2014. 5月号 - 経済広報センター

月刊
5
2014年
◆社会広聴アンケート
女性の活躍推進に必要な「経営層・管理職層の意識改革」
-企業における女性の活躍推進に関するアンケート調査結果-
企業が女性活用をするメリットは
(株)
イー・ウーマン 社長 佐々木かをり
誠実な情報公開への姿勢がM&Aコミュニケーションのカギ
◆企業広報研究
ウィズワークス(株)ナナ総合コミュニケーション研究所 主任研究員『月刊総務』編集長 豊田健一
◆メディアに聞く
産経新聞東京本社 編集局経済本部長兼フジサンケイビジネスアイ編集長 関根秀行
417
May
今 月 の 表 紙
2014年5月号目次
岩谷産業主催「住みよい地球」全国小学生作文コンクー
ルの最優秀賞、学校奨励賞については、同社役員が該
当校を訪問し、全校朝礼の際などに賞を授与した
写真は、同社福澤芳秋専務から学校奨励賞の表彰を受
ける徳島県松茂町立松茂小学校の子どもたち
社会広聴アンケート
女性の活躍推進に必要な
「経営層・管理職層の意識改革」
2
-企業における女性の活躍推進に関するアンケート調査結果-
企業が女性活用をするメリットは 6
佐々木かをり((株)イー・ウーマン 社長)
メディアに聞く
歴史や背景を踏まえた取材を心掛ける
8
関根秀行(産経新聞東京本社 編集局経済本部長兼フジサンケイビジネスアイ編集長)
企業広報研究
誠実な情報公開への姿勢がM&Aコミュニケーションのカギ
豊田健一(ウィズワークス(株) ナナ総合コミュニケーション研究所 主任研究員『月刊総務』編集長)
9
CC時代のインナーコミュニケーション④
『経済広報』では、裏表紙に関連する写真・イラストを表紙に
掲載しています。
「明日は変えられる。」を軸に社員の行動変革を促す
12
アステラス製薬(株)
経済広報センター活動報告
豊田次世代エネルギー・モビリティ都市
(とよたエコフルタウン)
14
グローバル人事制度―企業再編と制度改革
16
~第4回「未来都市モデルプロジェクト見学会」~
ANGLE
5
広報担当者は情報参謀としてコミュニケーション戦略の司令塔であれ
駒橋恵子(東京経済大学 コミュニケーション学部 教授)
19
法律と広報②
月の動き
国内
訴訟に関する広報――法律的検討と戦略的検討
結城大輔(のぞみ総合法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
22
GLOBAL PR 4
9日
3月の景気動向指数速報
(内閣府)
12日
4月の景気ウォッチャー調査
(内閣府)
3月の国際収支速報
(財務省)
15日
4月の消費動向調査結果
(内閣府)
20 ~ 21日
日銀の金融政策決定会合
21日
4月の貿易統計
(財務省)
30日
4月の失業率
(総務省)
4月の有効求人倍率
(厚生労働省)
日本企業による国際的M&Aの成否
ロス・ローブリー(エデルマン・ジャパン(株) 社長)
23
連載
経済広報センター NEWS
20
企業広報ニュース(社内報・イントラネット/教育支援/広報トピックス/ Book) 24
企業・団体のCSR活動(岩谷産業
(株)
)
5月の動き
裏表紙
表紙裏
海外
2日
4月の米雇用統計
(米労働省)
6日
3月の米貿易収支
(米商務省)
8日
ECB
(欧州中央銀行)
定例理事会
(ベルギー・ブリュッセル)
13日
4月の米小売売上高
(米商務省)
16日
4月の米住宅着工件数
(米商務省)
発行/一般財団法人経済広報センター 国内広報部
東京都千代田区大手町1-3-2 経団連会館 TEL:03-6741-0021
印刷/三葉株式会社 TEL:03-3294-4751
※本誌掲載の記事・写真・イラスト・図版の無断掲載を禁じます。
2014年5月号〔経済広報〕
1
社会広聴アンケート
社会広聴アンケート
女性の活躍推進に必要な
「経営層・管理職層の意識改革」
-企業における女性の活躍推進に関するアンケート調査結果-
女性の活躍推進は、日本経済が直面している状況を打開するものとして、社会全体で早急に取り組んでい
かなければならない課題となっている。
わが国の少子高齢化への対応として、企業が持続的な発展をするために、女性の労働力の必要性が高まっ
ている。また、女性の多様な経験や価値観を生かした商品・サービスが開発され、グローバル競争に勝ち抜
くことが期待されている。そこで、企業で働く女性を取り巻く環境についての現状や、今後求められるもの
などについて意識調査を行い、その結果を取りまとめた。
調査の対象は、全国の様々な職種、世代で構成される社会広聴会員のうち、インターネットで回答可能な
い。次いで、
「女性の業務範囲(研究開発、マーケティング、営業など)が広がっている」
(42%)、
「女性の経営層・
管理職が増えている」
(38%)、「新聞報道などで女性の活躍を目にする機会が増えた」
(37%)の回答が4割前後で
ある。
■進んできていると感じる理由
(全体・男女別)
(3つまでの複数回答)
産休・育休などの両立支援制度が充実し、女性社員の
退社が減っている
52
53
52
52
管理職ではないが、周囲で活躍する女性が増えている
女性の業務範囲(研究開発、マーケティング、営業など)
が広がっている
38
33
新聞報道などで女性の活躍を目にする機会が増えた
34
女性のキャリア意識が上がっている
28
長時間労働の慣習が改善されてきている
2
46
43
39
31
34
■全体(n=1248)
■男性(n=562)
1
1
1
■女性(n=686)
10
20
30
40
60 %
50
歳以上(635人、34.7%)。職業別では、会社員・団体職員
(従業員300名以上)
(475人、26.0%)
、会社員・
3
団体職員(従業員300名未満)
(220人、12.0%)、公務員
(58人、3.2%)
、会社役員・団体役員
(68人、3.7%)
、
企業の女性活躍推進への取り組みが進んでいないと感じる理由は、「女性の経営層・管理職が少ない」が最も高
自営業・自由業(149人、8.2%)、パートタイム・アルバイト
(247人、13.5%)
、専業主婦・夫
(324人、
い47%、第2位は「産休・育休などの両立支援制度があっても利用しにくい(できない)」
(46%)、「男性優位の考
17.7%)、学生(20人、1.1%)、無職・その他(267人、14.6%)
。
え方が変わっていない」
(46%)となっており、いずれも4割を超える。
企業の女性活躍推進への取り組みが進んでいないと感じる理由
■進んでいないと感じる理由
(全体・男女別)
1
3人に2人が、女性の活躍を推進する企業の取り組みは「進んできている」と認識
うとそう思う」は60%であり、
「進んできている」との認識が7割近くとなっている。
■現状の認識(全体・男女別)
(単一回答)
8
男 性
60
12
27
60
5
23
産休・育休などの両立支援制度があっても利用しにくい
(できない)
男性優位の考え方が変わっていない
44
出産・育児などのため、男性に比べキャリアの形成が
難しい
33
5
27
長時間労働の慣習が改善されていない
25
女性の業務範囲が限定的である
17
女性のキャリア意識が向上していない
6
0
60
10
20
30
29
15
40
50
60
70
80
90
100%
*小数点以下第1位四捨五入のため、合計が100%とならない場合もある。
2
企業の女性活躍推進への取り組みが進んできていると感じる理由
企業の女性活躍推進への取り組みが進んできていると感じる理由は、
「産休・育休などの両立支援制度が充実
し、女性社員の退社が減っている」
「管理職ではないが、周囲で活躍する女性が増えている」
が共に52%で最も高
〔経済広報〕2014年5月号
1
0
5
4
20
48
36
38
30
32
28
29
■全体(n=580)
26
■男性(n=224)
2
3
50
46
27
22
その他
女 性
47
47
47
46
38
産休・育休などの両立支援制度が不十分である
■そう思う ■どちらかというとそう思う ■どちらかというとそう思わない ■そう思わない
全 体
(3つまでの複数回答)
女性の経営層・管理職が少ない
女性の活躍を推進する企業の取り組みが進んできていると思うかについて、
「そう思う」
は8%、
「どちらかとい
2
54
37
3
3
0
回答者の属性は、男女別では、男性(786人、43.0%)、女性
(1042人、57.0%)
。世代別では、29歳以下
(78人、4.3%)、30歳代(236人、12.9%)、40歳代(336人、18.4%)
、50歳代(543人、29.7%)
、60
42
39
女性の経営層・管理職が増えている
その他
3123人。1828人が回答し、回答率は58.5%だった。調査期間は2014年1月23日~2月3日。
50
■女性(n=356)
10
20
30
40
50
60 %
8割以上が、女性が不利と思う点を「家事・育児・介護の負担」と回答
男性に比べ、女性が企業で不利となると思う点について聞いた。
「家事・育児・介護の負担」が82%で圧倒的に
多く、女性が企業で活躍するに当たり、大きな障壁と認識されていることが分かった。続いて「配偶者の転勤等
に伴う負担」
(51%)、
「昇格、管理職登用」
(45%)、
「重要業務の割り振り」
(25%)、
「人事評価」
(20%)、
「キャリア形
成」
(17%)との回答だった。
2014年5月号〔経済広報〕
3
社会広聴アンケート
5
社会広聴アンケート
「育児・介護休暇・子の看護休暇・短時間勤務制度を利用しやすい職場の環境整備」が重要
7
男性の育児休暇取得に9割が「賛成」
女性社員のワーク・ライフ・バランス促進に効果的な取り組みについて聞いたところ、72%が
「育児・介護休
男性の育児休暇取得について、
「賛成」が42%、
「どちらかというと賛成」が50%と、合わせて92%が「賛成」と回
暇・子の看護休暇・短時間勤務制度を利用しやすい職場の環境整備」
と回答。続いて、
「配偶者の転勤に伴う休職
答している。女性の活躍推進の一助として、夫の協力が重要であると多くの人が認識していることが分かった。
や再雇用制度など」
「育児休暇中の復職支援」が4割に上る。
■男性の育児休暇取得
(全体・世代別)
■女性社員のワーク・ライフ・バランス促進に効果的な取り組み
(全体・男女別)
育児・介護休暇・子の看護休暇・短時間勤務制度を
利用しやすい職場の環境整備
配偶者の転勤に伴う休職や再雇用制度など
(4つまでの複数回答)
43
41
41
育児休暇中の復職支援
37
37
育児・介護休暇・短時間勤務制度の延長*1
男性の育児参加の推進
31
企業内保育施設の設置
在宅勤務制度(テレワーク)の推進
30
16
14
研修などによる両立支援制度の内容や活用方法の教育
36
35
34
33
35
33
72
70
73
42
