音 楽 音楽科では,曲想を生かした表現を工夫したり,音楽を聴いて楽曲のよさを味わったりする学習過 程の中で,子供たちが表現の在り方をいろいろ試しながら,「このように音楽で表したい」という自 分の思いや意図を持ち,活動そのものが主体的な取組になっていることが求められる。 このような主体的・創造的な音楽の学習を充実させるためには,子供が学習の見通しを持つように するとともに,その学習を振り返り,次時の学習に生かすようにすることが重要である。 Ⅰ 音楽科における「見通す」学習活動 知覚・感受することの重要性 表現や鑑賞の活動において,音楽を形づくっている要素を聴き取り,それらの働きが生み 出すよさや美しさなどを感じる学習の展開をめざす。知覚・感受(聴き取ったり,感じ取っ たり)したことをもとに,どのように表すかについて思いや意図をもって音楽表現したり, 音楽全体を味わって聴いたりする学習を充実させる 音楽の学習において,この「知覚・感受」する学習を支えとして「見通す」「振り返る」学 習が展開されることが大切である。 (1)音楽における「見通す」学習活動におけるポイント ① 表現領域 歌唱・器楽・創作で表すことが子供にとって意味のある学習となるよう,〔共通事項〕の 学習を支えとして,音楽表現を工夫し,必要な技能を身に付け,どのように表すかについて 思いや意図を持つ過程を大切にする。 ② 鑑賞領域 鑑賞においても,音楽のよさや美しさなどを味わって聴くことが子供にとって意味のある 学習となるように,〔共通事項〕の学習を支えとして,音楽を感じ取って音楽の特徴などを 理解する過程を大切にする。 その際,表現や鑑賞の学習の質を高めるために,楽曲全体を見通すことができるような指 導を工夫する。音楽を形づくっている要素そのものだけに着目してしまい,要素の分析で終 わらぬようにしたい。学習の質を高めるために,楽曲の曲想や音楽の変化などを音楽を形づ くっている要素などと関わらせながら楽曲全体を捉えることができるような力の育成を図っ ていけるよう指導したい。このことが音楽科における「見通す」学習活動になっていくもの と考える。 (2) 言語活動の充実に関わって 音楽科では,創意工夫して音楽表現をする能力や,味わって聴く能力を育成する観点から 音楽を形づくっている要素を知覚し,それらの働きが生み出す特質や雰囲気を感受する学習 を意識的に仕組む。表現領域では,どのように音楽表現したいのかという思いや意図を言葉 で表したり,鑑賞領域では,音楽を聴いて価値などを考え,批評したりする学習を充実する。 音楽から受けるイメージや感情,そして音楽の質感などといった抽象的な概念を思考し,判 断するために言語を用いて表していくことが重要となる。 授業づくりでは,これまでの体験や音楽経験などの学習から得た語彙を自らの言葉で表す ような学習がポイントとなる。活動ばかりに目が向くのでなく,「いいなあ」とか「感動し た」などといった思いや感情などを意味付けできる力を育んでいく。そのために音楽を形づ くっている要素が,楽曲の構造や曲想とどのように関わりがあるのかを考えさせ,仲間と共 -中音1- 有し合う活動を通して,自らの考えを深めたり,考え方が変化したりするような学習を展開 する。しかし,あくまでも「言葉で表す」ことは,目的ではなく,手段である。言語を使っ て「課題追究型」の音楽の授業を仕組むことが求められる。その際に,個人の考えを持たせ た上で,仲間と考えを共有し,他者の考え方や感じ方に触れ,共感する中で,他者と自分の 考えをすり合わせていく。このことにより,自己の考えや感じ方を深めていくことができる。 (3)授業展開における「見通す」活動 「見通す」学習活動を行う上で留意したい点は,活動が目的にならないためにも,先述 した(1)(2)のような充実した学習ができるよう,学習のねらいを基に手立てを仕組 むことは言うまでもない。 