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消費回復をリードするデジタルネットワーカー
デジタルネットワーカー
景気回復の兆候がはっきりしてきた。円高や公共投資の下支えによって、ようやく企業
収益が回復し、株価も上昇傾向にある。しかし、この流れが確実なものとなるための鍵は、
なんといっても家計消費である。つまり、私たちの財布の紐である。
これまでの消費は受け身であった。賃上げ、失業率などの予想収入に依存して、財布の
紐がゆるくなったり、きつくなったりしていた。しかしながら、もはや企業の収益が回復
したからと言って、雇用が拡大したり、賃上げが進むことなどあり得ない。従って、消費
が自立することがこれからの日本経済の成長条件となっているのである。
誰が消費をリードするのか。「デジタルネットワーカー」をその有力な候補として上げて
みる。そして、これらの人々がどんな需要をもたらすか分析してみることにする。
95 年度の最大のヒット商品が「パソコン」であることは言うまでもない。約 570 万台と
いう出荷台数であり、今年度はさらに7〜8百万台が予想されている。こうしたパソコン
の普及に従って、他のコンピューターと接続されるパソコンも急増している。むしろ、4
千万人の利用者をもつインターネットや 150 万人の加入者をもつ「ニフティサーブ」など
の商用ネットワークに加入するために、パソコンが普及していると言っても過言ではない。
「ソフトなければただの箱」と言われたパソコンも「ネットワークなければただの箱」と
言われかねない程である。それほどネットワークの魅力が増えている。ネットワークの魅
力に惹かれ次々と消費を拡大している人々をここでは「デジタルネットワーカー」と呼ぶ
ことにする。約 100 万から 200 万人の人々である。京都市の人口が約 150 万人、京都府の
人口が約 230 万人であることから、仮想上の「京都」クラスが消費のリーダーになってい
るとみることができる。日本でのインターネットの加入者数も同数である。その数は幾何
級数的に増大している。
ネットワークにはこれまでのパソコンの用途にはない魅力がある。電話やFAXにもな
い魅力がある。ネットワークとはコンピューターとコンピューターを繋ぐことにすぎない。
「インターネット」という言葉もその繋ぎ方の統一規則の名称にすぎない。ただ、繋ぐこ
とによって情報の共有が可能になるのである。人々は生活を営むなかで様々な人との関係
をもっている。家族があり(血縁)、近所があり(地縁)、会社がある。こうした関係は、
ふだん、挨拶などの言葉、モノやサービスを交換することによって成り立っている。これ
らの関係の共通点は、自分の行動が時間や場所(空間)に限定されていることである。ア
copyright (C)2005 Hisakazu Matsuda. All rights reserved.
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メリカ人や中国人と情報交換しようとすれば、なんらかの機縁や移動が必要になる。とこ
ろが、インターネットなどのネットワークを利用すれば、情報発信をしている4千万の世
界中の人々と関係を結び、静止画から動画までデジタル情報として交換することができる。
わずか 20 万円前後の投資をすれば電子的な「新社会」の「市民」(ネチズン)になること
ができるのである。
この強い期待を背景にパソコンも大きく変貌しようとしている。マイクロソフト社やイ
ンテル社も、このネットワーク化の波のなかで「もはや時代遅れ」と言われている。それ
ぞれのパソコンが1台ごとにOS(95 などの基本ソフト)や巨大なアプリケーションソフ
トをもつことが非効率的であるからである。ネットワークだけに特化したパソコンが急速
に現実味を帯びてきている。
デジタルネットワーカーを引きつけているのはこの「時間と空間を超えた関係志向」の
魅力なのである。
超時間と超空間の新しい世界
デジタルネットワーカーをインターネットや商用ネットワークで積極的に情報発信した
り利用したりしている人と狭義に捉えてみる。その特徴は三つあげることができる。男性、
技術者などの理系ホワイトカラー、30 代ということである。技術者系が多いのは、ネット
ワークの加入や接続はそれほど難しくもないが、それでも簡単にとまではいかないことの
制限からくる結果でもあろう。また、会社のなかでもっとも忙しい立場でもあり、血縁や
地縁とのコミュニケーションがもっとも不足しているライフステージでもある。
時間にとらわれることなく、空間に制約されずに、家族や世界中の人々と情報交換がで
きる世界を最も求めているのは彼らである。なかでも、電子メールの利用はコミュニケー
ションの性格や量まで大きく変える可能性をもっている。電子メールに慣れてくると、電
話やFAXよりも、電子メールを利用した方が快適になってくる。それは、正確に、しか
も、記録が残せ、相手の邪魔をせずに、情報交換、情報共有ができるからである。これは
忙しい人にとってみれば手放せないツールとなる。
自分の知りたいテーマついて情報提供しているサイト(ネットワーク上のアドレス)を
見つけ、そこに問題を投げかけておけば、世界中からメールが届く。そして、好きな時に
読むことができるのである。
これは仕事だけではなく、家族のコミュニケーションについても同様の便利さがある。
