M NEXT 情報家電ブームの次の主役 量販店でのパソコン販売が対前年同月比で約 78%と振るわないのとは対照的に、情報家 電は成功を収めつつある。その差は、消費者の期待水準をどこまで満たせたかの差でもあ る。現在の情報家電ブームを実需として拡大するためには、新たな段階のふたつの条件が ある。 好調な情報家電 国内需要を牽引しているのは企業の設備 投資と個人消費支出である。なかでも、薄型 ■もっとも最近購入したテレビ 液晶テレビ、DVDプレーヤー、デジタルカ 「液晶テレビ・1年内購入」の比率 メラの新三種の神器と呼ばれる「情報家電」 である。これらは既存製品の膨大な買い換え 需要が見込まれるだけでなく、新しい需要を 創造することが期待されている。経済産業省 では約 18 兆円と推定している。 電子情報技術産業協会(JEITA)によ れば、7月の国内出荷では、DVD録再機は 約 350%、液晶テレビは約 190%の伸びとな っている。販売では、日本電気大型店協会(N EBA)の平成 16 年7月度実績によれば、 DVDは前年比約 183%、テレビ約 140%と 好調である。また、消費者の薄型テレビの一 年内購入率は、約 10%、購入計画のある比 率は約 19%と極めて高い購入水準を示して いる。生産、販売及び消費者の統計とも情報家電の好調さを裏付けている。さらに、テレ ビの基幹部品である液晶パネル生産では、生産能力によって費用が逓減化する効果が働く ため、日本、韓国、台湾などの各メーカー間で激しい設備投資競争が続いている。 copyright (C)2004 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 1 M NEXT ものづくりの復活 情報家電ブームを支えるのは消費者ニーズであることは言うまでもない。情報家電は、 誰のどんなニーズに対応しているのだろうか。弊社の「消費社会白書 2005 調査」から見て みる。液晶テレビの個人普及率は約 24%であり、一年内購入率は約 10%である。急速に普 及していることがわかる。もっとも購入されているサイズは、ブラウン管テレビと同じ傾 向だが、 「20 インチ以上」ではより大きいサイズへの広がりが見られる。液晶テレビの「ワ ンサイズアップ化」の傾向が少し見られる。 購入の中心的な担い手は、年代では 20 代と 50−60 代、ライフステージでは、末子が中 高に入学したいわゆる子手離れあるいは子独立層である。この背景には、子供が手離れし、 時間的な余裕が生まれ余暇を有意義に過ごせる時間があること、収入や資産面では、会社 組織においては 90 年代のリストラ旋風をくぐり抜け定職が保証されていること、年金では 払い込み金額が受給金額を上回り、将来不安が若い年代に比べ相対的に少ないことなどが 挙げられる。購入理由は、「寿命や故障等の買い換え」約 45%、「薄型画面だから」約 37%、 「画面が綺麗だから」約 19%の順である。既存テレビとの差はあまりない。 つまり、購入状況を概観すれば、液晶テレビは、収入と時間のあるゆとり層が、既存テ レビの買い換えとして、より「よいもの」として受け入られていることがわかる。これは、 90 年代に日本の家電メーカー各社が「ものづくり」に復活をかけてきた成果でもある。シ ャープが、アクオス(AQUOS)ブランドで今夏導入した高画質のデジタル地上波対応の 45 インチ液晶テレビは、単なる「物」ではなく消費者の期待を上回る「もの」だった。夏の 売れ筋 10 機種中5機種を占めたことが成果を物語っている。ものづくりの復活が消費者の 欲しかったものに対応したことが情報家電ブームを生み出している。 実需としての拡大条件 しかし、ものづくりの復活を喜んでばかりはいられない。情報家電ブームが実需として 拡大するためにはふたつの競争及び需要条件がある。 ひとつは、パソコンとの機器競争に勝たねばならない。ブロードバンド通信が広範に普 及し、家電のデジタル化が進めば、パソコンと情報家電の本格的な激突が始まる。消費者 にとっては、液晶テレビでもパソコンでもテレビ番組を楽しむことができる。技術面で言 えば、情報家電もパソコンも同じ半導体の塊であり、特定機能の比較的使い易い機器と汎 用機能を持ち比較的操作が難しい機器の違いに過ぎない。品質がよいだけのテレビでは済 まない。 さらに、ふたつめの条件として、情報家電がより消費者の価値を高めたりコストを低下 させたりできる新しい使い方や用途がもっと開発され提案される必要がある。 copyright (C)2004 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 2 M NEXT 大ブームとなった 20 話約 20 時間の「冬のソナタ」の美しい韓国の冬景色を、高画質の 大型画面で見るには主に五つの方法がある。大型液晶テレビを主役にすれば四つの方法が ある。DVD録再機を購入し、さらにDVDソフトを購入する方法、ビデオレンタル店に 行って借りる方法、予定を調べて地上波、衛星放送、ケーブルテレビの再放送や有料放送 を見る方法、ケーブルテレビや「第四のメディア」と呼ばれ最近始まったNTT のIPv 6対応のブロードバンド通信が利用できるセットボックスを購入し、設置接続する方法で ある。最後に、パソコンを主役にする方法がある。パソコン画面で我慢でき、少し画面が 乱れるのを許容できるならブロードバンド環境のパソコンを使ってオン・デマンド(いつ でもどこでも)で視聴する方法もある。方法によって、手間、時間や購入コストが違う。 どの方法が消費者に選択されるかによって、映像や音楽を楽しむ主役が、日本主導の情 報家電となるのか、アメリカ主導のパソコンになるかが決まる。選択に影響を与えるのは、 ものではなく、著作権などの様々な制約を持つテレビ番組、映画やアニメなどの情報コン テンツの供給である。楽しみたいコンテンツやソフトがあってハードが選択される。この 消費者にとって当たり前の原則が次の情報家電のステージを決することになる。 copyright (C)2004 Hisakazu Matsuda. All rights reserved. 3
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