29歳以下
30歳代
7
40
55
60歳以上
10
20
4 1
6
50
38
0
4
51
41
40
50
60
1
8
53
30
1
4
40
42
50歳代
38
50
53
40歳代
1
8
70
80
90
1
100 %
*小数点以下第1位四捨五入のため、合計が100%とならない場合もある。
36
■全体
■男性
18
■女性
0
10
20
30
40
50
60
70
80 %
*1:法定期間は、育児休業は子どもが1歳になるまで、介護休業は常時介護を必要とする状態ごとに1回(期間は通算して93日ま
で)
、短時間勤務は子どもが3歳になるまで。
6
全体
46
5
4
5
その他
■賛成 ■どちらかというと賛成 ■どちらかというと反対 ■反対
46
39
(単一回答)
8
専業主婦の年金、税制優遇措置の見直しについての見方は分かれる
専業主婦の年金、税制優遇措置を見直し、縮小していくことについて聞いたところ、
「賛成」が51%、
「反対」が
49%で、ほぼ同数となっている。
「賛成」では、財政問題や少子高齢化社会を支えるために見直しが必要とする意
見や、優遇措置を受けるため仕事がセーブされることを問題視する意見が目立つ。一方、「反対」では、専業主婦
女性の管理職登用には、
「経営層・管理職層の意識改革」が必要
が子育て・介護・地域社会などへ貢献している、家族の在り方を制度で変えようとしている、といった意見が多
女性の管理職登用を増やすためには、今後、どのような取り組みが効果的かを聞いた。
「経営層・管理職層の
かった。
意識改革」
(63%)がトップである。第2位以下は、
「ロールモデルとなる女性社員の充実」
(41%)
、
「幅広い職種へ
の登用」
(41%)、
「企業における継続的なキャリア研修」
(39%)
と続く。企業における制度面の整備にとどまらず、
女性の管理職を育成する立場の意識に踏み込んだ改革が求められている。
■女性の管理職登用に効果的な取り組み(全体・男女別)
(4つまでの複数回答)
41
39
42
41
42
40
39
38
40
ロールモデルとなる女性社員の充実
幅広い職種への登用
企業における継続的なキャリア研修
29
30
28
29
管理職登用の数値目標の設定
経営トップの強いリーダーシップ
メンター制度*2の推進
18
13
女性のネットワーク形成の促進
職場の上司とのコミュニケーションの推進
学校等教育機関におけるキャリア教育の推進
その他
0
4
5
6
11
12
10
11
8
13
10
25
25
23
26
〔経済広報〕2014年5月号
女性の活躍を推進する上で、特に製造業では、企業で働く理系の技術職が少ない(大学時点で、理系の女子学
について聞いたところ、86%が
「賛成(賛成/どちらかというと)」と回答している。今後の日本の科学技術を支
える一端として、女性の活躍を求める生活者が多いことが分かった。
k
■高校・大学教育での理系女子学生の積極推進(全体・男女別)
(単一回答)
■賛成 ■どちらかというと賛成 ■どちらかというと反対 ■反対
35
全 体
21
29
男 性
■全体
31
57
13
1
54
12
2
58
14
1
■男性
■女性
20
30
40
50
60
女 性
70 %
*2:メンター制度とは、豊富な知識と職業経験を有した社内の先輩社員(メンター)が、後輩社員(メンティ)に対して行う個別支援活
動。
4
9割近くが、高校・大学教育での理系女子学生の積極推進について「賛成」
生が少ない)点が指摘されている。そこで、高校・大学教育において、女子学生へ理系専攻を積極推進すること
63
61
64
経営層・管理職層の意識改革
9
26
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100%
*小数点以下第1位四捨五入のため、合計が100%とならない場合もある。
(文:国内広報部主任研究員 杉山佳子)
2014年5月号〔経済広報〕
5
社会広聴アンケート
社会広聴アンケート
企業が女性活用をする
メリットは
佐々木かをり(ささき・かをり)
安倍総理が「女性活用」を経済と結び付けて発言さ
れてから、経済界で女性活用に注目が集まり始めた
躍してほしい社員たちを新しい市場視察に行かせた
イバーシティ」の視点で考えてみたい。
り、留学を促すのと同様、例えば2カ月間、育児休
ダイバーシティという単語は、「多様性」、いろい
業を男性にも必須にすることで、その男性は、出産
ろな種類のものが混在している、という意味であ
にまつわる様々な「体験」を重ね、自宅近辺の日々の
る。しかし混在するだけでは不十分で、互いに関わ
生活圏のありようや市民の視点を学び、交通機関や
り合い、相乗効果を生み、生存や成長の役に立つこ
道路整備など様々な不都合を体験し、社会保障ほか
とが重要だ。経済社会においても、この
「ダイバー
育児に関する政策やその使い勝手を学び、視点も人
シティ」が成長のキーワードなのである。
脈も情報量も増えて、復帰後の業務に還元する。今
まで以上に広い視点でモノを考えることができるダ
第一歩として女性の採用や活用が話題となるが、本
イバーシティについて理解できる有望な人材に育つ
来の多様性は、女性だけではない。障がい者、中途
のである。多くの人にとって、人生に1、2度し
見えてくる。女性活躍が経済成長にどのような影響
採用、外国人、多様な人種・宗教・言語・文化背景
かない貴重な人材育成機会を男性に与えないのは、
を与えるのか、課題解決を迅速に行い、次のステー
の人たち、また、LGBT(レズビアン・ゲイ・バ
もったいない。
ジに移動していくべく時がきたということだろう。
イセクシャル・トランスジェンダー)の人たちの採
女性活用は、企業経営にどう役立つのか?
用も大切だ。しかし採用だけでは足りない。それら
成長する企業の今後の2つのアクション
の人たちから多様な意見が出て組織が前進すること
「女性にやさしい政策」は、かなり充実してきてい
女性活用する理由を、男女平等、社会的責任とか
が重要なのである。ダイバーシティで一番重要なの
るので、今後は、これ以上、女性の働き方の選択肢
分の2が、
「女性活躍推進が進んできている」と回答。
の視点で受け止めようとすると、企業にとっては負
は「視点の多様性」なのである。多様な視点で議論さ
を増やす政策ではなく、男性の価値観、ライフスタ
その理由の第1位が「産休・育休などの両立支援制
担としてうつる。利益を上げることや、成長に焦点
れる機会が増えると、プロダクトイノベーション、
イル、労働時間などを劇的に変化させるアクション
度が充実し、女性社員の退社が減っている」と「管理
を当てているのに、女性活用にまで取り組まなくて
プロセスイノベーションなどを促進するだけでな
を取る必要がある。ここでは、現在の法制度の中
職ではないが、周囲で活躍する女性が増えている」
はいけないのか!と感じることだろう。しかし、実
く、例えば不祥事の謝罪会見をはじめとする発信力
で、各企業のCEOが決断すれば、すぐにでも可能
の2つで、共に52%である。全回答者1828人の内
は女性活用は、企業経営に役立つ。経済成長、株価
強化にも貢献する。もちろんグローバル社会での多
になる「簡単な」アクションを、2つ提案したい。
訳が、20 ~ 60歳代、職業は会社員、公務員、パー
上昇、利益拡大に役立つのだ。女性正社員が多い企
様な株主、多様な顧客への対応能力も高まる。
ト、主婦、学生、無職と幅が広いことを考えると、
業の利益率が高い、働く女性が多い国の出生率が高
この結果は一般社会の持つ印象だと読むことができ
いなど多様なデータが、経済産業省やシンクタンク
るだろう。
などから発表されているので参照してほしい。ま
企業の成長に重要な女性が働き続けるために解決
い。ダイバーシティの本質は多様な視点で議論し決
しかし一方で、ダボス会議開催で有名な世界経済
た、女性活躍推進に積極的な企業は消費者向けの企
せねばならないことがある。育児や介護と仕事の関
断することであると考えると、管理職、役員のレベ
フォーラムが発表した「男女格差報告2013年」によ
業だけではない。どの企業にとっても、女性活用は
係だ。今回の調査でも、企業において女性が不利に
ルに女性たちがいることが大変重要になってくる。
ると、調査対象国136カ国中、日本は105位。前年
大きな貢献となるのである。
なるのは、家事、育児、介護と回答した人が8割に
もう1つは先に述べた、
「最低連続2カ月間の男性
ことは素晴らしい。経済広報センターが実施した今
回の調査結果を見ても、2014年3月の時点で、3
育児休業はどうあるべきか
1つは女性取締役の採用。取締役会に独立社外取
締役がいないという企業、女性の社外取締役がいな
いという企業は、ぜひ次年度から採用をしてほし
の101位よりさらにランクが下がり、過去最低の順
女性活用には、大きく分けて2つのテーマがあ
も及ぶなど、このテーマが女性の就業の課題である
の育児休業の強制取得」
。2014年4月1日より、雇
位となっている。世界的に指摘されている男女格差
る。1つは、現在仕事をしていない女性たちや、労
ことが分かる。しかしなぜ、女性だけの問題となっ
用保険からの育児休業給付率は、育児休業前の給与
のある日本。この現実をどう理解するのか。
働時間の短い女性たちに、どのようにしてもっと働
てしまっているのか。結婚と育児が女性のライフイ
の67%とアップした。よって企業が仮に33%の給
1986年4月に男女雇用機会均等法が施行されて
いてもらうのか、働く機会を提供できるのかという
ベントとして語られることがあるが、違う。出産と
与負担をすると、社員は100%の賃金を受け取りな
以来、確かに職場での女性の活躍シーンは増えてき
労働人口・労働力としての視点である。そしてもう
いう行為は女性特有のものだが、結婚や妊娠、育児
がら2カ月間の重要な研修が体験できる。復帰後の
た。1992年4月からは、全ての労働者を対象とし
1つは、経営などを含め決定権者となる女性を増や
が女性だけのライフイベントでないことは明白であ
男性はダイバーシティを実践する人材となり、周囲
た育児休業法が成立。男女とも子どもが1歳になる
すこと、リーダーシップの取れる女性を育成し、多
る。今回の調査でも
「男性の育児休業」の取得賛成
の女性たちへの人事評価もできる、組織で重要な人
まで育児休業が取得できることとなった。会社説明
くの決断・決定に関与してもらうことである。
が、9割に及んでいるが、ここが企業の今後の肝と
材となる。
会に女子大生が参加できなかった時代と比較すれば
当然、働く女性人口は増えてきたし、それなりに活
6
育成期間」だと考えるとどうだろうか。これから活
ダーを育成していくことの利点が何であるかを、
「ダ
まず多様な人材を採用することから始める。その
(株)
イー ・ウーマン 社長
日本は105位?
