薬物乱用頭痛について

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薬物乱用頭痛 Medication overuse headache:MOH(130718)
以前の勤務先で、毎日のように頭痛の訴えがあるご高齢の患者がいた。神経内科の先生が、
鎮痛薬を中断してグラマリール、パキシル、乳糖などを処方されており、見事に症状が軽快した。
あまりの改善ぶりに感動した記憶がある。
最近の症例。片頭痛のある若い女性。最近毎日頭痛があって、軽快することが無いとのこと。片
頭痛とは異なる慢性の頭痛であり、薬物乱用頭痛を疑った。鎮痛薬を減らすような作戦に切り替
えたところ、通院の頻度が劇的に減るくらい改善。
これを機会に薬物乱用頭痛について復習しておく。

薬物乱用頭痛(medication-overuse headache)は過剰に使用された治療薬と感受性のある
患者の間の相互作用である。最も良い例としては、頭痛になりやすい患者において頭痛頓
挫薬の乱用により頭痛を引き起こすことである。1)

MOH の診療で重要なことは説明である。まず、患者は 乱用 という言葉に動揺することが多
く、自らに対して罪悪感を覚えることすらあるので、患者を責めたり、内服状況を答めたりする
ような発言・態度は慎まなければならない。「知らず知らずのあいだに薬を使いすぎたために
生じた頭痛であって、覚醒剤や麻薬の乱用(依存)とは異なる」と説明するとよい。6)

慢性緊張型頭痛は薬物乱用に関連することが少ない。しかし特に頭痛センターの患者では、
鎮痛薬乱用により反復性緊張型頭痛がしばしば慢性頭痛に移行している。1)

片頭痛を基幹頭痛として MOH になった例は 875 例(88.8%)できわめて高率であった。2)

MOH はうつ病の併存率が高く精神的要因の関与が大きいとの報告例が多い。2)

1 ヵ月に 15 日以上起こる片頭痛様頭痛や 1 ヵ月に 15 日以上起こる片頭痛様頭痛と緊張型
頭痛様頭痛の混合した状況の最たる原因は、片頭痛の対症療法薬または鎮痛薬もしくはそ
の両方の乱用である。1)

薬物乱用頭痛の鑑別疾患は、連日頭痛を呈する疾患として、①低髄液圧性頭痛(脳脊髄液
減少症)、②慢性髄膜炎、③硬膜動静脈痩、④外傷後頭痛、⑤脳静脈血栓症、⑥精神科疾
患に伴う頭痛⑦副鼻腔炎などの二次性頭痛があげられる。一次性頭痛では慢性片頭痛を
鑑別しなければならない。発作頻度の高い片頭痛は、①慢性片頭痛、②片頭痛+薬物乱用
頭痛ということになる。7)

一般に、乱用は 1 ヵ月間の治療日数によって定義される。重要なことは治療が頻繁かつ定
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期的に行われる場合ということであり、換言すれば毎週数日間行われるということである。例
えば、もし診断基準が 1 ヵ月に 10 日以上の使用ということであるならば、このことは毎週 2
∼3 日の治療日ということになる。何日間かまとめて治療し休薬期間が長い場合は(この服
薬方式は一部の患者によって行われている)、薬物乱用頭痛を引き起こす可能性はかなり低
い。1)

薬物乱用頭痛 の改訂基準 1)
① A
頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在する。
② B
8 . 2 のサブフォームで規定される 1 種類以上の急性期・対症的治療薬を 3 ヵ
月を超えて定期的に乱用している
1.
3 ヵ月以上の期間、定期的に1ヵ月に 10 日以上エルゴタミン、トリプタン、オピオ
イド、または複合鎮痛薬を使用している。
2.
単一成分の鎮痛薬、あるいは、単一では乱用には該当しないエルゴタミン、トリプタ
ン、オピオイドのいずれかの組み合わせで合計月に 15 日以上の頻度で 3 ヵ月
を超えて使用している。
③ C

頭痛は薬物乱用により発現したか、著明に悪化している。
今回の改訂前には、D.乱用薬物の中止後、2 ヵ月以内に頭痛が消失または以前のパターン
に戻る。という項目は、薬物の中止後の経過で頭痛が消失して初めて MOH と診断しなくては
ならず煩雑になるため削除されることになった。2)

