戦略ケース カルチャア・コンビニエンス・クラブ・株式会社「TSUTAYA」 CLICK&MORTAL(クリック&モルタル)戦略の可能性と 限界 図表1 CCCの概要 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下C 創業 1982年 CC)は「TSUTAYA」を展開する音響・映像ソフ 設立 1985年 トレンタル最大手企業である。音楽CD・ビデオ・ ・ CD、ビデオ、DVDのレンタルと販売、 書籍とゲームソフトの販売 事業 ・ フランチャイズで全国に店舗展開 概要 ・ 加盟店のPOSデータ、会員データを 元にした発注代行システムで本部費 として売上げの5%徴収 DVDのレンタルと販売、書籍・雑誌の販売を経 営の柱とし、これらの複合業態を全国に展開して いる。 2000 年 3 月末現在、チェーン店は 973 店、会員 数約 1,300 万人を達成している。そして、2000 年 4 月には東京証券取引所マザーズに上場を果たし 【連結売上高】 2000.3 2001.3見込 経営 実績 【連結経常利益】 2000.3 2001.3見込 800億円 860億円 31億9千万円 22億3千万円 た。 今期の実績は増収減益となる見通しである(図表 1)。これはふたつの連結子会社の赤 字が見込まれるためである。99 年 7 月に立ち上げた、会員顧客に情報サービスを提供す るウェッブサイト「TSUTAYA Online」を運営する 100%子会社「シー・シー・シーオ ンライン」で 7 億 4,000 万円、2000 年 1 月に渋谷駅前に開店した大型直営店を運営する 渋谷ツタヤで 3 億 900 万円の赤字が見込まれる。 また、ツタヤオンラインへ 13 億円、渋谷ツタヤに 1 億円の投融資を行う。 この業績と投融資はCCCの新たな戦略である「クリック&モルタル戦略」への取り 組みを反映している。 1.クリック&モルタルとは クリック&モルタルとは、ネットの象徴であるクリックと店舗の象徴であるモルタル を表し、インターネットと店舗を組み合わせた流通システム・顧客アクセスの考え方で ある。 CCCが推進するクリック&モルタルとは、 過去のレンタル履歴、ソフト購入履歴、ウェッブサイトからの情報により個々の顧客 ニーズを識別し、電子メールやウェッブサイトを駆使し、個々の顧客ニーズにぴった りとした情報を低コストで提供し、歩いて 10 分の最寄店舗に集客する というものである。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 1 戦略ケース ツタヤオンラインの現在の登録会員数は 51 万人(2000 年 6 月)に達しているが、1,300 万人の店舗会員の、パソコン保有率は約 49%、電子メールアドレス保有者率は約 36%に 達している。よって、オンライン会員を増やす余地はまだまだ十分にあるとみている。 そこでNECのネット接続サービス「BIGLOBE」と提携し、この 7 月 1 日から毎月 240 分までのインターネット無料接続サービスを始める。 ツタヤオンラインと BIGLOBE 双方の会員となることが条件となる。今後 3 ヶ月で現在の倍の 100 万人まで拡大させる ことを見込んでいる。 2.集客、需要創造の試み CCCが展開する多種多様なネット情報サービスのうち、鍵となるものは次の三つで ある。 (1) 新作ソフト情報の事前Eメール配信による店舗への集客、Eクーポン 映画、音楽、ゲーム、書籍、各ジャンルの情報メールを本人の希望ジャンル登録に応 じて配信。結果、ある洋画ビデオの場合、メールで事前に来店を促したところ、これま での通常のDMの効果 1~2%に対して 7.5%が、実際に来店した。 また、携帯電話の画面上に出た割引券を店頭で見せれば割引きが受けられるEクーポ ンも積極的に展開している。 (2) 新たな需要創造に向けたレコメンドサービス 利用者自身が作品やアーティストに対しての"気になる度"や"評価"をつけると、コンピ ュータが好みの商品を分析し、提案する。サイト上のコーナーで評価をすればするほど 精度はあがる。このデータをもとに、顧客の好みを把握して、ソフトをレコメンデーシ ョン(推薦)するサービスである。 さらに 13 億円の資金を投入し、8 月をめどに新たな情報システムを構築する。サイト 上の書き込み情報だけから推定していたものを、個々人の過去のレンタル履歴、ソフト 購入履歴から分析し、より精度の高いものを目指す。 しかし、現在のデータマイニング(高度な顧客データベース分析手法)のレベルは、 アマゾンを利用したことのある人なら実感できるが、 「個人の次の購買ニーズを的確に予 測できるまでには達していない」という見方が一般的である。