神経ベーチェット病:Neuro-Bechet Disease(120324)

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神経ベーチェット病:Neuro-Bechet Disease(120324)
多彩な神経症状を呈する女児を診察。鑑別に挙がった疾患の整理。
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ベーチェット病は、1937 年トルコ人の皮膚科医師ベーチェット(Behçet)により提唱された疾患
で、①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍、②皮膚症状(結節性紅斑様皮疹、皮下の血栓性静
脈炎など)、③眼症状(虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎など)、および④外陰部潰瘍を 4 主症
状とする。1)
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本疾患の病態の本質は、全身性の血管炎であり、神経、血管、消化管、肺、腎、関節など多
臓器に炎症性変化を引き起こす。とくに前 3 者は、おのおの、神経ベーチェット病、血管ベー
チェット病、腸管ベーチェット病とも呼称され、難治化しやすい。1)
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Behget 病における中枢神経病変は、①上矢状静脈洞血栓症などの血管病変に起因するも
の(約 20%)と、②脳実質の炎症性病変に起因するもの(約 80%)に大別される。前者はい
わゆる血管 Behçet とよばれるべきものであり、後者を狭義の神経 Behçet 病(NB)とよぶこと
が多い。2)
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神経ベーチェット病は、一般に、脳内血管の炎症にもとづく中枢神経病変により、神経局在
症候や精神症候を呈するものを指す。ときに、脳卒中類似の症候や画像所見を示すことが
ある。また、血管ベーチェット病では、大動脈~脳主幹動脈に動脈炎や動脈瘤を生じ、これを
引き金として虚血性脳血管障害を発症する場合や、血液凝固能の亢進により脳静脈洞血栓
症を引き起こす場合がある。1)
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わが国はべーチェット病の最多発国の一つ。1)
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20~40 歳前後での発症が多い。1)
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30 歳前半にピークを示します。3)
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4 主症状および副症状(変形や硬直を伴わない関節炎、副睾丸炎、回盲部潰瘍に代表され
る消化管病変、血管病変、中等度以上の中枢神経病変)による症候診断であるため、診断
が困難な場合も少なくない。また、副症状で発症することもある。1)
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難病情報センターのホームページで紹介されている症状のまとめ 3)
ベーチェット病の主な臨床症状は以下の 4 症状です。
● 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍

口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができます。これはほぼ
必発です(98%)。初発症状としてもっとも頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返し
て起こることも特徴です。
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● 皮膚症状

下腿伸側や前腕に結節性紅斑様皮疹がみられます。病変部は紅くなり、皮下に硬結を
触れ、痛みを伴います。座瘡様皮疹は「にきび」に似た皮疹が顔、頸、胸部などにできま
す。下腿などの皮膚表面に近い血管に血栓性静脈炎がみられることもあります。皮膚は
過敏になり、「かみそりまけ」を起こしやすかったり、注射や採血で針を刺したあと、発赤、
腫脹、小膿疱をつくったりすることがあります。これを検査に応用したのが、針反応です。
しかし、最近では、その陽性率が低下しており、施行する機会も減ってきました。
● 外陰部潰瘍

男性では陰嚢、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられま
す。外見は口腔内アフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、瘢痕を残す
こともあります。
● 眼症状

この病気でもっとも重要な症状です。ほとんど両眼が侵されます。前眼部病変として虹彩
毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞明、瞳孔不整がみられます。後眼部病変として網膜
絡膜炎を起こすと発作的に視力が低下し、障害が蓄積され、ついには失明に至ること
があります。
● 主症状以外に以下の副症状があります。
● 関節炎

膝、足首、手首、肘、肩などの大関節が侵されます。典型的には腫脹がみられます。非
対称性で、変形や強直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチと
は異なります。
● 血管病変