MOH はまず診断が最も大切である。それは、基幹頭痛に片頭痛が潜在的にあることを念頭
におき、片頭痛発作に重畳する形で、軽度から中等度の連日性の頭痛が自覚され、原因薬
物の内服量が増えてさらに頭痛が強くなってきたことを確認することである。そして、初診時
の問診において 1 ヵ月に何日程度鎮痛薬あるいは片頭痛頓挫薬を内服しているかを確認す
ることが大切である。これを確認しないと、片頭痛は診断できても、連日性頭痛を緊張型頭痛
と安易に診断しがちである。その結果、従来からある混合型頭痛として鎮痛薬をやみくもに
処方してしまい、さらに MOH を助長させてしまうことになる。2)

早朝あるいは明け方の強い頭痛は薬物乱用頭痛を疑う。7)

急性期治療薬を乱用している間は、予防薬にはほとんど反応しないので、薬物乱用頭痛の
診断は臨床的にはきわめて重要である。7)
診断においては、日本頭痛学会と厚生労働科学研究費補助金頭痛研究
班の開発による新しい頭痛ダイアリーなども活用したい。
http://www.jhsnet.org/headache%20diary.pdf
原因薬剤の中止については、即時中止がいいのか、漸減中止がいいの
かは、専門家の間でも議論があるようだ。
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薬物乱用頭痛{medication overuse headache;MOH)に対して「原因薬物をすぐに中止すべ
きか」という問いに対する私の考えは、「薬物に依存している重症例では直ちには中止すべ
きではない」である。3)

MOH 治療の原則は、①原因薬物の中止、②薬物中止後に生じる反跳性頭痛への対応、そ
して、③MOH 再発の予防とされている。薬物の中止法として、即時中止(abrupt withdrawal)
と漸減中止(slow taper)が用いられている。本邦における「慢性頭痛の診療ガイドライン」
(2005 年版)では、即時中止の方が好ましい結果を得るとする報告が多いと記載されている、
しかし、「多くの頭痛専門家は即時中止を好んで用いるが、これは確固たるエビデンスに基づ
くものではなく、即時中止の方が漸減中止より薬物乱用によって生じる疼痛回避行動から早
期に離脱できるという印象に基づくものである」とも述べられており、原因薬物中止法を比較
した前向き無作為試験は実施されていない。3)

中止する際には、反跳性頭痛を適切に治療するとともに、中止した時点あるいはその前から
頭痛予防薬を併用すべきである。オピオイド系薬剤では離脱後の自律神経症状や反跳性頭
痛が激しいため、入院した上で漸減中止する。また、ベンゾジアゼピン系薬剤やバルビツレ
ート系薬剤では服薬中断により痙攣発作が誘発されることがあるため、漸減中止で対応す
べきである。3)

Silberstein らは、薬物乱用状態にある難治性頭痛患者に対して乱用薬物を即時中止させ、
離脱後に起きた反跳性頭痛にはジヒドロエルゴタミン(dihydroergotamine;DHE)の反復点滴
静注を行って対処した。その結果、91%の患者は治療開始後 2∼3 日以内に頭痛が消失した
と報告している。この結果は、多量の鎮痛薬を服用しても治らないような頭痛が、実は鎮痛薬
の使用によって引き起こされたことを明らかにしたと同時に、乱用薬物の中止が頭痛の改善
に著効することを実証した点で重要である。4)

このような荒治療を行うに当たっては患者教育と反跳注頭痛に対する対処をしっかり行う必
要があることも示したわけであるが、対処法としては、ステロイド・抗精神病薬・ベンゾジアゼ
ピン系薬剤・ナラトリブタン・制吐薬などの有効性がこれまでに実証されており、DHE 点滴製
剤がない本邦でも複数の治療選択肢がある。4)

Relja らは、101 名の薬物乱用状態にある慢性連日性頭痛患者を入院の上、乱用薬物を即
時中止させて予後を検討している、全体としては、平均 8.8 日闇で頭痛症状が解消しており、
特に乱用薬物の種類がトリブタンである症例では予後が良好で、平均 5 日で頭痛症状が解
消した。また、1 日当たりの服薬量と改善までにかかる日数に相関性が認められた。4)

