M NEXT 情報コンテンツのマーケティング戦略 本コンテンツは、2006 年6月の某取材における松田の発言を編集したものです。 構成 1.戦略が必要になる時期 2.戦略構築のステップ-3C戦略から4P政策へ 3.情報コンテンツのマーケティングの4P 4.顧客ニーズの理解が鍵 5.マーケティングの理念 1.戦略が必要になる時期 会社が大きくなっていくときに、客観的にビジネス環境を捉えて、これから取り組むべ き課題を考えなければならない時期があります。企業には成長の壁があります。売上 10 億、 500 億、1,000 億、3,000 億になり、5,000 億、1兆、2兆ぐらいでまた壁がある。現在約 2,500 ほどのコンテンツ市場があり、そこに挑むコンテンツプロバイダ企業は、一説には約 6万社あると言われています。WEB2.0 的な言い方をするとコンテンツ産業はロングテール 型の産業です。日常生活で我々が食べていくために必要な食品産業が約 20 万社、それに対 して6万社です。これからどんどん大きくなっていく産業ですから、市場の成長とともに コンテンツプロバイダ企業も基本的な3C分析などから入って、自社の事業環境を客観的 に分析して、マーケティング戦略をたてていくことが必要になります。 はじめは手探りで何でもいけるのですが、これから伸びていく市場では、戦略が、成長 と収益を左右するのだと思います。 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 1 M NEXT 2.戦略構築のステップ-3C戦略から4P政策へ 3Cとは、自社があって顧客があって競合 図表1.戦略立案の三つの視点 他社がある(図表1)という構造のことです。 戦略立案の三つの視点 大前研一さん的な言い方をすると「戦略的三 競合他社 (Competitor) 角関係」ですね。その三角関係の中でお客の 好意と購買をいかに獲得できるか、競合他社 競争戦略 とお客の好意と購買を巡る企業間競争をや っているというのが、ビジネスの環境です。 マーケティング そのなかで、顧客を分析して、競合他社の強 自社 (Company) み弱みを分析して、自社の強みを再認識した 顧客 (Consumer) 上で、どのように自社の目的を果たしていく か、を考えていくことが3C戦略ということです。 特に3Cのなかのカスタマー、お客さまの分析というのがベースとなります。そこから ビジネスチャンスや営業のチャンスがあるかどうかを見つけることができます。大きく捉 えていきますと、お客さまを属性など様々な切り口で分析していって、コンペティターの 強み弱みはどこにあるのかを分析していった上で、どこにチャンスがあるのかをコアコン ピタンスを通じて明らかにしていく。自分たちのビジネスの客観的な状況を把握するとい うのが3C分析です。 実際にはお客さまの分析をして、それから競合企業の分析、自社の分析という3C分析を して、その上で SWOT 分析を行い、そのなかから基本的な戦略を選択して、4Pの政策とし て落としていきます(図表2)。ここで、SWOT 分析とは、自社の(競合相手と比較した相対 的な)強み(Strength)と弱み(Weakness)、を明らかにし、自社を取り巻く環境(顧客、競合 他社、政府、経済状況、などの競争要因)に関するビジネス上の機会(Opportunity)と脅威 (Threat) を明らかにすることです。「自社」についての分析と「自社を取り巻く環境」の 分析という2つが必要になります。SWOT 分 図表2.マーケティング戦略の構築フレームワーク 析を活用した基本的な戦略として、1)機会 を活用し、自社の強みを伸ばす戦略(SO 戦 製品戦略 製品戦略 市場分析 市場分析 略)、2)機会を活用し、自社の弱みを克服す 価格戦略 価格戦略 る戦略(WO 戦略)、3)自社の強みで脅威を 機会脅威分析 機会脅威分析 強み弱み分析 強み弱み分析 SWOT分析 SWOT分析 回避する戦略(ST 戦略)、4)脅威と弱みのは 事業及び 事業及び マーケティング戦略 マーケティング戦略 流通営業戦略 流通営業戦略 ち合わせで最悪の事態を招かないためには 競合自社分析 競合自社分析 どうするか(WT 戦略)などを考えることが できます。 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 2 コミュニケーション戦略 コミュニケーション戦略 M NEXT このような分析を大手消費財メーカーはどこの企業もやっています。シャンプー・リン ス市場の日本リーバについて、公開されているデータで分析してみると付表のようになり ます。 3.