成長格差を生む顧客アクセスへのアプローチ 消費格差 成長格差

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成長格差を生む顧客アクセスへのアプローチ
消費格差
景気回復への「胎動」がはっきりしない。特に、消費回復の行方がみえない。近年の消
費低迷の要因は「将来への不安」意識にあった。しかし、昨年度から状況が変わってきて
いる。マインド面から収入減少に変わった。意識からみれば、「先が見えない」ことへの不
安は変わっていない。ただ、「自分探し」をするよりは、実力主義で勝者を目指すか、真面
目にコツコツやるしかないというように変わってきている。寧ろ、消費低迷は、企業のリ
ストラや倒産による失業と残業手当などの減少による実質収入の減少による。減税が失業
率と収入減をカバーするには到っていない。
全体の平均は消費低迷である。しかしながら、部分、ミクロの現実は違う。
6月発売の大正製薬の「リアップ」は、ほぼ一日で完売した。育毛剤ではなく 5,500 円
の「発毛剤」である。ソニーが6月1日午前9時からインターネットで売り出した 25 万円
の犬のロボット「アイボ」は 20 分で完売した。その日のインターネットでは 100 万円のプ
レミアムがついた。全体では収入が減り、家計消費が減少しているが、首都圏では収入増
加層が 52%(弊社調査)いる。節約志向が主流だが、消費を増やしている層は 14%いる。
都内タクシーの平均の水揚げ(売上)は5万円台をきるほど低迷している。バブル時の半
分になっている。参入台数が増えているのと客数が減少しているからである。世田谷地域
を営業しているタクシーは6万円台を維持している。収入増加層が多く客数が減っていな
いのと道路が複雑で参入タクシーが少ないからである。
利回りの時代に企業はキャッシュフローを最大化しようとしてリストラを進める。当然、
コスト削減のために実力主義賃金体系に移行する。実力主義賃金体系は収入格差を生む。
その格差が消費格差を生んでいるのである。消費が低迷しているのは、全体平均の話であ
って統計的事実である。現実は消費格差が拡大しているのである。
成長格差
小売業、外食産業は家計費の減少、食費の節約によって大打撃を受けているが、バブル
崩壊後も着実に業績を伸ばしている企業や業態がある。
都内ではドラッグストアが増えた。銀座に「マツモトキヨシ」が出店したことはその象
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徴である。その周辺では、「ルイ・ヴィトン」「カルティエ」などのインポートブランドが
健闘している。新宿歌舞伎町では、ディスカウントストアの「ドン・キホーテ」が深夜に
盛況を極めている。コーヒーショップも圧倒的に増えた。
「ドトール」、
「スターバックス」、
「カフェ・ド・クリエ」などである。銀行では「シティバンク」の店舗をよく見かけるよ
うになった。
これらの伸びている企業や業態の共通性はどこにあるのだろうか。それは顧客の購買行
動に着目して、新しいアクセスを提供し、購買コストを減らしたり、付加価値を新たに付
け加えたことによって成功しているように思われる。
シャンプーやリンスなどのトイレタリー商品は、これまでは郊外にあるスーパー、量販
店などに土日に行って買うしかなかった。ドラッグストアは、20 代のOLや女子学生が通
勤通学時に週2∼3回行って 1,000 円程度のものを探索しながら発見することができる。
わざわざ時間を割いていくコストを低減し、新しいものを発見できて、失敗してもリスク
が少ない。
24 時間型ディスカウントストアは、深夜、空いている道路を利用してすぐ行ける、しか
も安い、そのうえに量販店にはない品揃えが面白い。都心のサラリーマンは、これまでは
喫茶店でまずいコーヒーを無愛想な応対で高い価格で利用するしかなかった。コーヒーシ
ョップは、うまいコーヒーを安い価格で手軽に利用できるようにした。テイクアウトもで
きる。豆のフレッシュローテーションシステムによって鮮度の高い豆が供給され美味しさ
を支えている。この成功に支えられてオープンエアでコーヒーを楽しむという新しいスタ
イルの飲み方を提案する業態も登場した。30 代の企業の中堅のサラリーマンが銀行に出向
こうとすると膨大なコストをかけなければいけない。引き落とし確認のためには通帳が必
要である。通帳の繰越しでもしようものなら、土日以外の営業日に混雑している午前中を
避け、番号札をとって、20 分待って、やっと繰越しの通帳をもらえる。新しい通帳をもら
うのに忙しい仕事を抜け出して所要時間1時間である。シティバンクは 24 時間営業である。
インターネットバンキングもできる。しかも、世界中でキャッシュが利用できる。
アクセス格差
