(修士課程)第1期 選抜試験問題

平成 24 年度
神戸大学大学院理学研究科
博士課程前期課程(修士)生物学専攻入学者
一般選抜試験問題
生物学
(2011 年 8 月 30 日実施)
注意事項
1)これは問題冊子です.試験監督の指示があるまで,2 枚目以降を見ないでください.
2)問題は 3-12 枚目にあり,全部で 6 問です(生物学問題1−6)
.13 枚目は下書き用紙
です.
3)生物学問題は6問のうち2問を選択して解答しなさい.
4)答案用紙(別紙)は,全部で4枚です.各問題の問題Aと問題Bの解答を,それぞれ
別の答案用紙に記入しなさい.答案用紙の上部,問題(
) のカッコ内に,解答す
る生物学問題の番号および問題A,Bの別を必ず記入しなさい.
例:問題(1A)
5)解答に使用する答案用紙のすべての上部,所定の欄に受験番号と氏名を必ず記入しな
さい.未記入の場合は採点できません.解答欄が不足する場合は,続けて各答案用紙
の裏面に記入して構いません.
6)試験時間は 2 時間 30 分です.試験監督の指示に従って受験しなさい.
7)試験終了後,問題毎に答案用紙を集めます.試験監督の指示に従ってください.
1
2
生物学問題1
問題1Aおよび問題1Bの両方に解答しなさい.答案用紙はそれぞれ別紙とし,答案用紙
の問題番号欄には,1A,1Bと記しなさい.
問題1A.以下の文章を読んで,各問に答えなさい.
生体内においてタンパク質はさまざまな翻訳後修飾により機能調節を受けている.修飾
基の主な供与体として,リン酸化では ATP,メチル化では( ア ),アセチル化では( イ ),
ADP リボシル化では( ウ )がそれぞれ用いられる.また,タンパク質が他のタンパク質
(標的タンパク質)に共有結合するような翻訳後修飾も知られている.
問1.ア,イ,ウ
にそれぞれ適切な語句を補いなさい.
問2.下線部について,このような翻訳後修飾の例(標的タンパク質とそれに結合するタ
ンパク質の組み合わせ)を1つ挙げ,それがどのような細胞機能の制御に関わっているか
簡潔に説明しなさい.
問3.タグを融合したタンパク質 X の cDNA を,培養細胞に導入して発現させた.細胞抽
出液を作成して SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後,タグと反応する抗体を用いてウ
エスタンブロッティングを行ったところ,移動度が異なる2本のバンドが検出され,何ら
かの翻訳後修飾を受けている可能性が高いと考えられた.どのような翻訳後修飾が起こっ
ているか調べる方法を2つ挙げ,それぞれ簡潔に説明しなさい.
問題1B.以下の語句についてそれぞれ簡潔に説明しなさい.
ア)細胞周期における制限点 (restriction point in cell cycle)
イ)ドミナントネガティブ変異 (dominant negative mutation)
ウ)Bcl-2 ファミリー (Bcl-2 family)
エ)テロメラーゼ (telomerase)
オ)SH2 ドメイン (SH2 domain)
3
生物学問題2
問題2Aおよび問題2Bの両方に解答しなさい.答案用紙はそれぞれ別紙とし,答案用紙
の問題番号欄には,2A,2Bと記しなさい.
問題2A.以下の文章を読んで,各問に答えなさい.
ノンコーディング RNA の一種である(1)マイクロ RNA(miRNA)は,動物や植物など多く
の真核生物の遺伝子発現制御において重要な役割を担う.例えば,植物の葉の発生制御に
おいても miRNA が働いている.
通常,植物の葉は表側(向軸側)と裏側(背軸側)のある扁平な構造をしているが,シ
ロイヌナズナの葉の表裏(向背軸)の性質は、葉の裏側で特異的に発現する miRNA(miRX
とする)によって制御されている.
(2)この miRX の標的遺伝子 A の優性変異体 a は,葉の
裏側も表側の性質を示す.
