服部セイコーの「時計のファッショングッズ化」戦略 時計からファッション

M NEXT
服部セイコーの「時計のファッショングッズ化」戦略
−「時間を知る」以外の新しい使用局面の開発
時計からファッショングッズヘの市場変化
「僕は時計をふたつ持っている。ひとつは、デジタル、もうひとつは、アナログ。時
間をすぐ見たいときはデジタル、見栄はるときはアナログをする。アナログは、女物がい
い。女物のほうがスリムで僕にはあう」。ある大学2年生の時計(ウォッチ)についての発言
である。時計はもはや時計ではなくなっている。
時計はワクワクするハイテックなファッショングッズになり、従来の一生モノ、品質
としての時計は影が薄くなっている。この変化は、消費者自身がもたらしたものであり、
同時に、メーカー自身がボーリングした地平でもある。
ここでは、時計へのニーズの変化に敏感に反応し、新しいニーズを掘り起した服部セ
イコーのケースをとりあげてみる。品質と信頼で築いたトップメーカーがいかに新しいニ
ーズに対応し、新しい地平を拓いたのか。
図表1.時計生産推移
(万個)
︵
円安へ︶
︵
円高へ︶
4,000
︵
世界的不況︶
︵不況︶
6,000
︵
GNPマイナス成長︶
8,000
︵
ベトナム特需活発化︶
10,000
︵日本万国博覧会開催︶
12,000
︵
石油ショック︶
14,000
︵ドルショック﹇
円変動相場制﹈︶
16,000
全輸出
全生産
ウォッチ生産
クロック生産
ウォッチ輸出
2,000
クロック輸出
1965
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
1
76
年
77
78
79
80
(ブレーン昭和56年8月号)
M NEXT
時計の市場は用途別には、クロック(置掛時計)とウォッチ(腕時計)がある。この2区分
でみた生産の推移は図表1のとおりである。アナログ、デジタル、ぜんまいの三つのタイ
プで推移を見ると図表2のとおりである。順調に2ケタの成長を遂げてきている。しかし
金額ベースで見ると、生産数量では 19.9%の伸びをしめしているのに対し、生産金額では
8.9%の伸びにとどまっている(昭和 56 年度時点)。これは、図表2のように、デジタルタ
イプのウォッチの生産増加による低価格化がその主因である。これは、図表3からも明ら
かである。
他方、普及率という点からウォッチをみると、図表4のとおりである。昭和 54 年度時
点で、91.7%である。この数字は、53 年、オイルショック以降、調査誤差の範囲内で推移
している。
つまり、昭和 48 年以降で整理してみると、ウォッチ市場は、エレクトロニクス技術の
発展と普及率の限界というふたつの大きな環境変化に直面していたといえる。
図表2.タイプ別ウォッチ生産推移
(年) 0
1,000
2,000
1971
2,395
72
2,484
3,000
5,000
6,000
7,000
8,000
(万個)
9,000
2,443
2,545
2,805
2,706
73
4,000
電池式
3,057
74
3,237
2,690
75
3,023
348
2,648
76
318
77 703
78
79
80
554
1,117
3,400
3,210
847
1,676
2,955
4,919
1,722
2,547
アナログ
4,474
水晶式
2,569
5,967
2,834
3,048
デジタル
ぜんまい式
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
2
8,789
資料:日本時計協会
M NEXT
図表3.価格ランク別ウォッチ販売に占めるデジタル構成比(男持ちのみ)
50年度
51年度
52年度
10 20 30
10 20 30
10 20 30
円
53年度
50,000
40,000
30,000
20,000
10,000
価格
%
10 20 30 40 50
(服部セイコー調べ)
図表4.ウォッチ普及率推移
97.7 98.2 97.7 97.9 98.4 98.3 98.3 97.9 97.8
97.2 97.4
95%
92.8
92.4
91.7
90.4
90%
90.4
39
(注)
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
90.2
50
51
89.9
52
53
54
はJBR(ジョイントブランドリサーチ)による普及率