多くの人が理解するだろうから、2つ目の女性リー
ダイバーシティの本質と目的
いえるだろう。
女性活躍の推進が進んでいると感じる人が3分の
「育児休業」という名称から仕事を休むというイ
2という今回の調査結果に応えるべく、一刻も早く
躍しポジションを持つ女性も増えてきた。しかし十
労働力確保の点で女性にもっと就労してほしいと
メージがあり、企業戦士の男性が取得しない。しか
実態が追い付くよう、企業は大きな改革に取り組ん
分ではない。今回の調査結果からも課題がたくさん
いう1つ目については、人口減少を含めた背景から
しこれを、思考の多様性を活性させるための
「人材
でほしいと願う。企業トップに期待する。 k
〔経済広報〕2014年5月号
2014年5月号〔経済広報〕
7
企業広報研究
メディアに聞く
誠実な情報公開への姿勢が
M&Aコミュニケーション
のカギ
歴史や背景を踏まえた
取材を心掛ける
■
「編集局経済本部」とはどのような組織か。
関根 弊社には、産経新聞とフジサンケイビジネス
アイ
(元日本工業新聞)の2紙があり、編集局経済本
部の記者が産経新聞、フジサンケイビジネスアイと
ネット配信用の記事を書き分けている。
関根秀行(せきね・ひでゆき)
豊 田 健 一(とよだ・けんいち)
産経新聞東京本社 編集局経済本部長
兼フジサンケイビジネスアイ編集長
ウィズワークス(株) ナナ総合コミュニケーション研究所 主任研究員『月刊総務』編集長
景といった知識まで取材するのは非常に大変なこと
新聞編集局のそれぞれで行っていた。そのため、同
であるが、心掛けておくだけでも紙面に違いが出る
昨今、グローバル化の加速に伴い、国内外を問わずM&A
(企業の合併・買収)の事例が目立つ。インナー
じ記者会見に2社から記者が出席し、それぞれの紙
と思っている。特に、解説記事などには記者の知識
コミュニケーションにおいて、M&Aを行う前、あるいは最中、統合後のそれぞれの局面で留意すべき点は
面に同じような記事を掲載するという非効率な状況
量が如実に表れてくる。
どのようなものか。インナーコミュニケーションのコンサルティング業務を専門とする、ウィズワークスの
だった。
私も「せめて平成になってからの産業界全体や国
しかし、ネットメディアに対応するために、取材
際関係の動きは頭に入れておくように」と記者に指
を効率化してネット媒体にも注力する必要が出てき
導している。経済部の記者には特に、時代の潮流も
た。そのため、2004年に日本工業新聞社を完全に
踏まえた視点が必要だと思っている。
子会社化し、その後、2つの組織を一体化したの
■自身の記者生活で印象に残っている取材は。
が、現在の産経新聞編集局経済本部だ。
編集局経済本部には現在約60人が在籍している。
豊田健一氏に聞いた。
平時から取り組むべき
インナーコミュニケーションとは
の有識者やトップを招き、インタビューや特集を組
むことで、他社のことを知ることができる。外から
の刺激を受けることで、翻って自社はどうなのか、
■インナーコミュニケーションにおいて平時から、
アイデンティティーについてあらためて考えること
関根 ある大手企業のトップ人事で誤報をしたこと
つまりM&Aに関していえば、M&Aが始まる前
ができる。グローバル化の加速によりM&Aが活発
だ。確信を持って抜いたが、後日記者会見で異なる
からしておくべきことは何か。
になってきている昨今、この1点目は非常に重要な
産経新聞の紙面は、経済部長とデスク4人で作成し
人事が発表された。私が誤って発表してしまった役
豊田 主に3つある。1点目は、統合する側、され
ている。フジサンケイビジネスアイの編集長は私が
員のご自宅には就任祝いの贈り物が届いた。後日、
る側にかかわらず、“自社が何者か”という軸を明確
2点目は、現場との情報量の格差を理解し、ギャッ
兼務し、以下デスク3人という体制だ。
「SankeiBiz」
ご自宅を訪問し、奥さまにもお詫びした。自分の非
にしておくことだ。M&Aにも様々な形態が考え
プを埋めておくことだ。広報部門は経営の中枢部門で
というビジネスニュース専門のサイト運営も、編集
力さを痛感した出来事だった。
られるが、自社が何者で、何ができるのかを語れない
あり、常に最新の情報のシャワーを浴びている。その
局経済本部で担っている。
■企業の広報部門に望むことは。
と、統合先にどのようにアプローチし、相乗効果を発
ため、地方の工場や現場とは、情報量や意識に大きな
揮していくのかが見えにくい。統合すれば双方の良い
乖離が生まれがちである。常にこのギャップを意識
点、悪い点を含めて理解し合う必要もある。そのため
し、時には現場に出向くことで、現場の目線に立った
にも、自社の軸を明確にしておくことが肝要だ。
情報提供ができるようにしておかなければならない。
紙面づくりでは、産経新聞では一般紙として不特
関根 マスコミからの取材に対して
「逃げない」
「隠
要素であるといえる。
定多数の読者の視点を、フジサンケイビジネスアイ
さない」
という姿勢を常に心掛けてほしい。たとえ、
では産業界の視点を意識している。また、ネットメ
状況がつかめず正確な情報を発表できない場合で
以 前、 グ ロ ー バ ル 先 進 企 業 の 副 社 長 に イ ン タ
特にM&Aなどの際には、広報部門の目線で情報の取
ディアはスピード勝負のため、取材後はネット配信
も、発表できない理由と情報開示への姿勢を明確に
ビューをしたことがある。その際、海外企業とのM
捨選択をしてしまうと、現場の情報が枯渇し、不要な
用の記事を先に流している。
示すことが大切だ。トップにそういう意識が欠けて
&Aでグローバル展開をしていく難しさを伺ったと
動揺を招く状況が多々起きる。
■取材において記者に指導していることは。
いる場合は、広報担当者がトップを説得してほし
ころ、その方は「海外展開を難しくしてしまうのは、
関根 前社長の住田良能(故人)が20年以上前に経
い。
済部長をしていた時、私たちに「目の前の記事を追
い掛けるのはよいが、その歴史や背景を踏まえて検
k
(聞き手:国内広報部長 佐桑 徹、
文責:国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
証するように」とよく話していた。特定の企業を取
私自身も以前リクルートに勤めていたが、ダイ
自らのアイデンティティーや考え方があいまいなま
エーの傘下に入るという話が出た際の現場は非常に
ま、合併してしまう場合だ。我々は自社が何者であ
混乱していた。社内の情報量が乏しく、傘下に入る
るかを明確にしているため、それに賛同してくれる
目的や自社の進む方向性を社員が理解できなかった
企業と組めばよい」と話していた。
ために、動揺してしまったのだ。その結果、大規模
日本では、その企業“らしさ”や軸のようなものを
な組織改編や人員整理はなかったにもかかわらず、
材するにも、ここ1~2年の出来事を表面的に捉え
1987年産経新聞社入社。宇都宮支局、経済部、政治部、静
るのではなく、企業の歴史や流れも踏まえて、広報
持っているものの、空気と化しているために認識で
リクルート事件の時よりも多くの離職者が出たと聞
岡支局などを経て2005年経済部次長、2006年大阪経済部次
きていない企業が多いように思う。自社“らしさ”を
長、2009年経済本部次長、2010年編集企画部長、2012年企
いた。
担当者にも掘り下げた話を聞くよう心掛けるよう
認識するには、他社の風土に触れ、比較することも
また、現場の状況を把握するだけでなく、現場の
必要である。例えば、社内報の企画でいうと、社外
意見に耳を傾け、情報を吸い上げることも重要であ
に、という意味だ。日々忙しい業務の中で、その背
8
■聞き手:佐桑 徹 経済広報センター 国内広報部長
以前は、2紙の取材は産経新聞経済部と日本工業
〔経済広報〕2014年5月号
画業務室長、2013年3月より現職。
2014年5月号〔経済広報〕
9
企業広報研究
る。その際、議論を活発にするために「一緒に考え
ガティブな情報も隠さず、透明性を持って従業員に
とのディスカッションなどが考えられる。社員が重
企業“らしさ”や企業風土は言動や仕事の進め方に
よう」と現場と同じ目線に立つ必要がある。
も公表できるよう、準備をしておく必要がある。こ
要なコンテンツやメッセージに触れるきっかけを多
表れることが多々あるため、その違いに戸惑う企業
3点目は、有事の際にも情報発信ができるインフラ
うした対応で企業の信頼や好感に繋げることができ
数仕掛けることによって、統合後の新たな経営理念
が多く見られる。例えば、リクルートでは結論を簡
を確保しておくことだ。例えば、阪神・淡路大震災の
る。M&Aのケースではないが、リクルート事件が
やビジョンを浸透させることができ、社員の安心感
潔に述べることが常に求められているが、プロセス
際、社内報の対応は大きく2つに分かれた。このよう
発生した時は社内で緊急マネジメント会議が開かれ、
を醸成することもできる。 を順に説明する文化の企業と統合した場合、双方の
な有事に社内報は発行していられない、と休刊にする
その後、午前1時よりリクルートの江副浩正会長
(当
新たに行動基準などをつくる企業も見られる。共
企業と、発行を止めず、社内への情報提供を続けてい
時)
への社内報の取材が行われた。この対応には非常
通の基準や指針をつくることで社員の行動を促しや
文化・言動が企業によって違うのは当たり前のこ
た企業だ。ある企業では震災の当日から手書きのファ
にスピード感があったように思う。
すくする。これも経営理念の浸透に有効な手段のひ
とであり、大切なのはそれに込められた意味やコ
クスで社員に情報発信を始めた。
戸惑いは大きいだろう。
また、M&Aを仕掛けられそうな際には、経営者
とつだ。基準をつくる際には、様々な部署から社員
コロを考えることだ。目的が同じ
“会社・組織を良
のスタンスを早い段階で明確にすべきである。経営
を集め、部門を超えた組織を編成するなど、社員が
くしたい”というものであれば分かり合える部分も
本社から情報を素早く提供することは非常に重要
者の意思をはっきりと社内に伝達することで、社内
主体となって決めるプロセスを経ることが大切だ。
多々出てくるだろう。そのきっかけをつくり、企業
だ。情報提供の形態や社内報の体裁にはこだわら
の動揺を軽減することができる。
行動基準を浸透させるには、トップのタウンホー
風土のコミュニケーションを促進することが広報の
有事の際ほど、現場は右往左往してしまうため、
ず、緊急時に情報をいち早く現場に届け、事業を継
続させるという本来の目的を見失ってはならない。
その上で、どうすれば確実に現場に情報を届けられ
ルミーティングなどが特に有効となる。事業規模が
■海外ではM&Aの際、弁護士だけでなくPRコン
サルタントを招く例も多いと聞くが。
大きく、全ての部門・地域を訪問できないのであれ
重要な役割だ。
また、被買収企業の社員に対し、その企業の歴史
ば、トップの思いを代弁できる
“語り部”を養成し、
や慣行を尊重していく意思を経営層が示すことも大
るか、紙媒体、SNS
(ソーシャル・ネットワーキ
豊田 確かに、海外企業では役員会などに弁護士や
フェース・ツー・フェースのコミュニケーションを
切だ。2社の企業文化が融合していく過程において
ング・サービス)など、様々なルートを想定して、
PRコンサルタントを入れるケースが見られる。米
心掛け、浸透を図る必要がある。
は、被買収企業の社員の姿勢がカギを握ることにな
平時から情報のインフラを確保しておく必要があ