例えば,授業の導入の際に,学習の見通しを立て,課題意識を持たせるために,授業の ねらいを明確に提示することが挙げられる。設定したねらいに即して,すべての児童が学 習内容を押さえた学習指導を行うことが重要である。その際,全員で確認したり,分かり やすく視覚化して提示したりするなどの工夫が必要である。 また,知覚・感受させた学習のねらいを基に,表現の工夫をする活動では,「自分たち がこれまで学んだ何を使って,どんなことをすればいいのか。」という見通しを立てると ともにそれまでの学習の蓄積を基に,学びを分かりやすく提示するなどの工夫が必要であ る。これらはすべて,生徒と教師が共有して初めて学習指導が生きて働くので,教師の一 方的な提示だけにとどまらず,互いが共有していることを確認したい。そのほか次のよう な工夫が考えられる。 ・学習活動のねらいに迫る学習活動のモデルを,教師等が演奏するなどして生徒に示す。 ・創作の学習の際,曲のつくり方の手順や約束事を視覚的に分かりやすく提示する。 Ⅱ 音楽科における「振り返る」学習活動 見通しを立てたり,振り返ったりする学習活動は,主体 的・創造的な学習の充実を図るために行うものである。ま た,一時間の授業の中で,見通すことが振り返ることに, 振り返ることが見通すことにつながることもあり,表裏一 体である。ゆえに生徒の反応も見ながら,教師自身が,授 業をコーディネートする役割を自覚して取り組みたい。 また,楽曲全体を見通した中で,表現の工夫をする際に, 教師の発問及び課題の設定が大切である。学習のねらいに 迫る言葉のやりとりや生徒にとって必要と実感できる課題 設定であるかどうか見極めたい。その基となるのは,学習 の評価規準が適切に設定されているかどうかである。それ に基づいて,教師自身が見通しを持ち,学習指導の手立て を考えることが必要であり生徒にとって,身に付けさせたい力となるように意識したい。 さらに,授業場面では,教師との言葉だけのやりとりで終わるのではなく,その学習過程におい て,生徒が実際に仲間らと共に何度も歌い試す,音楽で確かめるといったグループで協働体験を行 うことが大切である。教科の特性上,言葉だけで終わらずに,音で振り返ることが重要であること は言うまでもない。単なる話合い活動にならぬように配慮し,自分の演奏を振り返りながら,新た な表現の工夫に気付くことにより,主体的に取り組む姿が期待される。 また生徒が授業で何ができるようになって,何が分からなかったのか把握するために,自己評価 やポートフォリオ等記述を残したりする事も必要であろう。学びを整理しながら自らの考えや集団 の考えを発展させるようにする。このような見通し,振り返りの活動を計画的に仕組むことで,一 時間一時間の授業の質を高めていくことにつながるのである。 -中音2- Ⅲ 実践事例 事例1 多声的な音楽の特徴を感じ取ったことをもとに,見通しを持ちながら歌い方を工夫 したり鑑賞したりする事例 題材名 声部の役割を感じ取って歌唱表現を工夫したり味わおう 第2学年 A表現(1)ウ及びB鑑賞(1)ア 1 題材の目標 ・フーガの形式やパイプオルガンの豊かな響きに関心を持ち主体的に歌唱したり,鑑賞したりする。 ・主題が形を変えながら繰り返される曲の構成などを知覚しそれらの働きが生み出す雰囲気を感受し ながらどのように歌唱するかについて思いや意図を持っている。 ・声部の役割や意識しながら歌唱表現をする。 