単純な鎮痛薬の MOH 患者において、原因薬物の即時中止を行うことに異論はない。3)

治療方法が確立していないものの原因薬剤を中止しないことには頭痛が軽快しないことを説
明するが、患者は頭痛に悩んでいるからこそ薬剤を用いているわけであるから、原因薬剤の
中止のみを強調すると、患者は対応に困り、「頭痛を我慢しろと言うのか」と怒りを表明するこ
とすらある。そのためには原因薬剤を一定期間(個人的には 2∼4 週間と考えている)中止す
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るとともに、表に示したような薬剤を代替的に投与する。代替薬剤を中止するタイミングにつ
いても定説はないが筆者は 2∼3 ヵ月持続した後に漸減して中止することが多い。6)
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原則として MOH はまず外来で治療を試みますが、入院加療のほうが効果的な場合もありま
す。でも、どの患者さんに外来治療を選択し、どの患者さんには入院加療を勧めるかの明確
な基準やエビデンスはなく、治療ガイドラインもありません。また、諸外国とは MOH の起因薬
剤、医療保険診療制度 MOH の離脱に使用する薬物などが若干異なる背景もあり、欧米の入
院推奨の目安が、単純に当てはまらないことも考慮する必要があります。5)

反跳性頭痛は、頭痛薬中止後に生じる頭痛や嘔気・嘔吐などの症状である。重症の場合は
入院が望ましく、脱水や頻回の嘔吐があれば、補液は早急に実施する。嘔吐は、経口薬の
効果を著しく損なうだけでなく、消化性潰瘍やマロリーワイス症候群などを合併する場合もあ
る。入院中は補液のみでなく、各種の薬剤を非経口的に投与することが容易である。ビタミン
B2 製剤の投与も片頭痛の予防効果からは有効と考えられる。嘔吐には、制吐薬(メトクロプ
ラミド、ドンペリドン)や鎮静薬(プロクロルペラジン)などを投与し、症状を緩和する。また、消
化管潰瘍の既往のある患者にはプロトンポンプインヒビターや H2 プロッカーを経口、もしくは
経静脈的に投与することも必要となる。疾痛に対するプレドニゾロンの効果は有効・無効いず
れの意見もあるが、難治性の頭痛の場合は 100mg から開始し、1 日ごとに 20mg ずつ減量し、
計 5 日間、経ロもしくは経静脈的に投与する価値はある。5)

睡眠時間や就寝時間、睡眠時のいびきや無呼吸、朝食摂取の有無、コーヒーの多飲や嗜好
品の多量摂取なども、頭痛を修飾し、悪化させる要因となる。5)

MOH では、もともと精神的・身体的に感受性のある患者が陥りやすい傾向があり、片頭痛と
同様に、大うつ病、不安、パニック障害、双極性障害などの精神的共存症が多いと考えられ
ている。したがって、必要であれば早い段階で精神科や心療内科に相談し、薬物・非薬物療
法を開始することが望ましい。5)

止めることを強調するよりも、「乱用している鎮痛薬を中止すると 3∼7 日(場合によっては 10
日程度)が辛いですが、それを過ぎると連日内服していた頃よりも楽になります。まず 1 週間
頑張って鎮痛薬を止めてみませんか。私が支援しますよ」と提案すると、多くの患者は一気
に実行期に入ることができる。7)
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MOH に対する対処法を列挙する。2)
① まず原因薬剤を中止すること。高瀬らは、徐々に中止方向にした症例では 85%がその
結果が不良であったと報告している。
② 中止に不安のある患者には、三環系抗うつ薬、SSRI、SNRI や抗不安薬を投与して、薬
物中止による頭痛に対する不安解消の一助にする。これによりセロトニン活動が上昇し、
不安が軽減して症例に提示したように 7 年前からの連日性頭痛が著明に減少する。
③ 片頭痛の患者には強い頭痛のときには片頭痛発作であることを指導して、トリブタンの
内服法も指導する。
④ 自分の頭痛を知るために頭痛ダイアリあるいは当院で開発した「頭痛グラフ」をつけて、
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慢性的な頭痛と強い頭痛(片頭痛)の 2 つのタイプを認識させる。
⑤ 原因薬剤を中止すると症例に提示したように反兆頭痛があって一時的に頭痛が強くな
るが、1∼2 週間で改善することを説明し、決して不安にならずに目的達成に向かうよう
に励まし指導する。
⑥ 患者が原因薬物をやめて頭痛が軽減してきたら褒めてあげること。これにより患者はさ
らに自信を持って薬を飲まなくても頭痛が改善することを認識してもらう。このように頭痛
から開放される実感を植えつけることで、必然的に薬物への依存も解消されていく。
⑦ MOH の今後の課題としてもっとも重要なことは、患者自身、プライマリケア医をはじめ頭
痛診療に携わるすべての医療従事者への啓発と周知徹底が急務である。
⑧ さらに 2009 年に施行された改正薬事法に基づき、第一類医薬品(ロキソプロフェン NaS
など)を扱う薬剤師や登録販売者のみならず、第二類医薬品(従来の解熱・鎮痛薬や感
冒薬など)を扱うコンビニエンスストアやドラッグストアの店員などには、特に MOH の啓
発と周知徹底がきわめて重要である。