情報コンテンツのマーケティングの4P コンテンツプロバイダにおいても、やはり成長していくためにはある程度までは偶然だ けれども、あるところからは意識的に戦略的にしていかないと成長していかないのだと思 います。なぜ戦略は重要かというと、中途半端なことをしていたら成長も収益もなかなか おぼつかないということになってくる。戦略の優劣が成長と収益に結びつく。そういう意 味で戦略というのが非常に重要になってきます。3C的な事業環境の分析をした上で、具 体的な4Pのマーケティング戦略にしていくということが必要です。 マーケティングの4Pというのはマッカーシーという人が唱えたのですが、コンテンツだ とオペレーションがあって、それを売るという形で展開していくときに、プロダクト(製 品)、プライス(価格)、プロモーション、プレイス(チャネル)の要素を4Pと言ってい ます。その4Pを顧客に合わせて最適化していくことが、4Pミックスと言われておりま す(図表3) 。こうしたマーケティング戦略がコンテンツプロバイダのみなさんの社内で共 有されて、自分たちはこういう状況にあってここが強みで、ここが弱みであり、ここが機 図表3.マーケティング・ミックスの4P 製品 製品の多様性 品質 デザイン 機能 ブランド名 パッケージング サイズ サービス 保証 返品 流通 マーケティング・ミックス チャネル カバレッジ 品揃え 立地 在庫 輸送 ターゲット市場 価格 リスト価格 ディスカウント アローワンス 支払期間 信用条件 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 3 プロモーション 販売促進 広告 セールスフォース パブリック・リレーションズ ダイレクト・マーケティング M NEXT 会である、お客さまにはこういうことで役にたっているのだと認識される。それを展開し ていくためには製品、価格、宣伝、チャネル、それをつなげていくマーケティングが必要 で、その戦略や情報を共有した上でそれぞれの仕事を完了されると、売上も利益も顧客満 足も得られるビジネスシステムが構築できるのではないかと思います。 ただしシャンプー・リンス市場のような「ものづくり」とは、コンテンツは違います。 コンテンツのマーケティングを完成しているようなところは、まだ私どもが見る限りでは 見つけられません。コンテンツプロバイダは既存のものづくりメーカーのマーケティング と同じことをしていたのではいけないし、これをひと工夫もふた工夫もしないと、チャン スも生かせないと思います。 まずプロダクト(製品)についてですが、他のものとは全然違う性格を持っています。 というのは、お客さまが見てみないと品質がわからない、音楽だと聴いてみないとわから ない、映画だと見てみないとわからない、そういう商品だと思います。こうした商品を経 験財と言いますが、経験してみないと品質がわからないというのがこの業界の商品の一番 の特徴だと思います。我々の業界もそうですがコンサルティングやマーケティングリサー チというのも品質がわからない。品質の説得が非常に難しい。そういう意味で、例えばヴ ァージョン情報や特定セグメント向けなどの形をとって、品質を何らかの形で見せていく 必要がある、というのがコンテンツマーケティングの非常に重要な基幹的なポイントにな ってくると思います。 次にプライスです。コンテンツも音楽も映画も基本的には価格はゼロになるというのが 経済学的な原則です。自由競争が行われるならば、これは経済学の帰結ですが、価格=限 界費用になります。限界費用とは生産量が一単位増えたときの追加コストのことですが、 コンテンツはコピーで済むのでゼロ、つまり価格はゼロになります。またP2Pも含めて 情報というものを自由競争にすると価格はゼロになる。つまりコンテンツを製作している 側から見ると儲けがない。それに対して知的プロパティというものも含めて、どんな提示 価格にしていくかというのがプライシングのポイントになってきます。 同時に強みがあり、お客さまがつけた払いたいと思う価格が価格なのだということがあ ります。価格=希望価格、支払いたいと思っている価格、 「willingness to pay」というこ とです。たとえば音楽のダウンロードではジャニーズ系の音楽コンテンツは聴けないので すが、たとえば au の LISMO で聴けるなら、1,000 円出しても私は買うでしょう。全部揃え たい。山下智久が嫌いな人は欲しくないが好きな人は 1,000 円でも買う。そういう支払い たい価格が個人によって違ってくる。プロバイダの方からお客さまがどれだけ欲しいかが 識別できれば、価格差別化戦略ができるということです。価格戦略の中に埋め込めば、こ れからもっと収益性の高い事業を展開していくことができると思います。これもまだ全然 開発されていない世界です。 チャネルについては、一番ベースとなるチャネルは端末です。