消化器関連疾患︵炎症性腸疾患︶ 炎症性腸疾患︵IBD︶の患者数は年々増加 の一途をたどっている。特定疾患の医療受給者 膜治癒︵内視鏡的寛解︶へとより高くなってき 特に抗TNF α 抗体製剤︵ Bio ︶の登場後、 内科治療の目標も臨床的︵症状的︶寛解から粘 中 村 志 郎 証交付件数と登録数を合わせた患者数は、20 ている。本稿では本邦におけるIBD診療の基 潰瘍性大腸炎・クローン病の本邦の 現況と治療指針改訂のポイント 13年度すでに潰瘍性大腸炎︵UC︶が約 万 − 人、クローン病︵CD︶も約3万9、 000人 UCとCD内科治療の最近の動向を概説する。 準ともなっている研究班の治療指針を中心に、 人に達すると予想されている。もはやCDすら 希少疾患ではなくなり、IBDが消化器内科の ①最近の内科治療の変遷 遂げ、その治療成績も大きく改善されつつある。 といっても過言ではない時代が続き、ステロイ IBDの内科治療は、2000年以降に新規 長らくUCでは主たる治療がサラゾスルファ 治療法や薬剤が相次いで登場し、急速な進歩を ピリジン︵SASP︶とステロイド剤しかない 日常的な疾患となる時代が到来しつつある。 潰瘍性大腸炎︵UC︶ を超え、あと5∼6年でUC 万人、CD5万 17 (199) CLINICIAN Ê15 NO. 636 59 20 治療に難渋していた。このような診療状況が大 ド剤で十分な効果が得られなければ、その後の 治例においてはステロイド治療︵特に全身投 がUC内科診療にもたらす意義としては、非難 きく変貌したのが2000年以降のことである。 与︶へ移行する前に十分な5 ASA製剤によ 年インフリキシマブ︵IFX︶ 、2013年ア 2009年タクロリムス︵TAC︶ 、2010 される。 治療継続の回避が、不可欠になっていると要約 用されていることから、漫然としたステロイド ②厚生労働省難病研究班の治療指針 ︵UCの約 %程度︶に対しても十分な治療が 最新の平成 年度UC治療指針︵内科︶を表 行えるようになった。また、一方でこの間には、 ①に示した。平成 年度の主な改正点として① イド治療で十分な治療効果が得られない難治例 ダリムマブ︵ADA︶が保険適用され、ステロ る治療の実施、さらに難治例においてはステロ 2000年の血球成分除去療法︵CAP︶を 皮切りに、2006年アザチオプリン︵AZA︶ 、 イドにかわる有効な免疫統御療法が全て保険適 − 型︶ ︵2・4∼3・6g /日︶ 、2013年メサ 4・ 0g ︶ 、 2 0 0 9 年 メ サ ラ ジ ン︵ 依存 ジン︵時間依存型︶ ︵1日上限量が2・25∼ 2003年メサラジン注腸、2008年メサラ れたことが挙げられる。現在のUC内科治療指 して従来の血球成分除去療法がTACに変更さ Aの追加、③劇症例に対する推奨治療の一つと メサラジン坐剤の追加、②難治例に対するAD 25 針の骨子を図②a に示し、その概略を説明する。 25 ラジン坐剤も保険適用され、UCの第一選択薬 pH である5アミノサリチル酸︵5 ASA︶製剤 内科治療の基本は病変範囲および、臨床的な 重症度に応じて治療内容を強化する step up が高用量化し、局所製剤も充実してきている。 と なっている。まず、5 ASA製剤は症状と病 − このような2000年以降の内科治療の進歩 − 60 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (200) 30 ①平成25年度潰瘍性大腸炎治療指針(内科) 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(渡辺班)平成25年度分担研究報告書 437∼443ページ *現在保険適用されていない **インフリキシマブ、アダリムマブで寛解導入した場合 変範囲にもよるが、積極的な 高用量と、必要に応じた局所 製剤の併用が重要である。5 ASA製剤で効果不十分な 場合、ステロイド治療に移行 する。ステロイド治療では直 腸炎型∼左側大腸炎型ではま ず局所製剤を優先する。全身 投与が必要な場合、中等症で はプレドニゾロン︵PSL︶ ∼ ㎎ 、重症では ∼ ㎎ 40 80 されていればチオプリン製剤 例の場合、臨床的寛解が維持 療が示され、ステロイド依存 る反応性により推奨される治 なり、ステロイド治療に対す 場合は、難治例の取り扱いと テロイド治療で効果不十分な を開始量として治療する。