30 代の家族なら、子供は塾に、夫婦ともに忙しく、ちょっとした相談も時間を共有するこ
とが非常に難しくなる。ちょっとした相談ごとなら電子メールでそれぞれの時間を無理に
合わせずにいつでも「電子家族会議」を開くことができる。父子でネットワークを使って
将棋などのゲームもよく利用されている。
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コミュニケーションの質も変わってくる。言えないことがメールであれば言える、感情
を抑制できるということもある。面と向かって言いにくいことが言えたり、面と向かえば
「売り言葉に買い言葉」で言い過ぎてしまうことが逆に抑制できたりするのである。一定
の年代になると、両親や夫婦の間では、「ありがとう」のような言葉は使いにくくなる。そ
れが電子メールでは可能になるのである。
デジタルネットワークは、世界中の人々とのまったく新しい出会いとこれまでの関係を
より密にしていくのである。超時間と超空間の世界とは、個人を基盤に血縁、地縁、会社
組織、国を超えた新しい人間関係、社会関係をもたらすのである。
デジタルキャッシュ
恐るべき予測がある。デジタルネットワ
ークによる決済が 2005 年には、すべての
電子的商取引の予測
年次
区分
購買の約 20%までになるというものであ
総購入
る(図表)。
伝統的商取引
私たちは生活に必要なものを日々購入
している。最も高価な住宅から1個の石鹸
(a)
電子的商取引(b)
テレビ・ケーブルテレビ
ビジネス間
まで、その品種数は 20〜30 万と言われて
インターネット
いる。その商品購入時の決済は、総て現金
その他
や銀行振込みを通じて行っている。インタ
電子取引シェア( b/a)
ーネットなどの商用利用は実は大きな難
単位:百万ドル
2000年度
推定
2005年度
推定
5.395
10.150
14.950
5.150
8.500
12.000
245
1.650
2.950
650
1994年度
45
400
140
600
650
不明
600
1.250
60
50
400
4.5%
16.3%
19.7%
出所:ビジネスウィーク(95年度6月12日号)
題をもっている。それは決済方法に有効な手段がないことである。インターネットでは現
在でも様々な物やサービスが販売されている。しかし、その決済は安全性が確保できない
ことが大きな障害となっている。カードで支払うとすると、カード番号などの秘密情報が
漏洩し、悪用される可能性があるからである。そこで暗号技術をもとにデジタルキャッシ
ュの様々な実験が試みられている。貨幣は、様々な物的手段から金へ、そして管理通貨と
しての紙幣、更にはデジタル信号になっていくのである。その決定的な手段はまだ示され
ていないが、多くの手段の並立によってデジタル決済が進むことは間違いない。その比率
が 10 年後、約2割までになるという予測である。
実際、インターネットでは様々なものが販売されている。その商品やサービスの特徴は、
少数の買い手しか想定できないものに特徴がある。既存の流通を通じて販売すると、とて
も売り手がみつからないものである。既存の流通は、「少数の売り手と多数の買い手」によ
って成り立っている。しかし、デジタルネットワークは、
「多数の売り手と少数の買い手」
のビジネスを成り立たせることができる。商品をスペック(機能仕様書)の組み合わせに
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すれば、自分用のスペックを書き「自分だけの商品」を発注し、購入することができる。
機能が明確になってきたパソコンでは、キットパソコンの市場が拡大し、指定スペックで
組立て納品できる売り手が伸びている。
これまでの既存の流通と既存の銀行を通じない、巨大でグローバルな流通が登場するの
である。受注も発注も、そして決済も、個人で行われる時代がそこに来ているのである。
デジタルネットワークは価値を変える
これら一連の動きの根底にあるものは、人間と人間との関係が大きく変わっていく、つ
まり社会関係が大きく変容していくということである。会社の仕事とは、与えられた課題
を他の人との協同を通じて行うにすぎない。もし、穴を掘ったりなどの物理的制約がなく、
協同者の顔をみる必要がないならば、オフィスというもの自体の存在価値は著しく低下す
ることになる。ネットワーク端末1台あればいいことになる。
これらの動きのなかで使われる通信やネットワーク機器の市場が伸びている。SOHO
(スモールオフィスホームオフィス)と呼ばれるものである。
事務所も不要、商店街も不要、紙幣も不要、必要なのはネットワーク端末だけという時
代が近づいてきている。これまで前提としてきたモノや制度が大きく変わるのである。
仕事が都心にあって住む家が都心ではないから郊外に家をもつ必要があった。夫が通勤
し、8時間拘束されるから、男女分業が必要で主婦という
職業
が成り立った。日常食
材を買い物する主婦をターゲットにスーパーが生まれた。つまり、私たちの生活は、職住
分離、持ち家、主婦、買い物などという基本的な前提の上で生活が成り立っていたのであ
る。その基本的な当たり前の前提価値が壊れようとしている。同時に、新しい価値を生も
うとしている。それがデジタルネットワークの世界である。
[初出 1996.04「NOVA」 日立キャピタル(株)]
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