世界の火山とその形

世界の火山とその形
小単元計画と第1時間目
1
はじめに
火山の小単元のなかで,世界の火山とその形について,実践できる指導と評価の
一体化を考えた。世界にはどんな形や種類の火山があるのかを知り,マグマの性質
と火山の様式との関係について理解することを目的とした。授業時間の最後には火
山噴火のモデル実験を行い,盛んにガスや噴出物を伴う噴火の様子を実感しながら
観察できるよう,授業展開を工夫した。そして,火山モデルの作成や噴火実験など
から得られる学習成果を,配布した実験プリントなどから読み取ることができるよ
う,上記の目的に対する評価規準を具体的に設定して,実践評価を試みた。
2
単元の目標
* 使用教科書 啓林館 高等学校 地学Ⅰ
<第1部 固体地球とその変動
第3章 現在の地球の活動
第4節
火山>
地球表層や内部に見られる地学的事象を観察,実験などを通して探究し,球表層
と内部を相互に関連させ,地球の歴史の経過の中でとられることができるようにな
る。(以後の地学領域における研究発表は,これに基づくものとする。)
3
単元の評価規準
小単元・火山 の評価規準を次に示す。
(以後の地学領域における研究発表は,こ
れに基づくものとする。)
単
元
の
評
価
規
準
学
習
活
動
に
お
け
る
具
体
的
評
価
関心 ・ 意欲 ・ 態度
思考 ・ 判断
技能 ・ 表現
知識 ・ 理解
・火 山を 身 近な も のと し て
とら え,そ の性 質 に関 心 を
持ち ,火 山 が地 球 内部 の ど
のよ う な運 動 に起 因 して
いる の か意 欲 的に 探 究し
よう と する 。
・火 山の 分 布や プ レー ト 運
動か ら くる 活 動の 周 期性 ,
マグ マ や鉱 物 の性 質 など
につ い て考 察 する 。
・実験 観察 に おい て 資料
の特 徴 を的 確 に捉 え 表
現( スケ ッ チ)し,慎重
かつ 意 欲的 に 作業 を 行
って い る。
・火 山の 特 徴と 分布 ,火
山の 活 動と プ レー ト 運
動と を 関連 付 けて 理 解
し ,マ グマ や 鉱物 の 性質
につ い て正 し い知 識 を
身に 付 けて い る。
②火 山 モデ ル の作 成 を通
して ,マ グ マの 性 質と 火 山
の様 式 との 関 係に つ いて
理解 す る。
【実 験 プリ ン ト】
③火 山 災害 を 身近 な もの
とし て とら え なが ら 考え
るこ と がで き る。
【レ ポ ート 】
-141-
①世 界 には ど んな 形 や
種類 の 火山 が ある の か
を知 る 。
【発 問 】
規
準
⑤様 々 な火 山 噴出 物 に
つい て ,そ の 特徴 を とら
えた ス ケッ チ がで き て
いる 。
【ワ ー クシ ー ト】
④様 々 な火 山 噴出 物 につ
いて ,そ の 特徴 を 考え な が
ら観 察 する 。
【ワ ー クシ ー ト】
⑦世 界 や日 本 の火 山 の分
布を ,プ レ ート の 運動 と 関
連づ け なが ら 実習 す るこ
とが で きる 。
【ワ ー クシ ー ト】
⑥世 界 の火 山 と日 本 の
火山 の 分布 と その 特 徴
につ い て知 る 。
【ワ ー クシ ー ト】
⑨薄 片 の方 減 りに 注 意
しな が ら計 画 的に ,集中
して 作 業を 行 うこ と が
でき る 。
【薄 片 の提 出 】
⑧随 時 確認 し なが ら 慎重
に,かつ 意 欲的 に 研磨 作 業
を行 う こと が でき る 。
【行 動 観察 】
⑪鉱 物 の光 学 的特 徴 や
岩石 の 組織 の 特徴 を と
らえ た スケ ッ チが で き
る。
【ワ ー クシ ー ト】
⑫鉱 物 の判 定 がで き る。
【ワ ー クシ ー ト】
⑩偏 光 顕微 鏡 の使 用 方
法 ,な らび に 鉱物 の 光学
的特 徴 を知 る 。
【発 問 ・ワ ー クシ ー ト】
⑬火 山 の特 徴 や分 布 ,
火成 岩 の光 学 的性 質 に
つい て 正し く 理解 し ,基
本的 知 識を 身 につ け て
いる 。