(世帯ベースのため個人単位の数値より高く出ている)
はACR(ビデオリサーチ)による個人別普及率
時計は時計屋という常識を変えた「アルバ」
服部セイコーは昨年、「服部時計店」から現在の社名へと変更しているが、「セイコー」
ブランドで知られている時計及びその他を販売する商事会社で、精工舎、第二精工舎、諏
訪精工舎の三つの生産組織とともに、セイコーグループを構成し、その中核的役割を果た
している。
創立明治 44 年、服部時計店の名のとおり流通からスタートし、現在、売上げ 3,650 億円、
経常利益約 80 億円という日本を代表するメーカーである。同時に、推定シェア 52%とウォ
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
3
M NEXT
ッチ市場のリーダーでもある。
このリーダーが、環境の変化にいかに対応していったか。その足跡をふたつの事例で見
てみる。
昭和 48 年 10 月、日本で初めて液晶表示の電子ウォッチを、オイルショックと同時に 13
万 5,000 円で発売した。翌年、シチズンが9万 8,000 円、カシオが5万 8,000 円と、つぎ
つぎと市場導入した。このデジタル化のインパクトが大きな意味を持つことになる。デジ
タル化の持つ意味は、「時計は一生モノ、貴重品」という感覚の否定を消費者にもたらした
ことと、組立て工程の単純化とLSIの大量生産による低価格化、それにエレクトロニク
スメーカーの参入を可能にしたことの三つであるというように現時点では思われる。これ
により、消費者ニーズ、競合メーカー、流通経路すべてが変化することになる。
「時計」機能は意味をもたなくなり、競合メーカーは量的にも質的にも強大になり、修
理技術を売っていた業種としての時計屋さんは、家電店と競争することになる。
しかし、昭和 49 年当時、服部セイコーのウォッチ部長はアナログ式とデジタル式の将来
について次のように考えていた。
「現在、クォーツ全体の 10%程度がデジタル式ですが、これは上昇傾向にあります。価
格低下とジャーナリズムの報道で、デジタルウォッチ本来のライフスタイルが早められ、
短期間で最盛期がきつつあります。ですから、普及期の後に、1度失速する可能性がある
と思います。将来はクォーツの 30%から 40%をデジタル式が占めるかもしれませんが、こ
こ当分はアナログ式が主流を占めるでしょう。デジタルを買った人が、次の買替えにアナ
ログを選ぶケースが多いという経験から、デジタルは飽きられやすいと思われます」(『経
営政策とマネジメントシステム』より)
つまり、市場をアナログ優位に考えると同時に、その後の市場変化を十分に認識できて
いなかった。また、新規参入をしたエレクトロニクスメーカーの脅威についても、「所詮、
時計は時計屋のものと思います」という考え方であった。服部セイコーは、デジタルウォ
ッチを「精度の高い」機能を持つ時計という見方でしか見ていなかった。
したがって、商品政策の考え方も、
「普及品には自動巻き、高価格品には電子アナログ式、
特殊な機能をもつウォッチには電子デジタル式を充当する」というものであった。服部セ
イコーの競争優位性はゆるがない、と信じていた。
その後の市場の変化は、この考え方を見事に乗り越えていく。デジタルウォッチは毎年
価格を下げ、年間 50%のわりで価格を下げ、競争次元も価格、機能、業種にとらわれない
販売店数に移行し服部セイコーの競争優位性は、崩れていった。
服部セイコーはこの変化のなかで、新ブランド「アルバ」を昭和 54 年4月から市場導入
する。マルチブランドの導入とデジタル市場への本格展開であった。さきほどの市場観か
ら5年が経過していた。ターゲットは、ヤングであり、1万円台の低価格ブランド、服部
セイコーが「セイコー」ブランド以外のブランドを本格展開するのは初めてであった。
「ALBA」とはイタリア語で「夜明け」
「黎明」
「始まり」
「誕生」を意味する。まさに、
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
4
M NEXT
服部セイコーにとって字義どおりの意味をもっていた。
このアルバの市場導入は、きわめて慎重に行われている。福岡、札幌におけるテストマ
ーケティング、全国規模での市場調査を経て、プロモーションを全国に展開している。テ
ストマーケティングによってとられた戦略は、
1. ターゲットに 12〜20 歳台前半の男性ヤング
2.
