「運動方程式を解く」の補足

力学Ⅰ
「運動方程式を解く」の補足
ニュートン力学の完成
→
自然観,世界観への大きな影響
ニュートン力学は,地上世界の運動(リンゴの落下)も,天上世界の運動(惑
星の運動)も同じ物理法則(運動方程式,万有引力など)に従っていること
を示した。
それ以前は,地上の法則と天上の法則は異なると考えられていた。
⇒占星術(星の位置や動きを見て,政治などの重要事項を決めていた)
迷信から自由に・・・<世俗化>
雷によっておへそが取られる
(迷信と宗教は違う)
→
雷は電気現象
因果律(原因−結果)
ニュートン力学の理論では,
r
物体にどのような力 F (x(t ), y (t ), z (t ), t ) が作用するのか分かっているとき,
(
)
r
r
初めの位置 r (0) = (x(0), y(0), z (0) ) と速度 v(0) = v x (0), v y (0), v z (0) (初期条件)
が与えられると,
その後の物体の運動は決定してしまう。
⇒
決定論的因果律
もしニュートン力学が正しければ,宇宙誕生時の全ての粒子の位置
と速度によって,その後の宇宙の運動は決まってしまうことになる。
(粒子の位置と速度が決まれば,力の法則によって,粒子同士に作用する力も決まる。)
しかし,
現代物理(量子力学)の理論では,
ミクロな粒子(原子,電子,素粒子など)は,初めの運動状態を与えたとき,
粒子に作用する力が分かっていても,
その後の粒子がどうのような運動をするかは,確率でしか分からない。
⇒
確率論的因果律
ただし,ニュートン力学の完成によって,
「ある結果にはそれに至る原因がある」
という考え方が確立した意義は大きい。
ある病気(結果)←病原菌,ウイルスなど(原因)
35
力学Ⅰ
物体のつり合い
物体が動かない(運動しない)場合について考える。
2つ以上の力が物体に作用しているとき,物体が動かない条件を考える
問題を「物体のつり合い」という。
ここでは,大きさがある物体についても扱うことにする。
大きさがある物体では,そのまま移動(平行移動)するだけの運動に加えて,
物体が回転する運動を考える必要がある。
(回転運動は,力学Ⅱで詳しく扱う。
)
「つり合う」=「平行移動しない」&「回転しない」
力のつり合い
物体が静止し続けている状態では,速度が
r
ゼロ( v = 0 )で変化しない。
r
dv
= 0 )である。
dt
r
r
r
運動方程式 F = ma より,物体に作用する合力は F = 0 。
r
r
物体に力 F1 , F2 ,・・・ が作用しているとき,物体が平行移動しないために
したがって,加速度も
r
ゼロ( a =
必要な条件は,
力のつり合い:
r
r
F1 + F2 + L = 0
・・・(ア)
が成り立つことである。
力のモーメント(トルク)
=点 O のまわりで回転を引き起こそうとする作用
r
力のモーメントをもつのは,作用点の位置ベクトル r に垂直な力の成分のみ
力のモーメントは,点 O と作用点との距離 r [m]が大きいほど大きい
(てこの原理)→ 作用点を正しく描くことが重要
r
F
重力の作用点は「重心」
(一様な物体ならば幾何学的な中心)
F sin θ
r
点 O のまわりでの力 F のモーメントの大きさ
N = ( F sin θ ) ⋅ r =
F ⋅ r sin θ
O
[ N・m ]
+
θ
r
−
ここでは,反時計回りを正,時計回りを負とする。
(逆にしてもよい)
練習① 点 O のまわりで力のモーメントを計算せよ
N A = − 2.0 [N] × 1.5 [m] = −3.0 [N・m]
N B = 2.5 [N] × 2.0 [m] × sin30° = 2.5 [N・m]
(時計回りに回転する)
FA = 2.0 [N]
A
1.5 [m]
36
O
FB = 2.5 [N]
30°
B
2.0 [m]
力学Ⅰ
作用線が一致していないと,力がつり合っていても,物体は回転する。
r
F1
物体が回転しないための条件は,
r
F1
作用点
力のモーメントのつり合い:
N1 + N 2 + L = 0
・・・(イ)
作用線
r
r
F2 = − F1
が成り立つことである。
(どこか1点のまわりで成り立てばよい。
)
r
r
F2 = − F1
大きさがある物体がつり合う条件は,