【定 期 テス ト 】
注: ① ~⑬ は 指導 と 評価 の計 画の 表 に対 応 して い る。
4
指導と評価の計画
小単元・火山 の評価の計画表(8時間+定期テスト)を次に示す。
(以後の地学
領域における研究発表は、これに基づくものとする。)
単元 の 評価 規 準と の 関連
時
間
学習 内 容
第4節
1
2
火山
世界 の 火山 と その 形
【実 験 】噴 火 のモ デ ル
実験
火山 災 害
・プ リ ント,図表 に よ
る学 習
・ビ デ オ視 聴
ねら い
関心
思考
技能
知識
意欲
・
・
・
態度
判断
表現
理解
○世 界 には ど んな 形 や種 類
の火 山 があ る のか を 知
る。
◎火 山 モデ ル の作 成 を通 し
て, マ グマ の 性質 と 火山
の様 式 との 関 係に つ いて
理解 す る。
○火 山 災害 と その 恐 ろし さ
につ い て理 解 する 。
○火 山 災害 を 身近 な もの と
して と らえ な がら 学 習す
るこ と がで き る。
○①
◎②
評価 方 法等
(担 当 者名 )
①発 問
②実 験 プリ ン ト
行 動 観察
(中 村 )
◎③
③レ ポ ート
◎③
-142-
( 足 立)
火山 噴 出物
○様 々 な火 山 噴出 物 につ い
・教 科書,図 表に よ る
て手 触 りや ル ーペ を 用い
学習
て観 察 ,ス ケ ッチ す るこ
【実 習 】資 料 の観 察 ,
とに よ って , その 特 徴を
スケ ッ チ
知る 。
(凝 灰 岩・ 軽 石・ 溶
岩・ 黒 曜石 な ど)
3
火山 の 分布
1島 弧-海 溝 系の 火 山
2中 央 海嶺 の 火山
3プ レ ート 内 部の 火
山
・教 科 書,図 表に よ る
学習
【実 習 】ワ ー クシ ー ト
4
5~ 7
岩石 薄 片の 作 成と 観
察
【実 習 】花 崗 岩薄 片 の
作成
( 小 野)
○世 界 や日 本 の火 山 の分 布
とそ の 特徴 に つい て 知
る。
◎ワ ー クシ ー トを 使 って ,
世界 や 日本 の 火山 の 分布
をプ レ ート 運 動と 関 連づ
けて 考 えな が ら実 習 する
こと が でき る 。
◎⑥
◎⑦
8
定
期
テ
ス
ト
5
単元 の 復習
⑥ワ ー クシ ー ト
⑦ワ ー クシ ー ト
( 足 立)
◎薄 片 の方 減 りな ど に注 意
しな が ら慎 重 に, ま た計
画的 に 作業 を 行う こ とが
でき る 。
⑧行 動 観察
◎⑧
⑨薄 片 の提 出
( 中 村)
◎⑨
○偏 光 現象 に 興味 を 持つ 。
岩石 薄 片の 作 成と 観
察
・図 表 によ る 学習
【実 習 】花 崗 岩薄 片 の
観察
④行 動 観察
⑤ワ ー クシ ー ト
◎⑤
○④
○⑩
◎⑪
◎鉱 物 の光 学 的特 徴 をと ら
えた ス ケッ チ がで き る。
○鉱 物 の判 定 がで き る。
◎等 粒 状組 織 と斑 状 組織 の
違い を まと め るこ と がで
きる 。
⑩発 問 ・ワ ー クシ
ート
○⑩
⑪⑫ ワ ーク シ ート
◎⑫
◎⑪
( 小 野)
◎単 元 を通 し ての 知 識,火 山
の特 徴 や分 布 ,火 成 岩の
光学 的 性質 な どに つ いて
問題 を 通し て 確認 す る。
◎⑬
⑬定 期 テス ト
授業展開案(具体の指導と評価)
指導クラス:吉城高等学校2年D組14名(男子6名・女子8名)選択授業
クラス観 :理数科ということもあり,地学を受験科目として設定する生徒も多い。何
事にも真面目に取り組むことができ,意欲的に学習する姿勢が見られる。
以下,世界の火山とその形(第1時間目)の学習指導案を示す。
本
過
程
導
入
(10
分)
学習 項 目
教師 の 働き か け
・ 前 時 ま で の 復 習 ・前時 ま での 復 習を
(火 成 岩の 成 因
する 。
・マグ マ とは 何 か) ・発 問( 日本 や 世界
にはどんな火山が
・ 世 界 の 火 山 と そ ある の か)
の形
・発 問( 火山 に 様々
な形があるのはど
うし て か)
時
の
展
開