野生型において A 遺伝子の mRNA は葉の表側だけで発現するが,
a 変異体において a 変異遺伝子の mRNA は葉の表側だけでなく裏側でも発現していた.シロ
イヌナズナには,A 遺伝子と同様に miRX によって制御され,葉の表側だけで発現する B 遺
伝子(A 遺伝子のパラログ遺伝子)が存在する.A,B 遺伝子それぞれの機能喪失変異体の
葉は野生型と同様だが,これらの二重変異体を作成したところ,葉の表側に裏側の性質が
現れた.
問1.
下線部(1)について,動物と植物における miRNA による遺伝子発現制御の仕組
みを,相違点を踏まえてそれぞれ説明しなさい.
問2.
下線部(2)から,a 変異はどのような突然変異と考えられるか,理由とともに述
べなさい.
問3.
野生型と a 変異体において,miRX を葉全体(表側と裏側の両方)で過剰に発現さ
せると,それぞれどのような葉になると予想されるか,理由とともに述べなさい.
(生物学問題2は次ページに続く)
4
問題2B. 以下の語句についてそれぞれ簡潔に説明しなさい.
ア)ホメオティック遺伝子 (homeotic genes)
イ)免疫グロブリン遺伝子の組換え (recombination of immunoglobulin genes)
ウ)ゲノムインプリンティング (genome imprinting)
エ)スプライソソーム (spliceosome)
オ)ホールマウント in situ ハイブリダイゼーション (whole-mount in situ
hybridization)
5
生物学問題3
問題3Aおよび問題3Bの両方に解答しなさい.答案用紙はそれぞれ別紙とし,答案用紙
の問題番号欄には,3A,3Bと記しなさい.
問題3A.次の語句から 4 つを選び,それぞれア)〜カ)の記号を記して簡潔に説明しな
さい.
ア) オピストコンタ
イ) ファイコプラスト
ウ) 果胞子
エ) 植物・動物命名規約におけるタイプ
オ) DNA バーコーディング
カ) ネクトン
問題3B.以下の文章を読んで,各問に答えなさい.
現在の地球上には約150万種あるいはそれ以上の多様な生物が存在すると認識され
ている.これら現存する全ての生物は共通の祖先から進化してきたと考えられ,分子系統
解析などに基づいて,古細菌(Archaea, Archaebacteria),真正細菌(Bacteria, Eubacteria)
,
真核生物(Eukarya, Eukaryotes)の3つのドメインに分類されている.
問1.下線部に関連して,3つのドメインに属する生物の細胞が共通して持つ遺伝や代謝
に関わる特徴について3つ以上説明しなさい.
問2.古細菌は,真正細菌,真核生物のそれぞれとどのような特徴においてどう異なるか,
2つ以上説明しなさい.
問3.各ドメインには光をエネルギー源として生育する生物が進化している.各ドメイン
の生物が光をエネルギー源として用いる仕組みについてそれぞれ説明しなさい.
6
生物学問題4
問題4Aおよび問題4Bの両方に解答しなさい.答案用紙はそれぞれ別紙とし,答案用紙
の問題番号欄には,4A,4Bと記しなさい.
問題4A.以下の文章を読んで,各問に答えなさい.
細胞膜は脂質とタンパク質よりなる.動物細胞の主要な膜脂質としてグリセロリン脂質,
(
ア
),
(
イ
)がある.
(
ア
)は極性基としてホスホコリンや糖を持つが(
は極性基としてヒドロキシ基を持つのみである.グリセロリン脂質は(
の脂肪酸が(
エ
ウ
イ
)
)に2分子
)結合した共通構造を持つ.脂質分子の極性部位は水に面した配置を
取るのに対して疎水性部位は水から排除された配置をとるので,細胞膜は(
オ
)の形
を取ることになる.また,グリセロリン脂質の膜内での動きやすさは脂肪酸鎖の長さや脂
肪酸鎖の(
カ
)
,あるいは膜の置かれた環境の(
キ
)などに大きく影響される.