今、平均的な人で情報通 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 4 M NEXT 信端末を 3.5 台持っています。そのなかでいつも持ち歩いているのは2台、携帯電話とゲ ーム機か iPod-mini のような携帯音楽プレーヤーという状況になっています。もうひとつ はプラットフォームの選択、プラットフォームとは広義の意味で使っていますが、au とい うプラットフォームか、あるいは BREW というクァルコムのチップをベースにしたプラット フォームなのかという選択があります。コンテンツプロバイダから見たときに、どの端末 をベースにして、どのプラットフォームにするのかを考える。伸びるチャネルで伸ばすと いうのが原則ですので、今ならKDDIの au のプラットフォームの BREW ベースを使った アプリを供給していくというのが、たぶん正しいと思います。さらにリアルチャネルとの 連動シナジーというのがあります。こういう意味でチャネル政策にもコンテンツ産業特有 のものがあると言えます。 プロモーションについては、シャンプーやリンスなどの一般的な消費財ではお客さまは みな受け身で、購買行動は商品の認知から始まります。認知は広告宣伝から始まります。 それに対してこの世界はお客さまの「検索」から始まります。検索から始まって検索の中 で行き着いたところが購買の決定になるので、そこにどうアプローチしていくかというの が、プロモーションの最大の鍵になります。 去年のヒット商品を分析してみますと、市場に影響を与え商品情報を伝搬していくキー マンのような存在の人がいます。たとえば携帯電話ですと、芸能人の平均的なメモリ件数 は約 250 件らしいです。そのなかで常時接触している人が 50 人くらいいて、その人達に情 報を流すと一挙に流れていく。そうしたかたちで、宣伝していないのに「男前豆腐」が売 れていくというような顧客のネットワークがあります。それをうまく使うことがコンテン ツプロバイダのコミュニケーションの鍵になると思います。別に Google を使わなくても、 ネットワークを分析してその情報を押さえていればそういう仕組みが作れるのではないか と思います。 マーケティングは 1920 年代にアメリカで誕生したものですが、コンテンツプロバイダに 要求されているのは、これまでのマーケティングをベースにして、全く違う新しいチャレ ンジングなマーケティングの開発としくみが要請されているのだと思います。そういう意 味で非常に面白い、やりがいのあるマーケティングの世界です。これまでの教科書が全く 使えませんが応用することによってかなり面白いマーケティングが展開できる世界だと思 っています。しかも技術革新が極めて早く、着メロ、着うた、LISMO など、ますます面白い。 動画の世界も変わってくる。 この市場は毎年倍々くらいのペースで伸びていきます。しかし品質がわからなくて、価 格はゼロに近くなる可能性をもつ世界で、端末がどんどん変わっていき、マス宣伝が効か なくてお客さまをネットワークに結びつける形になる。そういう世界を制するマーケティ ングというのが、成長していく会社のマーケティングになるのだろうと思います。 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 5 M NEXT 4.顧客ニーズの理解が鍵 当社は消費社会白書を毎年出しており、2006 年度では携帯端末の特集をしています。そ のなかで携帯端末に対するニーズを調べたところ、大きく七つの方向性がありました。一 番大きいのは「いつでもどこでも高画質の動画を見たい」というものでした。Vodafone が シャープのアクオス携帯を出して好調と聞いています。これはキャリアにとっては儲から ない話なのですが、大衆的なニーズとして強くあったのだと思います。Vodafone が今年の 秋にソフトバンクと組んでどんなものを出してくるのか、iPod-mini をつけたようなものに なるのか、動画配信できるかたちにするのかわかりませんが、テレビ番組と携帯はどうも 相性が良いようです。これはまだビジネスモデルになっていません。今はいろいろ規制が ありますが 2008 年にはワンセグ放送が自由に作れるようになる。あの世界は開いていくと いうのが見えているので、コンテンツデリバリーの企業はチャンスとしてそこを狙ってい く必要があると思います。 もうひとつは BREW があったからできることなのですが、ナビゲーションシステムはもっ と追求する余地があると思います。単に位置情報だけでなく、意志決定をサポートしてく れることです。東京でも新しい商業施設が毎年 40 カ所できています。