ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 乳児湿疹(100629) 1 ヵ月の乳児。1 週間前より顔面に丘疹出現。お母さんによると、手を顔に持っていくので痒いと 思うとのこと。四肢や体幹には皮疹無し。発熱無し。ミルクの飲みは良好。まあ、放置しても良くな るので、気にしないという考え方もあると思うが、問題はそんなに簡単で無いこともある。その昔、 自分の子供が乳児湿疹を発症したとき、治療するかしないかで妻ともめたことがある。「治療しな いなら小児科に行く!」なんて言うもんだから、結局治療することにしたのだが(軟膏を出しただけ だけど)、まあ、私にとって小さなことが他の人で同じとは限らないということだ。事情はそれぞれ あると思う。 どんなに軽症であっても、プライマリ・ケアに携わる医師は、「こんな小さなこと?」なんて思わな い方がいい。むしろ、なんでこんなに軽症そうに見えるのに来たのだろうか?なにか悩んでいるこ とが他にあるのではないか?という風に思考を変えるのが診療を面白くするコツと思う。まあ、プ ライマリ・ケア医に本当に心配なことを相談できるかは、日頃の対応にかかっていると思う。「小さ な仕事ができないヤツに大きな仕事は、頼まないもんだゼ!」というカロリーメイトの CM はある意 味、本質を突いていて面白い。(参考文献 1) (以下、大塚製薬ホームページより引用) 先輩:新人君、これもね。 田中:はい… 女性上司:会議の部屋、変わったからね。 田中:はい… 先輩:弁当ぜんぜん足りないよ、大丈夫?? SUPER:小さな仕事だなんて、クサるなよ! SUPER:小さな仕事ができないヤツに大きな仕事は、頼まないもんだゼ! Na:5 大栄養素フルサポート Na:バランス栄養食 カロリーメイト 乳児湿疹に関しては、お母さんもインターネットやら子育て情報誌などでいろいろな情報を得て いることが多いと思う。医師の方に全く知識が無いと、信用失墜の恐れもあるのである程度の基 本は押さえておいてもいいと思う。参考文献 2 ではお母さん向けの基本的な情報が記載されてい る。 ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html 起こりやすい時期 :は 1 ヶ月~2、3 ヶ月。 1~2 ヶ月の赤ちゃんは顔を中心に発疹が出やすく、全く発疹のない赤ちゃんはいないといっ ても良いぐらいなので、神経質になることはない。 顔や頭部(主に顔)に赤い小さな湿疹ができる。 皮膚線の多い頬や額、耳が赤くなったり、皮疹ができる。 季節に関係ない。 痒みのため、寝つきが悪くなったり、ぐずったりする事もある。 湿疹ができてしまった場合は、汗や汚れをこまめに拭き、1 日 1 回は刺激のない石鹸で優しく 洗い、清潔を保つ。 頭や顔についている皮膚や汚れは、入浴時に石鹸を使ってきれいに洗い、ていねいに洗い 流しておくことが基本的な予防と治療 6 ヶ月頃には良くなると言われている。 湿疹が乳児湿疹なのか、アトピー性皮膚炎によるものかどうかの判断は難しい。 成長に伴って湿疹がおさまっていくようなら、アトピー性皮膚炎に結びつく心配はまずないと 考えていい。 欧米では「乳児湿疹」という独立した病名はなく、日本でも乳児アトピー性皮膚炎や脂漏性皮 膚炎、接触性皮膚炎との鑑別が困難なときには、「乳児湿疹」の病名をつける。 良性型:湿疹と湿疹の間が離れているのがこのタイプ。生後 2~3 ヶ月で消失するので、放置 して構わない。 慢性型:アトピー性皮膚炎に変わる傾向が大で、アトピー性乳児湿疹と言って良い。特徴は 赤みが強く、くっつきあって盛り上がり、表面は小さな皮がたくさんむけてくる。 黄色に湿潤傾向を認める場合は脂漏性湿疹。 参考文献 3 は皮膚科医の立場で湿疹に対する意見が述べられている。診断や治療に関して上 記+αの知識は備えておきたい。 乳児アトピー性皮膚炎と診断するためには少なくとも 2 ヵ月以上経過を診なければ確かな診 断はできない。 しかし、顔や頭だけでなく、四肢や体幹に及ぶ広範囲な湿疹や、乳児期に既に幼児期に見ら れるようなドライスキンや関節部位の紅斑・丘疹や糜爛が見られる場合には、かなりアトピー 性皮膚炎の疑いが強くなる。 湿疹=食物が原因と短絡的に考える母親がいまだにいるが、食物アレルギーとは区別して、 食事制限は慎重にさせるべきと考える。 湿疹の治療の基本は、スキンケアと軟膏治療。石鹸の泡と手を使って、擦らず、刺激しない 方法で入浴の方法を指導する。 ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ステロイド外用薬のランクは、乳幼児では学童や成人より低いものから始め、軽快したらさら に弱い薬で維持する。 その他、爪を切ったり、衣類や寝具の注意、掻かせない工夫など、きめ細かい生活指導も望 まれる。 湿疹と食餌療法を短絡的に考える母親がいるとのことなので、関連する論文を読んでみた。参 考文献 4 はアトピー性皮膚炎の乳幼児に対して、むやみに食事制限を行っても効果が無いことを 示している。効果がありそうなのは、食事に対するアレルギーを示唆する証拠があるときなので、 むやみに食事制限と結び付けるのは成長期の小児に対しても良くないことが分かる。やはり、湿 疹→食事という発想では治療に結びつかないし、特定の食物アレルギーは原因を明確にしたうえ での対応が必要ということだと思う。(参考文献 4 はメタアナリシスだが、個別の論文の質が低いこ とが指摘されており、解釈に十分な注意が必要とされている。) There appears to be no benefit of an egg and milk free diet in unselected participants with atopic eczema. There is also no evidence of benefit in the use of an elemental or few-foods diet in unselected cases of atopic eczema. There may be some benefit in using an egg-free diet in infants with suspected egg allergy who have positive specific IgE to eggs - one study found 51% of the children had a significant improvement in body surface area with the exclusion diet compared to normal diet (RR 1.51, 95% CI 1.07 to 2.11) and change in surface area and severity score was significantly improved in the exclusion diet compared to the normal diet at the end of 6 weeks (MD 5.50, 95% CI 0.19 to 10.81) and end of treatment (MD 6.10, 95% CI 0.06 to12.14). There may be some benefit in using an egg-free diet in infants with suspected egg allergy who have positive specific IgE to eggs. Little evidence supports the use of various exclusion diets in unselected people with atopic eczema, but that may be because they were not allergic to those substances in the first place. 