e-Bay(イーベイジャパン株式会社) インターネットオークションの日本での

戦略ケース
e-Bay(イーベイジャパン株式会社)
インターネットオークションの日本での可能性
インターネットオークション会社「e-Bay」が元気だ。2000年1月~3月期決算では
売上高8500万ドル、純利益620万ドルと前年同期比31%増となった。米国の電子
商取引企業で、ただ1社黒字を確保している。しかし、2月にスタートした日本では、軌
道に乗り切れていない。なぜ、「e-Bay」だけ黒字を確保できたのか。米国での成功の要因
と、日本での伸び悩みの要因を明らかにし、今後の日本での可能性を探る。
1.ネットオークション市場の概要
米国では元々オークションは一つの購買行動であった。その歴史は、古く南北戦争時期
の奴隷のオークションに始まり、現在ではガレージセールとして生活に浸透している。そ
れが現在インターネットの普及とともにネットオークションとして姿を変えた。段階を踏
んでネットオークション市場が構築されたのだ。
一方、日本では米国のようなオークション文化はない。オークション自体が、最近のネ
ットオークションの高まりとともに浸透し始めた。
(1)ネットオークションの仕組み
元々オークションは、オークション参加を目的としてその場に会した人たちで、実際に
出品物を確認し、一斉に行われるものであった。買い手全員が一斉に商品を確認し、そこ
から競り合いが始まる。オークションは複数の買い手を相手にした「競り売り」
「競売」で
あり、最高価格をつけた人が落札することができる仕組みになっている。そのとき、価格
がオープンになっている場合と、クローズで一発勝負の場合とがある。オープンだと、価
格のつり上げがあり、クローズだと競売者との価格の読み合いになる。
一方、ネットオークションでは空間的・時間的な壁を越え、世界のどこにいても、どん
な時間帯でもオークションに参加することができる。買い手は無限に広がる可能性がある。
同様に売り手も無限に広がっていく。
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(2)米国ネットオークション市場を支えるユーザー
現在のネットオークションユーザーは、
1.元々オークションを盛んに行ってきた潜在ユーザー
2.不要なものを売り、その代金で必要なものを買うネットオークションを生活の基
礎にしているオークション生活者
3.ライバル入札者の入札価格がクローズになっている、もしくはオープンでも直前
の上げ幅の駆け引きというゲーム性に惹かれるユーザー
がいる。2.3.は間違いなくヘビーユーザーであり、1.もヘビーユーザーの素質をもつ。こ
のようなユーザーにネットオークションは支えられている。
2. 先行企業「e-Bay」の成功の要因
「e-Bay」は、一般ユーザーを対象とした世界初のオークションサイトとして95年に立
ち上げた。当初から利益を出し続け、米 EC 市場で唯一黒字を確保している。現在では、全
世界で1200万人の会員をもち、サービス国も拡大している。ここでは、その成功の要
因を探る。
(1)先行優位を活かした収益システム確立~バナー広告に頼らない収益システム
「e-Bay」の収益源は大きく2つある。いずれも売り手によるもので、
・商品を出品する際の出品手数料(アイテム出品料)
・売買成立後の仲介手数料(落札料)
である。このため出品するにはクレジットカードの ID を登録しなければならない。
また、
この出品料は、最低入札価格に応じて定められている(図表1)。同様に、「落札料」も落
札価格に応じて定められている(図表2)。さらに自分の出品物を目立たせるには、「出品
手数料」とは別に「オプション追加料金」
(図表3)を支払わなければならない。このよう
な収益システムを構築し、これをビジネスモデルとして確立した(図表4)。
これは、収益の7割を「バナー広告」に頼っている「ヤフー」とは大きな違いである。
「e-Bay」のバナー広告は0.5%未満であり、限られたページで限られた情報(キャンペ
ーン情報、マーケティングパートナー・チャリティ団体の情報)しか表示していない。
図表1 出品料
最低入札額
最低入札額
出品料
出品料
0~1999円
0~1999円
30円
30円
1200~2900円
1200~2900円
60円
60円
3000円~5999円
3000円~5999円
120円
120円
6000円以上
6000円以上
240円
240円
自動車
自動車
2,500円
2,500円
不動産
不動産
7,500円
7,500円
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図表2 落札料
図表3 出品追加オプション料
落札価格
落札価格
落札料
落札料
追加オプション
追加オプション
①
①
3000円以下
