図書館資料展示 <『絵入源氏物語』[慶安三年版 1650 年?]山本春正編> 『源氏物語』は平安中期、摂政藤原道長の時代に宮廷で女 房として仕えていた紫式部によって書かれた、「桐壷」から 「夢の浮橋」まで全 54 帖におよぶ、100 万文字、原稿用紙 2400 枚と言われる長編小説です。 現在、 『源氏物語』の原本は残っていませんが、100 本以 上の写本が知られており、平安時代に成立したと言われる 『源氏物語絵巻』は日本美術工芸にも大きな影響を与え、鎌 倉・室町時代には屏風絵や扇絵も作成されました。江戸時代 初期には板本として巷間に流布され、明治以降も、谷﨑潤一 郎、与謝野晶子、円地文子などの作家に現代語訳され、最近 でも映画化などさまざまな形で日本文化に影響を与え続け ています。 立教大学所蔵の『絵入源氏物語』(えいりげんじものがたり)は、木版印刷による書籍の刊行が始 まった江戸初期、当時屈指の蒔絵師、山本春正(1610-82)の絵と本文校訂によって出版され たものです。 『源氏物語』の大衆化と共に、挿絵による視覚的な理解を進展させたことでも大き な意味を持っています。また、全篇にわたり質の高い朱筆書き入れが見られ、 『源氏物語』全 54 帖(54 冊)に加えて、 『源氏目案』3 冊、 『引歌』1 冊、 『系図』1 冊、 『山路露』1 冊の 60 冊か ら成っています。 立教大学図書館 <展示資料> 『[絵入]源氏物語』紫式部著 全 60 巻 山本春正編 江戸時代初期板本 57.5×19.1 cm <参考資料> 1.『[絵入]源氏物語』紫式部著 30 冊 [出版地・出版者・出版年不明] 15.8×10.9cm 2.『[絵入]源氏物語』紫式部著 30 冊 [出版地・林和泉掾・出版年不明] 14.8×21.2cm 3.『源氏小鏡:絵入』3 巻 洛陽:吉田三郎兵衛:淺見吉兵衛 明暦 3[1657]年 4.小嶋菜温子「 『源氏物語』魔力に酔う」朝日新聞 2011 年 11 月 25 日(夕刊)17 面 5. 週刊朝日百科『絵巻で楽しむ 源氏物語五十四帖』創刊号:一帖桐壷 朝日新聞出版 2011 年 12 月 6. 『Le Dit du Genji:Genji Monogatari』 Paris: Diane de Selliers 2007 葵の上と光源氏、平安期の政略結婚の形 文学部文学科日本文学専修教授 小嶋菜温子 葵の上は東宮妃にと望まれていた。もしも入 内(じゅだい)し皇子(みこ)が生まれれば、女御(に ょうご)から后(きさき)になれたかもしれない。父 の左大臣も外戚として、右大臣と政権を二分し えた可能性も高い。だが、左大臣は思うところ あって、東宮側の申し出を断り、あえて光源氏 を婿に取った。どういう考えによるものかは語 られないが、左大臣の何らかの思惑を見るべき であろう。 かたや葵の上を東宮妃へとの申し入れを断られたうえに、第二皇子の光源氏に葵の上 を横取りされた格好の右大臣(弘徽殿女御の父)は、形なしといったところ。右大臣は 急遽、葵の上の兄と、自分の娘を結婚させる策に出る。そこには、光源氏側についた左 大臣家への牽制の意図が見え隠れする。いわゆる政略結婚だが、平安時代の婚姻はおお むね家と家との関係において、家父長によって決定された。ゆえにまた、帝の肝いりに よる左大臣家あげての慶事とはいえ、当の葵の上と光源氏の心は置き去りにされている のだ。葵の上にしても、東宮妃になることと、光源氏の正妻になることのどちらが幸せ か。その本心はまったく語られていないままだが、本当のところはどうだったのだろう。 年齢の問題にしても、葵の上の年は藤壺の宮とさして変わらず、「添い臥し」として はありうる年齢差であった。にもかかわらず、葵の上の心が解けず、光源氏と心を通わ せることができないのは、周囲の事情がそうさせたともいえよう。婿として左大臣邸に 通うのにも身が入らず、藤壺の宮を思い焦がれて煩悶する光源氏もまた、同様ではなか ったか。 母の里邸であった二条院で、藤壺の宮のような人と暮らしたいーかなわぬ夢を思い描 く光源氏。光源氏の心に棲みついた理想の愛への渇望は、これから始まる愛の遍歴、あ らたなヒロインの登場、そして藤壺の宮との悲劇の原点でもあったのである。 (※以上の文章は、『絵巻で楽しむ源氏物語』朝日新聞社刊 2012 創刊号中の文章を、著者の了解を得 て抜粋・転載させていただきました。立教大学図書館) 「源氏物語屏風」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵): 光源氏元服の場面(『Le Dit du Genji: Genji Monogatari』vol.1 Paris:Diane de Selliers 2007 より) 「桐壷」巻の挿絵とあらすじ 表紙 帝、命婦を更衣の母・北の方の 冒頭部分 桐壺は玉のような皇子を生む 命婦、帝に母・北の方の様子を奏上 高麗人、源氏の未来を占う もとに遣わす <第一帖:桐壷の巻 あらすじ> 平安時代の中ごろ、帝の寵愛を受けたあまり身分の高くない桐壷 の更衣があった。玉のように美しい皇子(源氏)を生むが、周囲の 嫉みを受けて病に倒れ亡くなる。 桐壷の更衣を忘れることができない帝は、源氏とあまり歳の違わ ない更衣と生き写しの皇女藤壺を迎える。二人の美しさを世間で は「光る君」「かがやく日の宮」と呼んで讃えた。 源氏は十二歳で元服し、左大臣の娘、葵の上と結婚する。しかし 彼女とは打ち解けず、ひそかに藤壺を思慕するようになる。 源氏、十二歳で元服、結婚する ※展示資料の解説は、下記のサイトにも掲載しています、 http://www.rikkyo.ac.jp/research/library/archives/exhibition/
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