乱用薬物離脱後の患者の予後を良好に維持するために特に専門医による長期治療が必須
というわけではなく、神経内科専門医とプライマリーケア医との間に有意な差がないことも明
らかとなっている。4)

MOH の患者の多くは学生・社会人で、頭痛を心配しながらも、仕事や学業、家事・育児とい
った自分の役割を続けようと思うばかりに、薬物乱用に陥っている場合が少なくない。本人
の教育・啓発はもちろんだが、頭痛の症状や対応を家庭や学校、職場も理解し、協力しても
らえる環境を作ることも大事である。家族や、職場・学校の関係者にも、見舞いに訪れた際や
インフォームド・コンセントの時間を設け、片頭痛のパンフレットなどを使って啓発を行うことも、
頭痛診療の支援の 1 つとして有効である。5)

MOH に陥った患者を「薬物依存」、「精神的に弱い人」という見方をせず、MOH の辛さを理解
し、また離脱まで「頑張った」ことを評価し、ほめることである。医療者の共感的な姿勢も、治
療効果の向上には必要である。5)

薬物乱用頭痛は、原因薬物の服用中止により 1∼6 ヵ月間は 70%ほどの症例で改善が得ら
れる報告が多いが、長期予後では約 40%が再び薬物乱用を起こす。7)
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処方例 6)
ロメリジン 5∼10mg×2/日(*)
アミトリプチリン 10mg×3/日(*、**)
エチゾラム 0.5mg×3/日(*,**)
エペリゾン 50mg×3/日
またはチザニジン 1mg×3/日(**)
* 基礎に存在した頭痛が片頭痛である場合
**基礎に存在した頭痛が緊張型頭痛である場合
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処方例 7)
①テラナス®2 錠 2×朝・夕 14 日分
②トリブタノール®(10mg) 1 錠 1×眠前
③レルパックス® 1 錠 1x 頓用
14 日分
5 回分
まずは疾患を疑えるかどうかが重要だ。治療や再発予防など長期にわたる介入が必要な点で、
プライマリ・ケア医の出番が多い疾患だと思う。
参考文献
1.
国際頭痛分類第 2 版日本語版(ICHD-II) 日本頭痛学会ホームページ
http://www.jhsnet.org/gakkaishi/jhs_gakkaishi_31-1_ICHD2.pdf
http://www.jhsnet.org/topics_20060620_info.html
2.
永関慶重, 端詰勝敬.薬物乱用頭痛の診断と治療.Modern Physician 31(8): 978-982, 2011.
3.
飯塚高浩薬物乱用頭痛は原因薬物をすぐに中止すべきではない.Headache Clinical &
Science 3(1): 23-28, 2012.
4.
柴田護.薬物乱用頭痛は原因薬物をすぐに中止すべきである.Headache Clinical & Science
3(1): 20-22, 2012.
5.
伊藤泰広.薬物乱用頭痛が外来で上手く治療できない場合にはどうしたらよいでしょうか? 治
療 93(7): 1638-1640, 2011.
6.
伊藤恒.薬物乱用頭痛.Modern Physician 32(3): 382-382, 2012.
7.
橋本洋一郎, 伊藤康幸, 俵望, 山本文夫.薬物乱用頭痛の治療.治療 93(7): 1579-1585,
2011.
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