「アルバ」のブランド浸透に全力をあげる
3.
差別化されたユニークでインパクトのある広告表現
4.
大都市中心の広告集中投下
5.
店頭と連動した消費者企画
というものであった。つまり、ヤングをターゲットとしテレビヘの集中広告投下により
ブランドを形成するというものであった。服部セイコーの消費者観が徐々に変化するきざ
しを見せている。
しかし、この時点でも、アルバ市場導入の配慮事項の第1に次のことがあげられていた。
時計を着替えるファッション宣言
服部セイコーのアナログ、機能、品質重視の市場観がいかに根強いものであるかがうか
がえる。
アルバは結果として成功する。昭和 54 年4月から9月の男持ち(男性用)の集計で、キャ
ラクターウォッチを除く1万円以下の低価格ウォッチのうちデジタルの占める比率が 70%
強、そして、そのうちアルバの占めるシェアは 40%となった。これは、使用年齢層を拡大
することにも成功した。
デジタル化の波ともう一方で、服部セイコーは「普及率の限界」という問題を抱えてい
た。アルバが導入された同じ年、昭和 54 年の5月、服部セイコーは「なぜ、時計も着替え
ないの」キャンペーンをスタートさせる。
このキャンペーンの契機は調査事実からスタートしている。昭和 51 年の調査結果から次
の3点が問題提起された。
1.
女性の腕時計所有率は高いが、携帯率が意外に低いということ(図表5、図表6)
2.
「おしゃれ・ファッシヨンに関わる道具」として、腕時計のポジションが低いこと(図
表7)
3. 彼女たちのファッション関係情報源における雑誌のもつ役割がきわめて高いという
こと(図表8)
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
5
M NEXT
図表5.女性の腕時計保有状況(全体)
0
100 (%)
50
全体
(N=680)
96.6
0.2
3.2
持っている
持っていない
不明・無回答
データ:当社調べ 51年6月実施
「女性用腕時計の消費行動・意識調査」 16〜25歳女性 東京地区
(『ブレーン』昭和55年12月号)
図表6.女性の腕時計使用状況(全体)
0
100 (%)
50
全体
9.6
58.9
14.0
16.4
(N=657)
0.6
時計は
ほとんど
毎日して
いる
時計を
する日と
しない日と
半々くらい
である
時計は
たまに
する程度
である
時計を
することは
めったに
ない
その他
0.5
不明・
無回答
データ:当社調べ 51年6月実施
「女性用腕時計の消費行動・意識調査」 16〜25歳女性 東京地区
(『ブレーン』昭和55年12月号)
図表7.おしゃれのポイント
図表8.ファッション情報入手経路
(%)
100
(%)
100
60.0
58.5
61.2
56.6
50
57.4
50
44.7
37.7
23.8
23.1
18.1
9.3
8.5
7.4
0.9 1.5 0.4
11.2 11.8
5.6
2 不明・
無回答
1
1.0 2.5 0.9
1 おしゃれはしない
1
0
1 その他
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
6
9 テレビから
ティックなどの店員の
8 ブ
アドバイスから
7 友だちの話から
6 姉や妹の話から
5 広告から
4 町中のファッションから
2 映画などから
ィンドー・ショッピング
3ウ
をしていて
0
1 雑誌から
2
1 不明・無回答
1
1 おしゃれはしない
0
1 その他
8 アクセサリー
9 部分ではなく全体の調和
7 ハンドバッグ
6靴
5肌
4服
3 下着
2 化粧
1 ヘアスタイル
0
17.1
13.5
M NEXT
時計は、ファッショングッズではない、その証拠に雑誌のモデルは時計をしていない。
時計もファッショングッズとして考えてほしい。この問題提起の背景には「時計=ファッ
ショングッズ」という新しい時計の使い方の提案があった。
この提案は対消費者向けキャンペーンではあるが、
