す くな っ てい る。 図2.ス リ ー パ ー ベ ク タ ー 概 念 図 図4. slp1ベ 白抜 き部 分 は φ80由 部 位 を 示す 。 1. slp ク タ ー 来 で あ る。 矢 印 はEcoRI切 断 1 図3にslp1作 製 の概 略 を示 した 。Murray に よ り, λDNA上 の不 要 な. Eco RI部 ら の方 法^<2)> 位 を消 去 した の ち に, φ80フ ァ ー ジ と掛 け 合 わ せ て, コー ト蛋 白質 遺 伝 子 部 分 にEco RI部 合 わ せ る と, φ80の 位 を 導 入 した 。λ と φ80を 単 に掛 け αtt^<*1>を もつslp2タ 高 頻 度 で 出 現 す るの で, slp1を を 使 い, φ80のatt右 図3. slp1作 製 の 概 略 イ プ (図4) が 作 る と きに は φ80ptrp 側 で の 組 換 え を 抑 え て 行 な った^<5)>。 図4に 示 した ま う に, slp1型 ベ クタ ー はDNA分 子 左 側 の コ ー ト蛋 白質 遺 伝 子 部 分 が φ80由 来 で, そ の 隠 れ て い て, 遺 伝 子 産 物 を作 らな い こ とに よ る。 最 初 の 部 分 に数 カ所 のEcoRI部 ベ ク タ ーは1976年 を もつ の で, 大 腸 菌 染 色 体17分 に完 成 し, そ の後, 種 々 の改 良 を加 位 を もつ 。slp15は え て 現 在 に至 った 。 主 要 な も の を タ イ プ別 に以 下 で紹 介 が, slp2Sは す る。 み 込 まれ る。 両 者 を 同一 宿 主 に溶 原 化 す る こ とも可 能 で あ る。slp1Sで *1 φ80のattを λのatt の位 置 に組 み 込 まれ る はKpnIやSacIも も って い るの で27分 に組 コ ー ト部 分 に のみ 宿主染色体に組み込 まれ る際に, この部位で染色体 と組換えが行なわれ る。宿主染色体上の特定の部位 とホモロ ジーを もつ。 1134 溶 原 性 ファ ー ジ ベ ク タ ー 35 図5. Slp10ベ クタ ー λcI_<857> plac 5 S_7は 母 体 と な った フ ァ ー ジ で あ る 。矢 印 は Database Center for Life Science Online Service Eco RI部 位 を示 す 。 切 断 部 位 を もつ の で, Eco RIと 2Sに 同 様 に使 用 で き る (slp つ い て は未 確 認)。 2. slp 10 白質 (No.20) slp 10は 他 の ス リーパ ー と 異 な り, 溶 菌 関 連 遺 伝 子 (S, R, Rz) 図6. slp 白 抜 き 部 分 は φ80由 EcoRI部 位を示す 。 お よび コー ト蛋 白質 遺 伝 子 (Nu1-J) ロモ ー タ ーP'Rの のプ 直 後 に 唯 一 の 利 用 可 能 な制 限 酵 素 部 位 を もっ て い る (図5, 図1)。 こ の部 位 に外 来 遺 伝 子 を 500ベ クタ ー 来 で あ る。 指 定 の な い 矢 印 は の 構 造 遺 伝 子 の中 に 存 在 す る^<10)>の で, そ の部 位 にcDNAな どを挿 入 して融 合 蛋 白質 を 作 らせ る, いわ ゆ る発 現 ベ クタ ー と して利 用 可能 で あ ろ う。 図6に 示 した よ う に, 3φ500Sは 同 じで あ るが, Eco RI部 機 能 的に は1Sと 位 を整 理 して 使 い や す く しで 組 み込 ん で も コー ト蛋 白質 遺 伝 子 は損 傷 を受 け な い の あ る。 λcI_<857>S_7を 母 体 と し, 左 端 付 近 は301Sと で, 組 換 え体 は フ ァ ー ジ粒 子 と して回 収 で き る。 