学習 活 動
・火成 岩 の成 因と 火
山の関係について
復習 す る。
・知っ て いる 火山 に
つい て 考え ,発表 す
る。
-143-
評価 の 観点 等
・前時までの内容を
確実 に 把握 で きる 。
【知 識 ・理 解 】
導上 の 留意 点
・ 図 表 ( P.35 ) の 写
真で世界の火山の形
を印 象 づけ さ せる 。
・発 問 内容 を 理解 し ,
・日本の火山につい
考えることができ
ても 取 り上 げ る。
る。
【思 考 ・判 断 】○ ①
・本時の内容把握
(火山の形の違い
は何の違いによっ
て現 れ るの か )
↓
・火山 の 形の 違 いは
噴出する溶岩の粘
性の違いにありそ
うだ 。
<実 験 >
盾状火山・成層火
山を作って噴火の
様子を観察しよ
う。 ( 別紙 参 照)
・実 験に よ って ,マ
グマの粘性の違い
によってできる火
山の形について調
べさ せ る。
展
開
(30
分)
・実 験 結果 発 表
ま
と
め
<演 示 実験 >
(10
分)
6
・さらに粘性の高
い溶岩の噴出実験
(別 紙 参照 )
・図 表(P.35)の 資
料を基に火山に
様々な形がある理
由に つ いて 考 え,発
表す る 。
・火山の形の違いは
噴出する溶岩の粘性
の違いにあることに
気付 く 。
【思 考 ・判 断 】
<実 験 観察 >
・丁寧な作業で火口
手順 1:フィ ルム ケ の作 成 がで き る。
ースと発砲スチロ
【 技 能・ 表 現】
ール で 火口 を 作る 。
・混ぜる比率を変え
手順 2:タコ 焼粉 に て 粘 性 の 違 う マ グ マ
水と 食 紅を 混 ぜ,仮 を 作 る こ と が で き
想マ グ マを 作 る。
る。
【 技 能・ 表 現】
手順 3:ビニ ール 袋
に仮想マグマを入
れ 、火 口 に取 り付 け
る。
・溶岩流出の様子を
想起しながら観察す
手順 4:ビニ ール 袋 る こ と が で き る 。
をゆ っ くり 絞 り,流 ( 火 口 に カ ル デ ラ が
出 の 様 子 を 観 察 す でき る 場合 も ある )
る。
【関 心・意 欲・態 度 】
【思 考 ・判 断 】◎ ②
・発 問( マグ マ の粘
性を変えることに
よって火山の形は
どう 変 わっ た か)
・マグ マ の粘 性と 火
山の形との関係に
ついて発表する。
(実 験 結果 か ら)
・マグマの粘性と火
山の形の関係につい
て理 解 でき る 。
【知 識 ・理 解 】
・さら に 粘性 の 高い
溶岩の噴出実験を
生徒 に 示す 。
↓
昭和 新 山の 紹 介(ミ
マツ ダ イヤ グ ラム )
・演示 実 験を 観察 す
る。
・マグマの粘性がさ
らに高いと火山の形
はどうなるのか考え
なが ら 観察 で きる 。
【関 心・意 欲・態 度 】
【思 考 ・判 断 】◎ ②
・昭和 新 山の でき 方
を学 習 する 。
・カッター等使用時
の注 意 。
・マグマはゆっくり
と絞り出すように指
示する。(破裂させ
ない よ うに )
・実験中,二酸化硫
黄が発生するので吸
い込まないよう注意
する 。
実践例とその評価
(1)目標と評価規準の設定
世界の火山とその形(第1時間目)について
○①の目標
世界にはどんな形や種類の火山があるのかを知る。
評価規準①
次の発問に対して正しく答えることができたか。
発問1
発問2
日本や世界にはどんな種類の火山があるか。
火山に様々な形があるのはどうしてか。
B:① 一人一火山発表できる。(事前に調べてきているかどうか)
② 発問2について考え,発表できる。
C:上記の①を満たしていない。
(上記の①を満たしていれば,目標を達成し
たとする。)
-144-
◎②の目標
火山モデルの作成を通して,マグマの性質と火山の様式との関係
について理解する。
評価規準②
実験プリントの「結果・考察」欄から評価をおこなう。
<結果・考察>
マグマの粘性によって噴火の様子はどのように変わったか。
ⅰ.粘性の低いマグマについて
ⅱ.粘性の高いマグマについて
ⅲ.さらに粘性の高いマグマが噴出すると?(演示実験を見て)
