論述力 慶應義塾大学 法学部 1/2 <総括> 試験時間 90 分 総解答字数 1000 字 この学部では、 「近代」的なるもの( 「近代」の社会原理)の意義を再確認させたり、その限界や問題点の 「問い直し」を求めることを求める出題がなされることが多い。 「西洋文明」 (国民国家や近代テクノロジー) の再検討をテーマとする本年度の出題もその範疇に属すものであり、想定内の問題である。但し、課題文は 文明論であり、抵抗権や首相のリーダーシップ、ケアの倫理といった、ここのところ続いていた法学・政治 学的な課題文に比べるなら、一般教養的な文章になった。だが、それはあくまで課題文の特徴であり、 「異質 な文明の交流の深化は世界文明を招来させたか」という論述テーマに解答するためには、近代西洋文明の歩 みに関する歴史的教養とグローバル化が進展する現代の国際社会において起こっている文明をめぐる政治 的・経済的問題についての知識が必要である。国際政治に直接言及することが求められたのは 2010 年以来で ある。 <課題文の分析> 大問番号 内 容 (主題) 出 典 (作者) 長短・ 難易等 前年比較 世界文明は招来したのだろうか 山本新『人類の知的遺産 74 トインビー』 (講談社、1978 年) 長短(短い・変化なし・長い) 難易(易化・変化なし・難化) <大問分析> 大問 出題 形式 課題文 テーマ・課題文の内容 学部系統的(一般教 養的) 設 問 解答 字数 要約・論 1000 字 述 設問形式 コメント(設問内容・論述ポイントなど) トインビーの文明観とその根拠を 400 字 程度でまとめ、世界文明は「来ようとし ている」という指摘について、世界で今 起きている具体例に触れつつ自分の意見 を述べる。 ※出題形式は「テーマ・課題文(英文を含む場合は付記する) ・図表・その他」 ※テーマ・課題文の内容は「一般教養的・学部系統的・教科論述的・その他」 ※設問形式は「論述・要約・説明・分析・その他」 © 河合塾 2016 年 論述力 慶應義塾大学 法学部 2/2 <答案作成上のポイント・学習対策等> 「西洋文明と非西洋文明との相互の学び合いを通じて、世界文明が来ようとしている」というトインビー の見立てを、イデオロギーの終焉とグローバリゼーションの深化を経験した現代の国際社会の現実を踏まえ て検討することが求められている。抽象的な課題文の内容を、世界の歴史や現代社会の状況に照らして、リ アリティをもって捉えられるか否かが鍵である。 また、本問では、具体例の提示が求められている。具体的事例が何を意味しているのか、西洋文明の拡大 や衰退、西洋文明に対する非西洋文明の受容や抵抗、そうした相互の交流や学び合いを通じて、最終的には 現代社会において「世界文明は来ようとしているか」という問いに解答を与えればよい。例えば、イスラム 国をはじめとした西洋文明の否定を標榜する宗教的原理主義の台頭、及びそれに対する西洋文明の応答は、 異なる文明の衝突なのだろうか、それとも対話の可能性はあるのだろうか、といった手順で考察を深めてい けば、解答に行き着くことができる。他に、非西洋文明圏にありながら強大な覇権をもつ中国の台頭をどの ように評価するか、アメリカによる世界の自由化・民主化、消費文明の拡張は、西洋文明の押し付けか、テ ロとの戦いに終息はありえるのか、テクノロジーは非西洋の諸文明との交流を通じて、テクノロジーがもた らした環境破壊を乗り越える新しい文明を生み出しえるのか、などグローバリゼーションの真っ只中にある 現代社会には考察すべき現象がたくさんある。 学習対策としては、以下が求められる。①「近代」の社会を基礎付ける基本概念――個人、自由、平等、 社会契約説、立憲主義、民主主義、市場原理などを理解し、分析のための道具として使う訓練を重ねる。② 現代の日本社会及び国際社会の抱える問題や象徴的な現象については、インターネット、テレビ、新聞など を通じて日々関心を深めておく。③歴史や公民といった社会科科目は、とくに近代以降の項目を中心にしっ かり勉強する。④以上のような知識や教養を身に着けながら、過去問を通じて論理的読解力と論理的思考力、 文章作成能力を実践的に鍛えておく。本年度の出題もそうであるが、大学は過去問をしっかり勉強してきた 受験生を裏切ることはないだろう。 © 河合塾 2016 年
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