で, 中 央 のEco RI部 位 か ら右 は1Sと 左 の2つ のEco RI部 位 (図3) 間 slp10 Sは λcI_<857>plac 5S_7^<8)>を 母 体 と し, attのEvo RI部 位 間 のlacを RI部 位 の み を残 して, 他 は消 去 した も の で あ る。slp10 WESは, WとEに 含 む 部 分 を除 去 し, P'R直 後 のEco 変 異 を入 れ て, supEま た はsupFを のDNAは slp501Sは, 5005と11Sを 左 部 分 が500Sで, 右 が11S由 用 い て作 製 した も の で, 来 で あ る。XbaI部 外 来遺 伝 子 を 導 入 した あ と, EcoRIで で あ る。 み込 む こ とが 可 能 で あ る。501S⊿Rは500Sと11S⊿R slp11Sは10SめEco DNAを RI部 位 に合 成DNAを 位 に変 え た も の で, Eco RI部 挿入 位 を もつ 組 み 込 む ときな どに 使 う。 5功10S⊿Rと11S⊿Rは, 2ヵ 所 のAat 除 去 して あ る。 もた な い株 で は フ ァ ー ジ粒 子 を 作 れ な い よ うに した も の し てXbaI部 同 じ 同 じで あ る。att を用 い て 作製 した 。501S-Tcは 位に 別 の遺 伝 子 を組 遺 伝 子 バ ン ク作 製 の と きな どに 便利 な よ うに, 501SのXbaI部 位 にpBR322 の テ トラサ イ ク リン耐 性 遺 伝 子 を 導 入 した も の で あ る。 溶 菌 遺 伝 子Rに 存 在 す る II部 位 間 の 配列^<9)>を 除 去 してR^-と した も ので あ る。S_7のみ で は, 条 件 に よっ て は溶 菌 す る こ と も あ るが, S_7⊿Rで はそ の よ うな場 合 で も溶 菌 は ま った く起 こ らな か った。 そ の降 に, プ ロモ ー タ ーをP_<trp>に変 え て あ る の で, 5015-Tcの 溶 原 菌 は ト リプ トフ ァ ンの な い 培 地 で のみ 1.5μg/ml程 度 の弱 い耐 性 を示 す 。 slp505Sは501Sの で, XbaI部 位 とEco 左端 のEco RI部 RI部 位 のな い 構 造 位 に 外 来遺 伝 子 を 組 み 込 ん だ の ち に (こ こ ま では フ ァー ジ粒 子 が で き る), Kbn I 3. slp500 slp301S また はSacIで (図6) は10Sを 母 体 と し, 右 端 のEco RI 部位 を消 去 して, 左 端 に φ80由 来 のRI部 たも の で あ る。Eco RI部 さ らに別 の遺 伝 子 を組 み 込 む こ とが 可 能 であ る。 位を導入 し 位 は φ80の メ ジ ャ ー コ ー ト蛋 1135 36 蛋 白 質 表1. 核 ス リーパ ーベ ク タ ー のDNA収 酸 酵 素 Vol. 32 No. 9 菌 はT-Y保 容力 (1987) 存 培 地^<*2>に 植 え, 30℃ で 培 養 した のち に, キ ャ ップ を 固 形 パ ラフ ィン で密 封 し, 室 温 で保 存 して お く と, 少 な く とも数 年 間 は コ ロ ニー の 選 択 をせ ず に そ の ま ま使 用 で き る。 II. ス リー パ ー ベ ク タ ー の 利 用 図7に ス リー パ ー の使 用 法 を示 した 。 ベ クタ ー を利 用 可 能 な 制 限酵 素 で 切 断 し, そ の ま まか あ るい は グ リセ リ ン密 度 勾 配 遠 心 法 に よ り 左 右両 ア ー ム を精 製 し た の ち に, 目的 の遺 伝 子 を もつDNA断 片 (同 じ制 限酵 素 で 切 断 した も の) を 加 え てDNAリ ガ ーゼ 処 理 し, 組 換 え体DNAを 作 る。 