ス 40 (201) CLINICIAN Ê15 NO. 636 61 − 30 ② (筆者作成) ︵AZA/メルカプトプリン 6MP︶の追加 併用が世界的に推奨されている。ステロイド抵 抗性の場合、緊急手術の可能性も考慮されるよ うな重症例ではシクロスポリン︵CYA︶の持 続静注が推奨されるが、多くの内科治療の余裕 がある症例では、CAP・TAC・ Bio ︵IF X/ADA︶から治療が選択される。有用なス テロイド代替療法が3つもあるのは内科治療進 歩の成果ながら、その選択基準が全く明らかと なっておらず、現在の最も大きな問題点となっ ている。 クローン病︵CD︶ ①最近の内科治療の変遷 本邦のCD内科治療は、欧米と異なり長らく 成分栄養剤を中心とする栄養療法が寛解導入と 寛解維持の主役を担ってきた。このような診療 62 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (202) 状 況 を 一 変 さ せ た の が 抗T N F α 抗 体 製 剤 ︵ Bio ︶の登場である。2002年IFX︵5㎎ − b. CD 内科治療指針の骨子 a. UC 内科治療指針の骨子 ・5-ASA 5-ASA ③に示した。平成 年度からの大きな改正はな 寛解維持療法も保険適用され、本邦のCD内科 導入療法として、2007年には8週間間隔の 手術後の再発〟に追記された。現在のCD内科 と〝狭窄/瘻孔の治療〟 、ならびに〝Ⅵ.外科 く、修正点としてADAが〝肛門病変の治療〟 /㎏ ︶の単回/0・2・6週の3回投与が寛解 治療体系も大きく変貌した。2006年にはA 明する。 型の step up を基本としていたが、現在の治療 指針は栄養療法と薬物療法が対等に併記される へと治療内容を強化する直列 Bio ︵効果減弱︶を認めるが、このような症例に対 プリン製剤↓ − 並列型へと移行している。患者の病状や治療法 の場合、導入後には約 ∼ %程度に、効 Bio 果の持続期間が導入当初よりも短縮する現象 型抗体で皮下注製剤のADAもCDに保険適用 従来の方針は栄養療法と5 ASA製剤を第 され、自己注射による治療も可能となっている。 一選択とし、重症度に応じてステロイド↓チオ 治療指針の骨子を図②bに示し、その概略を説 ZAがCDにも保険適用され、 Bio との併用を 中心に普及している。2010年には完全ヒト 24 し2011年IFXの増量︵ ㎎ /㎏ ︶が適応 30 ︵QOL︶低下や継続性に問題点を残してきた 立されているものの、食欲制限に伴う生活の質 可能となった。栄養療法は安全性と有効性が確 ている。 も含めた適切な治療を選択することが推奨され に対する受容性を総合的に判断し、両者の併用 が、最近の薬物療法の進歩はこれらを補完し、 が引き継 薬物療法については従来の step up CD内科治療の成績をさらに改善しつつある。 がれ、 Bio を第一選択とするいわゆる top down が一律に推奨されているわけではない。しかし、 ②厚生労働省難病研究班の治療指針 最近ではCDの長期予後改善の観点から、栄養 (203) CLINICIAN Ê15 NO. 636 63 40 10 最新の平成 年度CD治療指針︵内科︶を表 25 ③平成25年度クローン病治療指針(内科) 療法や既存薬で治療を開始し ても、早期にその効果を評価 し、不十分ならば、手術適応 の原因となる腸管合併症の形 accelerated step 成を回避するため、 Bio 適応 も含めた治療強化をより積極 的 に す すめる の考 え 方 が 欧 米 と 同 様 に up 本邦でも普及してきている。 たが、効果減弱例ではIFX 増量やADAへの移行、ある いは栄養療法併用でも治療に 難渋する場合も多く、解決す べき今後の課題となっている。 ︵兵庫医科大学 炎症性腸疾患内科 教授︶ 64 CLINICIAN Ê15 NO. 636 (204) の登場によりCD内科 Bio 治療の成績は飛躍的に向上し 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班(渡辺班)平成25年度分担研究報告書 450∼453ページ *現在保険適用されていない
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