高齢者の過換気症候群(120306)

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高齢者の過換気症候群(120306)
呼吸困難、頻呼吸、左胸部圧迫感、四肢の痺れで来院した 70 代女性。症状は数時間かけて
徐々に増悪。放散痛無し。会話は可能だが声が震えている。日常生活で広場恐怖や予期不安は
ない。バイタルは頻呼吸(RR 32~40)と軽度の意識障害を認める。血圧や脈拍(β遮断薬を服
用していたのであまりあてにならない)、酸素飽和度には異常を認めず。心電図上の変化なし。麻
痺は認めず。最終診断は過換気症候群。実は以前にも同様の症状があった。
過換気症候群については以前も勉強したが、高齢者ではあまり多くないと思うので、これを機会
に高齢者の過換気症候群について勉強してみることにした。
「過換気症候群について」
http://rockymuku.sakura.ne.jp/seisinnka/kakannkisyoukougunn.pdf
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平均年齢は 34.1±13 歳であり、14 歳から 71 歳の若年者から老年者までと年齢層は幅広い
(九州大学医学部心療内科のデータ)1)
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高齢発症者もまれではない。2)
(参考文献 1 より引用)
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高齢者の場合、器質的疾患によらず本発作を起こすことはまれではないものの、比較的少
数である。したがって器質的疾患の除外はとくに重要である。急性呼吸不全、心筋梗塞、心
不全、脳血管障害、腎不全などを見逃すようなことがあってはならない。
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(参考文献 2 より引用)
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過換気症候群とパニック障害には共通する症状があり、実際にも 50%以上合併すると言わ
れる。2)
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過換気発作とパニック発作の違いに着目すると、過換気発作では呼吸困難感や空気飢餓感、
すなわち「吸っても吸っても空気が足りない」という呼吸器症状がほぼ必発である。(パニック
発作でも呼吸困難感は出現するが、必発とまでは言えない。)2)
(参考文献 2 より引用)
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詳細は成書に譲るが、特にパニック障害は症状もよく似ており、実際、約半数の患者でオー
バーラップしているともいわれ、本症はパニック障害の一形態にすぎないと考える臨床家もい
る。しかしこれらはまったく別のものであるとする報告も多く、例えば過換気症候群患者では
境界型人格障害や解離性障害、精神的不安定などの性格因子が背景となることがあるが、
パニック障害の患者では少し異なっているようである。いうならば、過換気症候群の患者は
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「不適応」を来しやすく、パニック障害の患者は強迫的なパーソナリティーを背景として「過剰
適応」に陥りやすいといえる。5)
(参考文献 5 より引用)
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過換気症候群を呈する患者においては、不安・抑うつを示す尺度が明らかに高く、ほとんど
は何らかの気分障害(うつ状態)を呈しているとの報告もある。何らかの精神障害などの背
景があって過労や飲酒、激しい疼痛・運動などが加わって発症することが多いので、心身と
もに安定した日常生活が重要である。5)
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高齢者の場合、パニック発作であってもパニック障害の初発である可能性はそう多くなく、全
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般性不安障害、身体表現性障害などパニック障害以外の不安障害やうつ病による症状であ
ることが多い。2)
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アルカローシスのため、神経症状が出現しやすく、また脳血管の収縮が起きたり、ヘモグロ
ビンからの酸素解離が低下して脳の低酸素が助長されたりして意識レベルが低下する。2)
過換気発作の予防には抗うつ薬の効果が期待できるとされるが、質の高そうな論文を探しても
あまりヒットしない。SSRI の効果を検討した論文も見つけられないし、三環系について記載した論
文もフランス語 3) だったりフィンランド語 4)だったりで検討できない・・・。当面は、専門家の推奨す
る治療を参考にしていきたいと思う。
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過換気症候群そのものに対してというよりは、合併する精神疾患あるいは付随する不安、抑
うつ症状に対して薬物が選択される。主に抗うつ薬、抗不安薬などが使用されるが、中でも
選択的セロトニン再取り込み阻害薬が副作用が少なく抗うつ効果、抗不安効果とも期待でき
るため、第一選択薬として用いられるようになった。フルボキサミン(デプロメール®、ルボック
ス®)50~150 ㎎/日あるいはパロキセチン(パキシル®)10~40 ㎎/日を少量より開始し、症
状の改善が得られるまで増量する。治療の初期や不安の強い患者ではベンゾジアゼピン系
を併用する。ロフラゼプ(メイラックス®など 1~2 ㎎/日は抗不安作用が強く、作用時間も長い
ため本症の予防に適している。5)
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発作時の胸痛、胸部圧迫感など、筋の攣縮による症状が強い場合はクロナゼパム(リボトリ
ール®、ランドセン®)0.5~1.0 ㎎/日を併用すると効果的である。患者の呼吸、循環状態が許
せばβ遮断薬〔カルテオロール(ミケラン®など)10~30 ㎎/日、メトプロロール(セロケン®、ロ
プレソール®)40~120 ㎎/日など〕も有用である。5)
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患者は心理・社会的ストレスから何らかの(家庭内や職場などでの)不適応状態にあり精神
的過敏性、被暗示性、ヒステリー性などの性格因子に挫折体験や心身の疲弊状態が加わり
過換気症候群を呈していることが多い。このような患者に対しては、薬物療法のみでは不十
分であり心理的アプローチが必須である。実際の手段としては自律訓練法、カウンセリング、
認知行動療法などをはじめ、さまざまな専門的技法があるが、いずれにしても重要なのは受
容・共感的態度で患者の不安や恐怖を軽減し、その心身相関について気づきを促すことであ
る。最終的な目標は見かけ上の症状の軽減あるいは消失でなく、あくまで患者自身の人間
的な成長が図られて、よりよいストレス対処法とストレス耐性を培うことで初めて本症の根本
的な治療につながるものである。5)
ちなみに、生活環境が変わり、家族のかかわりがふえたり、デイサービスなどの社会的なつなが
りができたせいか、最近では全く発作は認めなくなった。以前は胸の苦しさを訴えることが多かっ
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たが、症状もほぼ皆無となっている。
参考文献
1.
十川博, 久保千春.ライフサイクルと過換気症候群.臨牀と研究 74(11): 2721-2725, 1997.
2.
江花昭一高齢者過換気症候群患者の診療のポイント.Geriatric Medicine(老年医学) 40(10):
1474-1478, 2002.
3.
Hoes MJ. [Pharmacotherapy of the hyperventilation syndrome]. Ann Med Psychol (Paris).
1983 Sep-Oct;141(8):859-74. French. PubMed PMID: 6141757.
4.
Saarijärvi S, Lehtinen P. [The hyperventilation syndrome treated with antidepressive agents].
Duodecim. 1987;103(7):417-20. Finnish. PubMed PMID:3665789.
5.
三浦勝浩, 村上正人.過換気症候群の診療指針.日本医事新報 (4255): 6-11, 2005.
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