次 い で, in vitro パ ッケ ー ジ法^<12,13)> に よ り λフ ァー ジ の コ ー トに パ ッ ケー ジ して フ ァー ジ粒 Database Center for Life Science Online Service 子 と し, 宿 主 大 腸 菌 に感 染 させ, 目的 とす る溶 原菌 を分 4. ス リー パ ー ベ ク タ ー のDNA収 容力 離 す る。 分 離 の際, 組 換 え 体 に 選択 マ ー カー が つ い て い ス リー パ ー ベ ク タ ーは λフ ァ ー ジ の コ ー ト蛋 白質 に パ ッ ケ ー ジ して 使 用 す る の で, 組 み 込 め るDNAの な い場 合 に は, λcb2を 感 染 させ て生 き残 っ た株 (溶 原菌 と λ抵 抗 性 変 異 株 を 含 む) の 中 か ら, 温度 感 受 性 を示 す サイ ズ に 上 限 と下 限 とが あ る。 各 ベ クタ ー の容 量 を 表1に 示 し た が, 0∼27kbの 範 囲 が 可 能 で あ る。nin5欠 を 導 入 す る と30kbま も の (=溶 原 菌) を 分 離 す る。 失変 異^<11)> で広 が るが, nin5株 組 換 え 体 溶 原 菌 は, 32℃ で培 養 す る と, 基 本 的 に は 目 的 とす る遺 伝 子 産 物 を 作 らな い (外 来遺 伝 子 が 大腸 菌 内 を作 って み た とこ ろ, 遺 伝 子 産 物 の生 産 効 率 が や や 低 下 した ので, で制 御 を受 け ない プ ロモ ー タ ーを も って い る場 合 に は 多 使 っ て い な い。 少 作 るか も しれ な い)。 そ のた め, 溶 原 菌 の32℃ 育 速 度 は宿 主 大 腸 菌 とま った く変 わ らな い。42℃ 5. 安 定 性 分 間 培 養 した の ち に, 37℃ ス リーパ ーベ クタ ー お よび そ の組 換 え体 は, 大 腸 菌 の す る と, 組 換 え 体DNAが *2 1136 T-Y保 存 培 地 : Tryptone 0.5%, ス 酵 母 エ キ ス リ ー パ ー (Difco) 0.25%, で15 (任意 の温 度 で よい) で培 養 宿 主 染 色 体 か ら切 り出 され て, 自己 増 殖 す る。kil 遺 伝 子 の働 き に よ り分 裂 が 抑 え 染 色 体 に組 み 込 ん だ状 態 で半 永 久 的 に保 存 で き る。 溶 原 図7. での 生 ベ ク タ ー の 使 Nacl 0.25%, 用 法 寒 天0.6%; 2ml/4mlバ イ アル 。 溶 原 性 フ ァ ー ジ ベ ク タ ー 37 ら れ るの で, 菌 体 は フ ィ ラ メ ン ト状 とな り^<14)>, そ の 中 で 組 換 え 体DNAは, D NAが 最初 は 閉 環 状 で, そ の後 は 直 鎖 直 列 に つ な が った形 で コ ピー数 を急 速 に増 加 さ せ る (rolling circiereplication^<15)>)。 最 終 的 な コ ピー数 は 500∼1,000/細 ーP'Rと 胞 とな り^<7)>, 加 え て, フ ァー ジ プ ロモ ー タ 外 来 遺 伝 子 上 の プ ロモ ー タ ー の働 き とに よ り , 目的 の遺 伝 子 産 物 が 著 量 蓄 積 され る。 この状 態 の菌 体 か らDNAを 抽 出 す る と, 大 部 分 が 組 換 え体DNAな で, そ の ま まDNA分 の 析 を行 な った り, in vitro パ ッ ケ ー ジ法 に よ りフ ァー ジ粒 子 と した のち に 原 化 で き る。 