特別寄稿 海外へ赴任される方達へのメッセージ

JOMF NEWS LETTER
特別寄稿
No.245 (2014.6)
海外へ赴任される方達へのメッセージ
~海外生活のストレス要因と撃退法について、これまでの活動を振り返りつつ~
海外邦人医療基金
(前)業務部長
宮本昌和
皆さん、こんにちは。JOMF OB の宮本です。
JOMF から、「これまでの基金での経験を中心に掲題タイトルでの執筆を」と依頼を受
けました。 昨年 12 月に一般社団法人 海外建設協会の会報誌「OCAJI 2014 年 10-11
号」に投稿させて戴いた時の 9 千字に対し、今回「A4 で 2~3 頁」という極めて短いもの
を要求されており、他方、「これまでのセミナー活動や企業からの相談事例なども含め
よ」との難題を頂戴してしまいました:苦笑
以下、4 千字で仕立てましたが、夫々のサブタイトル見出しごとにコラム化できる内容
ですので、言葉足らずについては、ご容赦下さい。
【増え続ける海外在留邦人】
海外在留邦人数は増え続けています。 外務省速報によると 2012 年 10 月 1 日集計時点
では 1,249,577 人となりました。 前年より 6.7 万人(5.7 %)増加しており、海外に暮
らす日本人が益々増えているといえましょう。 同時期の日本の人口は、1 億 27 百万人
(厚生労働省発表)ですので、日本人口約 1%の方が海外に暮らしていることになります。
地域別にみると企業数では圧倒的にアジア(7 割)、邦人数でもアジアが 3 割弱でトップ
の座を占めています。 国別では、①アメリカ合衆国 (41.1 万人) 、②中華人民共和国
(15.0 万人)、③オーストラリア(7.9 万人)、④英国(6.5 万人)、⑤カナダ(6.2 万
人)となっており、邦人増加率の大きい国としてはマレーシアでほぼ倍増、これにインド
(28%増)、カンボジア(23%増)やベトナム(21%増)、フランスとインドネシア
(いずれも 18%増)と続きます。 堅調な北米や日本政府が笛吹けど踊らずのアフリカ地
域とは異なり東南アジアでの増加が著しい様です。 海外に暮らしてみて判ることは、言
葉だけの問題ではなく、文化・歴史・政治や法律の問題、狭い日本人村社会の問題といっ
た自分を取り巻く環境と、仕事の上では、日本人駐在者 vs.ローカル従業員の権限と給与
格差、仕事の進め方等に加え、現場を全く理解できない日本側本社の問題といった多くの
ストレス要因が存在し、日本国内にいる時より更に厳しい状況に駐在者とその家族の皆さ
んが晒されてしまうことが有り得るということです。 また、社員を派遣する企業側での
事前研修の有無やそのレベルの問題、更に派遣家族も含めてのメンタル面でのチェックの
有無やその程度差といったものも海外でメンタルヘルス不調を引き起こさせる要因となっ
ているというのも事実として存在しています。
打たれ強い強靭さ、少々のことには「ヘラヘラ」と軽くストレスをいなす性格も海外駐
在をする人には求められるのに、「日本では生真面目で仕事ができたから」とか中国や台
湾などでは中国語で漢字が使われているから「国内と変わらない筈」等といった安易な考
えで現地に赴任させられて、現地人との交渉もろくにできず仕事がうまくいかない。 結
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果「これだから XX 人は!!」と逆切れする人も出がちです。 そして、過度の飲酒など
に「逃げる人」が出がちだという現実が存在していることをまず理解しておくことが必要
でしょう。
【JOMF のメンタルヘルスへの取組簡介】
これらを踏まえ、JOMF では、5 年間に開催したミニセミナーにおいて、『社員を出し
たらそれだけで終わりではない、帰任するまでのケアが重要』(人事は最後まで駐在員と
そのご家族のケアを!)という通奏低音メッセージを発信してきたつもりです。
実際、初回の『忘れていませんか?妻たちのフォロー』から始めて東京・大阪での精神
科医を中心としたセミナーに加え、シンガポール・上海で
のセミナー開催、更にコミュニケーション・コーチング セ
ミナー(入門編・初級編)、情報交換会、子女教育振興財
団との共同セミナーなど、合計 12 回のセミナーを開催して
きました。ご協力戴いた鈴木満先生をはじめ多くの先生や
カウンセラーや関係者の方に感謝しますとともに今後もご
支援をお願いしたいと思います。
また、企業の産業医さんたちのご賛同も得、企業連携を
図りながら、『コミュニケーション能力を向上させること
でメンタル不調の未然防止、再発防止が可能になるので
は』という推論のもとで我々とともに推進にご協力戴いた
栗栖佳子さん(『宙』代表)によるコーチング・セミナー
は、JOMF(専門家ではない素人集団)の自慢イベントの一
つとなり、今後も中級編、上級編へのバージョンアップを
要請されています。
ニュースレター連載を小冊子と
してまとめた「心のサプリメン
ト
コーチングを学ぼう」
JOMF サイトにはダウンロード版
紙媒体では、ニュースレターでの「コーチングを学ぼ
も掲載されています。
う」シリーズ連載後に、昨年度冊子化したところ、大変好
評で増刷が決まりました。 会員企業の皆様に実用的なサービスを提供できたのかなと嬉
しく思っています。
コーチングの講師栗栖佳子さんが昨年末に出版された→
「才能を伸ばす人が使っているコミュニケーション術」
http://jomf.or.jp/pdf/2014/01/167/201401book2kurisu.pdf