(ア)(イ)の両方が成り立つこと。
例題 A 棒の長さ L = 6.0 [m] ,質量 m = 10 [kg] の棒を,壁との角度 θ = 30° で立
てかけた。
(教科書 62 ページ問題2)
① 力をすべて書け ② 力のつり合いの条件式
fw
滑
θ
G
mg
fN
fF
ら
→ f N = mg
床に平行: f F − f w = 0
→ fF = fw
・・・(a)
・・・(b)
か ③ 重心 G のまわりで,力のモーメントのつり合いの条件式
な
L
L
L
壁
fF ⋅
fF ⋅
粗い床
fw ⋅
壁に平行: f N − mg = 0
2
⋅ sin 60° + f w ⋅
2
⋅ sin 60° − f N ⋅
3
3
1
+ fw ⋅
− fN ⋅ = 0
2
2
2
2
⋅ sin 30° = 0
に(a),
(b)を代入
mg 10 [kg] × 9.8[m/s 2 ]
3
3
1
=
= 28 [N]
+ fw ⋅
− mg ⋅ = 0 → f w =
2
2
2
2 3
2 3
(a)より f N = 98[N]
,(b)より f F = 28[N]
例題 B 長さ L = 6.0 [m] ,質量 m = 10 [kg] の棒 AB を,糸と壁との摩擦を利用して,
粗
い
壁
水平になるようにつり合わせた。棒と糸との角度は θ = 30° であった。
① 力をすべて書け ② 力のつり合いの条件式
固定
鉛直: f F + T sin 30° − mg = 0
・・・(a)
糸
水平: f N − T cos 30° = 0
T
fF
G
A
θ
③ 点 A のまわりで,力のモーメントのつり合いの条件式
B
fN
・・・(b)
T ⋅ L ⋅ sin 30° − mg ⋅
mg
L
=0
2
mg
= m g = 10 [kg] × 9.8 [m/s 2 ] = 98 [N]
2 sin 30 °
1
3
(b)より f N = 98 [ N] ×
,(a)より f F = 98 [ N] − 98 [ N] × = 49[N]
= 85[N]
2
2
T =
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力学Ⅰ
仕事と運動エネルギー
r
r
物体の運動を理解する基本は,運動方程式 ma (t ) = F (t ) である。
r
r
物体に作用する合力 F (t ) が分かっても,運動方程式を解いて位置 r (t ) や速度
r
v(t ) を求めることが,数学的に難しいまたは時間がかかる場合も多い。
このような場合に,運動方程式を解いて物体の運動に関する完全な情報が得
られなくても,部分的な情報が分かれば十分という場合も多い。
例:運動の向きは分からないが,速さ(速度の大きさ) v(t ) が分かる
r
r
運動方程式 ma (t ) = F (t ) を出発点にして,新しい関係式を導く。
「エネルギー」に関する関係式である。
他の科目や日常生活でもよく耳にするように,
「エネルギー」という考え方は,
「力学」という分野を超えて,あらゆる自然現象を理解するための鍵となる。
仕事(work)
r
まず,物体に作用する力 F から,
「仕事」という量を導入する。
仕事は,物体がもつ「エネルギー」を変化させる働きをもつ量である。
r
物体に一定の力 F [N]を加えて,力の方向に L [m]移動させるとき,
仕事 W は
F
W = F ⋅L
(「仕事」=「力」×「移動距離」
)
F
L
で表される。
したがって,仕事の単位は[N]×[m]=[N・m]である。この仕事の単位
は重要で,よく使う単位なので,
[
J ]
(
ジュール
)
と名前がついている。
(絶対覚えること!)
練習① F = 3.0[N]の一定の力を加えて,力の向きに L = 20[m]移動させた。
仕事 W は?
W = F ⋅ L = 3.0[N]×20[m]=60[J]
② m = 2.0[kg]の物体が,鉛直下向きに L = 5.0[m]落下した。
F
仕事 W は?
F = mg = 2.0[kg]×9.8[m/s2]=19.6[N]
L
W = F ⋅ L = 19.6[N]×5.0[m]=98[J]
F
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