また, ⊿R株 図8. , 他 の宿 主 へ 溶 以 外 で はR遺 伝 子 産 物 (溶菌 酵 素) が つ くられ て い る の で, 適 当 な 条 件 を 与 え れ ば, 大 腸 菌1100 (slp1S-thr11) に よ る ア ス パル トキ ナ ー ゼI-ホ モ セ リン脱 水 素 酵 素I (thr A産 物) と ホ モ セ リン キ ナ ーゼ (thr B産 物) の 生 産^<18)> 上 は 組 換 え 体DNAの 構 造 で あ る。 下 は 組 換 え 体 に よ っ て 生 産 され た 蛋 白質 のSDSポ リア ク リル ア ミ ドゲル 電 気 泳 動 を示す。 す み やか に溶 菌 させ る こ とが 可 能 で あ る。 以下 で は, ス リー パ ーベ クタ ー の若 干 の利 用 例 を紹 介 Database Center for Life Science Online Service し, あわ せ て 今後 の可 能 性 につ い て述 べ る。 1. 熱 誘 導 後 の 培養 時 間 酵 素 生 産 大腸 菌trpオ ペ ロ ン^<16)>を もつ21kbのEcoRI断 slp1Sに組 み込 み, 大 腸 菌1100⊿trpに 片を 溶 原 化 した 。 表 2は 組 換 え 体 に よ る ト リプ トフ ァ ン合 成 酵 素 の 生産 を 示 して い る。 熱 誘 導 を行 なわ な か っ た対 照 と比較 す る と, 生 産 量 は 約3,000倍 上 昇 した^<5)>。 熱 誘 導 後, ト リプ トフ ァ ン合 成 系 の 人工 誘 導 剤 で あ るイ ン ドー ル 酢酸 を 添 加 し て も, 合 成 量 は増 加 しな か った。 この こ とか ら, 熱 誘 導 後 の コ ピ ー数 の増 加 は, trpリ プ レ ッサ ーの 影 響 を ま っ た く受 け ない ほ ど十 分 であ った と推 定 され る。 図9. 大 腸 菌 thrA, B遺 伝 子^<17)>を 含 む4.7kbの 片 を2個 直 列 にslp1Sに 導 入 し, 1100 Eco RI断 (slp1S-thr11) を 作 製 した 。 プ ラ ス ミ ドの系 で は 発 現 の 上 昇 が あ ま り見 られ な い と報 告 され てい る^<17)>に もか か わ らず, ーでは , 熱 誘 導 後, 著 量 のthrA, が 見 ら れ た (図8)。 thr A産 素I) B遺 は 全 蛋 白質 の20%を ンキ ナ ー ゼ) は7%ぐ 大 腸 菌glpK遺 slp 1Sに4個 伝 子 産 物 の蓄 積 モ セ リン脱 水 素酵 占め, thrB産 GHF54に 熱 誘 導 後37℃ で培 養 し, 全 可 溶 性 蛋 白質 をSDSポ リア ク リル ア ミ ドゲル 電 気 泳 動 に よ り分 析 した 。 矢 印 は グ リセ ロ キ ナ ー ゼ の位 置 を 示 す 。 ス リー パ デ ン シ ト メー タ ー測 定値 よ り, 物 (ア スパ ル トキ ナ ーゼI-ホ 大 腸菌1100glpK (sko 1S-glpK) よる グ リセ ロキ ナ ー ゼ の生 産^<19)> 物 (ホ モ セ リ ら い と推 定 され る^<18)>。 伝 子 を もつ2.7kbのEco RI断 片 を 直 列 に 導 入 し, 溶 原 菌1100slp1S-glp K) GHF54を 作 製 し た 。 図9に 示 した よ うに, 熱 誘 導 後 に 生 産 され る グ リセ ロ キ ナ ー ゼ は, 全 可 溶 性 蛋 白質 の 40%に も達 した^<19)>。 大 腸 菌 以 外 の 細 菌 由来 の酵 素 につ い て も, い くつ か 行 な い, 同 程 度 の 生 産 量 が 得 られ て い る。 