*「感想」の欄については評価の対象には入れていない。
項目
ⅰ.粘性の低い
マグマについて
ⅱ.粘性の高い
マグマについて
ⅲ.さらに粘性
の高いマグマが
噴出すると
目標
溶岩流出の様子を
想起しながら実験,
観察することがで
きる。
溶岩流出の様子を
想起しながら実験,
観察することがで
きる。
・マグマの粘性がさ
らに高いと火山の
形はどうなるのか
考えながら観察で
きる。
A
マグマは噴出しやすく,
薄く広がることについ
て記してある。火口の様
子について考察してい
る。など(2行以上)
マグマは噴出しにくく,
上に突き上げるように
噴出することについて
記してある。火口の様子
について考察している。
など(2行以上)
演示実験での様子につ
いて具体的に記してあ
る。
B
マグマは噴出しやすく,
薄く広がることについ
て記 し て ある 。( 1~ 2
行)
マグマは噴出しにくく,
上に突き上げるように
噴出することについて
記してある。
( 1~2行)
模擬実験での様子につ
いて記してある。
(2)実践と授業評価
評価 規 準
以下,(1)の評価規準に合わせて
評価した。下表で、平均とはA=2,
B=1,C=0として平均したもの
である。また達成率は、平均/Aの
点(①に関してはBの点)で求めた
値である。
(3)考察
世界の火山とその形(第1時間目)
の評価規準①については,火山に対し
ての興味・関心を問う項目だったので,
意欲的に考え,発表できたかどうかで
判断した。単元を通して評価を実践す
るためには,このような二値的な評価
方法も必要であり,重要と思われる項
評価 規 準
①
生徒 1
B
②
ⅰ
ⅱ
ⅲ
B
B
B
生徒 2
B
B
B
A
生徒 3
欠席
欠席
欠席
欠席
生徒 4
B
B
B
A
生徒 5
B
A
A
A
生徒 6
B
A
A
A
生徒 7
B
B
B
C
生徒 8
B
A
A
A
生徒 9
B
A
A
A
生 徒 10
B
A
A
A
生 徒 11
B
B
B
B
生 徒 12
B
A
A
A
生 徒 13
B
A
B
C
生 徒 14
B
B
B
A
均
1.00
1.54
1.46
1.54
達成 率
(%)
100.0
76.9
73.1
76.9
平
-145-
目について,重みを与えて平均すればよいと思われる。発問に対して全員が考え,
発表することができたので,全員が目標を達成できたと考えた。
また,評価規準②については,実験プリントの考察部分から,本日の実験の意味
を正しく理解し,学習することができたかどうかを判断材料として評価した。ただ
噴出の様子を観察するだけでなく,溶岩流出の様子を想起しながら観察できたか,
火口の様子(カルデラ)に注目できたかなど,一歩踏み込んだ考察に対し高評価を
設定したが,期待したほどの考察を書く生徒は少なかった。実験プリントの表記や
実験方法の説明の仕方を工夫する(どこに注目するか)などを改善する必要性を感
じたし,特に②の目標を達成させるために机間指導の果たす役割,重要性を改めて
感じた。また,生徒によっては今後の授業で個人指導をするときなど,よい参考と
なると感じた。
7
おわりに
今回この講座初参加ということで,色々と分からないことばかりであったが,い
かに生徒に学習内容を定着させ,正しく評価する方法を考える中で,プリントの作
りや発問の内容,実験・実習の必要性や重要性を改めて認識することができた。以
下の授業実践にも繋がることだが,この授業での反省点を改善し,次年度からの授
業実践にフィードバックしていきたいと思う。地学の授業を開講している高校が少
ない昨今,これらの授業実践を活かせる学校は限られてくると思うが,機材や環境
に恵まれる吉城高校においては,これからも実験・観察を多く取り入れた,生徒が
主体的に考えることのできる地学を目標に実践していきたい。
地学は日常生活に密接に関わる分野も多く,正しい知識を得ることで生活に役立
ち,様々な出来事に適切に対処する能力を身に付けることに繋がる。そのためにも,
内容を理解しないまま単元を終了することのないよう,今後とも適切な評価規準を
設け,改善すべき点は改善し,よりよい授業づくりを目指し取り組んでいきたいと
思う。
-146-