←このセミナーの提案者である下野淳子さん
(海外生活メンタルヘルスコンサルタント、産業カウンセラー)に
よる著書「海外赴任のために必要なこと」も昨年ご紹介しました。
http://www.jomf.or.jp/pdf/2013/04/0013.pdf
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【その他イベントでの JOMF 関与事例】
上述の他に、昨年 5 月に北京日本人会と中国商会が主催したセミナーでも鈴木満先生、
栗栖佳子さん、私が招かれて「現地に着任している皆さん」への支援になればと精神科医、
コーチ、私の組み合わせでセミナーが実施され、その帰国後には博多で開催された 109
回日本精神神経医学会トピックフォーラムでの講演や、OCAJI でのコラム起草、そして、
2 度にわたるメンタルヘルス連絡協議会への参画など、基金としてもメンタルヘルスを
重視していることをご理解いただければ幸甚です。
【宮本に寄せられた企業からの相談事例】
私は、JOMF に着任してから中国の医療事情等についてのメール配信を続けてきました
が、これまでの翻訳本数(統計表やグラフ化したものも含め)は 1500 本を超え、読者も
1200 名を超えてしまいました。 またこの情報を配信すると、「宮本が元気でいることが
分かった」とか、「中国営業部隊で会議前のアイスブレークの話題につかえた」、「中国
の関係者に転送したところ、印字して内部回覧したら中国人社員の中で衛生に関する関心
が高まった」といったご感想の他に、メンタルヘルスに関連したご相談も入るようになり
ました。
「XX 市で、中国人社員のカウンセリングをしてくれる機関を紹介してほしい」、「中国
から日本に研修生を受け入れるに際して、メンタルも含めた注意点を教えてほしい」、
「日本本社が少しも自分たちの現場を理解してくれない、どうしたらよい?」といったも
のから、「今 YY 市のクリニックに行っているが先生を変えたい、ZZ 区の近くで良い医師
を紹介してほしい」といったものまで色々とあります。 中国に既にいるのだがどうした
らよいか?といったことについては、医師の立場ではなく、中国の先輩としてのお話をお
聞きすることはできるものの、私のできないことも多くあり、①お医者さんにきちんとか
かること、②服薬についても医師の指示通りにしてみることをお勧めするにとどめていま
す。
ただ、中国から日本に来る研修生たちの健康管理については、『研修生が被害者になる
場合』、『加害者になる場合』、『健康を壊す場合』に分けて夫々の原因とその対応につ
いて、一覧表にまとめたものをいくつかの企業の方にはお渡ししてまいりましたが、日本
に入ってから帰国する最後の日までの注意事項は多々あり、説明が必要な場合にはご相談
に応じてきました。 結果的に会員になって戴けた企業もありましたので、無駄にはなら
なかったと思っています。つい最近は、「千葉に住んでいる研修生を都内で研修させてい
るが、体調が悪く治らない、、中国語が通じる医療機関を紹介してほしい」という産業医
さんからのお問合せもありましたが、代々木にある日中友好医院(当初の設立目的はまさ
にこの「日本語が話せない中国人の健康確保」であり、医師も中国語が可能)をご紹介し
ておきました。
更に、草の根レベルでの日中友好の活動を支援している為に、中国人留学生やビジネス
パーソンたちの悩みも多く寄せられるようになりました。 悩みを聴いてあげているだけ
ですが、コミュニケーション・コーチングの効果があったのか、色々な方が色々な形で私
に相談をしてこられ、2 時間近く食事をしながらお話を聴いているうちに、「あ~、すっ
きりしたぁ!」とお帰りになる姿を見送りながら、私の方が「う~、でもこちらは何を食
べたのか、忘れてしまったなぁ」と思うことも頻々です:笑
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この様な活動をする中で、大事だなと気づいたことを幾つか例示してみます:
日頃から、
①色々な物事に興味関心を持つこと
②色々なセミナーに参加し、一つでも二つでも何らかの収穫を得るように努力する
こと
③聞くのではなく、聴く(傾聴)に重点を置き、相手の方の話に 耳を傾けること
(栗栖さんの著書が大いに参考になりました)
④自分の知っている情報を日頃から整理しておき、頼られた場合には情報提供を
惜しまぬこと(自分は更に深い情報を求める努力をする)
⑤情報のやりとりがスムースにできるネットワークを構築し、維持すること
(名刺交換してそれを PDF 化するだけでは何ら役に立たずです)、
といったところでしょうか。
【終わりに】
本来は、赴任前にご家族を含めた赴任者の健康状況をメンタルヘルスまで含めてチェッ
クし、言葉や文化、政情、リスク対策も含めた現地状況や駐在先企業の位置づけ等につい
てきちんと理解した上で、派遣戴ける様にすべきですが、既に現地赴任中の方には、「今
更何を!」か「その通りだがうちはできてないなぁ。不満だ」と思われるでしょうね。
そんな時には、発想を切り替え、「開き直る」ことをお勧めします! そして「いつか
らやるの?」には「今でしょ」と:笑
現地での生活をエンジョイし、帰国時には「ああ、赴任してよかった。またいつの日か
ここに戻ってきたいな」とご家族ともに思えるような結末を期待しています。「駐在員の
皆さん、加油!(頑張って!の中国語です)」