生 産 され た酵 素 は す べ て可 溶 性 画 分 に あ り, 集 菌 の の ち フ ァ ー ジ由 来 の 溶 菌 酵 素 で 自己 消 化 して容 易 に 取 りだ せ る。 ミニ ジ ャ ー フ ァ ー メ ンタ ー を用 い た培 養 で は, 1∼2g/lの 表2. 1100⊿trp (slp1S-trp) に よ る ト リ プ トフ ァン 合 成 酵 素 の 生 産^<5)> 酵素生産 が 認 め られ て い る。 現 在 ま で の結 果 か ら, ス リーパ ーの 系 で 最 大 の酵 素 生 産 量 を得 る には, (1) a) 37℃, 20分 間 に1μmolの を 消 失 させ る 活 性 を1ユ イン ドー ル ニ ッ トと した。 目的 の遺 伝 子 に 大 腸 菌 で働 くプ 旨モ ー タ ーが 付 い て い る こ と (な い 場 合 には 適 当 な プ ロモ ー タ ー を 付 け る) 1137 38 蛋 白 質 (2) そ のDNA断 核 酸 酵 素 Vol. 32 No. 9 (1987) 片 を 直 列 に ス リー パ ー ベ クタ ー 生 産 した (表4)^<20)>。 現在, gshIとgshIIを そ の際 に 転 写 の 方 向 が フ ァー ジ プ ロモ ー タ ー 最 大 とな る菌 株 の作 製 を行 な っ て い る。 に導 入 す る こ と (3) 種 々の 比 率 で 同一 ベ クタ ー に組 み 込 ん で, グ ル タ チ オ ン の合 成 量 が P'Rと 同 じで あ る こ と が 必 要 と考 え て い る。 と くに (3) は重 要 で あ り, thr 遺 伝 子 の 場 合 に はP'Rと 逆 方 向 につ な ぐ と, 生 産 量 は1/ 10に 低 下 した 。(1) の プ ロモ ー タ ー は通 常 は リプ レ ッ 3. 遺伝子 バンク ス リーパ ーベ クタ ーは 染 色 体 に組 み込 まれ た 状態 で は 1コ ピーな の で, 繰 り返 し配 列 を含 む な ど不 安 定 な 構 造 シ ョン のか か っ て い る も のが 望 ま しい。 染 色 体 に組 み 込 のDNAや, 遺 伝 子 産 物 が 宿 主 に 悪 影 響 を 与 え る よ うな まれ て い る状 態 で は 目的 の遺 伝 子 産 物 が 作 ら れ な い の 遺 伝 子 の クロ ー ニ ン グ に有 効 と考 え ら れ る。501S-Tc で, 宿 主 に対 す る負 担 が ま った くな く, 一 方, 熱 誘 導 後 の よ うに薬 剤 耐 性 マ ー カ ー のつ いた もの が利 用 可 能 で あ に は コ ピ ー数 が リプ レ ッサ ー数 を上 回 る こ とに よ り, 自 ろ う。 動 的 に リプ レ ッシ ョ ンが 解 除 され るか ら で あ る。 III. 2. ス リーパ ーベ クタ ー を 用 い る と27kbま Database Center for Life Science Online Service 類 縁 の フ ァー ジベ ク タ ー バ イオ リア ク ター 伝 子 を 安 定 に 保 持 で き る (slp1Sと2Sと と, 50kbも での 外来遺 を同 時 に使 う 可 能 で あ ろ う)。そ のた め, 複 数 の 酵 素 を 必 1. λgf4, λgt11 λgt4は λcI_<857>plac5nin5の右 側3ヵ 所 のEco RI部 位 を消 去 し, 中 央 部 分2ヵ 所 の み を 残 した も の で あ る 要 とす るバ イ オ リア クタ ー の作 製 に 最 適 な 宿 主-ベ ク タ (図10)。 ー系 で あ る と考 え 溶 原 化 で き る。