来年は港区六本木で ミッドタウンができますが、再開発ビルにレストランができて、西麻布あたりのレストラ ンもすぐ変わるので、新しい店を紹介してナビゲーションしてくれれば非常に助かる。ま た WEB2.0 的なこの周辺でおいしいラーメン屋はどこかというのも教えてくれるとありがた い。つまり情報に付加価値をつけて展開していくようなサービスがどんどん増えていくと よいのではないかと思います。そういった我々のタウンをアシストしてくれるナビゲーシ ョンシステムへのニーズがあります。 三番めに音楽です。私は音楽はどうも携帯とは相性が悪いと思っています。音楽を聴く のは 20 代まで、サラリーマンになると一挙に聴かなくなります。携帯電話は8~9割普及 していますが音楽を聴く人は2割で、この6割の差というのが結構大きい。サラリーマン が欲しいというアクオス携帯には、テレビドラマを観たいというニーズがある。サッカー は 60%の視聴率がありますが、もう紅白もだめですし音楽で 60%の視聴率がとれるという のはありません。そういう意味で、音楽というのはもうひとひねりいるだろうと思います。 日本では iPod、iTune がいまひとつです。iTune で聴けるのは洋楽で、聴く人は少数です。 そしてジャニーズ系が一切聴けない。これだと LISMO がいくら J-POP に力を入れても「山 下くんを聴きたい」というニーズに応えられないので、これをなんとか突破して欲しいと 個人的には思います。もっとジャニーズかあるいはモームスあたりが出てくると音楽市場 も変わると思います。今のところは携帯電話の持っている生活便利性といいますか普遍性 と、音楽の持っている閉鎖性とがどうも相性が悪そうで、その辺はソニーがちょっとわか ってきたようです。 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 6 M NEXT その背景には複雑な権利関係の問題もありますが、根本的にはユーザーから見たときに 生活のシーンが違うということです。高校生、中学生は、だいたい三つ持っています。携 帯と iPod とゲーム機、PSP など。これはそれぞれ役割が違うので持っているのですが、こ れを iPod と携帯をひとつにしたときに、便利になると思うかもしれませんが、使用頻度が 違うのです。使用頻度が違うと操作感が違ってくる。私どもは補完分析と呼んでいますが、 携帯の機能と一番補完関係があり相性がよいのは何かを消費者調査から分析したところ、 相性がいいのはテレビ番組になり、音楽は相性が落ちるのです。そこはたぶん操作感など 含めてもう少し考える余地があると思います。Bluetooth の使い方も含めてハードの改良と 多様なコンテンツニーズへの対応が課題だと思います。 次に、PCの代替をしたいというニーズがあります。ウイルコムの W-ZERO3 のような世 界が確実にあるのですが、これは 10%ぐらいの小さい世界なのです。マーケットの天井が はっきりあるということです。ドコモからでているモトローラの M1000、W-ZERO3 などは、 アメリカではもっと天井が高いと思いますが日本では伸びない。オリガミとかノートパソ コンという競合もあります。 それから、フェリカなどの小口決済などの生活の利便性へのニーズ、写真ニーズが若干 あります。 以上のような七つぐらいのニーズがあるとみています。そのなかでコンテンツとしてい ろいろ工夫できるのは、まず動画があり、タウンをサポートするような単に生情報を流す だけでなく付加価値をつけた情報が工夫の余地があると思います。音楽はもっと工夫の余 地がある。今のままで行くと萎んでしまう可能性があります。そこがハードとコンテンツ を一緒にして見たときのポイントかと思います。 それと、マーケティング的には、とにかくお客さまを分析することです。ストレートに言 わせていただくと、今携帯で行われているお客さまの掴み方というかリサーチは非常に甘 い。私も最近の携帯端末を使っていますが、時々アンケートが来ますがいかにも事務的な ものばかりで、お客さまの気持ちを知ろうというアンケートはゼロです。地域とか年代な どのいわゆる広告出稿のためのようなデータばかり。それではセブン-イレブンよりもひど い。これではお客さまのニーズを掴むことはできない。年代をとるにしても年齢をフリー で記入してもらえば、年代でもみられるし 図表4.標準的なライフステージの分散 世代でもみられます。今話題の団塊世代も 世代で捉えた方が分析できます。