H23 農業農村工学会大会講演会講演要旨集 [6-10] 定住視点による株式会社Uを事例とした地場企業の雇用力と評価 Study on employment of the local enterprise U against depopulation 1 ○松尾芳雄 ,松岡光記 1 はじめに Matsuo Yoshio 1, Matsuoka Kouki 1 地域資源を活用した農林産物等の加工・販売の拠点づくりが、農協や森林組 合 、 第 3 セ ク タ ー 等を 事 業 主 体 と し て 行 わ れ、 中 山 間 地 域 の 活 性 化、 地 域 に お け る就 業 機 会 や 所 得 形 成 な ど の定 住 促 進 に 対 す る 期 待 から 多 く 取 組 ま れ て い るが 、 農 産 加 工 等に お け る 起 業 の 困 難 性 、 事業 運 営 上 の 隘 路 等 か ら 、成 功 例 は 必 ず し も 多 くは な い 。 こ の 課題 に 対 し 、 中 山 間 地 域 に おけ る 農 産 加 工 等 事 業 体 に関 し 、 事 業 化 ・ 事 業 運営 の 分 析 、 事 業が 定 住 促 進 に 及 ぼ す 効 果 の解 明 等 を 介 し 、 拠 点 事 業を 軸 と す る 就 業 機 会 拡大 の た め の 諸 条件 を 明 らかにした 1) 。 本 報 で は 、 海 産 物 を取 扱 う (株 )U を 事 例 と し 、 海 産 物加 工 事 業 体 の 雇 用 力 実態を明らかにし、定住観点からの雇用力増大のための視点を整理、提示した。 (株 )Uの 概 要 と 調 査 デ ー タ 松 山 市 の (株 )U は 、 季 節 毎に 多 様な 種 類の 鮮 魚や 加 工済 み 魚 介 類 を 市 場 や 約 20店 舗 の 水 産会 社 か ら 仕 入 れ 、 処 理 加工 し 、約 45店 舗の 飲 食店 や ホテ ル 、 個 人 宅 等 へ 配 送 を 行う 。 平 成 23年 現 在 の 従 業 員 数 は 8人 で あ り 、 そ れら の 業務 は 、仕 入 れ た 魚 介 類 の 搬 入 や 、魚 介 類 の 処 理 加 工 、 相 手先 へ の 配 送 な ど の 作 業を 分 担 し て い る。 勤 労 時 間 は 、 担 当 業 務 によ り 異 な る が 、 早 朝 の 5時 か ら 業 務 終 了(基本 的 に17時 )ま で の間 で あ る 。 平 成 19年 2 月 1 日 ~ 21年 1 月 31日 ま で の 3 年 間 の 経 営 デ ー タ (帳 票 デ ー タ )を 対 象 と し、(株)Uの現状を聴取調査した。 帳 票データ 平 成 19年 2 月 1日 ~ 21年 1月 31日の 帳 票デ ー タを 集 計し 、 (株 )U の 経営 状 況 を 要 約 決 算 レ ポ ー トを 作 成 し た 。 そ の 抜 粋 を表 1 に 示 す 。 表 2 は 販売 管 理 費 に 含 まれ る 人 件 費 の 内 訳 を 示 す 。表 3 は (株 )U 従 業 員 の 月 平 均 支 給金 額 と 月 平 均 差引 支 給金 額 、従 業 員 の 属 性 (性 別、 年 齢 、 家 族 構 成 等 )を 示 す 。 こ れ ら よ り、 ① 表 1 の 営 業利 益 と表 3 の支 給 金 額 か ら 新 規 従 業 者 の雇 用 は 困 難 、 ② 表 3 よ りア ル バ イ ト を 除 く 若 年層 の 従 業 員 が 少な い 、 ③表1の販売管理費と表2(8)の総人件費から、販売管理費の約4割を人件費が占めるとい う状況にある。 聴 取データ 聴 取 によ り 得 ら れ た (株)U の 現 状 と 問 題点 は 以 下 の 通 り。 ① 魚介 類 の加 工 は 日 に よ り 異 な る が 、基 本 的 に 朝 6 時 か ら 昼 頃ま で 3 、 4 人 で 行 い 、昼 か ら16時 頃 まで 2 人 程 度 で 作 業 を 行 う 。② 配 達 範 囲 は 基 本 的 に 市内 及 び 道 後 方 面 で あ るが 、 市 外 隣 接 の川 内 や 松 前 町 等 や や 離 れ た配 達 先 も 存 在 す る 。 ③ 地域 的 に 需 給 が 均 衡 し てお り 売 上 先 の 新規 開 拓 は困難である。 現 状分析 販 売 管 理費 の 内 、 人 件 費 が 約 4 割を 占 め 、 ま た 、 現 状 の営 業 利 益 水 準 では J 相 当 の 若 い 従 業 員 の 雇用 で も 赤 字 と な る 。 一 方、 利 益 拡 大 に は 売 上 先の 新 規 開 拓 の 必要 が あ る が 困 難 で あ る 。 単純 試 算 で 、 (株 )U は 45店 舗 の 売 上 先で 8 名の 従 業員 を 雇用 す ると 考 え る と 、 従 業 員 1 名 の新 規 雇 用 に は 6 店 舗 の 新規 開 拓 が 必 要 と な る 。ま た 、 売 上 量 に見 合 っ た 仕 入 量 の 確 保 、 加工 処 理 に 係 る 設 備 投 資 等、 事 業 規 模 の 拡 大 に は多 く の 困 難 が 伴う 。 雇 用 水 準 を 保 持 し つ つ、 利 益 率 向 上 を 図 る こ とが 求 め ら れ る 。 そ れ には 以 下 の 視 点 があ る 。 1 愛媛大 学農学部 Fac.of Agr., Ehime Univ. キ ーワード: 海産物加工 処理、聴取 調査、事業 規模拡大、 事業部門拡 大 ─ 616 ─ 表1 事業体内部の視点 果 1) 要約決算レポート(平成19.1.31~21.2.1)の抜粋(単位:円) 表4は既往成 表2 人件費の年度別内訳 だが、農産加工事業の隙間部 門での事業化の諸視点を示す。取 扱対象は異なるが、同表の製品、 技術、労働、販路、規模、理念 (社 是 )と い っ た 対 象 に 点 検 視 点 が あると思われる。 表3 (株)Uにおける従業員の支給金額と差引支給額(月平均額:円) 表 4 農 産 加 工 の 隙 間 部 門 に お け る 事 業 化 と 事 業 運 営 の 諸 視 点 1) 対象 例示的な内容とその意義など 製品 手 作 り , こ だ わ り (付 加 価 値 ) , 多 品 目 ( 多 様 性 ) , 地 域 資 源 の 活 用 ( 固 有 性 ) 技術 熟練,創意工夫,軽作業 労働 集 約 的 労 働 , 高 齢 者 の 活 用 , 仕 事 の 楽 し み ・ 意 義 (就 業 者 の 自 己 充 足 感 の 醸 成 ) 販路 地元直売・産直など(在地的・人的チャネルの重要性) 規模 1 千 万 円 ~ 10 億 円 程 度 で 数 人 の 臨 時 雇 用 ~ 数 10 人 の 常 時 雇 用 ( 見 込 み ) 理念 地 域 主 義 的 発 想 の 重 要 性 ( 地 域 生 活 ・文 化 と の リ ン ク し た 地 域 振 興 の 発 想 ) 事業体外部の視点 本 事 例 の よ う な 小 規 模 な地 場 産 業 で は 事 業 部 門を 拡 大 す る こ とは 事 業 規 模 の 拡 大 以 上 に 困難 が 予 想 さ れ る が 、 仕 入先 や 売 上 先 と の 連 携 や協 力 の 可 能 な 要素 を 探 り 、 損 益 を 減 少 さ せる 視 点 が あ る 。 処 理 残 渣等 の 処 理 を 連 携 ・ 協 力化 す る 。 さ ら には 、 有 機 廃 物 の 堆 肥 化 に より 有 価 物 と す る よ う な 他部 門 と の 連 携 を 誘 致 する 視 点 で あ る 。こ の よ うな個別事業体の枠を超えるような連携や協力には、事業体が単独で行うには限界があ り、公的な支援や助成制度が求められる。 お わりに 本報は、連名者の卒業論文 2)を加除、補筆したものであることを付記する。 参考資料 1)松尾芳雄他:拠点事業を軸とする就業機会の拡大,「中山間資源活用の諸側面」(Ⅱ.5.1),総合農業研究 叢書38,養賢堂,pp.200~214(2000.2) 2)松岡光記:地域における地場企業の雇用力の調査と評価‐定住促進の観点から株式会社Uを事例として ‐,愛媛大学農学部地域環境工学コース卒業論文要旨,pp.35-36(2011.2) ─ 617 ─
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