国企業の場合はM&A時、法律事務所、投資銀行、
る。これはM&Aの際も同様だ。
PRコンサルタントと契約することが多い。PRコ
対談を実施し、統合におけるその企業の立ち位置や
ンサルタントは、社内を含めた多方面のステークホ
役割を再認識してもらうといった企画もよいだろ
被買収企業側への配慮として、事業規模の異なる
ルダーに対するコミュニケーション戦略を立案する
う。その後、お互いのことがよく理解できる紹介記
2社の統合であっても、社内メディアの上では対等
■では、まさにM&Aを仕掛ける時、仕掛けられそ
上で助けになる。例えば、M&Aが明るみに出た段
事などを掲載することで一体感も深まる。
に扱うべきである。そうでないと一方に疎外感が生
うな時のインナーコミュニケーションの留意点
階では、目的や影響を、それぞれの利害関係者に説
双方の相乗効果を生み出すための具体的な取り組
は。
明することが必要となる。対象によって話す内容は
みがイメージできる段階になったら、中堅社員同士
中には、統合に対する家族の理解を獲得するため
豊田 M&Aなどの重要案件では、情報公開に当た
異なるが、各利害関係者の目線に立っていること、
の座談会などを開く企画もよい。また、タテ、ヨコ
に、家族向けの社内報を発行する企業も見られる。
り非常に繊細な対応が求められる。しかし、一番避
外部の専門家も交えてよく議論されたものであるこ
に加え、業務上は接点が生まれないような“ナナメ”
けなければならないのは、社員が報道を見て初めて
とが大切だ。
の関係(例えば、A部若手とB部管理職)を仕掛ける
M&Aの最中は可能な限りの情報伝達を
統合後の社内報の誌面では、例えば、両トップの
る。多様なチャネルを使い、何度も何度も社員に語
り掛け、相互理解を図ることが重要だ。
まれ、一体感のある企業風土の醸成は難しくなる。
■統合後のコミュニケーションの効果測定はどのよ
うに行えばよいか。
事態を把握することだ。特にM&Aの報道において
海外の企業の中には、「コミュニケーション戦略
は、メディア独自の解釈が入っており、間違った認
チーム」を立ち上げ、コミュニケーション・ツール
統合に際しての社員のストレスを軽減するために
豊田 アンケートなどの定量調査を行う企業もある
識にミスリードされる可能性もある。
の幅広い検討やスポークス・パーソンの選定など、
は、社内メールなどを活用して統合に関する情報を
が、効果測定の目的に沿った質問項目や手段を選択
加えて、昨今はソーシャルメディアが発達し、誰
ことでコミュニケーションが一層活性化する。
戦略的に作戦を練る企業の例も見られる。しかし、
定期的に提供することや、相談サイトの設置なども
する必要がある。例えば、社員の行動を変えて組織
もがメディアになれる時代である。現場で情報が枯
日本では社員とのM&Aコミュニケーションにはあ
考えられる。イントラネットなどを有効に活用し、
を良くすることがコミュニケーションの目的であれ
渇することで不要な噂が蔓延し、それがソーシャル
まりなじみがなく、海外ほど重点を置いて取り組ん
企業が社員からの質問に答える受け皿を用意してい
ば、「あなたの行動は変わりましたか?」といったレ
メディアを通じて社外に飛び火するなどのケースも
でいるようには見えない。
る姿勢を示すことも、社員の安心感に一定程度寄与
ベルの質問をする必要があるだろう。社内報に関す
するだろう。 るアンケートであれば、読まれたかどうか、面白
想定しなければならない。一昔前に比べて、対応は
はるかに複雑化しているといえる。
現場にとって不確実な状態を継続させることは、
M&Aスキームの根幹にも悪影響を及ぼす。情報伝
達が不十分だと社員は最悪の場合を想像し、社員の
10
企業広報研究
統合後はメディアミックスで
メッセージの浸透を
■統合後のインナーコミュニケーションはどのよう
に行えばよいか。
統合後は企業風土の違いが課題に
■統合後のコミュニケーションで課題となりやすい
点は。
かったかどうかではなく、社内報の掲げたテーマが
確立されたかどうかを測れるような質問項目を設定
する必要がある。
また、定量調査に限らず、社員によるフォーカ
離職や優秀な人材の流出にも繋がりかねない。その
豊田 統合の目的を明確にし、社員の納得感を醸成
豊田 やはり双方の企業風土や文化の違いが課題と
ス・グループを実施することで、社員レベルのM&
時点で答えられない「不確かな時期」は障害要因とし
することが先決だ。複数のメディアミックスで一貫
なりやすい。M&Aが失敗したケースの多くは、企
Aの成功度合いを検証することも有効だ。座談会や
てあるが、この条件をクリアすれば開示する、とい
したメッセージを発信することが有効だろう。例え
業風土の問題だという統計データもある。この問題
グループワークを行うことで、より本質的な効果検
うように開示する意思を明確に示すことが重要だ。
ば、社長を交えたタウンホールミーティング、社内
を軽視してはM&Aを成功へ導くことはできないだ
証をすることができる。 その上で、社外に発表するのと同じタイミングでネ
報、イントラネット、映像コンテンツやグループご
ろう。
〔経済広報〕2014年5月号
k
(文責:国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
2014年5月号〔経済広報〕
11
CC時代のインナーコミュニケーション④
CC時代のインナーコミュニケーション④
「明日は変えられる。
」
を軸に
社員の行動変革を促す
チラシを挿入し、社内にはポスターを掲示して社員
からエッセイを募集した。また、社外向けのエッセ
イコンテストで集まった作品の中から、社外審査員
によって選ばれた120の入選作品を掲載した冊子を
発行。書店での販売と並行して国内の全社員へ冊子
を配布し、自分事化を促す一助とした。
アステラス製薬(株)
同社は
「認知/理解」
「共感/自分事化」
、そして
「行動/実践」へと段階的に進めてきた一連の社内コ
ミュニケーション活動を、テレビコマーシャルや
2005年、山之内製薬と藤沢薬品が合併し、アステラス製薬が誕生した。同社は合併後、どのように企業
エッセイコンテストなどの社外に対するブランディ
文化を醸成し、社内コミュニケーションに取り組んできたのか。
ング施策とも連動しながら行ったことで社員へのミ
ラー効果が発揮され、より浸透させることができた
アステラスブランド確立に向けて
と考えている。
められている。同社はいまだ決め手となる治療法が
グローバルに「Astellas Way」を
実践するために
アステラス製薬は、社外との接点である社員をブ
ない疾患の創薬研究に取り組んでおり、スローガン
ランド起点と位置付けている。魅力的なアステラス
を通して、社外に企業姿勢を理解してもらうととも
ブランドを構築するには、社内でのビジョン・目標
に、社内では社員の行動変革に取り組んでいる。同
いるかをシリーズで紹介した。この内容は、社内報
同社は2010年に「Astellas Way ~5つのメッセー
の共有化や社員のロイヤルティー醸成によるブラン
社は、このインナーコミュニケーション活動を「認
の表紙と連動させた社内ポスターも作成すること
ジ~」を策定。このメッセージは、グローバル製薬
ドの実現(社員の実践)と、社外に対して広告などで
知/理解」
「共感/自分事化」
「行動/実践」
という3
で、社内報を手にとってもらえるよう工夫した。経
企業として競争に勝ち残るために求められるグロー
発信する情報や企業イメージとの一貫性を保つこと
つのステップで実施している。
営層のコミットメントを表現するため、本部長が全
バル共通の価値観や行動規範を定めたものであり、
員登場し、バトンを繋ぐ思いを紹介した
「明日は変
当時のトップマネジメントが同社のDNAと現在の
えられる。」宣言の企画もある。
(写真)
強み・弱みを徹底的に議論して策定した。
2009年5月発行の社内報表紙
が重要と考えている。そのため、
「先端・信頼の医薬
2007年は
「認知/理解」段階として、社内報や社
で、世界の人々の健康に貢献する」という同社の経
長メールなどを通じて、スローガンに込められた思
営理念や、社名に込められている「最先端の医薬品
いを「VISION 2015」と1セットのストーリーとして
で、健康を願う人すべてに、明日への希望をもたら
情報を発信した。広報部門単独ではなく、人事部や
し、日本発のグローバル製薬企業として発展してい
経営企画部とも連携することで、幅広い場面で経営
2009年には、一人ひとりの
「行動」を促す施策と
問いかけよう、②挑戦して「ワクワク」、挑戦の結果
く」という思いを社員が理解し、同社の目標達成に
層によってこのスローガンが繰り返し使われること
して、社員イベント「つくばミーティング」を開催し
に「ワクワク」、常に挑戦し続けよう、③「前例」に拘
向けた課題を“自分事”として行動してもらうことを
となり、一貫したメッセージを社員に届けることが
た。このイベントは、会場以外の国内の全社員がラ
らず、「結果」に拘ろう、④自由闊達なコミュニケー
目指し、インナーコミュニケーションに取り組んで
できた。
イブ中継で視聴した。イベントでは同社の薬により
ションをあなたから始めよう、⑤もし判断に迷った
スローガンの“自分事化”で「行動/実践」へ
「Astellas Way ~5つのメッセージ~」は、①「こ
の判断・行動は患者さんのためになるか?」と常に
同時に、このメッセージを用いた企業広告を作
回復した患者の家族から直接話を聞き、社員一人ひ
ときには「誠実さ」に立ち戻ろう。誠実さが全ての判
同社は2005年の統合後、まずは新しく誕生した
成。広告では、赤いバトンを患者から託された希望
とりが、社会におけるアステラス製薬の存在意義を
断基準だ、の5つで構成され、それぞれのメッセー
アステラスグループ全体の姿を理解するために、社
として象徴的に用い、患者からバトンを託された同
再確認する場となった。イベント終了後には社内ア
ジの後には、全ての社員が自分の行動に引き寄せて
内報やイントラネットを使って社内情報の共有に努
社が、
「明日は変えられる。
」
との信念で新薬を届ける
ンケートシステムに4000名以上の社員から意見が
考えられるよう、メッセージに込めた想いが続く。
めた。2年目の2006年には、10年後に向けた中期
までバトンを繋ぎ続ける決意を宣言した。 寄せられ、その8割以上は
「自分たちの仕事の原点
いる。
経営計画「VISION 2015」を発表。海外拠点の社員も
12
を変えていきたい、と願う気持ちの2つの意味が込
2008年からはメッセージへの
「共感/自分事化」
が再確認できた」などイベントへの賛同だった。
このメッセージの理解浸透と実践促進の施策と
し て、 実 践 事 例 の ベ ス ト プ ラ ク テ ィ ス を グ ロ ー
含めて、地域ごとに社長をはじめとするトップマネ
を醸成する段階と位置付けた。企業広告では社員が
社内報では、研究や開発、製造、MRなどの担当
バ ル で 共 有 す る「Astellas Way Global Recognition
ジメントによるタウンホールミーティングを実施し
登場し、患者から受け取った赤いバトンを研究から
者に企業スローガンを自らの仕事に落とし込んでも
Program」を実施している。各本部での審査を経て
た。2007年にはコミュニケーションスローガン「明
開発、製造、MR(医薬情報担当者)へと確実に繋
らい、
「私の『明日は変えられる。』」として宣言しても
申請されたベストプラクティスをトップマネジメン