2 評価規準 ア 音楽への 関心・意欲・態度 イ 音楽表現の創意工夫 ウ 音楽表現の技能 エ 鑑賞の能力 ① 楽曲の魅力を生み出 ① 多 声 的 な 音 楽 の 特 ① 多 声 的 な 音 楽 の 特 ①各声部の動きを感じ している音楽の構成 徴を知覚感受しな 徴を理解し,各声部 取り,多声的な音楽と に興味・関心を持っ がら,どのように歌 の役割を生かした, 和声的な音楽の違い て,主体的に学習に うか思いや意図を 音楽表現をするた を理解している。 取り組んでいる。 持っている。 めに必要な技能を (第1・5時) (第4時) 身に付けている。 ② 各声部の役割や全体 ②「フーガト短調」を聴 き,音色,奏法,形式 の響きに関心を持 を知覚しそれらの働き ち,音楽表現を工夫 が生み出す特質や雰囲 しながら合わせて歌 気を感受しながら多声 う学習に主体的に取 音楽のよさや美しさを り組もうとしてい 味わって聴いている。 る。 3 (第4時) (第1時) (第5時) (第3時) 題材について (1)題材の構成 本題材は,中学校学習指導要領の第2,3学年の目標 A 表現(1)ウ「声部の役割や全体の響きを感 じ取り,表現を工夫しながら合わせて歌うこと」 ,並びに B 鑑賞(1)ア「音楽を形づくっている要素 や構造と曲想とのかかわりを理解して聴き,根拠をもって批評するなどして,音楽のよさや美しさを味 わうこと」を実現するための題材である。鑑賞授業の振り返りが,表現活動につながる授業実践である。 (2)本題材で位置付ける〔共通事項〕 ア (ア) 音 色 パイプオルガンの仕組みと音色 形 フーガの形式 式 テクスチュア 強 弱 多声音楽と和声音楽の特徴 各声部の関わりから考える強弱表現 -中音 3- イ 音符,休符,記号や用語 フレーズ rit. フェルマータ (3)教材 聴取教材: 「大地讃頌」 大木 惇夫 作詞 佐藤 眞 作曲 「ハレルヤ」 ヘンデル 作曲 「信じる」 谷川 俊太郎 作詞 松下 耕 作曲 鑑賞教材: 「フーガト短調」 J.S.バッハ 作曲 歌唱教材: 「時の旅人」 深田 じゅんこ 作詞 4 次 橋本 祥路 作曲 指導と評価の計画(全5時間) 時 ・指導上の留意点 ★見通す活動 ☆振り返る活動 主な学習内容 ●評価規準・評価方法 ○「大地讃頌」を聴いて,多声的な音 楽と和声的な音楽の特徴の違いを感 じ取り,構造を理解する。 第 あることを確認させる。 時 第 〇今まで歌ったことのある合唱曲で, 1 多声的な音楽と和声的な音楽が混在 次 している曲を思い浮かべる。 ○「時の旅人」の最後の部分の構造に 2 時 認し,5時間の授業の見通しを持たせる。 ☆音楽には,大きく分けて2種類の音楽構成が 1 第 ★ワークシートを用いて,学習活動の流れを確 ついて考える。 ・歌唱の際に感じ取った声部の動きを 振り返りながら,曲の構成を楽譜で 確かめ,多声的な音楽の部分を見付 ●アー① 観察・ワークシート ☆★「大地讃頌」で学習したことを振り返り, 音楽の構成を確認し, 「時の旅人」の楽曲構 成を考えさせる。 ●アー② 観察 ける。 ○「時の旅人」の多声的音楽の部分を 第 歌う時に大切にすることをグループ 3 で話し合う。 時 見通しを持って取り組ませる。 ●アー③ 観察 する。 第 ○グループごと発表する。 2 次 ○話し合いをもとに,歌いながら練習 ★次の授業でグループ発表をすることを伝え, 第 4 時 ○各グループのよい面と改善点を伝え 合う。 ○全体で練習する。 ☆★これまでの学習を振り返り,和声音楽と多 声音楽の特徴を理解しながら,他の鑑賞や表 現活動においても生かせるようにさせる。 ●イー① 観察・ワークシート ●ウー① 観察 -中音 4- ○これまでに学習してきた多声的な音 楽で構成されている「フーガト短調」 第 第 3 5 次 時 を鑑賞する。 ○パイプオルガンの構造や作曲者につ いて知る はどのように表現されているか興味を持っ て,学習に取り組ませる。 ●エー② ワークシート ○「フーガト短調」を鑑賞し,パイプ オルガンの音色や奏法,多声音楽の 表現の豊かさを味わう。 ★合唱曲で学習してきた多声音楽を,鑑賞曲で ☆5時間の学習のまとめをし,多声音楽の特徴 を捉えながら聴くことの楽しさを発表し,共 有する。 5「見通す・振り返る」活動のポイント 【授業で使用したワークシートの工夫】 今回,全5時間の学習の流れを見通すことができるようにワークシートを作成した。作成にあたっ て全5時間の学習のねらいをもとに,できるだけ質問事項を精選しながら見やすく端的に作成した。 生徒の記述の様子から,記入にさほど時間を取らずに学習を進められた。 このワークシートは用紙の裏表一枚に印刷し,一枚ポートフォリオのように,裏面と表面を工夫し て三つ折にして活用した。このシートを使用することで,題材全体の学習の流れを見通すとともに, 前時の学習の内容も振り返ることができるので有効であった。 ワークシート(第1~4時間目まで) -中音 5- ワークシート(第5時間目) 【板書の工夫~学習のねらい・学習のまとめを視覚化】 授業の導入時に本時の「学習のねらい」,授業 の最後に「学習の振り返り」を毎時間,左の写 真のように提示することで,学習の主体である 生徒にとって,明確に見通しを持って学習に取 り組むことができる。授業者は授業の道筋を分 かっていても,生徒には実際伝わっていないこ とがこれまでにあった。このように,視覚化す ることで,生徒が何をこの時間に学ぶのか理解 しながら学習に臨む事ができるので有効である。 また,図形を用いて音楽の特徴を視覚的に捉えさ せたことにより,パートが重なる部分の分かりづら い部分を音楽の構造を見通しながら学習を進める上 で大変有効であった。ICTを活用した実践もある が,その際に,説明だけに終始せず,活用のねらい を押さえて使用していきたい。今回のように,掲示 物等を作成し,視覚化させ,50 分の授業を進めるこ とは,授業改善にもつながるので続けていきたい。 -中音 6- 【授業の流れの工夫】 授業の学習過程を導入,展開,まとめと一連の流れをもとに授業を構成した。 導入では,学習のねらいを提示するとともに,前時までの学習を振り返る時間を設定した。この ことは,週1時間しかない音楽科にとって,前時の授業のつながりを振り返らせるために必要なこ とである。その際,前時で使用したワークシートを活用しながら,生徒のコメントなどをもとに生 徒の考えを引き出し,振り返らせた。そのことにより,つながりのある授業であることを理解する ことができた。 展開では,小グループによる関わり合いをできるだけ多く設定した。今回は歌唱表現の工夫をグ ループで考えることがメインであった。そこでは,個人でまず課題解決に向けて,考えさせ,その 意見を持ち寄ってグループ活動を通じて,仲間と共有しながら課題解決を図った。音楽科では,思 考錯誤しながら,音を介しての学びが大切である。一人では味わえない音楽表現する活動を通じて の授業展開をすることができた。 まとめでは,本授業によって新たに学んだことやできるようになったことなどを個人そして全体 でも共有しながら,振り返る時間を設定した。時間がなくなってしまい,十分な振り返りができな い時もあった。50分の時間を見通しながら,時間配分に気を付けることも大切であると感じた。 また,まとめの際にはプリントばかりでなく生徒のコメントも用いて,教師と生徒の言葉のやりと りを通じて振り返りを行うことを重視した。これらの振り返りは,学習の定着及び次時の授業への 意欲につながる場となった。 このように見通す,振り返ることへのいろいろな手立てを考え,実践することは生徒の力につな がる。一時間一時間を大切に,学習のねらいを明確に,そしてこの時間でどんなことを気付き,感 じ,分かる喜びを味わわせることができたか,教師自身振り返りながら授業改善に取り組んでいき たい。 -中音 7- 事例2 アーティキュレーションを変化させながら,演奏を工夫する表現活動の事例 題材名 自らのイメージをもって表現を工夫して演奏しよう 第1学年 器楽(2)A表現(2)ア及びイ 1 題材の目標 ・アルトリコーダーの音色や奏法に関心を持ち,音楽表現を工夫して演奏する学習に主体的に取り組 む。 ・音のつながり方やフレーズなどを知覚し,それらの働きが生み出す特徴や雰囲気を感受しながら, どのように演奏するかについて,思いや意図を持つ。 ・アルトリコーダーの基礎的な奏法や音色を感じ取り,曲の雰囲気を生かした表現を工夫し演奏する。 2 評価規準 ア 音楽への関心・意欲・態度 イ 音楽表現の創意工夫 ウ 音楽表現の技能 ①曲想に関心を持ち,音楽表現を ①音のつながり方やフレーズな ①アルトリコーダーの基礎的 工夫して演奏する学習に主体的 どを知覚し,それらの働きが生 な奏法や音色を感じ取り,音 に取り組もうとしている。 み出す特質や雰囲気を感受し 色や曲の雰囲気を生かした (第1時) ながら,イメージに合った音楽 表現を工夫し,演奏してい 表現を工夫し,どのように演奏 る。 (第2時) ②アルトリコーダーの基礎的な奏 法に関心を持ち,いろいろな奏 するかについて思いや意図を ②他の人の演奏に耳を傾けなが 法を用いながら合わせて演奏す 持っている。 ら,曲想を生かした音楽表現 る学習に主体的に取り組もうと (第4時) をするために必要な技能を身 している。 に付けて演奏している。 (第3時) 3 (第5時) 題材について (1)題材の構成 本題材は,学習指導要領の第1学年目標(2) ,並びに内容「A表現」 (2)ア「曲想を感じ取り,表 現を工夫して演奏すること」 ,イ「楽器の特徴をとらえ,基礎的な奏法を身に付けて演奏すること」を 実現するための題材である。 リコーダーは,容易に音を工夫して出せるため,生徒にとって身近に感じられる楽器である。また, 運指を習得すると,誰でも容易に演奏を楽しめる楽器である。アルトリコーダーの持つ素朴で柔らか な音色は,主旋律を演奏するのはもちろん,アーティキュレーションの工夫をすることによって,イ メージを表現しやすい。様々な奏法に親しませ,アーティキュレーションの違いで音楽が変化するこ と体感させ,今後の音楽活動に主体的に取り組ませていきたい。 (2)本題材で位置付ける〔共通事項〕 ア 旋律 音のつながり方や奏法を工夫して演奏する -中 音 8 - (3)教材 ○オペラ「魔笛」より「これはなんとすばらしい音だ」 W.Aモーツァルト 作曲 本教材「これはなんとすばらしい音だ」は,運指が容易で順次進行が多く,旋律の音域も演奏しや すい楽曲である。また,アーティキュレーションの違いで雰囲気が大きく変わる楽曲である。 「こうい う風に演奏したい」というイメージを持ち,奏法によって曲の雰囲気が変わることを体感させ,表現 技術の向上を図りたい。 ○動物の謝肉祭より「化石」「白鳥」 サンサーンス 作曲 「化石」はスタッカートで軽やかなリズムを知覚感受できる教材であると考える。それに対し, 「白 鳥」は,レガートでゆったりとして,なめらかな感じを感受させることができるので比較させながら 取り組ませたい。 ○婚礼の合唱 ワーグナー作曲 生徒もよく知っている楽曲であり,スラーとスタッカートを織り交ぜることによって,明るい感じ や厳粛な感じを感受させることができる曲である。 ○ぶんぶんぶん 左手だけで演奏することができ,運指を覚えるために無理なく演奏できる曲である。 4 次 指導と評価の計画(全5時間) 時 ・指導上の留意点 主な学習内容 ★見通す活動 ☆振り返る活動 ◇評価規準・評価方法 第 第 ○アルトリコーダーについて知識を深め, 1 1 次 時 ・アルトリコーダーの構造や演奏時の正し 演奏への興味関心を高める。 ★自分のイメージする音楽を,3つの奏 法を使い分けながら,アルトリコーダー い姿勢,運指について知る。 を吹くことを知らせる。 ・ド~ソの運指を知り,実際に音を出しな がら確認する。 ・ソプラノリコーダーとの違いを説明しな ・ド~ソをを3つの奏法で吹く。 がら,アルトリコーダーに慣れさせる。 ・教師が3つの奏法でド~ソを範奏し,生 徒がそれぞれを吹く。 ○教師による「喜びの歌」を聴き取り,3 ◇ア-①〔観察〕 つの奏法による違いを感じる。 ・「感じシート」を手がかりにして,自分の ・3つの違い(ノンレガート・スタッカー ト・レガート奏法)を聴き取り,ワーク シートに記入する。 考えに近いものを探させる。 ☆3つの奏法を聴き分け,奏法の違いを 知らせる。 ・tu,tu や tu-tu-,楽しい感じなど,自分 なりの言葉で記入する。 ★次時は,3つの奏法を使って表現の工 夫をすることを伝える。 第 ○基礎的な奏法を身に付ける 2 ・タンギングや息づかいの練習を行う。 時 ・「喜びの歌」を使い,3つの奏法を確認し, -中 音 9 - ★3つの奏法を復習し,それぞれの奏法 から感じるイメージを考える。 演奏する。 ・始めは運指表を見ながら,慣れてきたら 見ないで演奏させる。 ○教師の演奏する「ぶんぶんぶん」を聴き, ・何も記入していない楽譜を配り,違って イメージを考える。 いた部分に印を付けさせる。 ・2パターンの「ぶんぶんぶん」を聴き, ・どのように吹いていたか考えさせる。 アーティキュレーションの違いを感じ取 る。 ・どんな感じがしたか考える。 ☆3つの奏法を吹き分け,イメージにあ ・教師の範奏を聴いて,実際に音を出す。 ったアーティキュレーションで演奏さ せる。 ○運指を覚えるために,3つの奏法で「ぶ んぶんぶん」を吹き分ける。 ◇ウ-① ・スタッカート・レガートなどつかって様 〔観察・評価カード・ワークシート〕 々な奏法で吹く。 ・色々なパターンを使って,吹き分けて演 奏する。 第 第 ○「動物の謝肉祭」の中から, 「化石」と「白 2 3 鳥」を聴かせ,スラーとスタッカートの 次 時 違いで,曲の雰囲気が変わることを感じ 取らせる。 ★スラーとスタカートの違いを感じ取り, 曲の雰囲気の違いを知る。 ★自分のイメージに合った奏法を取り入 ・スラーとスタッカートの特徴が表れてい れて「これはなんとすばらしい音だ」 る「婚礼の合唱」を聴く。 の奏法を工夫する。 ・「化石」 「白鳥」はCDを流す。 「婚礼の合 ○ペアに分かれ「これはなんとすばらしい 音だ」の音程を正確に練習する。 唱」は教師が範奏をする。 ・「感じシート」をもとに,自分のイメージ ・まずは何もアーティキュレーションをつ けない状態で練習をする。 に合った奏法を取り入れて工夫させる。 ・実際に吹きながら確認させる。 ○3つの奏法の中から,選んだり組み合わ ・吹けていない生徒への支援をする。 せたりしながら,フレーズごとに自分の ◇ア-②〔観察・ワークシート〕 イメージに合ったアーティキュレーショ ンを考える。 ☆自分のイメージに合ったアーティキュ レーションを使い,奏法を工夫する。 第 ○どんな音楽をつくりたいかを決める。 4 ・アーティキュレーションの工夫を確認す 時 ☆アーティキュレーションの提示をし,確 る。 認をする。 ★自分たちなりの「これはなんとすばら ○「これはなんとすばらしい音だ」の自分 の考えたイメージを伝え,ペアで吹く。 -中音 10 - しい音だ」に近づくように,アーティキ ュレーションを工夫する。 本 ・交代で吹きながらイメージを伝える。 ・拡大譜の提示をする。 時 ・2人で吹きながらイメージを確定させて ・前時に聴いた, 「化石」と「白鳥」の曲を いく。 