この病気で大きな血管に病変がみられたとき、血管型ベーチェット病といいます。圧倒
的に男性が多い病型です。動脈、静脈ともに侵され、深部静脈血栓症がもっとも多く、
上大静脈、下大静脈、大腿静脈などに好発します。動脈病変としては動脈瘤がよくみら
れます。日本ではあまり経験しませんが、肺動脈瘤は予後不良とされています。
● 消化器病変

腸管潰瘍を起こしたとき腸管型ベーチェット病といい、腹痛、下痢、下血などが主症状で
す。部位は右下腹部にあたる回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸に
もみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔により緊急手術を必要とす
ることもあります。
● 神経病変

神経症状が前面に出る病型を神経ベーチェット病といいます。難治性で、男性に多い病
型です。ベーチェット病発症から神経症状発現まで平均 6.5 年といわれています。大きく
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髄膜炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと片麻痺、小脳症状、錐体路症状など神
経症状に認知症などの精神症状をきたし慢性的に進行するタイプに大別されますが、
個々の患者さんの症状は多彩です。慢性進行型は特に予後不良で、あまり治療も効き
ません。最近は眼病変の治療に使うシクロスポリンの副作用による急性型の神経症状
が増加しています。また、喫煙との関連も注目されています。
● 副睾丸炎

男性患者の約 1 割弱にみられます。睾丸部の圧痛と腫脹を伴います。
● この病気はどのようにして診断しますか

この病気と即座に診断できる血液検査はありませんので、厚生省研究班の診断基準を
参考にして診断します。主症状がすべて出現したとき、診断はそれほど難しくはありませ
んが、副症状が主体になるときは診断が困難なことがあります。症状の現れ方によって
「完全型」「不全型」「疑い」と分類します。また、臓器病変が主体である場合は、病変に
応じて血管型、神経型、腸管型に分類され、特殊病型と総称されます。
<ベーチェット病診断表>
(1)完全型
経過中に4主症状の出現したもの
a.経過中に3主症状(あるいは2主症状と2副症状)が出現したもの
(2)不全型
b.経過中に定期的眼症状とその他の1主症状(あるいは2副症状)が出現した
もの
(3)疑い
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主症状の一部が出没するが不全型の条件を満たさないもの、および定期的な
副症状が反復あるいは憎悪するもの
ベーチェット病に伴う中枢神経障害は単一のものではなく、種々の病態によって形成されて
いる。神経ベーチェット病は比較的まれな病態であるが、原因不明の若年者中枢神経障害
では本症を念頭に入れておく必要がある。1)

神経ベーチェット病は、ベーチェット病の経過中に、脳内血管の血管炎に起因する中枢神経
障害により、神経・精神症状を呈するものを指す。しかしながら、神経・精神症状が 4 主症状
に先行することもあり注意を要する。1)

近年、患者の治療反応性と予後により NB は、臨床的に大きく急性型と慢性進行型の 2 型に
分けられることが明らかになってきている。2)
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急性型 NB は一般的には発熱を伴った髄膜脳炎の型をとる。これに片麻痺や脳神経麻痺な
どさまざまな脳局所徴候を伴うことが多い。また、一方では発熱などの炎症所見が軽微で、
脳局所徴候のみを示す場合もみられる。2)
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これまでにも NB のなかには発熱などの炎症症状はないにもかかわらず、副腎皮質ステロイ
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ドなどによる治療に抵抗して痴呆などの精神症状が進行し、ついには廃人同様になってしま
う一群が存在することが強く認識されてきた。こうした病型は急性型 NB に比べ、治療反応性
と予後がまったく異なることから、近年、慢性進行型 NB とよばれて区別されるようになった。
2)

慢性進行型 NB の臨床的特徴は、急性型 NB に起因する脳局所徴候が先行症状として一過
性に出現した後に、数年の間をおいて痴呆・精神症状や構語障害が出現し、これが徐々に
進行し、ついには患者は廃人同様となってしまうという点である。2)