日は変えられる。」を策定し、このスローガンを軸に
ぎ、患者の期待に応える新薬を届けていく一連の流
らう特集を企画。それに加え、自らの仕事を通じて
トが承認している。この結果はイントラネットに掲
据えた社内外へのブランディング活動が始まった。
れを表現した。社内では、この広告をポスターにし
患者の明日をどう変えていきたいか、というテーマ
載するほか、冊子にまとめてグループ全社員に配布
スローガンの策定と
「認知」
「共感」
の醸成
て張り出し、社内報でも広告制作の背景を紹介する
での投稿を全社員から募集し、投稿された内容を
している。
ことで、メッセージへの共感の醸成を促した。
「明日を変えるためにできること。」として掲載した。
「明日は変えられる。」には、社員一人ひとりの挑
また、新薬は長い年月と多くの人の手を経て誕生
また、同社が社外向けに実施していた
「病気が教
戦によって革新的な新薬を創製し、患者の明日を変
するため、社内報では様々な部門横断チームの取り
えてくれたこと エッセイコンテスト」の社内版を
えたい、という思いと、病気と闘う患者自身の明日
組みを特集し、どのような想いで、何に取り組んで
開催。社内報には社長エッセイを掲載した募集要項
〔経済広報〕2014年5月号
同 社 は、「Astellas Way ~ 5 つ の メ ッ セ ー ジ ~」
の実践をさらに促進し、1年後に迫った「VISION
2015」を達成していくことが現在の課題だ。 k
(文:国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
2014年5月号〔経済広報〕
13
経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
豊田次世代エネルギー・モビリティ都市
(とよたエコフルタウン)
先立ち、水素供給事業者は水素ステーションの整備
を進めており、2015年までに四大都市圏を中心に
約100カ所を設置する予定である。長年の安全検証
の成果で規制緩和が進み、従来のガソリンスタンド
と併設できるようになってきていることから、今
~第4回
「未来都市モデルプロジェクト見学会」~
後、設置のスピードが加速することが予測されてい
る。水素を満タンにする時間は約3分で、500km以
上走行することが可能である。水素は石油や都市ガ
経団連は、全国の11都市・地域に、日本企業が有する、医療、農業、環境・エネルギーなどの分野の最
先端の技術を結集し、革新的な製品、技術、システムを開発、世界に先駆け社会的課題の解決を目指す「未来
都市モデルプロジェクト」を実施している。経済広報センターは、同プロジェクトの理解促進を図るため、各
地で、その見学会を開催しているが、2月28日、「第4回 未来都市モデルプロジェクト見学会」を、「とよた
Ecoful Town(エコフルタウン)」
(愛知県豊田市)で開催した。当センターの社会広聴会員など生活者17名が
参加した。
当日は、豊田市役所企画政策部環境モデル都市推進課の石川要一課長から概要説明を受け、「パビリオン」
「スマートモビリティパーク」
「水素ステーション」
「スマートハウス」
を見学した。
豊田市の環境への取り組み
スなど様々な原料からつくることができるという利
点があり、将来的には太陽光や風力などの自然エネ
暮らしや最新のITS・環境技術が体験できる設備
ルギーを使って水から水素をつくることも検討され
が整っており、誰でも楽しく豊田市の取り組みを学
ている。今回見学した水素ステーションは、都市ガ
ぶことができる。すでに世界約70の国・地域から
スから水素をつくる設備も併設している。
視察や取材を受け入れている。
スマートハウス
タウン内にある「スマートモビリティパーク」は、
超小型電気自動車、電動アシスト自転車の無人貸出
スマートハウスとは、家庭内で使用するエネル
バスと、その先の地域内を走るタクシーなどによる
拠点である。現在、このような貸出拠点が豊田市内
ギーをつくり、蓄え、節約し、環境面・コスト面な
「地域バス」
に鉄道を組み合わせた全市的な公共交通
に25カ所あり、近距離移動の際の会員制シェアリ
どで常に最適な状態にコントロールする次世代型の
豊田市は、産業都市と中山間地の過疎地域が共存
のネットワークを整備するもので、昨年度のバス利
ングサービスとして、1000名を超える会員が利用
“かしこい家”のことである。屋根には、太陽光発電
している愛知県北部に位置する中核市であり、ト
用者は、約233万人。利用者は、毎年5~7%伸長
している。利用者は事前にスマートフォンで予約
パネルが設置され、車庫にはEV注2や PHV注3の
ヨタ自動車が本社を置いていることでも知られて
している。
し、ICカードをタッチすることで貸出・返却がで
ための充電設備が備えられている。また、家の外側
また、次世代自動車の普及に向けた取り組みも実
きる。これらの乗りものに供給する電力は、壁掛け
には、家庭内の電力の効率的な利用を促す蓄電池や
施しており、
「とよたエコフルタウン」
内にある、
「ス
式の太陽光パネルで発電し、蓄電池に貯めて使用し
ガスで発電・給湯する創エネシステムなども設置さ
マートモビリティパーク」や「水素ステーション」の
ている。
れている。
いる。人口は県下で2番目に多い約42万人。面積
(918 km²)は県内で最も広い。
同市は、“クルマのまち”として急速に発展してき
た。市民生活に車が普及するのに伴い、道路の整備
各施設で紹介されている。
水素ステーション
スマートハウスには、家の中でエネルギーを一元
管理する「HEMS(ヘムス)」と呼ばれるシステムが
と郊外の開発が進んだが、市民の足となる公共交通
一方、
「民生」
分野における代表的な取り組みとし
の衰退と、大気汚染をはじめとする自然環境への影
ては、暮らしにおける創エネ・省エネの取り組みが
導入されている。
「HEMS」は、エネルギーをより
響を招く結果となり、全国でもいち早く環境対策に
ある。太陽光発電システムの普及促進はそのひとつ
効率的に使う暮らしを実現するため、太陽光パネ
取り組むこととなった。これまでに、最先端の環境
で、2000年より、住宅用太陽光発電の設置に対し
ル、蓄電池、家電などを繋ぎ、発電や蓄電、電力消
技術開発に取り組む企業や市民と連携し、活力ある
て設置補助金を設けており、現在、全世帯の約5%
費を最適にコントロールするとともに、家庭内のエ
低炭素社会に向けた多面的なまちづくりを推進して
(全国平均の約2倍)
に太陽光発電システムが導入さ
ネルギーの状況を“見える化(視覚化)”している。住
れている。さらに、市独自のエコポイント制度も実
人は、今どの部屋で、どこからの電気が何にどのぐ
きている。
注1
」に
施している。市民に
「豊田市エコファミリーカード」
らい使われているのかを把握することができると同
選定されたことを受け、CO₂
(二酸化炭素)を削減す
と呼ばれるICカードを配布し、環境配慮製品の購
時に、一番効率の良いエネルギーを選択することも
る低炭素社会の実現に向けて先駆的な取り組みに
入や基幹バスの乗車など、環境に配慮した行動を取
チャレンジすることになった。同市の特徴と強みで
るとICカードに電子マネーが貯まる仕組みであ
ある
「交通」
「産業」
「森林」の3つの分野に、情報発信
る。貯まった電子マネーは、環境に配慮した製品と
水素と酸素を反応させて電気を起こし、その電気
かされており、これが大きな特徴となっている。参
の場としての「都心」、各分野の支えとして「民生」を
交換することができるほか、植樹への寄付に使うこ
でモーターを回して走るのが燃料電池自動車であ
加者は、「HEMS」の操作を実際に体験することが
加えた5つを重点的な取り組み分野と位置付け、こ
とができる。
る。排気ガスやCO₂を一切排出せず、従来の自動車
できた。 豊田市は2009年、国から「環境モデル都市
れらを融合させることで新たな価値を創出しようと
している。
「交通」分野における代表的な取り組みとしては、
14
「スマートモビリティパーク」
を見学する参加者
として、2012年5月に開設された。低炭素なまち・
スマートモビリティパーク
低炭素社会モデル地区「とよたエコフルタウン」
「水素ステーション」
の説明を受ける参加者
に比べてエネルギー効率が倍以上高い。燃料電池自
動車に水素を供給するガソリンスタンドのような施
設が水素ステーションである。
環境負荷の低減などを目指した公共交通の利便性の
は、低炭素社会実現に向けた豊田市の様々な取り組
国内外の自動車メーカー各社は、2015年に本格
向上がある。
「基幹バス」と呼ばれる走行距離が長い
みを国内外に分かりやすく紹介する情報発信拠点
的に燃料電池自動車の販売を始める予定で、それに
〔経済広報〕2014年5月号
可能となる。スマートハウスには、最新のテクノロ
ジーだけでなく、日本家屋の伝統的な匠の技術も生
k
注1 地球温暖化問題に対して高い目標を掲げ、低炭素社会
の実現に向けて先駆的な取り組みにチャレンジする都
市として国が認定した都市
注2 electric vehicle
(電気自動車)
注3 plug-in hybrid vehicle
(プラグインハイブリッド自動車)
(文責:前 国内広報部主任研究員 塩澤 聡)
2014年5月号〔経済広報〕
15
経済広報センター活動報告
経済広報センター活動報告
グローバル人事制度
―企業再編と制度改革
ターを務めた。参加者は約80名。
する世界となった。こういった人材像を求めた結
果、2013年の大卒新卒採用の6割が外国人となっ
ローバル化に対応してきた。
た。日本人にグローバルマインドセットを持たせる
タイトル、評価、報酬制度を
ため、外国人を身近なところに配属し、日常の職場
一元化し、国境を超えた適材
環境自体をグローバル化させる方法も採っている。
適所の配置、研修プログラム
経済広報センターは、3月7日に日独の研究者と企業関係者によるシンポジウム
「グローバル人事制度―企
業再編と制度改革」を開催した。早稲田大学大学院商学研究科ビジネススクールの大滝令嗣教授がモデレー
過去5年以上にわたり、人
事戦略は事業に合わせてグ
の再編を実施した。人事部門
にも、グローバル・マトリックスの運営
(機能別の
八木洋介(やぎ・ようすけ)
(株)LIXILグループ 執行役副社長
グローバルヘッドと地域ヘッドを置く)を適用して
「世界一」を
「勝ち」の定義と
いる。
基調講演
フランツ・ヴァルデンベルガー
ミュンヘン大学 経営学部 日本センター 教授
日本では、「内部労働市場」
し、2011年 ご ろ か ら 海 外 M
般化)を原則とし、個別判断でローカルの最適化(例
&A
(企業の合併・買収)を始
会社モデルによりビジネスだけ国際化し、組織のグ
外設定)
、②グローバルに俯瞰し日本もその一部と
めた。
「国境のない経営」
「ダイ
ローバル化を避ける方法があるが、これが採り得る
認識、③グローバル化の対象領域をビジネス特性に
バーシティ促進」
「世界共通の
分野は限られ、グローバル人材の確保も困難だ。結
応じ選定、④対象領域の人事制度は、共通の制度で
仕組み」
(厳格な制度でマネー
論的には内部労働市場自体を改革するしかない。す
一元化、⑤コア人材は国籍を問わず適材適所で育
ジするのではなく、制度は基
(日本本社採用の新卒男性社
なわち、採用地に関係なく優秀者を平等に扱い、グ
成。以上により、社員目線でもグローバルな整合性
本的でシンプルなものにとどめ、できるだけ現地
員を優先し、終身雇用で内部
ローバル業務の機会を与え、昇進機会を提供すると