gt4に 大 腸 菌DNAリ , グ ル タ チ オ ン合 成 系 につ い て研 究 を グル タ チ オ ンは Glu, Cys お よびGlyか プ チ ドで, そ の 合 成 にはGSBI とGSHII らな る ト リペ (γ-グル タ ミル-L-シ ス (グ ル タ チ オ ン合 成 酵 素) を必 要 とす る。gsh II遺 伝 子1コ ピー をslp10Sに 込 ん で酵 素 の 生 産 量 を 調 べ た とこ ろ, gshIIを コ ピー もつpGSB402プ 産 が み られ た (表3)。 Tcに4コ ガー ゼ遺 伝 子 を 導 入 した と ころ, 溶 原 菌 は 熱誘 導 の のち, 非 溶 原 菌 の100 行 な って い る^<*3>。 テ イ ン合成 酵 素) こ の中 央 部 に 外 来遺 伝 子 を 組 み込 ん で宿 主 に 組み 同 様 に1 ラ ス ミ ドと比 較 して約3倍 の 生 また, gsh I遺 伝 子 を slp 501S- ピー組 み込 ん だ と ころ, 同 じ遺 伝 子 を1コ ー もつ プ ラス ミ ド (pGS100) の約6倍 のGSHI酵 ピ 素を 倍DNAリ ガ ーゼ を 生 産 した 。ま た, S_7変異 株 で は, 生 産 量 は500倍 λgt11は で, lacZ遺 とな った^<21)>。 λcI_<857>plac5nin5S_<100>を 母体と した も の 伝 子 の 末 端 に近 い と ころ に 唯一 のEco 位 を 残 して, cDNAな RI部 他 は 消 去 した もの であ る。 こ の 部 位 に ど を挿 入 す る と, フ レー ムが 一 致 した 場 合 に は, β-ガ ラ ク トシダ ー ゼ との融 合 蛋 白質 が 作 られ る。溶 原 菌 を 誘 導 培 養 して生 産 され る融 合 蛋 白質 と抗体 との反 応 に よ り, cDNAラ イ ブ ラ リー か ら特定 の ク ロー ンを 選 び だ す こ とが で き る^<22)>。 表3. グル タ チ オン 合 成 酵 素 (GSHII) の生 産^<20)> これ らの ベ ク タ ーは宿 主 染 色 体 に組 み込 め る 点 で ス リ ーパ ー と似 て い るが して い るの で, DNA収 力 なP'Rプ a) μmolグ 表4. ル タ チ オン/mg蛋 *3 白質/時 γ-グル タ ミル-L-シ ス テ イン 合 成 酵 素 (GSHI) の 生 産^<20)> μmolγ-グ ル タ ミル-L-シ ス テ イン/mg蛋 白 質/時 京都大学 食糧科学研究所 ・木村光教授 との共同研究。 1138 容 力 は は るか に少 な く, ま た, 強 ロモ ー ター を 利用 して い な い 点 で 異 な っ て 図10. a) , コー ト蛋 白質遺 伝 子 を そ の ま ま残 λgt4^<21)>,λgt11^<22)> 矢 印 はEcoRI部 位 を 示す 。 溶 原 性 フ プ ー ジ ベ ク タ ー 図11. λNM459, 矢 印 はEcoRI部 39 λNM1070^<23)> 位 を 示す 。 い る。2 図12. λSV2^<25)> . λNM459, λNM1070 Database Center for Life Science Online Service λNM459 (図11) は λcI_<857>nin5を 母 体 と し, 右側3 ヵ所 のEcoRI部 位 が 消去 され, 残 る中 央 部 分2カ 所 の 部 位 間 のDNAが 除 去 され た も の で あ る^<23)>。 λgt4と 基 本 的 に は 同 じで, ま った く同 じもの が λgt2と して 発 表 さ れ て い る^<21)>。 似 た よ うな構 造 で, HindIIIが ジ法 を 用 い な い の で, どの よ うな サ イ ズ のDNAで も導 入 で き る とい う特 徴 を も っ て い る。 