病巣に一致した局在症候を呈する。ゆえに、脳神経症状、錐体路症状、小脳症状の出現頻
度が高い。これに、髄膜脳炎を伴うと、発熱や精神症状が出現することがある。神経症状を
急性に発症し、症候上脳卒中に類似するケースや、明らかな神経症候を呈さず、ベーチェッ
ト病の病勢に一致して、潜行性に中枢神経障害を認めるものなど多彩である。1)

一般に NB は Behçet 病発症後数年を経た遷延期に出現し、血管病変と密接に関連する傾向
がある。しかし、Behçet 病発症時より髄膜炎などの症状を呈する症例もまれではない。2)

NB においては多彩な精神神経症状が出現するが、その主要な症候が小脳・脳幹部および
大脳基底核の障害に基づく点に大きな特徴がある。このような神経病変の分布(とくに脳幹・
小脳の病変)と寛解・増悪を繰り返す経過はときとして多発性硬化症と酷似し、両者の鑑別
の困難な場合がある。2)
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Behçet 病と診断確定できない患者に対して NB と診断することは、十分慎重でなくてはならな
い。鑑別診断としては多発性硬化症が重要で、ときに鑑別の困難な場合がある。2)

頭部 MRI:急性期,T1 強調画像(T1-weighted image:TIWI)で等~低信号、T2 強調画像(T2
-weighted image:T2WI)および FLAIR (fluidattenuated inversion recovery)画像で高信
号を呈するため、単発性の病巣は脳梗塞画像にきわめて類似する。さらに、拡散強調画像
(diffusion-weighted image:DWI)は等信号となることが多いが、脳梗塞同様、淡い高信号
を呈する場合もある。しかしながら、ADC (apparent diffusion coefficient)画像では、急性
期~慢性期を通して高信号を呈するのが神経ベーチェット病の特徴である。1)

(急性型 NB は)髄液検査では細胞数および蛋白の中等度以上の上昇を示す。細胞分画で
は好中球の割合が増加する。髄液の IL-6 活性も著明に上昇することが多く、この点で多発
性硬化症と大きく異なっている。2)

軽症例には好中球機能抑制作用のある塩酸アゼラスチン、コルヒチン、レバミピド、抗血小
板作用のあるエイコサペンタエン酸の投与がおこなわれる。関節痛には、非ステロイド性消
炎鎮痛剤、眼病変にはコルヒチンや、免疫抑制剤あるいは抗癌剤のシクロホスファミド、メル
カプトプリン、アザチオプリン、ミゾリビン、シクロスポリン、タクロリムスなどが投与される。重
症例には中等量から大量の副腎皮質ステロイドが投与される。1)
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(神経ベーチェット病)治療の第一選択としては、中等~大量の副腎皮質ステロイド投与をお
こなう。通常、治療への反応は良好であるが、慢性に進行しステロイド抵抗性のものが約
30%存在する。治療抵抗性のものはきわめて予後不良で、脳卒中様の発作をくり返し重篤
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な認知症へと進行することがある。1)
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急性型 NB の治療の主体は副腎皮質ステロイドである。とくに脳局所徴候が進行する症例に
対しては速やかに中等量~大量の副腎皮質ステロイドの投与を行うことが重要である。2)
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Behçet 病の眼発作の抑制に有用であることが確認されているシクロスポリン A 内服中の患
者の約 20%で NB 様の症状を誘発する。2)
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慢性進行型 NB は副腎皮質ステロイドやシクロホスファミドなどでは寛解導入することは困難
である。副腎皮質ステロイドを大量に使用して髄液所見が軽快しても、減量に伴ってかなら
ず再発がみられることから、プレドニゾロン 10mg/day 以上は使用するべきではない。2)
参考文献
1.
吉村壮平, 吾郷哲朗, 井林雪郎.神経ベーチェット病.分子脳血管病 4(2): 221-228, 2005.
2.
広畑俊成神経 Behcet 病の臨床.215(1): 61-66, 2005.
3.
ベーチェット病.難病情報センターホームページ http://www.nanbyou.or.jp/entry/187
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