参考文献 5 は妊婦/授乳中の母親の食事制限が子供のアトピー性皮膚炎に対して有効かどうか を検討しているが、この判断も慎重にしなければならない。妊娠中の食事制限に関しては支持的 な結果ではないが、授乳中の母親が牛乳や卵を制限することで、子供の湿疹の程度が改善する という論文もあるようなので、こちらは一概に禁止できない。ただ、母親も子供の栄養面を考慮す ると必ずしもお勧めできるわけではない。 The evidence from four trials, involving 334 participants, does not suggest a protective effect of ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html maternal dietary antigen avoidance during pregnancy on the incidence of atopic eczema during the first 18 months of life. The evidence from one trial, involving 26 participants, did not observe a significant protective effect of maternal antigen avoidance during lactation on the incidence of atopic eczema during the first 18 months. One crossover trial involving 17 lactating mothers of infants with established atopic eczema found that maternal dietary antigen avoidance was associated with a nonsignificant reduction in eczema severity. Dietary antigen avoidance by lactating mothers of infants with atopic eczema may reduce the severity of the eczema, but larger trials are needed. 参考文献 6 は授乳中の母親の食事制限にもかかわらず湿疹のある小児に対して、授乳を中止 した場合、症状が改善するかどうかを検討した研究であるが、この論文では授乳を中止した方が 症状スコアを改善するという結果であった。 The mean body length SD score decreased at the onset of allergic disease, and an association was seen between the duration of symptoms and poor growth (r = -.23, P =.04). Some improvement could be achieved by strict elimination diet by the mothers. The atopic eczema improved significantly after breast-feeding was stopped: SCORAD score 20 (range 15 to 27) during and 7 (range 4 to 11) after breast-feeding; t = 5.38, P <.0001, and the relative length of patients increased, in parallel with improved nutritional parameters. CONCLUSIONS: Breast-feeding should be promoted for primary prevention of allergy, but breast-fed infants with allergy should be treated by allergen avoidance, and in some cases breast-feeding should also be stopped. This particularly applies to infants with atopic eczema who also have impaired growth. ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html (参考文献 6 より引用) 症状がひどくなれば、小児科や皮膚科の先生との協力は必要になるケースはあると思うが、多く の乳児湿疹はプライマリ・ケア医が対応可能と思う。小さなことだから気にしないようにという前に、 こちらから色々聞いてみてもいいかもしれない。 「アトピーになるのか心配なのではないですか?」 「同居している姑さんに、子供のことで何か言われませんでしたか?」 「食事の制限のことが気になっているのではないですか?」 「母乳のことで気になっているのではないですか?」 「いつ頃治るのか気になっているのではないですか?」 「家族や親戚に子供を披露するような行事はないですか?」 参考文献 1. 大塚製薬ホームページ http://www.otsuka.co.jp/ 2. 電子母子手帳 Babys http://www.babys.jp/begin/kodomo/trouble/5nyujishisshin.php 3. 馬場直子.皮膚科的異常の診かた-皮膚科より-.小児科診療, 67(6) : 958-962, 2004. 4. Bath-Hextall FJ, Delamere FM, Williams HC. Dietary exclusions for established atopic eczema. Cochrane Database of Systematic Reviews 2008, Issue 1. Art. No.: CD005203. DOI: 10.1002/14651858.CD005203.pub2. 5. Kramer MS, Kakuma R. Maternal dietary antigen avoidance during pregnancy or lactation, or both, for preventing or treating atopic disease in the child. Cochrane Database of Systematic Reviews 2006, Issue 3. Art. No.: CD000133. DOI: 10.1002/14651858.CD000133.pub2. ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html ROCKY NOTE 6. http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html Isolauri E, Tahvanainen A, Peltola T, Arvola T. Breast-feeding of allergic infants. J Pediatr. 1999 Jan;134(1):27-32. ROCKY NOTE http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
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