染 色 体 上 の プ ラス ミ ドDNAは が, 熱 誘 導 に よ り切 り出 され て 自己増 殖 を 行 な う コピ ー数 は5∼10/細胞 と少 な い。 使え るも の (λNM540)^<24)>もあ る。 λNM1070の 詳 細 は 不 明 で あ るが, 5nin5WESの お そ ら く λcI_<857>Plac お わ りに 中央 部 分2ヵ 所 のEcoRI部 本 稿 で は宿 主 染 色 体 に 組 み込 まれ て 安 定 に 位 を残 存 在 し, 熱 誘 導 に よ りコ ピー数 を 増 加 させ うるベ ク タ ー し, 他 の部 位 を消 去 した も の と思 わ れ る (図11)^<23)>。 こ とい う観 点 か ら, ス リー パ ー お よび 関 連 ベ ク タ ーを 紹 介 れ も基 本 的 に は λgt4と 同 じで, 中央 部 に 外来 遺 伝 子 を した。 一 方, ス リ ー パ ー と同 時 期 に開 発 され た ベ クタ ー 挿 入 して宿 主 染 色 体へ 組 み 込 め る。 溶 菌 関連 遺 伝 子S に ラ ンナ ウ ェイ ベ ク ター^<26∼28)>が あ り, 培 養 温 度 で コ ピー の他 に コー ト蛋 白質 遺 伝 子 の うちWとEに 数 を 変 え られ る点 で 似 て い る。 λ のPLプ amber 変異 ロモーターを を導 入 して, 遺 伝 子 産 物 の 生 産 効 率 を 上 げ る工 夫 を して もつ プ ラ ス ミ ド^<29)>で は, 転 写 のみ を温 度 で 制 御 す る。 こ い る。NM1070にT4ポ の よ うな プ ラス ミ ドベ ク タ ー に対 して, フ ァー ジ ベ クタ 子 をP'Rの リヌ ク レオ チ ドキ ナ ー ゼ遺 伝 転 写 方 向 に合 わ せ て導 入 し溶 原 化 す る と, 可 溶 性 蛋 自質 の約7%ぐ ー の 有 利 な 点 は , 誘 導 が 一 時 的 な温 度 シ フ トで 完 了 し, らい の酵 素 生 産 が 認 め られ た^<23)>。 そ の 後 は 任 意 の 温 度 で培 養 で き る 点 で あ ろ う。 利用 枯 草 菌 では 溶 原 性 フ ァ ー ジ を利 用 した ク ロー ニ ン グ法 コー ト蛋 白質 を作 ら ない よ うにす る こ と とP'Rを す るこ とな ど, ス リーパ ーに きわ め て 近 い発 想 が み られ る。 と して プ ロ フ ァ ー ジ形 質 転 換 法^<30)>が 知 られ て い る。 本稿を掲載す る機会を与 えて下 さった京都大学食糧科学研究 所 ・木村光教授 に深 く感謝致 します。 IV. 類 縁 の プ ラ ス ミ ドベ ク タ ー 文 1. λSV2 λSV2は 大 腸 菌 染 色 体 に組 み 込 まれ て存 在 し うる プ ラ ス ミ ドベ ク ター で あ る (図12)^<25)>。 λのattを もち, こ の部 位 で 染 色 体 に組 み込 まれ る。λ 由来 のPR-P-P遺 伝 子 は, プ ラス ミ ド状 態 での み 働 き, DNA自 己複 製 を行 な う。SVgpt部 大 腸 菌 gua X遺 分 はSV40由 来 のDNAと 1) 伝 子 とか らな り, 動 物 細 胞 で の 選 択 マ ー カ ー と な 2) 3) 4) る。 λSV2は int, xis, cI_<857>な ど溶 原 化 に必 要 な遺 伝 子 を もつ 特 殊 な 宿 主 に の み組 み込 め るが, そ の際 にパ ッケ ー 5) 献 Cohen, S. 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