「時計=時計」から「時計=ファッション
グッズ」という認識を社内と流通に対して宣言したという意味を同時にもっていたと思われる。
「なぜ、時計も着替えないの」は、メーカーが消費者に語る言葉としては教育的啓蒙的
である。しかし、技術の時計屋さんに語る言葉としては説得力がある。品質と信頼を 100
年の間築き上げてきた時計メーカーが、ファッショングッズメーカーになるという宣言は、
対消費者よりも、対社内、対流通へのインパクトのほうが大きかったと容易に推測できる。
このキャンペーンの成功によって、服部セイコーは、「一生モノ」「貴重品」という時計
からファッショングッズという新しい地平を拓くことになった。そして、その後、服部セ
イコーの新製品は、時計=時計というコード(規則)を破るものを続々開発、提案し始める。
服部セイコーの新製品開発は、以前は主に機能中心であった。中3針、耐震、自動巻き、
カレンダー付き、ストップウォッチ、水晶発振式、今では常識になっている機能は服部セ
イコーが先鞭をつけている。顔は内に向いている。
しかし、現在では顔を外と内の両方に向け、ふたつの方向ですすめられている。ひとつ
は、デザイン、ひとつは素材や加工方法の開発という方向である。そして、それを統括す
るのがコンセプトである。その背後に消費者観がある。服部セイコー現社長服部礼次郎氏
は消費者のニーズをこうとらえている。
「時計を身につける側から言えば、内部のメカニズムが正確に作動するということであれ
ば、あとは身につけたとき、あるいは身の回りにおいたときにワクワクするような、楽し
くなるようなそんな要素を求めることになるわけです(中略)。以前は安心して使っていた
だける時計であればただそれだけでよかったのですが、今は安心して使っていただけると
いうのは当然のことであって、人びとは時計に対してそれ以上のことを求めているわけで
す。つまり、私どもとしては楽しんで使っていただける時計、喜んで使っていただける時
計、そして、最終的には生活を楽しくするというのか、豊かにするというのか、そんな時
計を供給していけたらと思っています」(『AXIS』第9号)
この消費者観にもとづいて開発されたのが「スピードマスターSBAO28」「スピードマ
図表9.女性の腕時計所有状況の変化(単位%)
‘76
‘79
女性年齢区分
所有率
単一
所有
複数
所有
所有率
単一
所有
複数
所有
12−19歳
64.4
54.1
15.3
89.0
56.0
33.0
20−24歳
94.5
60.9
33.6
95.7
50.7
45.0
25−34歳
89.2
64.1
25.1
90.8
54.4
36.4
35−49歳
92.2
57.2
35.0
90.3
55.3
35.0
50歳以上
83.8
54.4
29.4
86.2
47.3
38.9
データ:ACR(ビデオリサーチ 東京地区)
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
7
M NEXT
スターSAYO48」
「フィールドマスターSAZO22」
「ヨットタイマーSBBO11」であった。
雑誌広告のコピーは「申し訳ないようですが作る側にも『快感』がありました」であった。
ジウジアーロの斬新なデザインと人間と時計との関わりをスポーツという空間のなかで
とらえ直されたフンセプト、
「ハンドル掴む腕に」
「ザイル掴む腕に」
「シート掴む腕に」は、
消費者の期待に十分応えるものであった。新生服部セイコーの切り拓いた地平は、イン−
アウトから感覚(ナウイ−ダサイ)で見た調査結果から消費者の評価を間接的に知ることが
できる。結果は図表 10、図表 11 のとおりである。
イン−アウト角度をひとつの「ナウさ」を表現する指標とすると、セイコーは、カルチェ
(84°=tan‑1 10.3)、ダイバーズウォッチ(82°=tan‑1 7.2)、オメガ(72°=tan‑1 3.0) に
図表 10.ウォッチのIN−OUT評価
IN
(ナウイ)
合計
N=300
OL
N=150
学生