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 2 戦略ケース (3) 省手間省時間支援のための、在庫・タイトル検索機能 いざ店に行ってみると、借りたいソフトが貸出中になっていることはよくあることだ。 TSUTAYA では、ふだん利用している店舗に借りたいソフトの在庫があるかどうか、ビ デオ、音楽CD、ゲーム、書籍など全 220 万品目から作品名やアーティスト名などで検 索可能である。 しかし現状はまだ、全ての店舗で検索可能とはなっていない。また2日遅れの在庫情 報であるので人気新作ソフトの場合、実用性はまだない。 3.リアル店舗の強化 ネットへの取り組みを進める一方で実際の店舗も強化していく。 (1) 繁華街大型集客店舗の開発 2000 年 1 月東京渋谷の Q-FRONT ビル内に「SHIBUYA TSUTAYA」がオープンした。 5 月現在でこの店の会員数は 10 万人を突破している。 8 階建ての建物のうち、 地下 2 階から 4 階までの 6 フロアを TSUTAYA が占めており、 その品揃えはビデオソフト 10 万本、DVDソフト 7,000 枚、音楽CD20 万枚、ゲーム ソフト 1 万本、書籍 3 万 7,000 冊。各フロアにはタッチパネル式の情報端末が設置され、 商品の在庫と陳列位置を自由に検索できるようになっている。 (2)徒歩 10 分圏内の小商圏出店 ネットによるマーケティングで来店を促し、店舗の運営効率を向上することができれ ば、2~3 万人の商圏人口しかない地域にも出店できるようになる。そして、 「日本全国ど こでも TSUTAYA まで 10 分圏内という夢が実現する」(増田社長・日経ビジネス 1999 年 12 月 13 日)というのがCCCの狙いである。 さらに「インターネットがどんなに発達し、電子取引が広がったとしても、自宅から 10 分圏内に充実した品揃えでサービスの良い店があったら、顧客は必ず店に足を運ぶ」 と増田社長は断言する。店舗に基軸を置き、ネットを店舗への集客装置として捉えてい る。しかしそのような小商圏立地が成立するのは、ネットによって店舗の収益力を大幅 に向上できた場合の話である。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 3 戦略ケース 4.音楽配信ビシネスとCCC 音楽配信ビジネスが現実化してきている。これまではマイナーレーベル、期間限定な ど限定的なものであったがアメリカでは大手レーベル、大手小売が提携した本格的な音 楽配信ビジネスが立ち上がり始めた。アメリカでもいまだ音楽ソフト市場の 2%に過ぎな いが、長期的には日米ともに拡大していくとみられている。 CCCではメーカー8 社の新曲 13 曲を発売前の1週間試聴できるサービスを開始する が、これはあくまでもプロモーションの一環としての取り組みと理解できる。 5.クリック&モルタル戦略の限界 以上のような取り組みを推進しているが、その成果はメール配信による新着ソフトの 販促というレベルにとどまっているようである。ビジネスのしくみとして長期的な優位 性を構築するに至っているとは評価できない。その理由は三つある。 (1) 個別店舗単位のビジネスシステム TSTUTAYA はフランチャイズでの店舗展開となっているため、店舗運営、顧客管理が 個々の店舗単位となっている。そのため会員カードは全店共通ではなく、他店舗を利用 するためにはその都度入会する必要がある。よって、ネットで在庫検索する際もメンバ ーになっている店舗しか検索できない。そして現時点では2日遅れの情報である。ネッ トの最大の利点である「いつでも、どこでも」が活かせない構造となっている。 (2) レコメンデーションの成果が未知数 膨大なソフト在庫を持ちながら、需要が一部の人気ソフトに集中しているのが現状だ ろう。もし、ほんとうに新作以外の膨大なソフトの中から個々の顧客にぴったりとした ものを推奨できたら、在庫効率と収益は飛躍的に向上し、 「日本全国どこでも TSUTAYA まで 10 分圏内の出店」も夢ではないだろう。しかし、現時点でのデータマイニングの技 術レベルでは疑問が大きい。 (3) パッケージソフトからデータソフトへ CD、そしていずれはビデオも、モノから通信データへと商品形態は進化する。いつ になるかは技術革新のスピードに依存するが、そのときはレンタルではなくデータ購入 となる。大手小売、メーカー、再仲介業入り乱れての競争となり店舗は不要となる。 以上の理由から、個別店舗単位のビジネスシステムをベースにしたCCCのクリック &モルタルは既存システムの延長であり、長期的な優位性を構築できるものではないと 考えられる。同社の今後の更なる革新に注目していきたい。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 4
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