を保ち、出身などにかかわらず同様に大切に扱うこ
に裁量権を与える)、「グローバル人材育成」
「リバー
昇進させる構造)がグローバ
いう、キャリアパスレベルの制度統合だ。これによ
とが重要だ。
ス・イノベーション」(世界中から革新を取り込む)
ル化を阻んでいる。
り、ホームバイアス
(日本偏重)
の克服、グローバル
輸出や対外直接投資残高の
シェアの変化から見て、日本
はこの20年間で世界の成長を従来の半分しか取り
な組織統合、グローバルマインドの育成、の3つを
同時に達成できる。
その実現には、経営陣の強いコミットメントと、
がグローバル経営哲学だ。
江上茂樹(えがみ・しげき)
三菱ふそうトラック・バス(株)
人事担当常務 人事・総務本部長
日本的な公平&継続の経営
(公平性、横並び、空
気感、経験重視、空気を読む協調性、コンセンサ
ス)では
「勝つ」経営は不可能だ。先見性、圧倒的
込めていない。日本の研究開発費の対GDP(国内
英語力、留学経験やグローバルキャリア志向を条件
2003年にダイムラー傘下と
総生産)比率やグローバル特許出願件数、教育レベ
とした採用基準への変更が必要だ。統一した採用基
なり、幹部10人のうち、日本
ルはトップクラスだが、その実力が十分生かされて
準やキャリアパスを適用し、グローバルプロジェク
人は現在4人のみ(外国人社
日本は世界一のフォロワーの国だが、リーダーが
いない。この理由を「日本文化の特殊性」に求めるの
トに関与させる。結果として、社員自身がキャリア
員は出向受け入れ含め約110
不在だ。リーダーは、変化を読み
(勉強しプロにな
は誤りであり、真因は日本的な内部労働市場にあ
のオーナーシップを持ち、中途採用が活性化し、終
人)。外資系となった環境に
る)
、グローバル視点を持ち、強い意志・価値観を
る。
身雇用を前提としない労働市場が実現できる。
な実力、技量、勇気で決断し責任を取る
「リーダー
シップ」の体制が必要だ。
いかに適応していくかが日本
持つべきだ。自立・自律・自発を培うため、軸
(価
日本企業には
「文化革命」
に近いハードルだが、こ
人社員のテーマだ。自分自身
値観)と知恵
(プロ)を持ったリーダーを育てる。
「演
中途採用者の処遇は低く、優秀な人材の流動性を阻
れにより、会社と社員の関係はウイン・ウイン追求
も、プレゼンテーションの仕方
(事実に基づくロジ
じる」
(困難な変革でも簡単と思い演じるうちに本物
んでいる。これにより日本企業の雇用の魅力は下が
型となり、ビジネスに加え組織もグローバル化し、
カルな説明が必要)、コミットメントベースの文化、
になる)ことも重要だ。
り、グローバル志向でない人が採用されとどまるこ
日本のトップは内部昇進することが多く、また、
ダイバーシティも進む。特に、グローバル化が遅れ
積極的な自己アピールの必要性など、適応するまで
とになり、結果としてグローバル人材の争奪戦に敗
ている人事部門の抵抗が考えられるが、人事部門の
には苦労した。もちろん、適応するまでには、
(グ
を育て、「勝ち」を定義・周知し、戦略をストーリー
れる。人事制度や企業文化は国内外に二分され、外
グローバル化が実は最重要だ。管理ではなく経営戦
ローバル環境への)反発・対立もあったが、結果と
として語ることが大切だ。また、「さぼらせない」オ
国人や現地人の発言力や忠誠心も低下する。日本人
略の観点を、人事部門に導入すべきだ。
の海外駐在者も日本ばかりに目を向け、現地人の信
認も得にくく、シナジーが発揮できない。
この課題への対応として、フランチャイズや持株
山西 均(やまにし・ひとし)
野村ホールディングス(株)
グループHR企画室長
〔経済広報〕2014年5月号
人事戦略では、自ら決めるトップリーダー(社長)
して、「必ずしも日本の方法がベストとは限らない」
ペレーション・メカニズム、適切な組織スパン・階
グローバル化は必須の課題であり、少子高齢化と
という学びを経てグローバル化に対応できたと考え
層、ストレッチ(差をつけ、できる人を伸ばす)の仕
雇用問題の改善にも繋がる。日本が持つ潜在力を世
ている。管理職人事制度のグローバル化にも当然反
組みを整える。
界で活用するためにも、ぜひ進めていただきたい。
発もあったが、結果的には組織のスリム化や効率
組織・制度面では、日本中心ではない真のグロー
化、評価の透明性といった大きなメリットも享受し
バルHQ(headquarters)を目指し、M&A後も基本
た。
的には日本人は送らない。人材登用は内部活用を基
プレゼンテーション
16
基本的な考え方は、①グローバル
(全体最適、一
ホールセール分野(主に機関投資家・事業会社を
求められる人材像も変化した。多様な価値観の人
本とし、勝つために必要なら外部採用も行う。最大
顧客とする)での制度運営上の課題・対応を紹介す
を受容できるオープンさが重要。制度も、学歴や
の課題は日本人のグローバル化だ。年功序列などの
る。
年齢、国籍、性別に関係なく、実力で評価・配置
日本的制度は廃し、シンプル化する。そのための組
2014年5月号〔経済広報〕
17
経済広報センター活動報告
ANGLE
織改編や基盤の統一・共通化を推進中だ。
広報担当者は情報参謀として
コミュニケーション戦略の司令塔であれ
ディスカッション
トップがコミットしない場合の仕掛け
八木 「自分の周りをきれいにする」。アウトプット
を徹底的に出して結果を見せればトップも認めざる
を得ない。自分で動けば(自発)トップも動く。
年、広告代理店の広報事業へ
近
屈折率の高いコミュニケーション方
を揃えて)トップを説得するのみだ。
の進出が目立つ。広報の専門
法に頼らなくても、自社の発信した
山西 小さなウインを取りにいくのではなく、物事
部署を強化したり、老舗PR会社
い情報を時間やスペースの制限なく
を変えるために必要なポイント・道具立てを自分な
と資本提携したり、PR賞・グラ
直接ステークホルダーへ伝えるツー
りに把握し、大きな変化と共に迅速に行動すること
ンプリを受賞するなど、広告と連
ルが増加したことで、広告と広報の
動した広報戦略を活発に展開して
境界が曖昧になったのである。
江上 方向性が異なる場合は、自分で見せて(武器
が大切ではないか。
流動性か、内部育成か
マネジメントかリーダーシップか
会場 マネジメントとリーダーシップを混同し管理
主義に偏るリーダーが多い。また、ロジカルでオー
ヴァルデンベルガー ドイツでは、上の階層ほど転
プンな議論の上のコンセンサス形成はよいが、それ
職しやすく、上に不満があれば外に出ていける。日
ができないのが日本企業の課題だ。
本でも流動性を高められるはずだ。
八木 内なる秩序のためではなく、外で勝つために
大滝 年功序列では上の人間はポストを放したがら
すべきことをする。判断・決断不在のコンセンサス
ないし、権限を振るおうとする方向に働く。下も顔
志向は有害だ。リーダーが徹底的に考え価値判断の
色をうかがうため時間がかかる。
基準を持てれば、世の中の動きが読める。
八木 流動性以前の問題として、内部でプロを育て
江上 ドイツ企業はマネジメントが強く、組織やス
ることが重要だ。真のプロを育てず外部市場に期待
テークホルダーも複雑で意思決定に時間がかかると
するのはおかしい。
いう面は日本に似ているが、徹底的に考えビジョン
M&A先の人材の評価・活用
八木 M&A先の経営陣も日本やグローバルの戦略
に関与できる体制や、階層ごとにグローバルトップ
100人を選び徹底的に評価し、いい人材を引き上げ
る仕組みを考えている。
グローバルHQの在り方
を持つ点が日本と違う。
八木 「ドイツ的」
「日本的」
にこだわらず、経営者が
自分らしい経営をすればよい。
人事部門の国際化の遅れ
ヴァルデンベルガー 人事部門は労務などを除きグ
ローバル化が必要だ。
山西 日本の制度を海外に持ち込むのは無理で、制
ヴァルデンベルガー ドイツでも最終意思決定機関
度がグローバル化すればサポートする人事部隊も変
を国外に置くまでには進んでいない。
わらざるを得ない。
山西 業務の最適化や適材適所を考慮して、グロー
江上 人事は国籍に関係なく成果が出せる人がやっ
バルマーケッツ部門や人事の一部機能はロンドンに
ていい。むしろ多様化により新しい角度からのレ
グローバルヘッドを置いている。
ビューもできる。
江上 リージョンとしてのくくりや、国をまたぐオ
いる。
特にマーケティング分野で、ウェ
もともと製品広報とマーケティ
ング広告は、IMC(統合的マーケ
ティングコミュニケーション)とし
て関係が深かったものの、それで
も広報と広告は一線を画していた
はずである。実務的な最大の違い
は言うまでもなく、企業とステー
クホルダーの間に記者の視点が介
在することだ。広報実務の醍醐味
は記者との丁々発止のやり取りと
信頼感の醸成であり、各記者の屈
折率を勘案しながらボールの投げ
ブサイトや企業ブログは
「オウンド
駒 橋 恵 子
(こまはし・けいこ)
東京経済大学
コミュニケーション学部 教授
慶應義塾大学大学院修士課程修了、
修 士( 経 営 学 M B A )。 東 京 大 学 大
学院博士課程修了、博士(社会情報
学)
。 東洋経済新報社、日経ホーム
出版社(現日経BP)、金融財政事情
研究会勤務などを経て、2004年、東
京経済大学コミュニケーション学部
助教授。2013年より現職。日本広報
学会常任理事。
メディア」と呼ばれ、従来型広告の
「ペイドメディア」と並んで重視さ
れるようになった。ウェブサイトや
企業ツイッターは概念的には広報業
務だが、記者が介在せず自社のメッ
セージをステークホルダーへ直接伝
えられるという意味では、広告業務
と変わりはない。広告代理店が自社
のノウハウを生かして進出してくる
のは必然的な流れといえる。しかも
方を工夫するという、専門性の高いコミュニケー
最近、若者のテレビ・新聞離れは激しく、報道記者
ション力が求められた。自社情報の露出を増やした
の調査記事よりも情報番組やタイアップ記事が収益
い広報担当者と、スクープは取りたいがリーク情報
的に重視されるようになり、メディアの側もジャー
を丸のみしたくない記者との駆け引きは、トップの
ナリズムの気概が低下している。
意向や社員のモチベーションとも相まって、高度な
しかし本来、広報業務はメディアリレーションだ
合わせ技が要求された。だからこそ広告業務のよう
けではない。広報責任者は企業の情報参謀として
な予算も華やかさもなくても、広報担当者は矜持を
トップの経営戦略と連携し、社内外のコミュニケー
保っていたのだと思う。
ション戦略を統括していくべき立場にある。社会の
きょうじ
近年、広告と広報の融合の動きが目立つのは、メ
動きを広聴し、社員と理念を共有し、トップメッ
ディア環境が変化したからだろう。ウェブメディア
セージや企業・製品の情報を発信していく戦略的な
が普及し、パソコンや携帯電話の企業サイトが増
「コーポレート・コミュニケーション」が求められる
八木 国際化以前に、経営に貢献できているか、勝
え、製品やイベントの情報サイトも乱立し、SNS
はずだ。不祥事や災害に伴う危機管理、資本市場の
(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用
グローバル化によるIR、企業理念の浸透、従業員
ペレーションも生まれつつあり、ヘッドが東京にな
ちに貢献できる制度か、変革を妨げていないか、を
した消費者との相互コミュニケーションも活発化し
の情報共有とコンプライアンスの徹底など、戦略的
くてもいい場合が出てくる。
人事は常に自問すべきだ。違和感があれば徹底的に