消費格差が生まれ、企業や業態の成長格差が生まれている。景気回復も一律回復ではなく、
格差回復である。経済環境がよくなって自社の業績も回復などということはもはやあり得な
い。成長格差を生んでいるのは、消費格差を背景にしたアクセスの格差の利用である。
アクセスとは、顧客が商品・サービスを利用するパターンのことである。商品・サービ
スを入手するためにはコスト(時間と手間)がかかる。情報を入手して、時間を割いて、
選択行動を行い、決済しなければならない。これが購買行動である。伸びている企業や業
態は、購買行動に着目して、特定の層に新しい利用パターン、新しいアクセスを提供して
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いる。
シャンプー、リンスなどのトイレタリー商品を購入する従来のパターンは、土日に食品
などの購入のついでに郊外のスーパーの棚割された買いやすい売場に行って買うというも
のだった。「土日、郊外、ワンストップショッピング」パターンである。都心繁華街の駅前
立地のドラッグストアは、「デイリー、通勤通学、選ぶ楽しさ」という新しいパターン、す
なわちアクセスを提供している。もちろん、後者は郊外に住む専業主婦にとっては何のメ
リットもない。しかし、OLや学生にとってはこのうえもなく便利で楽しいということに
なる。わざわざ土日に買物に行かなくても通勤通学の帰りに立ち寄れる、品揃えが豊富で
あり、しかも、安い。同じことが他の事例でも言える。つまり、特定層の購買行動に着目
して、新しいアクセスを提供しているのが成功のポイントである。
商品・サービスのアクセスは、驚くほど増加し、多様化し、その格差が拡大している。
産業構造の転換は、生産の集積立地と商業の集積立地を大きく変えている。行政改革は国
主導の産業政策から地方中心の政策へと転換している。地方ごとに独自の産業政策が立案
されようとしている。バブル期に街の一等地を席捲した金融、証券、保険の店舗は撤退し、
街の風景は塗り替わっている。伸びる産業と伸びない産業の格差は地域の経済格差を生み、
収入格差につながっていく。大型店がリストラを進める一方で外資流通資本が参入してい
る。エリア格差は拡大している。
東京のEDO(恵比寿、代官山、表参道)に居住している人と東京郊外に住む人ではま
ったく異なるアクセスをもっている。郊外では大型量販店が中心になるのに対し、EDO
では百メートルおきにあるヘアサロンが中心になっている。郊外が口コミならEDOは街
コミである。
インターネットを自由に利用できる人とそうでない人の格差も大きい。インターネット
で新聞サイトをチェックすれば新聞をとる必要もなければゴミを処理する手間も省ける。
まだまだ不自由だがインターネットで銀行決済もでき、店舗に出向く必要はなくなる。買
物もインターネットで注文し、宅配ボックスで荷物を受け、カードで決済すればいい。
時計は時計屋でしか買えなかった。米は米屋でしか買えなかった。酒も酒屋でしか買え
なかった。修理や免許などの規制の必然性があった。時計が壊れなくなって、規制が緩和
されると、時計はどこでも買えるようになった。米もどこでも買えるようになった。酒も
そうなっていく。時計、米、酒に限らずあらゆる商品やサービスへのアクセス方法が増大
し、多様化している。百貨店に行けば時計を扱っている売場は少なくとも 50 ヶ所はある。
専門店もある。露店もある。インターネットで特定スペックで注文もできる。通販も利用
できる。海外でも買える。時計へのアクセスは膨大に増えている。そして、物販、非物販
も含めて多様化している。
どこに住むか、そしてどんな通信ネットワークをもっているかで、アクセスに大きな格
差が生まれている。このアクセス格差を利用して成功しているのが、成長格差を生んでい
る企業であり、業態である。ソニーは、「ソネット」で 50 万人の利用者をもち、そのネッ
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トワークを通じて、AV製品だけでなく、情報ソフトなどの販売から、金融、保険サービ
スの提供までを構想している。インターネット投資信託の「シュワブ」との提携はそのこ
とをうかがわせる。アメリカのコンパック社は、百万人のパソコン無料提供キャンペーン
で、一挙に、ダイレクトなデジタル流通を確保しようとしている。これを通じたソフト情
報の販売である。
新しいアクセスを提供して、特定の顧客に密着して他社や他業態では真似のできない商
品・サービスを提供することが成功の原則である。そして、どれだけ顧客との真似のでき
ないアクセスを増やすことができるかが消費格差下の成功の鍵である。
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