膜タンパク質のうち,弱アルカリ性溶媒やイオン強度の変化といった膜を傷つけない温
和な条件で膜から解離するタンパク質は(
ク質は(
ケ
ク
)タンパク質と呼ばれる.膜貫通タンパ
)構造で膜を貫通していることが多い.このとき膜貫通に必要なアミノ酸
残基数は約(
コ
)なので,アミノ酸配列よりそのタンパク質が膜貫通タンパク質であ
る可能性を(
サ
)を用いて検討することができる.タンパク質のなかには大腸菌のポ
ーリンに見られるように(
シ
)で膜を貫通するものも存在する.膜貫通タンパク質の
中には隣の細胞との間に低分子物質が通過できる細胞接着装置を形成するものがある.こ
のような細胞間結合は動物細胞では(
ス
)と呼ばれる.また種々の脂質修飾により,
膜結合性を持つようになるタンパク質も存在する.
問1.(
ア
)〜(
ス
)に入る適切な用語を記しなさい.
問2.タンパク質が受ける脂質修飾について知るところを述べなさい.
(生物学問題4は次ページに続く)
7
問題4B.以下の問いに答えなさい.
問1. タンパク質の構造形成に重要な働きをする5種類の分子間相互作用を挙げ、それ
ぞれ簡単に説明しなさい.
問2. 以下の実験法についてそれぞれ簡潔に説明しなさい.
ア)SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法 (SDS-PAGE)
イ)サザンブロット解析 (Southern blot analysis)
ウ)イオン交換クロマトグラフィー (ion exchange chromatography)
エ)透析 (dialysis)
8
生物学問題5
問題5Aおよび問題5Bの両方に解答しなさい.答案用紙はそれぞれ別紙とし,答案用紙
の問題番号欄には,5A,5Bと記しなさい.
問題5A.次の語句のうちから 4 つを選び,その記号(ア~ソ)を記して簡潔に説明しな
さい.
ア) アンチポート イ) 大核の複製帯
ウ) 「原生動物」と「原生生物」の違い
エ)Ⅰ型ミオシン オ) 微小管の動的不安定 カ) Aux/IAA タンパク質
キ) フロリゲン
ク) 二次細胞壁
ケ) フィトクロム A
コ) 膨圧
サ) シナプス前抑制
シ) 長期増強
ス) 免疫寛容
セ) 傍分泌
ソ) パッチクランプ法
問題5B. 次の 2 つの問題(問 1,問 2)のうちから 1 つを選び,その番号(問 1 あるいは
問 2)を記して解答しなさい.
問1.神経回路におけるシナプス伝達に関する以下の問いに答えなさい.
ア)シナプスには大きく分けて電気シナプスと化学シナプスがある.これら2種類のシナ
プスにおける伝達様式について,そのしくみと特徴を説明しなさい.
イ)化学シナプス伝達はイオンチャネル型受容体を介する伝達と,G タンパク共役型受容
体を介する伝達とに分類される.これら2種類の受容体について,その作用機序を説明
しなさい.
ウ)抑制性シナプスを利用した側抑制(lateral inhibition)の機構について,①この機構がどの
ような回路設計によるものか,②その主な効果とは何か,例をあげて説明しなさい.
(生物学問題5は次ページに続く)
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問2.以下の文章を読んで,各問に答えなさい.
真核生物の進化におけるオルガネラの進化は,生物学の重要な基本命題の一つである.