をイメージし,奏法に生かす。 ・その演奏で,何を表現したいのか分かるよ ・個人が考えた工夫を,必ず吹いて確認さ うに伝える。 せる。 ○他の人に聴いてもらう時間をつくり,ア ・歌などでも表現できるようにうながす。 ドバイスをもらう。 ・中間発表をさせ,他のペアのつくった曲 ・イメージが伝わっているか確認する。 ○いくつかのペアで中間発表をする。 を聴かせ,参考にさせる。 ☆他のペアに聴いてもらい,アドバイス をもらう。新たな課題の提供をする。 ◇イ-①〔観察・ワークシート〕 第 ○ペアごとに発表する 5 ・それぞれの演奏を聴き,感じた事を音楽 時 ★自分たちでつくった「これはなんとすば 用語を使いながらワークシートに記入す らしい音だ」を発表し,ペアの想いを共 る。 有する。 ○「これはなんとすばらしい音だ」の原曲 ・ペアで考えた事をもとに,発表させる。 を聴き,どのような場面で演奏されてい ・演奏を聴き合い,よいところなどをポイ るのか知る。 ントを絞って発表させる。 ・「魔笛」のDVDを視聴する。 ☆これまでの学習を振り返り,アーティ キュレーションで曲の雰囲気が変わる ことを理解する。 ◇ウ-②〔観察・ワークシート〕 -中音 11 - ■ 「見通す・振り返る」活動のポイント 【振り返りシートの活用】 授業において, 「振り返りシート」 を用い,本時の学習の振り返り及び 学習を終えて次につなげたいこと や本時で分からなかったことを疑 問点として記述させた。項目や書式 については,その時間の学習のねら いに沿って精選した。その際,授業 の進度に応じて,作成を試みた。 項目内容は「学習のポイント・疑 問点・次の学習につなげたいこと・ できなかったこと・疑問点」とし て,学習内容によっては,学習のキ ーワードを記入させ学習のまとめ にも活用した。 このシートを活用することで,学 習のねらいにどうせまれたか見え てこなかった部分について把握す ることができるとともに,教師側の 授業に対する振り返りにもつなが り有効であった。ねらいの達成が不十分な時は,そのまま学習を進めず,できていない部分を補充して いく必要がある。授業の導入においてその「疑問点」であった部分や次につなげたい内容などを,全体 で共有することで,一人一人に身に付けさせたい力を確認すると共に,本時の学習を主体的に臨む姿に つながることが分かった。 6 実践を終えて 授業をつくり上げる際に,見通す場面,振り返る場面を学習過程において意識的に位置付け,取り組 むことで,より明確に学習のねらいにせまることができた。特に,導入時,この時間で何を学ばせるの か提示する際に,前時の振り返りシートの記述内容からせまった部分では,生徒の生の声を大切し,教 師と生徒のやりとりを大切にしながら共に授業をつくり上げていくことを意識して取り組んだ。またシ ートの記述内容から,小グループでの学習活動状況でのつまずきや一人一人の学習に対する様子を見取 ることができ,それらをもとに,教師自身が次時の授業改善を行うために課題を見付け,次時の導入や 授業展開を組み立てるための手立てとして有効であった。 音楽科の授業において様々な手立てを通じて,一人一人の生徒に「このようなイメージや思いを表し たいから,このように歌いたい,演奏したい,音楽をつくりたい」といった自分の考え(思いや意図) を持たせることが求められている。思考・判断の過程や結果をさまざまな音楽の言葉で表す言語活動を 仕組む事が求められている今,見通し・振り返る学習の手立てを学習の中で仕組むことにより,授業に めりはりが生まれ,音楽科の授業改善につながるものであった。 -中音 12 -
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