N=150
31
25
19
7
8
1
4
4
35
18
13
11
7
6
4
セイコー
ダイバーズウォッチ
カルチェ
オメガ
シチズン
デジタル
ディズニー
ロンジン
ロレックス
66
43
32
18
15
6
5
4
4
(%)
22.0
14.3
10.3
6.0
5.0
2.0
1.7
1.3
1.3
その他
68
22.7
34
思い浮かばない
41
13.7
19
OUT
(ダサイ)
合計
N=300
OL
N=150
学生
N=150
19
13
12
10
7
10
2
4
4
3
2
4
16
13
10
9
10
6
4
2
2
3
3
セイコー
シチズン
デジタル
カシオ
アルバ
ディズニー
オメガ
ダイバーズウォッチ
学生時計
マンガ時計
オリエント
カルチェ
35
26
22
19
17
16
6
6
6
6
5
4
(%)
11.7
8.7
7.3
6.3
5.7
5.3
2.0
2.0
2.0
1.7
1.7
1.0
34
その他
45
15.0
26
19
22
思い浮かばない
86
28.7
37
49
(「現代女性ニュートレンドリポート」より)
図表 11.IN−OUT感覚評価角度
ナウイ
IN
30%
(表より作成)
セイコー
20%
ダイバーズ
ウォッチ
カルチェ
10%
オメガ
シチズン
ダサイ
OUT
デジタル
10%
20%
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
8
30%
M NEXT
次いで第4位ということになる。この成果は、各業界のトップブランドがつぎつぎと精彩
を失っていくなかで、トップメーカーでは他に類を見ないものだと思われる。トップブラ
ンドが何十年も消費者にナウい感覚を与えつづけることは予想以上の努力である。
変化をチャンスに変換した服部セイコー
服部セイコーは、技術革新、消費者の変化、競合メーカーの変化、流通の変化という環
境のなかで、現在、着実に市場変化に適応していっているように思われる。デジタルウォ
ッチの開発から約 10 年である。強者、弱者に平等におとずれたこの変化は、弱者にとって
も強者にとっても最大のチャンスであり、脅威であったに違いない。ウォッチ市場では、
服部セイコーはこの変化をチャンスに変換した最初のメーカーである。
その方向は、戦略教科書にあるように、成熟商品から撤退し、他の分野へ多角化をはか
ることではなく、多角化を推進しながら、消費者のニーズを新しく理解し直し、新ニーズ
創造していくことであった。
品質、一生モノ、安心して使える時計から、ワクワクするファッショングッズ、生活を
豊かにする時計へと戦略空間(ドメイン)を再定義し再出発している。そして、トップ自ら
ニーズを語れる。
この革新プロセスとニーズの再把握の方向は消費者変化に直面している多くの企業に有
意義な示唆を与えているように思える。簡単に整理してみる。
革新プロセスが、きわめて着実であること。市場調査、テストマーケティング、事実と
一歩の成果のうえでの革新である。
抽象的な開発哲学と具体的なコンセプト。開発の方向は、きわめて抽象的でどうにでも
理解できそうなものでありながら、コンセプトは、スピードマスター「ハンドル掴む腕に」
というようにきわめて具体的一人称的である。コンセプトはトップ自ら語れる。
少しだけ無理をした商品になっていること。決して、大きな無理をしていないし、同じ
ようなものでもない。
服部セイコー、日本を代表するブランドがこれからも消費者に新しい提案をし続けてく
れるに違いない。もちろん、問題はまだたくさんある。
切り拓いた新地平をどの方向にもっていくのか、ブランドはどうするのか、多品種少量
生産に対応できる生産システムはできているのか、流通はどうするのか。深刻である。
しかし、やはり次の新製品は楽しみである。「もうすぐ春ですね〜」
[初出 1984.03「販売革新」 (株)商業界]
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
9