3000円以下
落札価格の
落札価格の
5%
5%
②
②
3,001円
3,001円
落札価格の
落札価格の
~120,000円
~120,000円
2.5%
2.5%
③
③
120,000円
120,000円 12万円を超えた残額の1.25%
12万円を超えた残額の1.25%
以上
(①②③の合計金額)
以上
(①②③の合計金額)
太字タイトル
太字タイトル
カテゴリー特選オークション
カテゴリー特選オークション
出品料
出品料
260円
260円
1995円
1995円
特選アイテムオークション
特選アイテムオークション 12,995円
12,995円
ギフトアイコン
ギフトアイコン
130円
130円
特選ギャラリー
特選ギャラリー
2,995円
2,995円
図表4 eーBayのビジネスモデル
売り手
会員1200万人
売り手
売り手
買い手
カードID登録
「出品手数料」「落札料」
e-Bay
売り手
会員1200万人
買い手
買い手
買い手
代金支払い
直接取引
商品の発送
(2)安心を保証するシステム構築
「e-Bay」のユーザーは、最初「買い手」としてオークションに参加してから「売り手」に
まわることが多い。一度自分でサイトの信頼性をはかるのだ。ネット販売は信頼性が重要
であり、ユーザーを定着させる要因となる。「e-Bay」では、4つのシステムで対応してい
る。
1) フィードバック・フォーラム
最も高い効果を発揮しているのが「フィードバック」である。実際の取引成立後「売り
手」「入札者(買い手)」として、取引相手に対するコメントを送り、それが得点化され
ている。これが人物の信頼性の指標となり、今後の取引の参考となる。この蓄積が人物
評価となり、必然的に不良ユーザーは取引が減少する。
「買い手」の満足度が低いと「売
り手」を今後一切の取引から排除することもある。こうしてサイトの信頼性が上がると
いうシステムにある。
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しかも、出品回数を重ねれば「フィードバック」が蓄積され、自分の評価が高まる。経
験を積めば評価が蓄積され定着する。良い評価が定着すれば、買い手もつきやすくなり、
他のサイトに出品するということもなくなる。
2) 無料保険制度
ロイズと提携し上限2万円までの無料保険によってユーザーを保護している。
3) カード決済システム
米銀行ウェルズと共同で、それまで小切手で行われてきた個人間取引の決済を、カー
ドで行うことができるシステムを構築した。商品を送ったのに料金が支払われないとい
うトラブルを回避することができ、送金の煩わしさからも解放され、決済の信頼性と利
便性を獲得した。
4) 出品商品管理システム
サイトの専門スタッフが法的に違法なものを削除し、商品の安全性を保証している。
(3)専門性強化による市場拡大への取組
また、最近では取り扱い市場の拡大を目指して積極的な展開をしている。
1) 企業買収による高額市場の取り込み
99年4月、
オークションの老舗 Butterfield&Butterfield を2億6千万ドルで買収した。
これにより、造形や装飾の芸術品・収集品をオンラインで手掛けることができ、高額オ
ークション市場の取り込みに成功した。勿論高額収集品の鑑定、マーケティング専門家
が e-Bay に加わったことにもなる。こうして、高額商品も扱えるサイトとしての信頼性
を獲得した。
2) 地域別競売事業の強化
一方で、地域に密着したサービスの拡充を図り全米20都市の地方サイトを開設した。
サイズの大きい物や壊れ物、売買成立後素早く受け取りたい物を扱い、地方紙の掲示板
のような役割を担っている。
3) BtoBへの取組開始
2000年3月、企業間取引を仲介するサイトを立ち上げ企業ユーザーを取り込み始
めた。PC関連のハードやソフト、オフィス用品などを取り扱っており、オークション
形式による取引である。
(ただし、最低価格があらかじめ設定されておりまったく利益が
出ないという心配はない)
(4)ユーザーの好循環
e-Bay のユーザーは、最初「買い手」としてスタートし、その信頼性を確認した上で「売
り手」へまわる。そこで自分のフィードバックを獲得し、その蓄積のために出品回数を重
ねる。こうして出品数が拡大、専門サイトとしての品揃えを実現している。その品揃えに
惹かれて「買い手」が e-Bay を訪れる。
「買い手」が増えれば落札価格の値上がりも期待で
き、出品数が増える。こうして、好循環が生まれていく。
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図表5 eーBayのネットオークションプロセス
オークションの
プロセス
②出品
③1日1回
入札状況報告
売り手
④落札決定メール
買い手についての
フィードバック
1.