さらに年 代より、ライフサイクルのほうがいろいろ 40代子なし夫婦 代子なし夫婦 40 40代子なし夫婦 6.3% 6.3% ((N=80) N=80) N=80) 引退 子あり有職主婦 子あり有職主婦 53.2% 53.2% ((N=282) N=282) N=282) 子独立 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 7 30才 再就職 30代独身社会人 代独身社会人 30 30代独身社会人 14.9% 14.9% ((N=87) N=87) N=87) 27才 53才 60才~ 子手離れ 25才 33才 末子誕生 退職 ~18才 ~22才 40代子なし夫婦 代子なし夫婦 40 40代子なし夫婦 7.7% 7.7% ((N=78) N=78) N=78) 長子誕生 結婚 独立 でとったほうが、より的確な対応ができる 大学 のようにライフステージ、ライフサイクル 女 性 就職 代 30 代というよりも、大学生、既婚子なし 30才 28才 ~18才 ~22才 男 性 高校 なことが説明できます(図表4)。10 代 20 30代独身社会人 代独身社会人 30 30代独身社会人 22.1% 22.1% ((N=95) N=95) N=95) 親同居独身社会人 親同居独身社会人 76.6% 76.6% ((N=94) N=94) N=94) 50才 *年齢は1985年の標準パターン M NEXT と思います。お客さまの感性やニーズを捉えられるようなアプローチをした方がいいと思 います。 そこさえ掴めれば価格差別化もできるしチャネル差別化もできる、いろんなことができ るので、そこはもっとみなさん力を入れた方がいいのではないかと思います。ジャンル分 けが大雑把でいかにも顧客理解力が欠けているようにみえます。 5.マーケティングの理念 産業が立ちあがっていくときには自分たちが売りたいものが先に立っているのですが、 ある程度産業が成長してきたときに、もう一度原点を振り返ってみる必要があります。我々 は利益を得るための会社ではない、我々の会社はお客さまの何かの問題解決をしたり何か の役にたって価値を提供していって、その結果が利益である、そう考えるのがマーケティ ングの理念です。それが正しいということではありませんが、マーケティングはそういう 考え方をします。ですからマーケティングでは、会社から給料をもらっているのではなく お客さまからもらっている会社が一番いい、と考えます。そういうマーケティングマイン ドがコンテンツプロバイダのみなさんには見えない。いかんせん通信業界はこれまでNT T、総務省が主導してきたので、顧客に対して無理解な体質があって、まだ業界全体が供 給者サイドの論理になっているのではないかと思います。自分たちは何のためにコンテン ツを提供しているのか、お客さまのどういう役にたって価値を提供しているのかというこ ところを深掘すると面白いことが見えてきます。そのためにはもっとお客さまを知る努力 が必要なのではないかと思います。 鉄道とハリウッドにまつわるマーケティングの有名な話があります。どちらもカリフォ ルニアの2大産業でしたが、鉄道は自分たちを鉄道事業として位置づけ、一方ハリウッド は自分たちはお客さまにエンタテイメントを提供しようと考えた。結果 30 年後どうなった かというと、鉄道はつぶれてハリウッドは栄えた。どういうことかというと、ハリウッド の産業の方が自分たちは映画を作るというのではなくお客さまにエンタテイメントを提供 しているのだと考えなおしたところが、栄える結果になったというものです。マーケティ ングのレビットという人の考え方です。 また、スーパーもそうです。東京で生活していると季節を感じるのはスーパーの店頭で す。まず売り場に入って、どんなフルーツとどんな野菜が売られているのか、春になると 春キャベツがプロモーションされていて初めて季節を感じる。スーパーが提供しているの は、日々のミールソリューションなのです。そう考えていたところが伸びていて、スーパ ーは安売りするところだと考えたところは伸びていません。 それが現実なので、そうした他業界の教訓もふまえて、コンテンツプロバイダのみなさ んにも、自分たちはいったい何を提供するのか、単に楽曲を提供するだけでなく、自分た copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 8 M NEXT ちはお客さまのどういう問題解決、ソリューションをして役にたっているのかというとこ ろを再理解して、そのための調査やデータ収集をしてほしいと思います。 何よりも既存の業界のマーケティングに拘りすぎている。価格なども、オークションが どんどんすすんでいきますが、買いたい人が値段をつけて上がっていきますが、原理は何 かというと、それぞれ人によって払いたい値段が違うことです。自分たちが提供している コンテンツもそうですが、そのコンテンツに対してもっとたくさん払ってもいいというお 客さまもいれば、それ以上払いたくないというお客さまもいる。それくらいの価格差別化 の工夫の余地というのがあります。 