てきた。記者にニュースリリースを読んでもらおう
な広報業務が注目される時代である。広報部門は総
八木 リーダーシップチームのメンバーが一カ所に
分析し、すぐに直す。これができれば国際化は自ず
と四苦八苦しなくても、ウェブサイトに掲載すれば
合的なコミュニケーション戦略の司令塔として、メ
いなくてもよいが、HQには自ら意思決定できるプ
と進む。 消費者や投資家が直接アクセスしてくれるし、記者
ディアリレーション以外の分野にも次元の高いリー
ロがいないと卓越した経営はできない。
k
(文責:国際広報部主任研究員 田中 勲)
会見の内容が記事にならなくても、動画サイトで全
容を配信することもできる。つまり、記者を介した
18
メディア」
、SNS関連は
「アーンド
〔経済広報〕2014年5月号
ダーシップを発揮してほしい。それこそが本来の
「広報」の原点である。 k
2014年5月号〔経済広報〕
19
2月22日~ 3月18日
NEWS
Keizai Koho Center News
2
/
24
24 ~ 28日 の 日 程 で
「ア
で第4回
「未来都市モデルプロ
と制度改革」を開催した。
(詳細は、
ついて説明した。参加者は約100
カッションおよび質疑応答を行っ
ジェクト見学会」を開催した。
(詳
本誌16ページを参照)
名。
た。参加者は約60名。
3
/
10
3
/
13
細は、本誌14ページを参照)
2
/
28
「企業と生活者懇談会」
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・
コンサルタントの川村秀
を日本取引所グループの
樹氏を講師に迎え、KDDIホー
東京証券取引所(東京都中央区)
で
ルで講演会「緊急時 経営者が持つ
開催し、社会広聴会員28名が参
べき広報活動の視点」を開催した。
加した。
参加者は約80名。
セアン研究者招聘プログ
る
「意見広告」
を掲載した。
3
/
14
3
/
17
3
/
18
マ ク ロ 経 済、 金 融、 農
業、ビジネスの各専門家
向け実践フォーラム・交
を講師に迎え、シンポジウム
「中
流会」を開催した。講師はウィズ
国でのビジネスチャンスは中国が
ワークス
(株)ナナ総合コミュニ
直面する課題の中にある~どうな
「欧州債務危機からの脱
ケーション研究所の豊田健一主任
るかを問うな、どうするかを語れ
出-安定に向けた機構改
研究員。豊田氏が
「社内コミュニ
~」を開催した。SMBC日興証
革」のテーマで、
「欧州経済動向に
ケーションが活性化する効果的な
券の肖敏捷氏、農林中金総合研究
米国ピッツバーグ在住
関する講演会」を開催した。EF
メディアミックスとは」のテーマ
所の阮蔚氏、日本貿易振興機構の
のデニス・アンコヴィッ
C
(欧州連合経済財政委員会)の
で講演した後、9つのグループに
清水顕司氏が講演した後、キヤノ
アン経済統合に対する各国の基本
姿勢およびその背景」
のテーマで、
史副主任研究員を迎え、講演会
ク弁護士の来日の機会を捉え、講
トーマス・ヴィーザー委員長が、
分かれ、グループごとにモデル企
ングローバル戦略研究所の瀬口清
シンポジウムを開催した。同志社
「ブラジル経済・産業の現状と課
演会
「中国企業とのつき合い方」を
債務危機の経緯と反省を踏まえた
業1社を決め、社内報とウェブを
之研究主幹をモデレーターにパネ
大学の寺田貴教授がモデレーター
題」を開催した。出席者は約120
開催した。同氏は、昨今の中国企
制度的対応、その効果と経済見込
中心にしたメディアミックスで、
ルディスカッションを行った。参
を務めた。参加者は約100名。
名。
業の動静、日本企業との比較も含
みについて説明した。その後、慶
どのように社内コミュニケーショ
加者は約220名。
めた中国企業との交渉時の注意点
應義塾大学経済学部の嘉治佐保子
ン活動を設計するかを議論し、そ
教授をコメンテーターにディス
れぞれのチームが発表を行った。
2
/
26
インターブランドジャ
パンの小牧功ストラテ
ジーディレクターを講師に迎え、
3
/
6
日 本 貿 易 振 興 機 構・ ア
ジア経済研究所の二宮康
「企業評価の際の情報
や外国企業にとっての中国におけ
源」や「企業評価の際の情
る今後のビジネスチャンスなどに
報発信者の信用度」などを調査し
ついて講演した。参加者は82名。
「ブランドコミュニケーションが
た『第17回 生活者の
“企業観”に
もたらす影響を、如何に測り、マ
関する調査報告書』を発行した。
3
/
13
東京大学先端科学技術
ネジメントするか」と題して「企業
( 詳 細 は、http://www.kkc.or.jp/
広報講座
(第6回東京会場)」を開
data/question/00000093.pdf を
教授を講師に
「第2回イスラム勉
催した。参加者は約70名。
参照)
強会」を開催した。今回は、
「アラ
2
/
28
愛知県豊田市の豊田次
世代エネルギー・モビリ
ティ都市(とよたエコフルタウン)
〔経済広報〕2014年5月号
3
/
7
PR・IR・危機管理
研究センターの池内恵准
ブ世界の政治変動:
『アラブの春』
20
優れた理工系人材」と題す
「第3回広報実務担当者
3
/
4
ラム」を実施し、27日には「アセ
3
/
11
日本経済新聞に
「育て!
参加者は52名。
6月号
定価:1300円
(税込)
編集・発行
株式会社宣伝会議
日独の研究者と企業関
は今どうなっているのか」と題し
係者によるシンポジウム
て、
「アラブの春」
以降の中東・北
月刊「広報会議」読者サービスセンター
TEL:0120-55-5059
「グローバル人事制度―企業再編
アフリカ諸国の現況と見通しに
インターネットからもお申し込みいただけます。
購読申込
http://sendenkaigi.com/
k
(国内広報部 岡本清美)
[巻頭特集]広報パーソンの登龍門
専門メディアに注目せよ
[青山広報会議]
日本食糧新聞×繊研新聞×化学工業日報
[特集]
B to B企業の広報手法
2014年5月号〔経済広報〕
21
法
律
と
広
報
2
GLOBAL PR 4
訴訟に関する広報――
法律的検討と戦略的検討
国子会社に対し、米国連邦裁判所で訴訟が提起された、また、判決や和解により訴
るが、その主な理由として、以下の
日本企業による
国際的M&Aの成否
例が挙げられる。
◦従業員が、不安を感じたり混乱し たりするため、業務に集中できな
い
訟が決着ないし一段落した――これらの事実について、企業広報がリリースを出す
◦従業員にとっては、M&Aの目的
ことがある。そこで、このような訴訟に関連した広報についての法的留意点を幾つ
か紹介してみよう。
まず、上場企業の場合、当該訴訟提起が投資者の投資判断に重要な影響を与える
事実に該当して、適時にこれを開示する義務を負うことがある(例えば、東証の有
のぞみ総合法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士
ゆうき・だいすけ
1995年司法試験合格、1996年東京大
学法学部卒業、2010年米国南カリフォ
ルニア大学ロースクール
(LL.M.)修了。
1998年弁護士登録
(第二東京弁護士
会)
。2012年米国ニューヨーク州弁護
士登録。2000 ~ 02年日本銀行出向。
2008年から韓国ソウル、米国ロサン
ゼルス、ニューヨークの法律事務所
にて執務後、2013年11月帰国、のぞ
み総合法律事務所に復帰。
[email protected]
価証券上場規程第402条以下)
。この場合は、法務部門と連携の上、適切なタイミ
ングで必要な内容を開示することが重要である。
一方、開示義務を負う場合でもそれ以外でも、訴訟に関する情報発信を行うこと
がある。マスメディアの取材を受けてコメントする、記者クラブへの投げ込みをす
る、自社のウェブサイトでのみリリースを出すなど、態様は様々であろう。
いずれの場合も、「法律的検討」
と
「戦略的検討」
の2つの観点から検討すべきであ
る。
「法律的検討」としては、相手方に対する名誉毀損、信用毀損、業務妨害などの不
法行為に該当しないようにする、また自社や相手方の営業秘密や秘密情報を開示し
ないようにする、といった点が重要である。
例えば、名誉毀損は、相手方の名誉すなわち社会的評価を低下させるような表現
行為をすることによって成立する不法行為であり
(犯罪行為でもある)
、個人・法人
のいずれに対しても成立する。そして、社会的評価を低下させる表現であっても、
表現された事実に公共性があり、表現の目的に公益性があり、かつ、表現事実に真
実性があるか、真実でなくとも真実と信じたことにつき相当性が認められれば、名
誉毀損は成立しないと考えられている。具体的には、例えばA社が、
「B社が当社の
特許権を侵害したので、損害賠償を求めて訴訟を提起した」
旨の広報発表をすれば、
それ自体はB社の社会的評価を低下させる内容であるため、一時的・形式的にはB
社に対する名誉毀損となる可能性がある。それが不法行為や犯罪行為とならないた
めには、公共性・公益性・真実性ないし相当性が必要となるが、特許権を侵害され
たため訴訟を提起したという内容には通常、公共性・公益性が認められる、つま
り、ポイントは、発表内容が真実に合致しているか、仮に結果として真実に合致し
ない部分があっても、その発表内容が相当な根拠(証拠)に基づくものであったか、
という点になる。
法律的検討はここまでであり、社内の法務部
(あるいは外部の弁護士)
により分析
されるだろう。ただ、広報としては、より一歩踏み込んだ訴訟広報の在り方を「戦
略的に」検討することになる。例えば、大型で複雑な訴訟であれば、第一審の判決
が出るまでに1年を超えることも珍しくなく、数年を要することもままある。とな
ると、勝訴を待って自社の立場を明らかにするのではあまりに時間がかかり過ぎる
ため、例えば提訴のタイミングで、いかにして自社の立場が正しく、相手方の主張
が不当かという点をうまく世の中にアピールすることが重要となる。相手方から名
誉毀損だと言われず、訴訟にも悪い影響を与えることのないように、法的分析を踏
まえつつ、その時点でどこまで「攻め」のリリースを出せるか、である。企業広報
は、訴訟での戦いに集中する訴訟担当弁護士とは異なる感覚も取り入れて、自社の
ビジネスやイメージにプラスをもたらすリリースを検討してほしい。 22
〔経済広報〕2014年5月号
においても、締結直後は生産性が落
ち、創出される価値の低下が見られ
自社がライバル企業に対し、特許権侵害で訴訟を提起した、あるいは、自社の米
結 城 大 輔
値の創出に意義がある。どのM&A
k
ロス・ローブリー アジア太平洋地域における2013
年1月から2014年3月上旬までの
M&A
(企業の合併・買収)件数は
438件で、そのうちの80%以上に日
本企業が関わっている注。2012年と
比較すると、取引件数は減少したも
のの、アベノミクスの金融緩和政策
エデルマン・ジャパン(株) 社長
複数の証券会社で上級管理職を経験した
後、PR業界に入り、ギャビン・アンダー
ソンのマネージング・ディレクターとし
て、M&Aや外資系企業の日本市場参入
キャンペーンなどを手掛ける。プラップ・
ジャパン専務取締役兼最高執行責任者を
経て、2010 年より現職。
の影響を受けてか、あるいは、人口
よりも、今後自身が置かれる環境
の方が気になる
◦会社の将来に不安を感じ、優秀な
人材が転職を考え始める
◦従業員が顧客に対して、M&Aの
意義を十分に説明できない
◦従業員が自分の上司や経営者から