商品掲載
2.
オークション
実施
3.
売買成立
フィードバック
蓄積
②入札
③入札がある
毎にメール
買い手
④落札確認メール
売り手についての
フィードバック
(5)好景気が支えた成長
95年にサービスを開始した e-Bay が成長を遂げてきた要因には米国の好景気もある。
この時期、米国の消費は拡大したのは周知のことである。消費の拡大に伴い、ネットオー
クションが一つの購買行動としての地位を確立したと考えられる。
しかも最近では、60万ドルのクルーザーが即日完売、3千ドルのロレックスの競り合
いなどが行われている。落札価格が高額であればその手数料も高額となり、収益を伸ばす
ことができる。
3.日本での伸び悩み
日本では、99年8月に「goo」と提携し「goo」経由で「e-Bay」がサービスを提供した
のが始まりである。その後、11月に日本法人(「eBayJapan」)を立ち上げ、2000年
2月に日本語・日本円のオークションをスタートさせた。しかし、出品数も少なく軌道に
乗ったとは言い難い。その要因を競争環境と日本市場という観点からみていく。
(1)日本の先行競合サイトに対する弱み
1) 米国で成功した収益システム導入の限界
日本で本格的にサービスを始めた2月、すでに日本には「ヤフー!オークション」
「楽天
フリーマーケット」がネットオークションを行っていた。いずれも、ほぼ半年前からの
サービス開始である。(図表6)
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中でも、最も出品数の多い「ヤフー!オークション」は出品料、落札料ともに無料とい
うシステムである。このような競合状況の中で、日本ではほとんど認知もなく信頼性も
知られていない後発の「e-Bay」に、出品料を払ってまで出品するユーザーはほとんどい
ない。
米国で確立したビジネスモデルがまったく通用しない。その上、出品数が足りないこと
で好循環の入り口である「買い手」がつかないのである。
2) 集客力の強みをもつ先行企業の存在
最も出品数のヤフーは元々検索サイトである。オークションを開始する前からヤフーを
利用する多くのユーザーがいた。
楽天は日本のショッピングサイトの第一人者である。ネット販売の信頼性は高く、特に
金銭授受に対するイメージが良い。
これらのサイトはオークション専門サイトではなく、本業で元々コアユーザーを獲得し
た上でのオークション開始であり、高い集客力が備わっている。
(2)文化の壁
オークションは西洋で始まったものであり、日本には米国のようなオークションの歴史
はない。オークションで物を買うという行為自体に慣れ親しんでいない。
一方、自分で物を売るという行為にも抵抗がある。かつて、日本で物を売ることができ
たのは職人だけであった。専門の職人が作った物を専門の店で売るのが当たり前であった。
一般人が物を売る、ましてや自分が使っていたもの、自分が一時でも所有した物を売ると
いう感覚は日本人にはあまりない。見ず知らずの人と行う個人間売買への不安もある。
その背景には、個人間売買の歴史がないことによる法律の未整備もあり、最近ではトラ
ブルが続出している。
図表6 日本のネットオークションサイトの概要
サイト
サイト
サービス開始
サービス開始
ヤフー!オークション
ヤフー!オークション 1999年9月
1999年9月
楽天フリーマーケット
楽天フリーマーケット
e-Bay
e-Bay
1999年9月
1999年9月
登録者数
登録者数
出品数
出品数
(全体445万人)
(全体445万人)
50万点
50万点
12万人
12万人
2.4万点
2.4万点
5~6万人
5~6万人
2000年2月
2000年2月 (世界1200万人) 0.35万点
0.35万点
(世界1200万人)
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4.日本市場への対応と今後の可能性
このままでは、AOL の二の舞となってしまう恐れがある。米国で通用したやり方をその
ままもってきても、日本で同じように収益をあげられるとは限らないのだ。
(1)日本市場へ向けた対応
日本市場への対応として次の2点を行ってきた。
1) ユーザーとの接点拡大を狙ったNEC「BIGLOBE」との提携