それと機会費用というのがあります。顧客の収入から推定してその時間働いていたとす ると得られる収入のことですが、中堅以上サラリーマンで1時間だいたい換算すると 6,000 円ぐらいです。百貨店行って買い物するとそれだけで 6,000 円のコストがかかる。それよ りはもっと近いところで同じ商品買った方が安くなる。機会費用を考えたときにチャネル 差別化のチャンスがたくさんでてくるのです。そんな工夫ができるのに、既存のチャネル や価格についても一物一価に拘っているように見えます。もっと自由なマーケティングを 展開したらよいと思います。Google という会社はマーケティングも経営も嫌いな会社です がそういう会社が伸びているというのは、既存の経営戦略とかマーケティングの考え方を しないので、既存のものを参考にしない政策が逆にその業界に合っていたわけです。マー ケティング嫌いの Google が一番マーケティングがうまいのかもしれません。 コンテンツプロバイダが花開いているのは今は日本だけですから、ここで花を開かせて 世界に出て行ってほしい。世界の携帯電話市場では、日本はハードウエアで言うと、モト ローラにもノキアにもサムスンにも及びませんので、どんどん撤退しています。もう一度 リエントリーしなければならない。コンテンツ産業が強くなって、クールジャパンを発信 していって、逆にハードウエアメーカーを引っ張っていくような新しい革新的なマーケテ ィングをしてほしい、というのが私どもの期待です。 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 9 M NEXT 付表.分析事例-シャンプー・リンス市場におけるL社のマーケティング戦略 *分析はオープンデータをもとにした執筆者の仮説です 3C分析 SWOT 分析 基本戦略 顧客: Costumer 製品: Product 生活者の美容ニーズの高度化 →機能別ニーズの多様化 →高級感・専門性ニーズの高まり 市場規模(金額)は縮小傾向 →数量増加・単価ダウン →流通間の価格競争の激化 →単価の低い詰め替え用が拡大 →一方、高価格帯市場も拡大 4P政策 マルチブランドの進化 →ターゲットセグメントの明確化 →機能から価値ポジショニングへ 美容ニーズ高度化に対応した新サブカ テゴリー開発 詰め替え用製品の強化で数量確保 機会: Opportunities 脅威: Threats SO 戦略 価格: Price 強みを活かし機会を捉える 競争: Competitor 美容ニーズの高度化 トップシェアでも 10% 強の分散市場 高価格帯市場の成長 花王が新ブランド「アジエンス」発売 →アジアンブームにのりシェア 2 ~3 位 シェア分散市場 P&G の伸び悩み 資生堂が新ブランド「ツバキ」発売 →巨額宣伝販促投資でトップシェア獲得 P&G 「ヴィダル・サスーン」の伸び悩み 機能別セグメントから「流行に敏感な ファッション志向層向け」「肌にやさし い家族向け」といったセグメント戦略へ 転換 日本企業の反撃・攻勢 アジア、日本ブーム 高価格帯市場への重点化の維持 競争の土俵転換 機能別→ターゲットセグメント 値崩れ防止の維持 →ネットプライズオペレーションの堅持 単価ダウン 低価格商品の拡大 3 つの有力ブランド ブランド育成ノウハウ 投資余力 世界共通マーケティング アジア、日本ブーム ターゲットニーズの多元化 ターゲットニーズの多元化 に対応した に対応した マルチブランド戦略の マルチブランド戦略の ファインチューニングによる ファインチューニングによる シェア拡大 シェア拡大 日本のユーザー理解力 低コスト地位 自社: Company 強み: Strength 弱み: Weekness 世界共通マーケティングを生かした強い ブランド群 (ラックス・スーパーリッチ、モッズヘア、ダヴ) 企業体力を生かした投資戦略が可能 流通(価格)戦略の優位性 →ネットプライスオペレーション) グローバルな規模の経済性を活かし、競 合よりも割安なプライシングが可能 copyright (C)2006 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 10 詰め替え用製品で低価格化対応 宣伝・販促: Promotion 競合を凌駕する既存 3 ブランドへの宣 伝投資 ターゲットセグメントを明確にした訴 求メッセージ開発 ターゲットサンプリングの再開 チャネル: Place 価格競争に苦しむドラッグストアへの 利益商材としての位置づけ強化 価値ポジショニングをベースとした棚 割り提案で定番優位置の維持・強化
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