ではなく、外部のメディアから情
報を入手し、それをうのみにして
しまう
減少による内需の縮小を補填するためか、日本企業
買い手企業はターゲット企業の経営陣と密接に連
によるM&Aは増加傾向にある。日本企業は何を得
携し、従業員の懸念を払拭するために、エンプロ
ようとしているのだろうか。
イー・エンゲージメント・プログラムを構築する必
サントリーが今年1月に米ビーム社の買収に踏み
切ったように、日本企業はいま欧米の優良企業の買
要がある。そして、これは双方において迅速に遂行
されなければならない。
収を狙っている。そのような、特に象徴的なブラン
ドを買収する際には、ターゲット企業の株主に自社
を理解してもらうだけでなく、従業員、顧客、コ
ミュニティーに、合併が利益をもたらすことを納得
してもらわなければならない。
日本国内の大手企業でも、海外での知名度は低い
ことが多く、M&Aの発表時には、取引についての
重要な要素や、戦略的根拠、あらゆるステークホル
ダーにとっての利益を、グローバルなオーディエン
スに伝えなければならない。買い手企業の株主には
買収が彼らの利益になることを伝え、一方、ター
綿密に練られたM&Aに伴うコミュニケーション
ゲット企業の株主には適正価格であることを伝える
戦略は、国際市場における日本企業の認知度を向上
という、巧妙なバランスが必要となる。また、工場
させるだけではなく、従業員に合併後の新たな企業
閉鎖や解雇による効率化を連想させることは、従業
理念を植え付けることができる。それができて初め
員やコミュニティーに不安を抱かせる。重要なオー
て、合併前よりも企業価値を向上させるという双方
ディエンスが報道を通じて初めてその事実を聞かさ
の目的が達成できるのである。
れるということは、あってはならない。全てのス
日本企業による国際的なM&Aが成功するか否か
テークホルダーに向けた入念なコミュニケーション
は、新たな企業理念において、どれだけ迅速に従業員
が必要なのである。
とのエンゲージメントを確立できるかにかかってい
る。従って、M&A後のコミュニケーションは、M&
エンプロイー・エンゲージメントの重要性
しかし、さらに大変なのはM&A締結後である。
M&Aは、双方が別々の企業であったとき以上の価
Aの成否を左右する極めて重要なものである。 k
注 M & A に 関 す る 情 報 と 調 査 サ ー ビ ス を 提 供 す る マ ー
ジャーマーケット社の調査結果による
2014年5月号〔経済広報〕
23
企業広報ニュース
企業広報ニュース
富士フイルムは、ヘルスケアから高機能材料まで
アサヒビールは、ゴールデンウィーク期間
社内報
・
イントラネット
幅広い事業を展開している。コーポレートコミュニ
広 報
中の土・日曜日と祝日に、小学生とその家族
ケーション室では、グループ全てのステークホル
トピックス
を対象に工場見学イベントを同社の全8工場
企業価値の向上に
寄与することを目指して
企業価値の向上に寄与することを目指している。ま
ダーを意識し、社内外に向けた広報活動を通して、
質やタイミングに応じて紙媒体の社内報とイントラ
ネットを活用し、世界各地の従業員に対してグルー
プの方向性や事業に関する情報を日本語と英語でタ
イムリーに伝えている。また従業員の成功体験や商
品開発秘話など、各自が会社や自社製品に愛着を持
ち、元気に働けるような情報発信も重視している。
『Fujifilm World』は、海外現地法人や取引先を含む世界約100カ国の“Fujifilm Family”に対
して発行している。特に人気のコーナーは、様々な地域・事業の成功事例を紹介する「Case
Study」。
「異分野の取り組みから学ぶことが多い」
「事業の幅広さがよく分かる」
と好評だ。
イントラネットでは昨年、新しいコンテンツとして
「Check !元気な仲間たち!」をスタート
させた。これは、スポーツで国際大会に出た人など、職場外で活躍する人たちを紹介するコー
ナーで、海外現地法人からも「こんなすごい人がいるので取り上げてほしい!」
というリクエス
トも多く、グループ内コミュニケーションの活性化に大いに役立っている。 教育支援
田・四国・博多工場)で開催する。
このイベントは2009年より毎年、テーマを
変えて実施している。今年のテーマは
「アサヒ
クイズツアー 2014 ~秘密の数字を探し出そ
う!~」
。ビールの製造工程を学びながら、見
学中に出題されるクイズに答え、家族で協力しながらキーワードの数字を探し当てていくとい
う内容で、親子で楽しく参加できるツアーとなっている。見学終了後には、保護者は現地工場
で出来たてのビールを、子どもは清涼飲料水を楽しむことができる。
毎年多くの小学生とその家族が参加しており、「子どもも大人も一緒によい思い出になった」
と好評だ。大型連休期間を利用した新規来場者の誘致を図っており、今年は全8工場で約
9400名の参加を見込んでいる。
アサヒビールは、親子で楽しめるイベントを通じて、大人から子どもまで幅広い層にアサヒ
グループのファンとなってもらえることを目指している。 k
k
(富士フイルムホールディングス(株) 経営企画部 コーポレートコミュニケーション室 板垣菜々)
(国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
信託協会では、社会一般の信託に対する理解を深
めるために、講師派遣をはじめ、大学への講座の寄
付、各種刊行物の配布などの活動を行っている。主
な内容は次のとおり。
①講師派遣
一般消費者グループ、消費者センター、大学など
が行う勉強会、研修会、授業に対して、無料で講師
を派遣している。そのテーマは、信託の仕組みや信
託銀行などの業務、各種の信託商品の内容や相続・
遺言、信託法など、様々であり、要望に応じて対応
している。
②寄付講座
信託の観念の普及と信託研究の振興に資するため、昭和62年以降、大学への信託法講座の
寄付を行い、大学における信託法の教育・研究の振興に取り組んでいる。現在、東京大学(平
成10年度より)、早稲田大学(平成8年度より)
、慶應義塾大学
(平成25年度より)に講座を寄付
している。
③各種刊行物などの配布
信託制度やライフスタイルに合わせた信託の利用方法、各種の信託の仕組みなどを紹介する
リーフレット・パンフレット(「日本の信託」
「やさしい信託のはなし-暮らしと信託-」
「
(同)
-
遺言と信託-」
「公益信託」
「特定贈与信託」
「後見制度支援信託」
「特定寄附信託」
「教育資金贈与信
託」)を作成し、配布しているほか、信託制度の概要や日常の暮らしの中で信託がどのように関
わっているかを紹介するDVD「やさしい信託のはなし~信託のしくみと役割~」
を作成し、無
料で貸し出しており、これらを協会ホームページでも閲覧・視聴できるようにしている。
k
(
(一社)
信託協会 総務部次長 兼田憲政)
同書は、1994年から市販化され、今回で21回目の刊行とな
る。多様化する情報メディアを産業として分析するとともに、
その利用動向を分かりやすく一覧にしている。
2014年版は「特集Ⅰ」
「特集Ⅱ」のほか、「情報メディア産業の
動向」と「情報メディア関連データ」から成る。
「特集Ⅰ」の「変化が明らかになったオーディエンスのメディ
ア接触行動」では、
「イエソト」(自宅外)でのメディア行動を「街
中」や
「電車・バス内」など、7つのシーンに分けて分析してい
る。その分析結果から、接触率と接触時間では、屋外の最大の
リーチメディアはスマートフォンであり、オーディエンスの一
番の情報源となっていることが分かる。
「特集Ⅱ」の
「新しいメディアの潮流」では、メディア・IT業
界の動向やソーシャルメディアにおけるLINEの台頭などを
分析している。
「情報メディア産業の動向」では、新聞、出版、音楽、地上放 電通総研 編、
送など、情報メディア産業を13分野に分類し、メディアごと ダイヤモンド社
にマーケットを分析している。例えば新聞について見ると、広 2014年2月発行、
(税別)
告収入は10年間の減収傾向が打ち止めとなる一方、総売上高 1万6000円
や発行部数の減少は止まらず、新規読者の開拓や電子有料サー
ビスの拡充が課題として挙げられている。
どのメディアに露出すれば、どのオーディエンスにどのようにリーチすることができるか、
広報担当者にとって便利な一冊だ。 k
(国内広報部主任研究員 鈴木恵理)
〔経済広報〕2014年5月号
Book
『情報メディア白書
2014』
信託協会の
金融経済教育支援
24
アサヒビールが親子で
楽しめるイベントを開催
ず社内コミュニケーションの面では、ニュースの性
( 北 海 道・ 福 島・ 茨 城・ 神 奈 川・ 名 古 屋・ 吹
2014年5月号〔経済広報〕
25
2014
5
企業・団体のCSR活動
岩谷産業の
「
『住みよい地球』
全国小学生作文コンクール」
岩谷産業(株)
お問い合わせ先
広報部 TEL:03-5405-5851 FAX:03-5405-5639
HP
http://www.iwatani.co.jp/
http://www.kkc.or.jp/
平成
昭和
年 月 日発行
(毎月 回 日発行)
第
年 月 日第 種郵便物認可
55 26
10 5
23 1
3
1
1
最優秀賞
(高学年の部)
の作文を全校生徒の前で朗読する
受賞者の佐藤美咲さん
(福島県福島市立清水小学校6年(当時))
学校奨励賞を受賞した東京都東洋英和女学院小学部では「水素エ
ネルギー教室」が開催された
海外(米国)の学校を含む617校から5225点(低学年
36
す」を企業スローガンとして、環境に有益な商品や
の部:973作品、高学年の部:4252作品)の応募が
5
開発技術を
「環境良品」と位置付けて、販売目標や研
あり、数回にわたる審査会を経て、最優秀賞3点、
究開発目標を設定し、様々な環境・社会活動を積極
優秀賞6点、準優秀賞11点、佳作30点、努力賞30
的に行っている。
点、学校奨励賞3校、学校特別賞7校が選ばれた。
る。住みよい地球を守るため、また、もっと住みよ
同社は、これまでの応募作品につづられた子ども
くするために、子どもたちの目線で、暮らしのこ
たちの純粋な気持ちに応えるためにも、LPガスや
と、自然のこと、生き物のこと、エネルギーのこと
水素など、クリーンエネルギーの安定供給を通じ
などを、自由な発想やアイデアで表現してもらうこ
て、環境、そして社会に貢献する企業として事業に
とを目的としている。
取り組んでいく考えだ。
k
こ の コ ン ク ー ル は、 同 社 の 創 業80周 年 と な る
2010年にスタートした。第4回を迎えた2013年は、
(国内広報部主任研究員 杉山佳子)
「水素エネルギー教室」で行われた水の電気分解によって発生する水素の様子を
真剣に観察する子どもたち(学校奨励賞を受賞した徳島県松茂町立松茂小学校)
発行:一般財団法人 経済広報センター
Printed in Japan
発行人/中山 洋 編集人/佐桑 徹 [ ISSN 0918–4600
]
東京都千代田区大手町一 三
(本体価格三〇〇円+税)
- 二
- 経団連会館 電話〇三 六
- 七四一 〇
- 〇 二 一 〒一〇〇 〇
- 〇〇四 ( 送料別、賛助会員の購読料は会費に含む)
られ、学校関係者に広く配布されている。
417
号
る
「
『住みよい地球』全国小学生作文コンクール」であ
入賞作品80点は、入賞作品集として冊子にまとめ
号通巻
そのひとつが、全国の小学生を対象に実施してい
巻第
岩谷産業は、
「住みよい地球がイワタニの願いで