日本語版 HP を立ち上げるにあたり、日本でのユーザー接点を求めて2月 NEC と提携
した。しかし、他のサイトと比べると登録者数は見劣りする。
このやり方では、オークション専門サイト「ビッダーズ」が上をいく。
「ビッダーズ」
は、リクルートの「ISIZE」、SCN の「So-net」
、NTT コムの「OCN」など8社連合で
あり、「BIGLOBE」1社との提携より遙かに多くのユーザーと出会うチャンスをもっ
ている。
2) 日本でのみ「BtoC」オークション開催
日本人の個人間取引の不信感を考慮して、日本でのみ「BtoC」オークションサイト(ス
ーパーショップ)を開催している。しかし、その契約企業も出店企業を募る段階で十
分な品揃えとはいえない。
つまり、現段階で対応策は成果をあげていない。
(2)今後の可能性
現在、日本ではネットオークションの立ち上げ期である。また、日本の競合サイトは、
オークションによる直接収益ではなく、サイトの魅力アップによる集客を狙ってオークシ
ョンを行っている。
このような状況の中「e-Bay」のチャンスは「0」ではない。その為には以下の2点が必
要である。
1) 専門サイトとしての強みを活かす
現在日本では「1.日本円で出品されているアイテム」
「2.日本国内にあるアイテム」
「3.日本から入札可能な世界中のアイテム」の3つの分野での取引が可能である。
これからは、「3」の世界中のアイテムの拡充を図る必要がある。
日本で世界のオークションに参加できるのは「e-Bay」しかない。日本では手に入らな
いような物を拡大し、マニア層を獲得すべきである。マニア層では高額落札も期待で
きる。ヤフーや楽天はフリーマーケットの要素が強い。しかも、ヤフーは出品数が多
い反面、何でもありの状態で出品物の信頼性が疑われる。ならば、高い信頼性を武器
に全く別のポジションを目指し、ユーザーを選び、より購入意向の高いユーザーを獲
得すればよい。
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勿論、英語の画面を自動的に翻訳してくれるような機能や、落札後の入金などの面倒
な手続きをすべて引き受けてくれるシステムを構築する必要がある。この手続き料金
による収益システムも考えられる。現在でも海外の商品の買うと、面倒な手続きと送
金手数料がかかる。個人間売買なら尚更面倒であり、すべての手続き代行システムは
十分な受容が見込めると予想される。
また、既にBtoC分野での CCC との契約によって、人気タレントの衣装や人気ミュー
ジシャンの限定CDが完売している。立ち上げ早々で認知がない状況でも、マニアは
e-Bay のオークションに参加し落札している。マニア層の購買意欲は十分期待できる。
2) 日本市場に対応した仕組みをつくる
ネットオークションでは入札状況を瞬時に知る必要があり、オークション終了直前な
ら入札もできなければならない。自分の入札額が破られれば、さらに入札額を上げる
必要がある。購入意向の高いマニア層ならば尚更である。
まだ、携帯電話からの入札は不可能である。日本のインターネットアクセスツールは
多様であり、今後も拡大していく可能性がある。どのようなアクセスツールからも入
札可能なシステムを、いち早く構築すべきである。
また、カードをもてない若者やカード嫌いの人々に対応すべきであろう。日本でのカ
ード文化は浅く、カード ID 登録を嫌う人もいる。カードがなくては出品できない今の
システムは「売り手ユーザー」の拡大は難しい。
カードがなくても身分照会となり、確実に出品料を徴収することができるシステムが
必要である。
日本で立ち上げて3ヶ月ではあるが、決して前途洋々ではない。米国ではオールマイテ
ィのオークションサイトであるが、日本での別の道も考えられるのではないだろうか。
図表7 会社概要
アメリカ本社
日本法人
本社所在地
アメリカ カリフォルニア州
千代田区 麹町
設立年月日
1995年
(1998年株式公開)
1999年10月
(株式未公開)
売上高
2億ドル(1998年)
(210億円)
-
事業内容
従業員数
インターネット上にオークションの場を提供
現在6カ国でサービス開始
140名(1998年)
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