細胞内共生説では,細胞に共生した生物が,自身のゲノムを失うことにより宿主に支配さ
れ,オルガネラが成立するとされる.しかしながら,オルガネラの側から見れば,オルガ
ネラにとって有利なように,宿主を支配してきたとも言えるだろう.実際,いくつかの細
胞内共生系においては,1)細胞内共生生物が,宿主である真核生物の細胞に影響を与え,
その機能の一部を支配するといった一種の逆転現象も示されている.また,2)細胞内共生
により生まれたオルガネラをもつ真核生物をさらに取り込むことによって新たなオルガ
ネラが生じたと考えられる事例も存在する.一部の原生生物(寄生原虫)では,3)このよ
うな複雑なオルガネラをもった上に,さらに他の真核生物の細胞内に寄生している場合も
ある.このように,共生や寄生という現象は,真核生物の進化に大きく寄与してきたと考
えられている.将来的には,4)さまざまな人工的処理を施した新しい有用生物の創成にも
繋がる可能性もある.
ア) 細胞内共生により成立した可能性が高いと考えられているオルガネラにはどのよう
なものがあるか.例を二つあげよ.また,それらのオルガネラが細胞内共生により成
立したと考えられる根拠は何か.
イ) 下線部 1) の例を一つあげて,それにおける逆転現象の内容を説明せよ.
ウ) 下線部 2) のようなオルガネラの形成機構は,一般的に何と呼ばれているか.
エ) 下線部 3) について,例となる寄生生物の名称を一つあげよ.
オ) 下線部 4) について,細胞内共生を利用して生物に新しい機能を付加した事例もあ
る.新たな生物改変のために細胞内共生を利用することには,どのような有用性が考
えられるか,論ぜよ.また,その時に生じるであろう技術的な問題点にも言及せよ.
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生物学問題6
問題6Aおよび問題6Bの両方に解答しなさい.答案用紙はそれぞれ別紙とし,答案用紙
の問題番号欄には,6A,6Bと記しなさい.
問題6A.以下の語句についてそれぞれ簡潔に説明しなさい.
ア)エコトーン
イ)進化的に安定な戦略(ESS)
ウ)性淘汰
エ)密度依存効果
オ)純生産量
問題6B.以下の文章を読んで,各問に答えなさい.
生物の生存と繁殖の特性は,それぞれの種が確実に子孫を残せるように自然選択によっ
て進化してきた結果であり,生活史戦略と呼ばれる.例えば魚や昆虫には(1)小さな卵を
多く産卵する(小卵多産)種と,大きな卵を少なく産卵する(大卵少産)種があるが,こ
れらはそれぞれの生息環境下で最適な繁殖戦略として進化してきたと考えられている.
このような生活史戦略の考え方は,マッカーサーとウィルソンによって提唱された r—K
選択説によって始まった.ここで r は(
ア
)のことであり,K は(
この説は,(2)種内競争が激しくない時には(
きには(
エ
ウ
イ
)を示す.
)戦略が進化し,種内競争が激しいと
)戦略が進化するというものである.この理論は動物,植物を問わず成り
立つものであるが,植物の生活史では異なる選択圧に注目した(3)c-s-r 戦略の考え方が
グライムによって提唱され,多くの実証的研究が積み重ねられてきている.
環境変動が予測できる生息・生育環境では,(4)同一の遺伝子型をもつ個体が,成長する
過程で環境に合わせた形態や生態的特性を示す場合もある.これを(
オ
)という.し
かし,これによって現われる形質の変異の幅は,適応進化によって獲得される変異の幅よ
り狭いのが通常で,適応進化にとって代わることはできない.従って,(
オ
)も,む
しろ自然選択によって進化したと考えられる.
(生物学問題6は次ページに続く)
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問1.(ア)~(オ)に入る最も適当な語句を答えなさい.
問2.下線部(1)のように両立しない関係を,一般的になんとよぶか答えなさい.また,
生活史戦略におけるこのような関係の例を,下線(A)以外に一つ挙げて説明しなさい.
問3.下線部(2)の種内競争の激しさが低減される代表的な要因を,一つ挙げなさい.
またそのような環境下で進化する生態的特性を二つ挙げなさい.
問4.下線部(3)の c-s-r 戦略とはどのようなものか,簡潔に説明しなさい.
問5.下線部(4)の例を一つ挙げて説明しなさい.
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